2007年01月27日

# 162 Fatto a mano [群馬・西小泉]




 大泉のメインストリートに当たるのが、町の中央を東西に抜ける354号線である。高崎から館林(たてばやし)を経て、茨城(いばらき)の鉾田(ほこた)へと至る国道で、この354号沿い、および少し入ったところにブラジル人の店が多く集まっている。

●国道354号

 と言っても地方の国道沿いのこと、隙間なく店が並んで――というほどではなく、ただ行き過ぎる店過ぎる店、なにやら外国語の看板を掲げていて、何の店だかは解からぬが、でもとにかく日本のモノでないことだけは確か――といった調子で、道の左右に点々と続いている。



暮れなずむ国道354号

 そんな国道沿いの店の一軒がFatto a mano(ファット・ア・マノ)。東小泉駅前から354号を高崎方面にクルマで4、5分。スーパータカラのさらに先。いかにも国道脇の軽食堂ないしはドライブインといった構えの店で、これといった装飾もない殺風景な白い外観に、中も期待を裏切らず、多少古びようが時代遅れになろうが一向気にしない感じの、と言うか、何屋だかよく解からない、でも疑いなく国道脇の軽食堂――そんな風合いの店である。ある種超時空的

●手作りの洋菓子と軽食

 Fatto a manoとは「手作りの」といった意味で(伊語?)、誰かが太っているとか、ファッツ・ドミノと語呂が似ているとか、別にそういうことではない。


 2世・三澤さん夫妻はアチラでも何軒かお店をされていたそうで、クリチバ(Curitiba)という街にあったカフェの写真を見せていただいたが、今ならデザイナーズカフェとして青山辺りに出して余裕で独り勝ちしてしまいそうな、そんなモダンでスタイリッシュなデザインのオープンカフェが、20世紀初頭のヨーロピアンな街並みにピタッとハマっていた。

 自家製ケーキが自慢だが、さすがに今回はバーガーで満腹につき、手が出ず。ひと頃はマヨネーズまで手作りしていたそうで、卓上の赤い辛子調味料ピメンタも大変おいしい、と長谷川さん。BGMなし。キアヌ・リーブス主演のアメフトの映画が無音で流れていた。もちろん葡語字幕。

●もっともランショネッチらしい店

 おいしい料理もさることながら、長谷川さんがコノ店を「もっともランショネッチらしい店」と呼ぶ所以はズバリ、話好きの店主一家が問わず語りに繰り広げる、楽しいおしゃべり――コレに尽きるだろう。

 店も人も、いかにもブラジルらしい大らかな空気に満ちていて、おしゃべりを聞いていると、つい時が経つのを忘れてしまう。コレこそ、マイケル・フランクス歌うところの♪ It takes a day to walk a mile(1マイル歩くのにまる一日掛かる)――まさしくその感覚かも知れない。でも、せっかちな日本人はついチラチラと時計に目がいってしまうだろうか。

 「キタンジーニャ」でも「タカラ」でも、空気は常にゆっくりと流れ、そして出会った人々はみんな君に笑いかけてくれる……いや実は「長谷川さんに」、かも知れないが。

 この笑み、日本における「いらっしゃいませ」なんだろうけど、でもナンか違うんだよネ。たぶん微笑みかける本人の、心にゆとりがあるからだろう。遥かなる"Old Brazil"の薫りを最も身近に感じることができたのは、こうした瞬間だったように思う。♪ really cure your blues !

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2007年01月20日

# 161 RODEIO grill express [群馬・西小泉]

SUPER MERCADO TAKARA
RODEIO grill express



 上州名物、かかあ天下と何とやら……とはよく聞くが、一歩外に出るとまぁ〜寒い寒い! 南国ブラジルから来た彼らはこの寒さに耐えられるのだろうかと心配すると、「それが案外平気らしい」と長谷川さん。

 ブラジリアンプラザを後にして、西小泉の駅の反対側へとクルマで移動。風景は典型的な日本の田舎のソレで、大きな農家と畑の間を抜けること3、4分。やがて前方に大きな倉庫が現れた。降り立てば、ふたたびブラジルの薫り――。

●SUPER MERCADO TAKARA

 この倉庫がSUPER MERCADO TAKARA"MERCADO"とはポルトガル語で「市場」の意。つまり"SUPER MERCADO"は「スーパーマーケット」ということで、「スーパーマーケット タカラ」というのが店名の意味である。"SUPER"は元はラテン語だが、使い方は英語圏のものだろうから、"TAKARA"という日本語とあわせて3つの言語が掛け合わさった、三元豚的ネーミングと言えようか。


