昨月11月、「ついに世の中ここまで来たか」とちょっと驚くような店が東京・赤坂にオープンした。Red Tail(レッドテイル)というその店は「シーフードバーガー」の専門店。牛肉も豚肉も鶏肉も扱わず、あるのは魚介類のみという"バーガー"店である。「世界初」と謳っているが、こればかりは私にも判らない。が、少なくも日本国内でそんな店の噂を聞いたことは一度も無い……。
というその店の話をする前に、シーフードを使った"バーガー"についての私の考えを今一度述べておきたい。
「ハンバーガー」と言ったら、これは牛挽肉("ground beef"または"chopped beef")で作ったパティをバンズ(bun)と呼ばれるパンの間に挟んだもの"のみ"をいう名称で、牛以外のものを挟んだ場合には「サンドイッチ」というもっと広い範囲を指す言葉で呼ぶのが適当だろうと私は考えている。「サンドイッチ」はパンの間に具材を挟んだ食べ物「全般」のことを指し、中でもビーフパティを挟んだ特定のサンドイッチを限定的に「ハンバーガー」と呼ぶ――ということである。つまり、ハンバーガーは広範なサンドイッチ類のうちのごく狭い「一種族」のことだと考えたらよい。
だからハンバーガー族にはそれ特有の「ローカルルール」のようなものが存在する。独自のおいしさの「メカニズム」があって、それはサンドイッチのおいしさとは少なからず構造が違うのだ。よって本来「サンドイッチ」であるべき鶏や魚のソレを、無理矢理「バーガー」に当てはめて同じように扱うと、かえって「鶏らしいおいしさ」や「魚らしいおいしさ」が発揮しづらくなるということが起きてくるのだ。
変に「バーガー」という言葉を当てはめるから、できる工夫に限界が生じる。「バーガー」と付けなければ、もっと幅広い自由な発想を食材に対して持つことができる――というのが私の考えである。
呼び方云々のことは取り敢えずどうでもよい。大切なのは「そもそも違うものなんだ」「別物なんだ」という認識をまず持つことである。ハンバーガー的手法の延長線上に「おいしいチキンサンド」は無く、「おいしいフィッシュサンド」が食べたければ、バーガーでなく「サンドイッチ」として作るべき――ということだ。
現状、「ハンバーガー」というカテゴリーの"下"に置いて考えているチキンやシーフードの「サンドイッチ」を、それぞれ独立した、ハンバーガーと「並列」な存在として考える方が、もっと幅の広い自由な工夫やアイデアが施せるし、もっと材料の特徴を活かしたメニュー作りができるだろうという風に私は思うのだ。
「うどん」と「そば」が違うように、チキンはチキンとして、シーフードはシーフードとして、それぞれの良さ・おいしさを語るべき。追求すべき。ビーフと同等にチキンは語れない。ビーフと同じ観点でシーフードは語れないのだ。別物である。それもそれぞれ「独立」した食べ物として、認識を新たにすべきである。
§ §
そういう前段を踏まえて、次回はパンの間に様々なシーフードを挟んだ専門店の話題を取り上げたい。それが「バーガー」なのか「サンド」なのかという呼び方の問題は、その以前にまず「おいしいサンドイッチを作ること」というところで解決済みだろう。 (つづく)
→ Red Tail
2013.12.24 Y.M