人生初めて富山へ行った。北陸は福井へ一度、石川へ二度行ったことがある。石川は二度とも飛行機だった。そう思うとこの春、北陸新幹線が開通したのは大きい。何より行ってみたい気分が一気に増した。
富山と言えば海の幸。白えび。昆布(こぶ)じめ。ほたるいか。氷見の寒ブリ。ますの寿司。イカの黒作りなんて料理もあって、どれもことごとくおいしいのだが、でも長期の滞在となると、連日魚ではさすがに飽きてくる。「なんで富山まで行ってバーガー?」と思う人もいるだろうが、いやいや富山でだってハンバーガーが食べたい時はあるのだ。その「食べられさえすれば」OKぐらいに思っているバーガーが、もしもとびきり上等で上質なものだったとしたら――。
富山の店、SOUTH BY SOUTHWEST CAFE(サウス・バイ・サウスウエスト・カフェ)は、思いがけずも、そんなとびきり上質なバーガーと出合える店だ。
●路面電車
かつてフードコート的な店はあったと言うが、実質的には富山で初のハンバーガー専門店である。
場所は富山駅前。路面電車でひとつ目、新富町の停留所ほぼ前。富山駅から店までの距離は←こんな感じ。
富山には路面電車「富山地方鉄道富山市内軌道線」と「富山ライトレール」が走っている。これが楽しい。車両が走っているさまを見るだけで十分楽しい。ワクワクする。のんびりする。
新富町の先には富山県庁があり、富山城がある。城内には鉄筋コンクリート造の模擬天守があるが、某市のように本丸跡に県庁が建っているほどの無粋ではないので、よしとする。2枚下の写真の建物は県庁隣の富山市役所。
他に新富町はNHK、新聞社、JAなどのオフィスが近く、彼ら勤め人たちの来店を見込んでいたと店主・井上さん。が、本来新富町は飲み屋街である。5時以降がメインの街。昼間やっている店は「まぁない」。日曜の夜なんて誰もいない。
●チーボ、フランクリン、アイコウシャ
井上さんは約10年、富山で有名なイタリアン「CIBO(チーボ)」のカフェで働いていた。1階がベーカリーとデリで、2階がトラットリア=カジュアルなイタリア料理を出す店。今年2015年で創業20周年を迎える。
イタリアンにこだわらず自由に出していた週替わりのランチのネタを探していた井上さん。料理雑誌に載っていたマッシュルームバーガーの写真が目にとまり、真似して作ってみたことがきっかけで東京・五反田「7025 Franklin Ave.」のことを知る。
任されていた支店の閉店をきっかけにチーボを退職することにした井上さん。辞意を伝えたところ、「東京に研修に行って来い」とオーナーから言われ、「ブラザーズ」「ファイヤーハウス」「ベイカーバウンス」「ホームワークス」など、当時の都内を代表するハンバーガーの名店を巡る旅へ発つことに。旅の末、選んだ店がフランクリンアベニュー。「求人募集してますか?」と戻るとすぐに富山から電話。「是非すぐにも来て下さい」との返答。
東京には3年ちょっと。フランクリンには2年弱。1990年創業、東京のハンバーガーレストランの草分け、草創期の名店のひとつである。初出勤の日、「東京とはどんな所だろう? 全国から選び抜かれた精鋭たちが、とんでもない"バケモノ"が集まって来る場所ではないか」と想像して、緊張のあまりお腹が痛くなったという。
次いで天王洲の「T.Y.HARBOR BREWERY」に半年ほど勤めた後、フランクリン西麻布店のOB・松橋さんの店、水道橋の「I-Kousya(アイコウシャ)」で1年少し。ここも東京を代表する名手のひとつ。足を向けて寝られないほどお世話になった、と井上さん。
これで合計3年とちょっと。都内でなく富山に帰ってきて開店。2009年11月16日の開業。つまり今年で6周年。
●良質なバンズと野菜
富山初のハンバーガー専門店を最初に広めたのは英会話教室のオーストラリア人だった。いろんな人を次々連れて来てくれる。今よりもっと流暢に英語を話せるようになることが井上さんの目標である。
当初、近隣のサラリーマン・OLの来店を見込んでいたものの、実際には土日の方が忙しく、また昼の方が来店数は多いが、夜の方がアルコールと共に楽しむ分、単価が高い。テーブル14席、カウンター6席(一部荷物で埋まって実質4席)の店内を終日井上さん一人でこなしている。
バーガー24品。サンド3品。他にチョコバナナパンケーキ、チョコバナナスムージー、フロートなど。鶏魚を挟んだ「バーガー」が無いのが好感。チーズバーガー¥890。パティはサイズ115g。国産牛とオージービーフをブレンド。中に塩とナツメグ。ガスの直火でグリルする際、塩コショウ。バンズは鉄板の上でフタをしながらトースト。
古巣・チーボ作のこのバンズ。こんがり濃い茶色の、つやのない、実に形よくまとまった美しいバンズで、「もともとトラットリアのお客様に食事のおともにお出しするパンを焼くためのベーカリー」だったというチーボ得意の「食事パン」の実力を遺憾なく発揮した傑作。こんな良質なバンズに富山という地方都市で出合えることは奇跡に近い。
真っ赤によく熟れたトマト。何層にも重ねたレタス。オニオンは生のスライスが少々。目を引くのがクレソンの質の良さ。金沢の農家作。都内でまずお目にかかれない鮮度、活きの良さ。
少しナツメグが多く思うが、ステーキのようなシーズニングの香りがプンとにおい、十字の焦げ目が芳ばしい、直火焼きのバーガー。挽き肉の粒がプチプチと当たるパティはクラウン(上バンズ)てっぺんのゴマの風味と混ざるとさらに芳ばしく。東京の名店2店で培った井上さんの技が活きた良質な一品。
§ §
店名はテキサス州オースティンで開催される音楽・映画・インタラクティブの一大イベントにちなんで付けた。オースティンは中心地ニューヨークから見て「南南西」に位置するという意味。富山なら東京から見て「西北西」。領収書をもらう際に何度も聞き返されたり、預金通帳や電気・ガスの料金票に入り切らなかったりと、店名については何かと苦労している。
北陸・富山にあって東京と何ら変わらぬ良質なハンバーガーが食べられる店。長期富山出張の際には一度は訪れたい。サンドイッチもおいしいが、最初はぜひハンバーガーから。
― shop data ―
所在地: 富山県富山市内幸町2-14 内幸ビルA館1階
JR富山駅歩9分、市電新富町停留所歩2分 地図
TEL: 076-441-7087
URL: http://sxswcafe.blog13.fc2.com/
オープン: 2009年11月16日
* 営業時間 *
火〜土:11:30〜23:00(22:00LO)
日曜日:11:30〜21:00(20:00LO)
定休日: 月曜日(要確認)