 ブラジルタウンに比較的初期からある店で、ブラジリアンプラザが観光案内所的に、半ば外に向けて開かれた場であるとするなら、こちらは完全なる内輪・地元向けの日々の買い物をする場――といった棲み分けになろうか。キタンジーニャ同様、ブラジルの食料品・日用品を扱うが、中でも食料品が強い。倉庫ゆえ売り場が広く、品数豊富で、一部においてはキタンジーニャを上回る品揃えも。たとえばアチラで頻繁に食されるカリオキーニャ(カリオカ)豆など、ざっと5、6種類の商品が並んでいて、壮観。

●ハンバーガーはどれくらいポピュラーか

 さて、私と長谷川さんの間にはいまだ解明しない「謎」がある。ブラジルにおいてハンバーガーはどれくらいポピュラーな食べ物か――という、ごく基本的な話なのだが、しかしどんな"ブラジル通"でも、さすがにハンバーガーはノーマークではないかと思うのだ。ブラジルまで行って、なんでまたハンバーガー? ブラジルらしい食べ物なら他にいくらもあるでしょ――というのが率直な反応だろう。

 しかし今回ミョウに興味を惹いたのは、こうしてどこのランショネッチ(軽食堂)でも一様にハンバーガーを扱っているという点なのである――率直に変じゃないですか? 家庭でも作るのか――という疑問もあるが、コチラは売り場を歩くうち、其処彼処に物的証拠を見つけることができた。

 タカラには冷凍のビーフパティが数種置いてあり、さらに明らかにバーガー用の形をしたバンズがなんと3種類も並んでいる――3種類ですよ!! そんな品揃え、日本のスーパーではついぞお目にかかったことがない。




冷凍パティ(キタンジーニャにて)


バンズが3種類も

 バンズの写真奥の「ゴマバンズ」は敷島製パン。手前の2種類は、日本国内でブラジル人向けの食品を製造するメーカーが数社あり、そこのモノ。パティも同じで、パッケージは一面の葡語だが、国産。他にもレトルト食品、サウガジーニョと総称される揚げ物類、リングイッサやモルタデーラなどと呼ばれるソーセージ類、パン、菓子類、チーズなどの冷蔵品と、ブラジル人向け食料品の多くは日本国内で製造されている(しかもウチの近くにもあるんだよネ)。地球の真裏から運んでくる距離・時間その他のことを思えば、消費地にヨリ近い場所で製造する方が、はるかに効率的で安心・安全であることは言うまでもない。コノ売り場の状況を見る限り、少なくとも大泉のブラジル人は、家でハンバーガーないしはソレに近い食べ物を作って食べているのにほぼ間違いなかろう――と、まずそこまでは判った。

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2007年01月15日

# 160 PASTEL & CIA. [群馬・西小泉]




 ついに群馬県大泉町へ行って来た。

●日本の中のブラジル

 群馬県邑楽郡(おうらぐん)大泉町――県の南東に位置し、利根川を渡れば埼玉県。人口42,165人(18年3月)の小さな町であるが、人口に占める外国人登録者の割合15.8%は全国一。そのうちの75%、約5,000人がブラジル人であることから、世にブラジルタウンとして知られるこの町は、日本人と外国人の「共生」という点でも全国的に注目されている。

 広い関東平野の只中にぽつんと位置する小さな町に、なぜこれだけ多くのブラジル人が集まっているのか――詳細はこちらにお任せすることにして、ウンと縮めて説明すると、戦前、軍用機工場があった跡地に三洋電機などの工場が進出。バブル期に致命的な労働力不足に陥って、1990年の出入国管理法改正を機に南米の日系人を多く迎え入れた。地元の名士がブラジルとのパイプを持っていたことから、ブラジル籍の日系人が特に多く、工場側も厚遇で迎えため定住が進み、次第にブラジル人コミュニティが形成されていった――ざっとこんな次第。

●キタンジーニャ


 その大泉町にキタンジーニャ(Quitandinha、小さな八百屋・雑貨屋の意)という店がある。町の中心部・ブラジリアンプラザの2Fにあって、ブラジルの食料品・日用品を扱う店である。コノ店のオーナー、日系2世新垣氏も初めは工場労働者の一人として来日したのが、ブラジル人向けの雑貨店を'91年より始めて、'06年の秋で15周年。店はインターネットショッピングを展開するまでに大きく発展した。

 そのショッピングサイトがなかなかの充実ぶりで、見ているだけでも実に楽しいサイトなのだが、コレを担当・運営しているのがキタンジーニャ唯一の日本人長谷川さんである。ブラジルの文化・習慣を理解しながら、商品一つ一つに葡語と日本語両方の説明を付けてゆくのだから、それは大変な仕事だろう。幸運なことに今回、その長谷川さんに大泉のガイドをしていただくことができた。言葉の問題もさることながら、彼の持つ知識の広さ、そしてなにより顔の広さをなくしては、これほど円滑に取材を運ぶこともできなかったろう――Muito Obrigado!

