「ラミちゃん」を知らぬ人はそう多くはいないだろう。
2001年の東京ヤクルトスワローズ入団以来、読売ジャイアンツ、横浜DNAベイスターズに在籍し、MVP2回、首位打者1回、本塁打王2回、打点王4回、ベストナイン4回を記録、そして今年2013年4月6日、日本球界初となる外国人選手による2000本安打を達成したアレックス・ラミレス選手の活躍は、プロ野球ファンでなくとも、きっと多くの人が知っている筈である。「アイーン!」や「ゲッツ!」のパフォーマンスとともに。
その2000本安打達成に先立つ今年2月、来日以来10年住み慣れた青山近くの東京・西麻布に「Ramichan CAFE(ラミチャンカフェ)」なるレストランがオープンした。オーナーはラミちゃんの奥さん。奥さんはプエルトリコ出身なのでプエルトリコ料理のレストランである。これも日本初。
●プエルトリコ
青山霊園を背に外苑西通りに面した路面店。1階は通りに向かって大きくガラス張りになっており、奥半分はキッチン。2階はバーカウンターや個室を備えた広いフロアだが、窓が無く、代わりに天井一面に真っ青な空が描かれている。カリブの空はまた随分と青い。
足元も青。敷き詰められた青いレンガタイルは、プエルトリコの"主都"サンフアンの石畳を再現したもので、何度となくサンプルを作り直した特注品。奥の壁にはエルユンケの滝が流れる。つまりこのカフェそのものがプエルトリコおよびオールドサンフアンの"再現"なのだ。「ヴィーナスフォート」のようなエンクローズドなテーマパーク型レストランと言えよう。
そんなリゾート気分満点の店内に出て来るのはラミ夫人監修のプエルトリコ料理。ラミちゃんの食べる食事はいつも奥さんが手作りしているというから、つまり2000本安打を陰で支えたパワーの"源"を我々も味わえるという次第。
なお、プエルトリコはアメリカ合衆国の自治連邦区であって、国ではない。そしてラミちゃんはベネズエラ出身のベネズエラ人である。奥さんとはMLB時代に米国内で知り合った。
●プランテーン
そのプエルトリコ料理の説明でまず真っ先に出て来るのが、「プランテーン」という料理用のバナナ。プエルトリコに限らず、南米ほか熱帯地方の多くの地域で食される主要な食料のひとつである。
だがラミ家の食卓に上ることはこれまで無かった。なぜなら、都内のスーパーに並ぶようになったのが、つい最近のことだからである。食べたくても日本では手に入らなかったのだ。店を始めるに当たっては、このプランテーンの安定した供給先を探すことからまず着手した。
熟すと黄色くなるが、調理しないと食べられない。皮は硬いので包丁で剥く。刻んだり平たく潰したりしてから揚げて食べる。また通常のバナナも、熟す前の「グリーンバナナ」を使い、サラダにしたり、擂り潰したものに挽肉などを入れたフライ「アルカプリアス」にしたりなどして食べる。但しプエルトリコにおいてプランテーンは主食でなく、ポテトの代わりに付いてくるハンバーガーのサイドメニューのようなポジションであるとのこと。
下の写真がプランテーンを揚げた「トストーネス」¥630。さつまいもの天ぷらのような味がする厚手のバナナチップスで、高価なのと、「揚げて→平らに潰して→また揚げて」と二度揚げして作るその手間の多さから、バーガーの付け合わせにすることは断念。横の緑色は「チミチュリ」という南米の定番ソースで強い酢の味。他にもこのプランテーンやグリーンバナナを使ったメニューが多数楽しめる。
●ラミちゃんのお気に入り
さてラミちゃん、結構な頻度で店に現れる。ファンと一緒に野球中継を観ることもあるという。
来ると必ず飲むのが「アサイー」¥780。何かのベリーに鰹節を混ぜたような味の高栄養ドリンクだ。
大の好物は「ローストポーク」¥1,950。グズグズにほぐれるまで4〜5時間かけてローストした豚料理。サイドのイエローライスは、欲しい長粒米が手に入らず日本の米で工夫。そしてチュラスコ、「グリルド ハラミ ステーキ」¥1,680。来ればこの辺りを好んで食べる。
私がラミちゃんのことを知るようになったのも、実は「肉」がきっかけだった。
と言っても、ラミちゃん本人と会ったことは一度も無い。以前三田の「MUNCH'S BURGER」へ行った時、ラミちゃんのパーソナルマネージャー・亀田さんという人と知り合った。ラミちゃん一家のプライベート全般をアシストするのが亀田さんの仕事で、勤めてもう11〜12年、カフェ開店と共に店のマネージャーも任された。2000本安打達成のヒーローインタビューの中にも亀田さんの名前が出て来る。
その亀田さんから、ラミちゃんはとにかく肉に目が無いこと、都内のステーキ店・バーガー店を食べ歩いていること、そして日本では「ビーフソーセージ」が食べられず困っていること――などを聞いて強く興味を持ち、情報を交換し合ったのが2011年の春だった。
●ラミバーガー
そのラミ夫妻と亀田さんがついに自分で店を始めたと聞き、そうした事情を知っていただけに、余計に興味が湧いた次第。もちろんハンバーガーもあるという。
ランチタイムのみのラミバーガー¥1,250。ポテト、ピクルス、スパニッシュサラダ付き。
パティは豪州産牛のブロック肉を店で細かく刻み、成形して直火でグリルした200g。「アドボ」という南米のスパイスが混ぜられている。
アドボというのは「マリネ」の意味で、漬け込んでから煮たり焼いたりする料理全般の呼び名のようだが、その際使う液や調味料自体もそう呼ぶようだ。塩、ガーリック、オレガノ、胡椒、ターメリック、オニオンパウダーなどをミックスしたシーズニングである。
パティはしっかり硬めに練ってあり、挽肉が密集。焼いた肉のにおいがプンと香って食欲を誘い、アドボがピリ辛く利く。上にプロセスチーズ。サラダは挟んでもよいが挟まなくとも。焼印が押されたバンズはつるっとしたゴマなしで、変な邪魔はしない。
肉の焼き方は好いので、さらにもうひと工夫、「これぞラミバーガー!」というアイデアを加えたいところだ。
§ §
西麻布の店ながら、お酒でなく料理がメインと亀田さん。「家族で来て欲しい」とベビーチェアや、トイレにはおむつ交換台を完備する。
通算400本塁打まであと21本。来季の活躍の場に注目が集まるラミちゃん。将来は日本で監督がしたいというラミちゃん。デビューCDを今年リリースしたラミちゃん。1974年生まれの39歳にして既に4人の孫がいるラミちゃん――。そんな愛すべきNPB史上最強の超優良助っ人の店。9回、ゲームのクローザーは、見れば絶対頼みたくなる「ラミチーノ」¥580で。
― shop data ―
所在地: 東京都港区西麻布1-15-10
東京メトロ千代田線 乃木坂駅歩8分 地図
TEL: 03-6434-9726
URL: http://www.ramichancafe.com/
オープン: 2013年2月19日
* 営業時間 *
ランチ: 11:30〜15:00LO
ティータイム: 15:00〜17:00
ディナー: 17:00〜23:00LO
定休日: 月曜日(要確認) ※年末年始の営業確認のこと