フレッシュネスバーガーが創業25周年を記念してネギミソバーガーを復刻販売するのを受けて、この店の記事を再アップします……京都・西大路の九条ねぎバーガー MAHALO(マハロ)というお店。
店主井藤さんご夫妻がかつて住んでいた"たまたま"近所に、ある日、フレッシュネスバーガーの1号店(富ヶ谷店)が出来たがために、そして中でもネギミソバーガーに強烈なインパクトを受けたことがきっかけとなって、自身のバーガー店「九条ねぎバーガー MAHALO」を始めたという、そんな運命的なストーリーのあるお店です。
なお、記事の内容は8年前、2009年に書いたものです。今はこの頃よりもさらに一層おいしくなっていると思います――どうぞご覧下さい!
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「関東は白、関西は緑」とくれば――そう、ネギのお話である。
●白と青の肖像
前回の「SUNNY DINER」がある東京・千住(せんじゅ)は、「千住ねぎ」なる根深ねぎ(白ねぎ)の種類で知られるが(日本で唯一ネギしか扱わない市場がある)、片や京都・九条と言えば「九条ねぎ」の産地としてあまりに有名。千住の白ねぎに対して九条は青ねぎ(葉ねぎ)。寒くなって特有の「ぬめり」と甘味が増した冬場が食べ頃である。
そんな九条ねぎを使ったハンバーガーを出す店がある。
使っている食材も凝りに凝っている。
「パテは本当に数少ない丹波牛100%」「天保年間創業、本田味噌の絶品味噌」「老舗ご当地ツバメソースをベースにしたマハロ特製ソース」「マグネシウム、カルシウム、カリウムが豊富に含まれた京丹後の琴引きの塩」、そして「京野菜と言えば九条ねぎ 農家の丹精こめて育てられた伝統野菜」さらに玉子も丹波地鶏と、トップバッターからラストバッターまでこれだけがっちり「純京都」で固めた打線ながら、チーム名はなぜか「マハロ」……(笑)。
このセンスを「理解する」と言うか、歩み寄れる自分になるまで、ざっと2時間は要したろうか――えぇ、成長しましたトモ。
●マハロ
「マハロ」とはハワイ語で「おおきに」という意味である。
ハワイの掘っ立て小屋をイメージした店内はカウンター5席、テラス7席。小さいが日のよく差す明るい店で、BGMも「いかにも」なロックナンバーが軽〜く流れて、スローな良い空気を醸している。この小屋にしては有り得ぬ高さの天井にファンがゆらゆらと回って、狭さを感じさせぬ、なかなかに好い居心地である。
しかし供されるのは京都の伝統食材を使ったバーガー。京都なのかハワイなのかハッキリしなさい! とカウンターひっくり返したくなるところだが、コレには実に根の深ーいワケがありまして……ネギだけに。
●フレッシュネス
オーナー井藤さん夫婦が東京に住んでいた90年代初頭、東大駒場キャンパス裏手の閑静な住宅街の一角に「フレッシュネスバーガー」の1号店がオープン。ご近所だった井藤さんはこの新しいハンバーガー店の出現に衝撃を受ける。
「お金があれば自分でやっていたと思う」というまでぞっこん惚れ込んだのは、当時フレッシュネスが東京にしかまだなく、そして関西にフレッシュネスのような手作りハンバーガーの店が無かったからである。
中でも「意外で、ピーンと来た」のが「ネギミソバーガー」。このバーガーのネギは白ネギ、いわゆる「白髪ネギ」であるが、井藤さんはこのバーガーに着想を得て、地元京都の青ネギ、すなわち「九条ねぎ」を使ったハンバーガーの創作を決意する。児玉清風に言うなら、「白のおねぎが緑に変わる」ワケで……スイマセン。
ちなみに――。今でこそ都内でもよく目にするようになったが、九条ねぎをはじめとする京野菜の多くは、その当時、東京ではごく一部の高級デパートでしか扱われない高級食材だった――ネギ1本800円とか。
●一子相伝
構想10年。一昨年より食材の仕入れ先など当たり始め、店舗は自宅の庭先に構えた。そして肝心要の九条ねぎの仕入れだが……実は奥様、ご実家がまさに九条ねぎの生産農家なのである。
九条ねぎの世界は一子相伝。農家それぞれに代々受け継ぐ「タネ」があり、また育て方も家により少しずつ異なるという。
