2014年01月14日

# 313 Little-Bit [埼玉・ふじみ野]




 川越へ行く時、いつも通(とお)り過ぎていた東武東上線ふじみ野駅。調べると大変ややこしいことになっていた。

 ふじみ野駅の所在地は埼玉県富士見市ふじみ野東1-26-1。その富士見市の隣に2005年、「ふじみ野市」という市が新しく出来た。ふじみ野駅とふじみ野市――ふじみ野駅は富士見市にあってふじみ野市には無い――既に早口言葉級にややこしい。

 駅の由来はややこしいが駅前はすっきり明るいふじみ野駅に、実は「ちょっと」したハンバーガーショップがある。

●世界の中心で……

 店主・綿貫さんが店を始めたきっかけがまた振るっている。




 アメリカへ行ってハンバーガーと出合い、味を締めた綿貫さん。次はオーストラリアへワーキングホリデー。ある時仲良くなったオーストラリア人に「エアーズロックへ行きたい」と言ったところ、「なんでそんなところへ行きたいんだ?」。そして彼はこう続けた――「お前、富士山行ったことあるのか?」。

 ハッとした綿貫さん。富士見市が地元なだけに富士山は見るばかり、登ったことは確かに一度も無い。自分の国のことすらよく知らないのに、よその国の名所には行きたがる――本末転倒である。

 「オーストラリア大陸のど真ん中に一体何があるんだ?」と、世界の中心でオーストラリア人から指摘され、これが綿貫さんの「地元意識」を強く喚起することとなった。

●3年間修業

 「地元で」商売をしようと決めた綿貫さん。工事の現場監督の職に就いていたが、「店を出す」と言って会社を辞め、「3年間修業」と決めて1年に2軒、トータルで6軒の飲食店で働き、経験を積んだ。


 勤めたのは居酒屋、パンケーキ屋、南欧料理、フレンチ等々。ハンバーガーはこの「3年間修業」の初っ端に某チェーン店に勤めたが、いきなり店長から「ダメだ」「接客がダメだ」とダメ出しされる不安の幕開けとなった。

 そして3年が経ち、「自分の店のオープン日」だけを決めて6軒目の店を辞め、ふじみ野駅周辺で物件探しを開始。しかしなかなか空きが見つからず、そのうちやりたくてもう我慢出来なくなり、半年探した末に今のこの場所に決めた。

 駅前の通りからは1本入った3階建て商業ビル2階。入口も看板もちょっとわかりづらい。横手の階段を上がった2階の踊り場も不思議な造りで、飲食店の入口にはちょっと見えない。それでもついに手にした我が店。「俺なら出来る!」と大変な意気込みで店造りに掛かった。

●記念写真

 開店直後は鰻登りの好調も、半年経って急降下。悩んでいる時、埼玉・行田(ぎょうだ)「cafe easyland」の澤田さんと東京・三田「MUNCH'S BURGER」の柳澤さんが食べに訪れ、意見を交わしたことが大いに刺激となって、2年目以降、ハンバーガーはガラリと変わった。


 当初は大きなバーガーに「ガッつく」男性の絵を想像していたが、蓋を開けてみれば7割が女性。ママさん――大いに戸惑った。

 「新しい小学校が出来るぐらい」まだ若い町ゆえ、ファミリー層が多く、ことに忙しい週末の客はほとんどが地元。「今週は暇な週」「来週になるとママたちが来る」など、今では一年を通じての人の流れ・町の動きが分かるようになったと綿貫さん。

 そんな中、記念写真を撮ることを思いついた。

 オープンから4年。小1から食べに来ていて、この春5年生になる女の子がいる。休みになると自転車の後ろに乗ってやって来て、ママより早く店に上がって来る子もいる。「大きくなったなぁ」と時にしみじみ感慨深く感じることもあると綿貫さん。そんな小さなお客さんたちの成長の跡を残そうと、壁一面にお客さんの写真を貼るようになった――しかも全員ハンバーガーを食べている。

●一皿の洋食

 来たる1月20日から営業時間などが変わることに。10〜16時までがハンバーガーショップLittle-Bit(リトル・ビット)、17時からは創作多国籍酒場「MaLiBu(マリブ)」と店名も変わり、別な店として営業する。ハンバーガーが食べられるのは昼だけ。


 改訂後のメニューはバーガー全14品。ごはんもの3品。パスタ3品など。富士見市特産の味噌を使った「ふじみ野バーガー」はさておき、まずはダブルチーズバーガーLL¥1,200。

 サイズが3種類。Hはハーフサイズ。Rはバンズ60g・パティ100g。LLはバンズ90g・パティ150g。バーガー好きはぜひLLで。「ダブルチーズ」はパティでは無くチーズがダブル。3種類のチーズから2種を選べる。今日はレッドチェダーとグリュイエールで。

 何を隠そう、綿貫家は父親肉屋で弟パン屋、そして兄がバーガー屋と――だから肉は実家から仕入れている。パティは国産牛の細挽き+USの粗挽き。つなぎに卵と牛乳、香辛料ほか。

 バンズは弟の修業先の地元パン店から。現在その弟は飛騨高山の名店「トランブルー」でさらに修業中。子供にも食べてもらいたいのであまり尖っていない安心出来る組み合わせがいいと、コッペパンのようなバンズを考えた。だがあまりに軟過ぎる。要改善。


 パティもやわらか。微かにナツメグの香り。粘るチーズのコクと旨味。トマトは2枚。オニオンはフライとグリルの2種。そこへ自家製のケチャップとマヨソース。さらにアイオリソースとマスタードが加わり、味わい豪華絢爛。

 所謂「ハンバーグ」を挟んだものだが、かかるソースがどれも丸い穏やかな味加減で、その丸い旨味にハンバーグがふんわり包み込まれて、一皿の洋食料理を食べているような満足感。パティに入るガーリックとフライドオニオンの放つ旨味が特に素晴しい。

§ §

 店名挟んでロゴの左にハンバーガー、右にペリカン。ペリカンは米国に一ヶ月間語学留学した際の思い出の地・フロリダの象徴。アメリカ人から「英語出来る?」と訊かれるたび必ず答えていた言葉、"little bit"が店名。「ハンバーガー」と「大切な場所(フロリダ)」の間で「ちょっと幸せになって欲しいな」がロゴの意味である。

 ……で、結局、エアーズロックには登ったワケなのであった(笑)。




― shop data ―
所在地: 埼玉県富士見市ふじみ野西1-24-1 プライドビル201
     東武鉄道東上線 ふじみ野駅歩3分 地図
URL: http://www.cafe-lb.com/
TEL: 049-293-1982
オープン: 2009年10月1日
営業時間: 10:00〜16:00(LO15:00)
定休日: 年中無休(第一月・火曜、年末年始、お盆を除く。要確認)

2014.1.14 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:34 | TrackBack(0) | 東国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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