つづきです。コゲ味は完全なる造語です。「コゲの風味」を縮めたものが「コゲ味」と。「コゲの風味」とその都度書いていると長いので、略して「コゲ味」としている……という感じでしょうか。料理の"作り手"には「焦げる」「焦がす」という言葉はあまり喜ばれません。が、その一方で"食べ手"の側は「焦げ」に対してまた違った感覚を持っているようで……という話を次にします。
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近年「焦がし醤油」「焦がしバター」「焦がしキャラメル」等々「わざと焦がした味」を好む傾向が強まっているように思えます。焦がす調理自体は昔からあるものですが、それを「より魅力的に」扱うようになったのが、ここ20年ぐらいのことではないかと。例えば、大阪・泉佐野「むか新」の「こがしバターケーキ」は2002年の発売。「焦がし醤油ラーメン」発祥の店とされる埼玉・志木の「麺家 うえだ」は2004年創業で、"焦がし"を考案したのは2009年ごろとこの記事にあります。ま、感覚的にはそんなモンでしょうかね。比較的「近年」の出来事です。
「炙り○○」も頻繁に言うようになりました。代表格は「炙りとろサーモン」辺りでしょうか。当然「炙る」という調理法も昔からあります。「人口に膾炙(かいしゃ)する」なんて言葉の「炙」の字は「炙った肉」という意味です。まぁそれぐらい、唐の昔から人々に好まれる味だったということで、それがこと最近になって「商品化」されるようになったと言うか、メジャーになったと言うか、"珍味"扱いから抜けて、一気に「ポピュラー」になったと言うか……そんな感じに思われます。"邪道"と呼ばれていたワケではないが、さりとて"王道"でもなかったような。それが時を経て、公然と好まれ、一般的になったという。
つまり、今や食べる側は「焦がす=悪」とはあまり思っていないということです。ちょっと話逸れますが、森永乳業の「焼きプリン」が発売されたのは1994年だそうです。「焼き○○」と付く料理や食べ物が流行り出したのも、その頃から"かも"知れません。食べ物のブームなんて割りとそんなもんですからね。
ハンバーガーにおいてパティとバンズに続いてよく焦がすものは「チーズ」でしょうか。ガスバーナーで表面を炙って"メルト"させることが多いです。要するに「融かす」ということですね。東京・松陰神社前の「Wack Dland!」のように鉄板の上でチーズを焦がす店もあります。熱せられて融け出したチーズが鉄板の上で焼け焦げて「パリパリ」に固まるという。
バーナーで炙る"ひと手間"。鉄板上で焦がす"ひと手間"。これらが「魅力的なこと」「価値あること」と思われているワケです。つまり、その"ひと手間"が料理に「価値を加え」「魅力を増す」役を果たしている――と食べ手の側は認識しているということです。
そういう意味ではフランベにちょっと似ているかも知れません。調理の最後に洋酒を振りかけて「香り付け」する工程ですが、でもアレも見た目は華やかですけど、実際どの程度の"実益"があるのか。だったら「炙り」だって、まぁまぁな「見せ場」ですよ。「麺家 うえだ」も「両手にバーナーを持ち、スープを豪快に炙る調理法のインパクトが話題となり」とこちらの記事にあるぐらいなので。
派手なパフォーマンスになる上にしっかり「コゲ味」も付いて来る。花だけでなく「実もある」調理法――それが「炙り」であり「焦がし」であると。だから流行ったのかも知れません。
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再度まとめると……作り手が気にしているほどには、食べる側は「焦がす=悪」とは思っていないということです。むしろ「良いもの」「魅力的なもの」「おいしそうなもの」と捉える傾向にあると。ですからもう少し時が経てば「コゲ味」も正しく褒め言葉となり、あるいは辞書に載るかも知れない……といったところでしょうか。今はその「過渡期」にある気がします。というお話でした。 (おわり)
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