どうも今年はワーゲンづいている。新年最初の記事で代々木公園「ARMS」オーナー・岩田さんの趣味のワーゲンについて書いたが、それから何週間と空けずに訪ねた店が、同じように熱狂的なワーゲン好きで、しかも岩田さんとはワーゲン仲間……なばかりでなく、岩田さんを通じてハンバーガーを知り、店をやるまでになったと聞いて、驚かずにはいられなかった。
●ワーゲンとバーガー
東京・武蔵小山Sherry's Burger Cafe(シェリーズ・バーガーカフェ)の店主・上野さんとARMS岩田さんは今から10年前、調布のとある"ワーゲン屋"で知り合った。その後仙台で開催されるドラッグレースにも一緒に参加した仲である。
そして東京・本郷にあるハンバーガー屋で店長をやっていると岩田さんから聞き、ワーゲン仲間みんなで押しかけた――この時食べた「FIRE HOUSE」の"ベーチー"が、上野さんが専門店のハンバーガーを知った最初である。値段以上にその味に驚いた。
その後、岩田さんは「ARMS」を開業。ここへも皆してワーゲンで駆けつけ、岩田さんを応援した。
一方の上野さんはサラリーマン。いずれ「夫婦二人でカフェか雑貨屋をやろう」という長らくの夢があったところに、折りよく社内で希望退職を募ることがあり、この機とばかりに応じて退職。そして「ハンバーガーショップどうだろう」と、独立開業の先輩である岩田さんに相談を持ち掛ける――。
●ファイヤーハウス
大変な思いをして岩田さんがARMSをやっていることを知る上野さん。その上野さんに「やる気があればできる」と岩田さんはまず返し、脱サラゆえ技術や知識の習得に余り多くの時間を当てることができない上野さんを、ファイヤーハウスに紹介してくれた。
ファイヤーハウスには1年勤務。「5年分のことが1年でできる」と岩田さんが言う通り、日々作るハンバーガーの個数が桁違いに多いこの歴史的名店で濃密な1年間を経験した後、いよいよ開店の準備に取り掛かった。
通勤の便と「犬が飼えるマンション」を求めて、しばらく前から上野さんは武蔵小山(むさしこやま)に住んでいた。テレビCMや番組ロケによく登場するパルム商店街があることで知られる武蔵小山は昔ながらの住宅街だ。
住んでみるとなかなか面白い。行きつけの店ができ、知り合いもたくさんできた。皆何かあれば助けてくれる人たちばかり。そんな心強い後押しの得られる街であることから、住所と同じ武蔵小山に店を出すことに決めた。
●愛犬シェリー
物件は、近所で創作フレンチをやっている人が紹介してくれた。2011年1月に工事開始。そして3月に震災を迎える。
資材を押さえていたので1ヶ月程度の遅れで済んだが、長引いた分「何ができるのだろう」と、かえって近所の人たちの注目が集まった。そんな下町的な人情にも支えらえ、震災の年の5月26日に無事オープン。
「シェリー」とは、「犬が飼えるマンション」と先に書いた、その"犬"のことである。黒と茶のメスのミニチュアダックスフント。店の工事が始まった翌月に残念ながら老衰で死んでしまった。16歳。大往生である。
シェリーちゃんに代わり、看板犬を務めるのは「てるさん」という同じくオスのミニチュアダックスフント。推定7〜8歳。倒産したペットショップから救出されたのを引き取った。今では「てるさん」会いたさにやって来るリピーターもいるという人気ぶり。当初は店内ドッグNGだったが、今は土日のランチを除き"OK"になった。
●ヴァリアント
店舗をデザインしたプロダクトデザイナー笠井義和さんは、上野さんのドラッグレースの対戦相手だった人である。お互いレース初戦。デビュー戦を戦った者同士。
入って左手はNYの地下鉄駅のイメージ。ラウンドした金属の梁の下に、接がずに一本の木で造ったベンチ。店内奥半分は50〜60年代のラウンジ風に。特にトイレがミッドセンチュリーモダン。
さぁここからがマニアック……。
まず壁のハンガーフック。これはワーゲンのエンジンに使うコンロッドを埋めたもの。戸棚のノブをよーく見れば、ワーゲンのライトスイッチやハザード。
ビールサーバーのタップはレース用のシフトノブ。入口にあるライトスタンドは傘がVWマークのホイルキャップ、足はカムシャフトでできている。上野さんの愛車ももちろんVW。69年式のタイプ3 ヴァリアント。
●香川の肉屋と新宿のパン屋
ハンバーガーは13品。鶏・魚などのサンド3品。チーズバーガー¥1,100。フレンチフライorチップスとミニコールスロー付。
パティの肉は、先の創作フレンチのオーナーに紹介された、四国は香川の精肉店より仕入れたもの。さすが元ホテルの料理長が薦めるだけあって、良い肉であることは隠しようもない。店で配合・成形した120g。赤身の香ばしさがよく伝わってくる。
合わせるバンズは東新宿「峰屋」の酒種天然酵母。「つるっ」とした丸い後口を残して印象やわらか。トマト・オニオンは刻んでレリッシュと一緒に。「全部の味が判るように」と塩胡椒を押さえた薄味にしている。これは正解。
良い肉であるだけに過度な味付け・調味料は不要だ。「地元の人に気に入ってもらいたいのが第一」と上野さんが話す通り、間を開けず気軽にリピートしてもらえる食べやすい味は、場所柄、大事なことだ。その意味でこのバーガーの方向性は的確である。
いかにも都会のカフェ的な、軽くてやさしいバーガーでありながら、しかし肉の上質であるのが大きく効いて、その味だけで十分舌鼓を打つおいしさ。但しレリッシュの濃い甘味が現れると一転、どこにでもある平凡な味に感じられ、面白くなくなるのが難か。
§ §
夫婦だからこそできる味とサービスを提供したいと上野さん。元看護士(婦)である奥さんには年配を中心にファンが付いている。お婆ちゃんがお婆ちゃんを連れてまたやって来る――そんなリピーターに支えられてもうすぐ3年。趣味の自動車が縁で飲食店開業に至った、「瓢箪から駒」ならぬ、「国民車からバーガー」なハンバーガーカフェ。
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― shop data ―
所在地: 東京都品川区小山3-7-12
東急電鉄目黒線 武蔵小山駅歩5分 地図
URL: http://sherrys.livedoor.biz/
TEL: 03-6426-8751
オープン: 2011年5月26日
営業時間: 11:30〜15:30(LO15:00), 18:00〜22:30(LO22:00)
※定休日前日のみ 〜21:00(LO20:30)
定休日: 月曜日(祝日の場合、翌火曜休。要確認)