このタイミングであらためて東京・東新宿「峰屋(みねや)」が登場するのは、「峰屋スペシャルバーガーが想像を超えるおいしさである」という話と「小売店舗が今の場所に移転して1年になる」という話と、大きく2つの要旨を持ってのことである。
●バンズについて、その歴史など
峰屋の歴史について最初にかいつまんで説明しておくと、「峰屋(みねや。この漢字を見せられて"はちや"と読む人が余りに多い)」というのは社長・高橋さんのご両親がやっておられた乾物屋の屋号。今の高橋社長の代よりパン屋を始めた。
今から12、13年前、全くの成り行きから本郷「FIREHOUSE」のバンズを作ることになり、そこで酒種の天然酵母を使ったバンズを高橋さんは考え出した。それが今日に至る峰屋とハンバーガーの関係の始まりであり、そしてそれは、都内を中心とするハンバーガーシーンのその後に大きな影響を及ぼした。もしも峰屋がバンズに酒種を使っていなければ、ロッテリア「絶品チーズバーガー」のバンズはあるいは酒種では無かったかも知れない。そう考えると、その影響は広く業界的・全国的なものであると言ってよい。
バンズで名を馳せる以前、峰屋は既にバケットで有名だった。
私が初めて峰屋を訪ねたのはもう10年以上前になる。その頃は新宿を中心に「都内200のホテル・レストランにパンを卸す」とされていたのが、今聞くとそれが「300」に増えている。ではそのうちバンズを卸しているのは何店かと訊くと「わからない」との回答。当人も把握していないほどの数のようだが、どうやら「100」近くはあるらしい。浜松など遠方へ宅配便で送るケースもあるという。
そう聞くと、どこの店でも同じ一種類のバンズを使っているように思う人もいるようだが、基本的には「どんなハンバーガーが作りたいか」「どんなバンズが欲しいか」さらには「どんな店がやりたいか」、店の側からまず要望をよく聞いた上でそれに相応しいバンズを考えるという、オーダーメイド式である。だからひと口に峰屋のバンズと言っても、使っているバンズは店々で違う。
●イートインあり、峰屋史上最大売場面積の小売店
場所は新宿六丁目。町名に「新宿」と付く最東端。「まねき通り商店街」という、時の進みが何十年も前から止まってしまっているような、寂れゆくばかりの古い商店街の中ほど。ここに都内300のホテル・レストランにパンを卸す一大基地が控えている。
「都内300の」などと聞くと、卸専門の「業者」を思い浮かべるかも知れないが、峰屋はリテールベーカリー、あくまで「小売店」。それもごくごく普通の町のパン屋である。
私が初めて訪ねた時は写真左の、コンクリート打ち放しのモダンな店構えだった。手狭になり、商店街入口に写真右のような店を出していたが、マンションが建つといった事情で去年の12月にまた商店街の中に戻った。それが現在の店舗である。「ひろせや」という肉屋の跡。
峰屋史上最大の売場面積。横にカフェスペースが設けられ、買ったパンをここで食べることができる。お茶もできる。
棚に並ぶパンは町のごく普通のパン屋のソレである。町のパン屋に必要なアイテムが至極普通に並んでいる。有名なバケットもある。バンズも売っている。日にち・個数などを伝えれば事前に用意しておくことも可能。BBQやホームパーティーなどに重宝だ。
●ようこそ菌の世界へ
「いま旬なパン」を訊くと、イチ押しは「そんぶれろ」¥220。これはまず他所では見かけぬ稀少品である。平飼い幸せたまご使用。クリーミングという、油脂・砂糖・卵などを、生地に混ぜる前に、生地とは別にホイップする製法を用い、生地を「練らない」という大変手間の掛かった一品。
次に定番の「酒種あんぱん」¥105。この夏からゴキゲンにおいしくなった。酒種が「ボアアップした」とのこと。高橋社長はこうした酵母の研究をもう30年近くもやっている。ブドウ種から始めて何年もかけて酒種の酵母をモノにした。教科書無し。全て独学。「ようこそ菌の世界へ」という感じだったと高橋社長。そして「クロワッサン」¥160。湿度が下がる秋冬は食べ時でもある。
●ストロングビーフバーガー
さらにランチタイムに2品、イートインスペースにて「バーガー」と名の付くメニューが「注文を受けてから」調理して提供されるのが、この峰屋カフェの"ミソ"。
ワイルドポークバーガー¥650、ストロングビーフバーガー¥800と、どちらも珍妙な名前ながら、豪州産のポークとビーフを3〜4日麹に漬け込んでやわらかくしたものをパン焼き用のオーブンに入れ、「酒種食パン」の生地で作ったハード系のバンズに挟み提供。付け合せにガーリックラスク大盛り。ドリンクも付く。
峰屋と言えば酒種。麹の扱いにかけては十八番(おはこ)である。ハンバーガーと言うよりステーキサンドとして上質かつ大変お値打ちな一品。
●峰屋スペシャルバーガー
棚に並ぶ商品の中にも2品「ハンバーガー」がある。峰屋スペシャルバーガー¥555と峰屋バーガー¥395。
両品とも日に20個ずつ作って売り切れると言うから、この小売店だけで日に40個のバーガーが売れていることになる。そう聞けば、町のパン屋のフィルムに包んだこの出来合いのバーガーが、如何に見過ごせない代物であるかがわかるだろう。だから記事したのである。
峰屋スペシャルバーガー¥555。パティ120g・バンズ70g。パティの肉は高橋社長の次男が働く赤坂の、「座るだけで3万円」という高級フレンチに卸しているのと同じ和牛専門の肉店より。だから和牛100%。つなぎ無し。これが口どけがとんでもなく好い。とろける。恐らく"端肉"は端肉でも、大変な高級肉の端肉を寄せ集めたパティだろう。このとろけ方は本場米国流の牛肉とは別種のおいしさだが、専門店も含め、ちょっとお目にかかることの難しい域のものだ。
合わせるはグラハムバンズ。黒糖を使っているという香ばしいコクが素晴しい。但し「温めるとちょっと主張が強過ぎる」そうで、あくまでこの冷めた状態に合わせて考えたグラハムバンズだという。ひと口で肉もバンズも「スパッ」と噛み切れる。その食べ口がまた好い。とろける和牛肉をマヨネーズがキュッと締めて、あとはレタスとトマト。
都内外100店にバンズを供給するパン屋が作る、極上にしてごくシンプルなハンバーガー。グラハムの香ばしさが利いて、色で言えば「ブラウン」にまとめられた一品。
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この秋、初台にも販売店ができた。他にも新宿東口地下の「ベルク」とか、噂には国会議事堂内でも峰屋のパンが買えるという。でもその正体はまねき通りのいちパン屋、というそのギャップがまた好い。
→ # バンズ― 峰屋 [東新宿] ◆ vol.1 ≪ご馳走≫バンズの誕生
◆ vol.2 峰屋の考えるバンズとハンバーガーの未来形
◆ vol.3 初!峰屋の"復活"ライ麦バンズでハンバーガーを
― shop data ―
所在地: 東京都新宿区新宿6-19-9
東京メトロ副都心線・都営大江戸線 東新宿駅歩8分 地図
TEL: 03-3351-6794
営業時間: 10:00〜19:00
定休日: 日曜・祝日(要確認)