●ブラジリアンプラザ

 キタンジーニャが入るブラジリアンプラザは、家電・PCから外国人向けの土産物、衣類、レンタルビデオ、携帯電話、保険、旅行代理店等々、生活に必要なモノのほぼすべてが揃う、在日ブラジル人向けのショッピングセンターである。休日には大泉周辺のブラジル人が集まって賑わい、ブラジルタウンの中心的役割を果たしている。

 2Fにキタンジーニャ。1Fの各店もそうだが、窓の大きなパーテーションで簡単に囲う程度で、基本的には内装にお金をかけていないのだが、かえってそれが想像されるアチラの光景を呈しており、「日本でない場所に来た」感を強く抱かせる。店内は白い壁・床・天井に蛍光灯が反射して、買い物しやすい明るい雰囲気。食料品・日用品のほか、CD・DVDソフトや新聞雑誌、さらには楽器まで実に幅広い品揃えで、見て回るだけでもまるで飽きない。ブラジルのあらゆる生活・文化・習慣をギュッと詰め込んだ、実に魅力的な空間だ。

 こうしたブラジル独特の文化に強く惹かれる日本人も少なくないようで、海外旅行気分でやって来る人もいれば、中には好きが高じて大泉に移り住んでしまった人も数人。この日買い物に来ていた日本人・大野さんは、マテ茶の効能を身をもって経験。以来、埼玉から車で買いに来ては、世話をするフィリピン人ボクサーの体調管理に役立てている(と言うか、秘密兵器)という。そんなマテ茶との運命的な出会いも、日本人スタッフ・長谷川さんの懇切丁寧な説明があったればこそだろう。何事においても良き「伝え手」の存在は不可欠である。

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2006年11月12日

# 158 Paraiso Brasil [横浜・鶴見]




 群馬県の大泉町で食べるブラジリアンスタイルのハンバーガーが美味しい――こんな書込みが掲示板にあって(こうたろう氏による――感謝!)、米国すらロクに調べてないのにブラジル〜? と、最初はあまり乗り気でなかったのが、調べるうち次第に興味深く思えてきたのである。

§ §

 群馬県大泉町と言えば人口の約15%が外国人(全国1位)、うち75%以上がブラジル人(つまり11.25%、約4,700人)というブラジリアンタウンとして知られる。「よく見れば……確かに!」という異国な空気の感じられる地域があって、ブラジル料理店・雑貨店などが集まっているという。全国的に見ると、ブラジル人登録者が最も多いのは愛知県の71,004人(うち豊橋市12,039人)、次いで静岡44,697人※16年(浜松市18,188人※17年)、群馬17,557人、神奈川14,630人、埼玉14,431人の順(平成17年12月末日現在。静岡県のみ16年)。出稼ぎ労働者として工場周辺に居住するケースが専らの様だ。

 で、調べるうちに「横浜の鶴見にもブラジル人が多い」との情報を得、あるいは大泉町同様のブラジル流バーガーがあるかも……とさらに調べると、神奈川県内では横浜市鶴見区が1,568人で1位、2位川崎市1,363人、3位平塚市1,332人(資料はコチラ)と、確かに鶴見は県内で最もブラジル人が多く集まっている場所であると判った――なら行ってみますか! ♪パライソの店に参ろうや〜!

 鶴見川より海側は広大な埋立地で(大正時代、浅野総一郎などによる)、道が真っ直ぐ広く、住宅地の中に至るまで区画にゆとりが感じられる。海に臨む一帯が工業地帯、戦後全国から出稼ぎ労働者が移住した時期があって沖縄料理店なども多く、玄関先にシーサーを頂く家も見られる。90年代以降外国人労働者も居住。ブラジルはじめ南米・エスニック料理店が増えた。ブラジル人が多いと言っても、見てわかるブラジル人街が形成されているわけでなく、雑貨店もレストランも町中にポツポツと点在している感じ。

 鶴見川を芦穂橋で渡るとすぐ道の両端が栄町公園、その左側公園の裏手にコノ店。通称ゴム通りから1本入った立地ながら、日本語のLEDも点滅しているので絶望的に判り難い場所ではない。プレハブ建ての様な簡易な2階建1F。骨組みだけの庇屋根に電飾が絡む入り口。仮設店舗のような引き戸を引くと中は……ポルトガル語だねぇ〜!