宅地と工場に奪われて、畑はだいぶ減ってしまったが、それでも京の都に1200年以上続く伝統野菜の呼び名にふさわしい「一子相伝」の栽培方法により、九条ねぎは今なおこの九条一帯で作り続けられているのである。
マハロでは料亭などにしか出さない、中でも上質な九条ねぎのみを使用。奥様のご実家で収穫できた時はソレを使い、確保できない時も地元・九条産のネギ以外は絶対に使わない。その辺りも徹底している。そいつがバーガーになるってゆうんですから……いやが上にも期待は高まるワケですよ。
●ネギと味噌
バーガー4品。バーベキューソースを使ったマハロバーガー以外、すべて九条ねぎを使った創作。パティはレギュラー80gとラージ110gの2サイズあり。バンズの大きさも変わる。
九条ねぎ味噌バーガーL¥890。上バンズ(クラウン)の下に九条ねぎ、ピクルス、マヨネーズ+味噌ソース、パティ、トマト、レタス、下バンズ(ヒール)。
九条ねぎ独特の後引く辛さと、口に残らずスッと消える本田味噌の甘さ――このバーガーの主役は明らかにネギと味噌である。さらには味噌に加えた「おだし」の旨味が、食後長らく舌の上にとどまって、おいしい余韻でいつまでも楽しませてくれる。
パティは和牛である分クサミ無く、クセのない味。バンズはちょうどこの手のせんべいみたいなミョウにパリッとした表面に、生地は気泡の多いスポンジ質。コレが中身とまるで合っていない。完全なるミスチョイスだろう。グラハムであることの意味も薄い。ネギと味噌との相性も考え合わせて、ごくオーソドックスな白い生地のバンズに大至急変えられますことを強く希望いたします。
やはり我々「根っこ」は日本人なので、パンより白いご飯が好きだったりするワケですよ。その辺の機微を巧みに取り入れていただきまして、ひとつ――。
九条ねぎは文句無くおいしい。味噌もおだしも一級品。問題は何より「ハンバーガーとしておいしいかどうか」という一点に絞られる。ねぎ味噌とバンズとの絡み、ビーフパティとの絡み、そしてバーガー全体として食べた時の調和・融合etc......
料亭クラスの上質な九条ねぎを敢えてハンバーガーにする意味があるかどうか――その難問にきっちりと答えを出せるようになった時、このバーガーならば、ただのイロモノや「ご当地バーガー」の扱いに終わらぬ、本気で勝負できる味へと上り詰めることが出来るのではないか――と、私はそう信じている。つまりポテンシャルは高いのだ。
●京都とハワイ
だけど店名は「マハロ」……。
バニラフレーバーのハワイアンコーヒー¥280は、それ単体の飲み物として楽しめるが、味噌やおだしの奥行き深い味わいとは根本的にステージが合わない。むしろほうじ茶とか番茶とか、そっちと合わせたいところ。だけどビールは京都の地ビールよりも雰囲気重視で、ハワイのコナビールなど置いて欲しいかな。
こうなったら中途半端はよくない。徹底的に「雰囲気=ハワイ、食べ物=京都」を貫いていただきたい。
常夏の楽園を思わせる大物・小物、椰子の木、ハイビスカス、サーフボードなどでもっともっと店内を固め、外には松明、ユニフォームはもちろんアロハシャツに首からレイ、表情から物腰に至るまで「日系人」と見紛うばかりに徹し切った、根っからのハワイアン……だ・の・に! 出てくるのは九条ねぎバーガー(笑)。落差は大きければ大きいほど効果的かつ魅力的なもの。
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すぐ近くを桂川サイクリングロードが走っており、何でも最近、彼ら自転車乗りの間でマハロが人気を呼んでいるという。小休止にちょうど良い店なのだとか。サイクリストの聖地――それも悪くないですな。
京都市は南区のバーガーショップ、オアフ島はノースショアの波に乗れるかどうか〜〜〜〜〜。
→ 『HAMBURGER STREET 創刊号』、販売全国69店リスト
― shop data ―
所在地: 京都府京都市南区吉祥院中河原西屋敷町8-1
JR京都線 西大路駅歩8分 地図
TEL: 090-9095-0086
URL: http://www.mahalo0086.com
オープン: 2008年8月25日
営業時間: 11:30〜20:00(SOLD OUT時終了)
定休日: 水曜日・木曜日(要確認)