2015年12月23日

# 346 香留壇 [大阪・近鉄八尾]




 「ハンバーガーとコーヒー」と言うと、当サイトでもこのような商品を売り出し中だが、大阪・近鉄八尾の珈琲店香留壇(かるだん)は本職の珈琲店。自家焙煎の店である。そんな店がなぜバーガー?

 もんじゃ焼きで有名な東京・月島には「喫茶パーラーふるさと」という創業1962年の店があって、創業者の孫・金子隆一さんの代になってから五反田「7025 Franklin Ave.(フランクリン・アベニュー)」仕込みの良質なハンバーガーを出すようになった。八尾の香留壇はそれと少し似ている。但しハンバーガーはどこで学んだものでもない、完全独自研究――。



●自家焙煎珈琲

 香留壇は現在の店主・勝浦さんのお父さんと叔父さんの共同経営により、昭和53(1978)年にオープンした。月日は不明。店に立っていたのは主に叔父さん。24年前「引退しはって、そっから」勝浦さんが跡を継ぐ。


 焙煎は勝浦さんの代になってから。始めて20年。この秋オーガニックに目覚め、いま力を注いでいる。豆の値段は高くつくが品質は大事と。

 最初の店は今の場所の裏手にあった。それを「そことこっちをつないで」L字型の店にし、さらに魚屋の跡を「僕らが借りてこっちをやりだした」……何のこっちゃ(笑)。つまり二度の増改築を経て、今の形になった次第。だから入り口が2ヶ所ある。「ハンバーガーやる時に店の名前変えて、雰囲気変えようか」とも思ったが、そこは喫茶店への思いと誇りがある。

 ではなぜハンバーガーを始めたか――。


 2007年2月、すぐ先にあった「八尾サティ」(かつてのニチイ八尾店)が撤退。それまで引っ切りなしに人が往来するロケーションだった商店街から一気に客足が遠のき、香留壇も売上げ半減。北本町中央通商店会の会長、八尾市商店会連合会の副理事長も務める勝浦さん、「その辺ぐらいかな。新しいものをやらなアカンな」と思ったのは。


●試行錯誤の連続で

 何かひとつメニューを作りたかった。では「何か」と考えた時に、ある雑誌に載っていた東京・本郷「ファイヤーハウス」のハンバーガーの写真が目に留まり、「見たことのないコレ作りたいな。マクドしか知らんし。やるだけの価値あるかな」と思ったという。


 「スッと入れるのかな」と思ったが、やりだしたら試行錯誤の連続でメニューになるまで相当時間がかかった。なかなか自分の思う通りに行かない。何より「一体感」を出すのが難しかった。

 開発はまずバンズ有りき。噛んだ時一番最初に感じるところゆえ「意識を集中した」。そこから肉をどうしたらいいか考えた。同じ中央通商店街の「ニューリーボーン」さんに依頼、粉も形もいろいろ試したその結果、生地は湯だねのちょい甘味ある80gに。


 パティは地元の精肉店「たんばや」さんからA4〜5ランクの上質な九州産牛を、半分はミンチで、半分はブロックで仕入れて店でチョップし、ミックス。つなぎなしの105g。鉄板で焼く際に塩コショウ。部位、切り方、赤身の配合、何を入れたらいいか、何を先にしたらいいか……全部試したらみんな違う。

 こうして半年かかってやっと形になったバーガーだが、この八尾の商店街にあって「1個600円」という値段で出すことに、勝浦さんも奥さんも当初不安を抱いていたという。「アカンかったら店やめて違うとこ行こうや」ぐらいの思いで始めたところ……。

●ハンバーガーの発信力


 やり始めて一ヶ月ほど、あるハーレー乗りの"子"がバーガーを「見つけてくれた」。しかもその彼の「発信力」がスゴイ。数珠つなぎに人が来て「そっからバーッと」広まった。ハーレーの他、ピストバイクなどサイクリングやツーリング途中の中継点として今や多くが利用する。「県外から来るんや。やってる方がびっくり」。

 バーガーメニューは14品。うち2品は魚とメンチカツ。他に月替りのバーガー1品。最初はいつでもチーズバーガー¥800。サラダ+ドリンクのセットはプラス¥220。

 山食ベースの生地で作ったバンズは甘味強く、リッチ。カリッとドライによく焼いてある。レリッシュも甘く、これらの混ざった甘味とパティに振ったコショウの辛味が味の対称をなす。「食事パン」として考えた場合、もう少しバンズの甘味を抑えてもよい。


 この日のパティは成形からまだ時間浅く、結着の弱い状態だったが(縁がひび割れているのはそれゆえ)、外側は強く焼いてコゲ硬く、噛めば弾力。バラバラと細かくほぐれる粗い食感。その上からチーズがべっとりとマイルドにかかって、丸いやわらかな国産肉の旨味をコートしている。バンズの裏に自家製マヨネーズ。オニオンはグリルド。

 コショウ強め。シンプルな、肉を活かすよい味。「まずバンズ有りき」と言いつつ、むしろパティの方がより工夫され、「肉」を食べる醍醐味を上手く引き出しているように感じた。小ぶりながらも食べていてちょっとワクワクするバーガー。

§ §

 ハンバーガーにコーヒーを合わせて飲んでくれる。「若い子はそういうノリがいい」と勝浦さん。お客さん自ら進んで情報を発信したり広げたり。他の食べ物にはないハンバーガーのそうした「力」を、誰より勝浦さん自身が一番楽しんでいるように思われた。「出した時にニコッと笑いよんねん。あの顔見るのが楽しい」。




― shop data ―
所在地: 大阪府八尾市北本町2-9-13
     近鉄大阪本線 近鉄八尾駅歩6分 地図
TEL: 072-996-0439
URL: https://www.facebook.com/自家焙煎珈琲ハンバーガーの店-香留壇かるだん
オープン: 1978年
営業時間: 8:00〜19:00
定休日: 火曜日(要確認)

2015.12.23 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:23| 西国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする