2015年03月14日

# 332 喫茶パーラー ふるさと [月島]




 この有名店の紹介もまだだった。ザ・バーガーマップ東京掲載で当「ハンバーガーストリート」未紹介の店。東京・月島の喫茶パーラー ふるさと

●創業者はお祖父さん

 月島と言えば今やすっかりもんじゃの街。有名な「月島もんじゃストリート」二番街、細い路地を入った中ほどにある。創業は1962年。先の東京オリンピックが開催された1964年の前夜。日本が最も明るく希望に満ちて、元気で勢いのあった時代だ。その辺り『ニッポン無責任時代』を観てぜひ"時代の風(ふう)"を感じ取っていただきたく。

 始めたのは現店長・金子隆一さんのお祖父さんに当たる、金子静雄さん。まずそのお祖父さんの話からしたい。




 若い頃にケーキ職人と魚屋をやっていた。ケーキははじめ趣味であったらしく、島屋のパーラーに勤めていたことがあったので、そこで「ちょっと齧った」のではないかとの話。魚屋の頃も家でワッフルを焼いては近所の子供たちに振舞っていたという。それが高じてある日突然「ふるさと」を始めた。


 ロールケーキやマドレーヌなど、静雄さん自慢の洋菓子をメインにした「ケーキとお茶の店」あるいは「サンドイッチとコーヒーの店」としてスタートした。以後40年近く、静雄さん夫婦が店に立ち、この月島西仲通り商店街の路地裏で営業。お祖父さんが亡くなった後はお祖母さんと隆一さんのお母さん――静雄さんの息子さんの奥さん――により「お茶もの」のみを出して営業を続けた。

 お祖父さんはある種、昔の職人さんのような気質の人だったそうで、洋菓子作りについては全てが"勘"。だから「ふるさと」名物のロールケーキのレシピは一切残っておらず、口伝でも伝わっていないという。ちょっと惜しい話だ。

●フランクリンアベニュー

 そして2009年、孫の隆一さんが店長に就いて「ふるさと」のメニューは大きく変わった。隆一さんが五反田の名店「7025 Franklin Ave.(フランクリンアベニュー)」に10年勤めていたことは皆さんもうご存知だろう。そのきっかけは隆一さんのお父さん・輝雄さんである。


 輝雄さん――初代静雄さんの息子さん――は、フランクリンのオーナー松本幸三さんとはフランクリン開業以来の付き合い。「本当に"ホンモノ"に出合ったのは松本さん」と口を極めて言うほどに、それまで(つまり1990年以前)都内の主だったハンバーガーをずっと食べてきた輝雄さんにとって、フランクリンのバーガーを初めて食べた時の感動は、それはそれは衝撃的なものだったという。

 それが縁で息子の隆一さんがフランクリンで働くことになった。7時前に出勤して店の鍵を開け、23時に鍵を閉めて店を最後に出る、松本オーナーの片腕として活躍。仕込みも全て担当。だからレシピは全部頭の中に入っている。

 そんな隆一さんが10年働いたフランクリンを辞めて「ふるさと」に戻った。今後「ふるさと」をどうするかという話し合いが家族で持たれて、隆一さんが「ふるさと」を継ぐことになったのである。つまり呼び戻された次第。ふるさとに"Uターン"。

●昔のまま

 こんな古風な喫茶店に今風なスタイルのハンバーガーがあるのはそれが理由である。1962年に創業してハンバーガーを始めたのは2009年から。


 ハンバーガー開始に当たり、座ると膝の高さまでしかなかったテーブル、椅子、そしてシャンデリアまがいの照明を新しく替えたが、あとは基本昔のまま。ほとんど剥げた床のPタイルに至るまで店内外、創業当時のままである。

 オレンジ色の入口扉は今や入手困難、相当な厚みを持ったアクリル板製。だから見た目の印象に反して非常に軽い。亀甲模様をした奥の壁は何製だろう。青白ツートーンが鮮やかな丸椅子は、さる目利きの客から「捨てるならくれ」と言われたことがある逸品。カウンターの天板も昔のまま。とにかく「昔のものは丈夫」と隆一さん。


 神奈川・本厚木の「GUGGENHEIM MAFIA(グッゲンハイムマフィア)」は世界各国の「ミッドセンチュリーモダン」な品々を蒐集した「美術館」のような店であるが、この「ふるさと」は1950〜60年代初頭、日本におけるミッドセンチュリーをそのまま封じ込めた「タイムカプセル」のような店だ。どうせならBGMももう少し古い選曲にしてみてもよいと思う。

 モーニングは地元の御年配が主でバーガーは出ない。土日は観光客でにぎわい、ビールもよく出る。ハンバーガー全7品。サンドイッチも7品。あとはホットドッグにサラダ。ドリンクはザ・バーガーマップ東京にも登場した懐かしのいちごジュース¥500など。これは先代静雄さんの頃からのメニュー。今日は中から最初はチーズバーガー¥950。

●下町っ子の人懐こさ

 一言で表すなら、フランクリンの端正で品格ある、格調高いあのバーガーの感じに、月島らしい庶民的な親しみやすさを加味したような、そんな人懐こい感じのバーガーである。


 バンズはなかなか甘め。「ふっかり」とかなりソフトな食感だが、しかし口の中に残らず。縁がこんがりとよく焼かれて軽快。生オニオンのサクサクとも同期する食感だ。

 パティはサイズ120g。オージービーフ。本当はグリラーでやりたかったが、店内あまりに狭くて入らず。鉄板で焼いている。ケチャップがかかる中「肉」の味がベースでよく利いている。やさしくほぐれる挽肉にふわっと絡むチーズ。その強い塩味に逆行するようなピクルスの甘味。


 特徴的なのはタルタルソースの重めな甘味。これぞフランクリン直伝の味である。本当はクレソンも付けたかったが、質の良いものがなかなか入らないため、諦めた。

 ケチャップ&マスタードに生オニオン、そして甘いピクルスの混ざる親しみの湧く味に、新鮮な野菜、むっちりとしたバンズ、それらを支えるパティ。極めて王道な構成だが、でもどこか引き締まった部分があり、しっかりとしたスタイルがある。おいしさをしみじみと感じる一品。

§ §

 あと5年、2020年には新旧2つの東京オリンピックを経験することになる。まさに快挙だ。そうでなくても今年で創業53年。親子三代・半世紀を経て、ずっと一家で営業を続けている。これはもう「稀」と言ってよいケースだろう。

 ハンバーガーとともに53年の歴史を味わいたい。

※現在はもんじゃストリートに面した仮店舗で営業中。詳細はこちらの記事で(2018.1.26)



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― shop data ―
所在地: 東京都中央区月島1-23-10
     東京メトロ有楽町線・都営大江戸線 月島駅歩5分 地図
TEL: 03-3531-6916
オープン: 1962年 (ハンバーガー開始:2009年5月2日)
営業時間: 9:00〜17:00
定休日: 月曜日(要確認)

2015.3.14 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 20:00| 東京編◆東部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする