しばらくファストフード一色だったので、以降しばらく新たな専門店の紹介に集中したい。まずはアメリカ人がオーナーの店から――。
場所は東京・乃木坂(のぎざか)。外苑東通りを挟んで乃木神社と反対側の一画を入って行った住宅街の中にある、"backstreet"な店である。Kimono Wine + Grill(キモノワイン・アンド・グリル)というその名の通り、「ワインバー」であり、そして「グリル」な一店。
●フィラデルフィア
オーナー・Lauren Shannon(ローレン・シャノン)さんは米国はペンシルバニア州フィラデルフィアの出身。東海岸の人は早口で意思表示がはっきりしているのだそうだが、ローレンさんも例に洩れないその一人。
1997年に来日。「地方の暮らしがしてみたくて」住んだのは四国・香川県の琴平町――また何で四国?
フィラデルフィアは日本との交流が深く(姉妹都市は神戸市)、「松風荘(しょうふうそう)」という庭園があったり、茶室があったり、そこでお茶やいけばなを教えていたりと、そうしたことを通じてローレンさんは遠い日本を身近に感じ、日本の文化に親しむようになっていった。
JETプログラムに受かって、ついに日本へ行くことになり、そのお祝いをフィラデルフィア市内の日本食レストラン「白い花」でしたところ、店主が香川県・小豆島(しょうどしま)の出身だった――というこれが琴平に住むに至った経緯(いきさつ)である。
こうして口ずさむ歌が「フィラデルフィア・フリーダム」から「金毘羅船々」に変わった――。
だがローレンさんにとっての一番の"カルチャーショック"は、実はそういうところには無い。来日前は「実験的な学校」で15人ほどの生徒を相手に演劇と文学を教えていたのが、四国で英会話の講師になったところ、クラスが一気に「40人」に増えて、何よりそれに驚いたという。
●FUJIMAMAS
「3〜4年だけ」のつもりでいたのが、居心地が好くなり、帰国せず東京へ。カリフォルニアワインの会社に勤めた。
ワインから飲食業に繋がり、六本木の名店「ROTI」へ。さらに原宿の「FUJIMAMAS」へ。ロティでもフジママスでもゼネラルマネージャーを務めた。
そして2009年、フジママスの閉店とともに自分の会社を立ち上げ、ケータリングサービスを開始。次いで事務所にしていた倉庫を改装して、キモノワイン&グリルを始めた。2010年5月25日にソフトオープニング。
「キモノワイン」とはまた変わったネーミングである。名前だけ聞くと「えっ?」と思うかも知れないが、「きっと外国人のスタッフやオーナーがいるんだろうな」と興味を持ってくれた人が、わざわざ探して来てくれる――そんな店でありたいとローレンさん。
●アールデコと大正ロマン
テーマは1920〜30年代、アールデコの時代。日本で言えば大正時代。東西文化の交流が盛んになった時期でもある。食器やランプに代表されるあらゆる日用品に優れた芸術性がもたらされ、絵画や広告、ポスターにもそうした影響が表れた。
店内に飾られる「白鶴」や醤油店のポスターは、いずれも1920年代後半から30年代初頭の貴重なものばかり。コースターやカーテンには古い着物をリフォームしたものが使われている。
庶民の生活に優れた芸術性が流れ込んだのと同様、「食」においても良質なものが気軽に、毎日カジュアルに食べられるようになれば――とローレンさん。だからキモノワインは高級店でなくビストロ。"neighborhood"のための"small restaurant"という位置付けの店である。
ご近所さんに気軽に使ってもらえる店でありたいと、一風変わったイベントを日夜開催している。
例えば、今月11月の3日は古着の交換会、5日は"movie night"、7日はチーズのセミナーとテイスティング、14日は「ワインディナー」、16日は「クックブック交換ブランチ」、 21日は「ワインテイスティングパーティー」。ニットを編むグループなどもある。
店内14席、テラス8席のこじんまりとした店ながら、何だか変わったことを何だか楽しそうにやっている。だからいつも行くたび、店内の客の顔が何だかニコニコしている――そんな店だ。
●BULLDOG BARBEQUE
料理はステーキ、ラムチョップなどグリルがメイン。ハンバーガーは平日ランチと土日のブランチのみ登場。
また、BBQ――と言ってもキャンプや河原でやる焼肉でなく、麻布十番「WHITE SMOKE」のような、あるいは高円寺「FATZ'S」で出していた「The Carolina」のような、長時間かけてやわらかくスモークした肉料理――の「ビーフブリスケット」や「スモークチキン」、「プルドポーク」などのサンドイッチを週3日、広尾のナショナル麻布マーケットで販売している。その名も「BULLDOG BARBEQUE」。キャラクターのフレンチブルはローレンさんの愛犬、"Archie"君。
キモノバーガー¥1,260。パティは豪州産牛150g。コロンとして厚みがあり、中はみっちり挽肉。少し「ぷりん」と粘りのある結合。直火焼きのコゲ味を漂わす。バンズは峰屋製。「ふわん」とした甘味を利かせている。しとっとした生地の質も好い。
白いチーズはモントレージャック。包むような塩気とミルク感。クリーミーに隙間を埋めるアボカドの緑の上にフレッシュサルサの赤。このサルサに入る生姜と、胡麻ドレッシングのように香ばしくかつ甘いソースが、他には無い個性的な味わいを生んでいる。フジママスのハンバーガーも確かこんな味だった――。
さらにレタス、レッドオニオン、トマトが積まれず"外"に。野菜の量が実に豊富。途中でパティだけ先に無くなり、後半はサラダサンドのよう。しかもとびきり「豪華」でかつ「さわやか」なサンドだ。レッドオニオンの辛味がよく利いている。押しが強くてかつヘルシー、そんな一品。ポテトもサクッと軽く揚がっていて美味。
§ §
●スローフードを取り戻したい
「スローフードを取り戻したい」――とローレンさん。本当の手作り、本物の食材を提供すること。さもなくば我々消費者の「食事に期待する気持ちが下がってゆく」。米国でも大きな問題になっているので「日本で同じことを見たくない」と、チェーンレストランの脅威に警鐘を鳴らす。個人店は一丸となって共闘すべし。
東京に居ながらにして米国の「食」を知ることが出来る一店。ハンバーガーだけに終わらず、夜また訪ねて、ワインと共に様々なメニューを味わいたい。
→ 【シーフードバーガープロジェクト】 Kimono Wine + Grill [東京・乃木坂] のアラスカシーフードホワイトバーガー
― shop data ―
所在地: 東京都港区南青山1-15-28 プラチナコート1F
東京メトロ千代田線 乃木坂駅歩3分 地図
TEL: 03-6438-1685
URL: http://www.kimonowinebar.com/
オープン: 2010年5月25日
* 営業時間 *
火〜土: 11:00〜14:00, 18:00〜23:00
日曜日: 10:00〜16:00
定休日: 月曜日(要確認)