 店内左半分が食料品・雑貨・雑誌等の売り場、右手奥が軽食堂。時折パラパラと買い物客が訪れては何やら葡語で話し込んで帰って行く。中央に調理場があり、中にはラテン系・鼻眼鏡のお父さん。ランショネッチ(lanchonete)と呼ばれる軽食堂は、アチラの映画に出て来そうな白い壁のガランとした空間。窓が無い。席数20ほど。椅子を並べれば40は座れるか。冷蔵ケースの上にテレビが乗せてあるから、サッカーの試合でもあればきっと皆して観るのだろう……と思ったら夜は超満員! 地域の寄合い所的機能を持つ場所の様子。テレビの裏手にDVDの棚が見えるが、恐らく葡語の字幕モノだろう。ブラジル映画が充実している風でもない。BGM――無音。



 驚くべきことにバーガーメニューなる貼り紙まであって6品の品揃え。ハンバーグチーズだけの「チーズバーガー(X-BURGER)」¥298から徐々にトッピングが増して、野菜の加わった「チーズバーガーサラダ」¥452、「チーズバーガーエッグ」¥512……で最高額はチーズバーガー トゥド(X-TUDO)¥717。"X"とはチーズ、"TUDO"は全部の意で、つまり具材全部入りがX-TUDO(詳細コチラ)。本日はそのX-TUDO¥717を中ジョッキ¥390で……安っ! (※KIRINデス)

 出て来たのはコノ見た目……何? このやぶれバンズは? 正直全く期待は持てなかった。中はケチャップ、マヨネーズ、リーフレタス、トマト、ソーセージ×3or4、ベーコン、タマゴ、チーズ、パティ、またケチャップ、下バンズ。バンズはボッサリと大きいが食感・味とも悪くない。いつまでも熱をキープするタマゴを中心にケチャップ&マヨネーズが混ざってサウザンのような甘めの色付きソースを形成、カラブリア地方のピリ辛ソーセージカラブレーザの辛過ぎない旨味とカリッカリに焼いたベーコンのアクセント、脇役に回りながらも意外や及第点な質を誇るパティ、さらに細ーく糸引くモッツァレラの使い方も適確で、トマトも効果的。これだけ派手な味が並んでいながら不思議と変に偏ることなく、よくまとまっている。

 ベーコン+エッグ+チーズケチャップとマヨネーズの甘い味付け――ということで意外にも佐世保とよく似た構成なワケであるが、しかし正直ヘタな佐世保バーガーよりよほど佐世保的だった様にも思える。ベーコンとかソースとか、何か一種類の(作為的な)味だけでベターッとやられると、食べるうち単調に思えてくるものだが、しかしこうして具材のよく混ざり合った結果の味だと、飽きが来ない。考えに考えを重ねて小さくまとまったバーガーより、思うまま作ったこのバーガーの方が、見た目一切無配慮なれど素直で豪快で、ずっと魅力的に感じられる。頼んでから結構待たされたのも、これだけの中身を準備することを思えば納得である――DELICIA!

§ §

 ☆付けちゃおうかなぁ〜とも思ったんだけど、ま、とりあえず手ぬぐいで……(って☆以外無いんだけどサ)。こういうこと書くと店に失礼かも知れないが、勇気が出なくて踏み込めない日本人ビュアー諸氏のため書くと、日本語の会話は最低限通じ、日本語表記はきちんとしていて会計はじめ諸事安心です。夜は地元ブラジル人でごった返して入る余地は無いので、時間を外した方が確実かも知れない。Paraiso の"i"には本当はアキュートアクセントが付くんだけど、再現出来ず。かくして大泉町への期待はグンと高まったのである! 以下、店の人が一生懸命教えてくれたお店の情報を……。


― shop data ―
所在地: 神奈川県横浜市鶴見区栄町通3-26-4
     京急電鉄 鶴見市場駅歩13分 地図
TEL: 045-503-6466(但し日本語は不慣れな模様)
* 営業時間 *
月〜金: 12:00〜24:00
土・日: 10:00〜22:00
定休日ナシ? (要確認)


2006.11.12 Y.M

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