もう一編、静岡から――。
熱海のBONNET(ボンネット)という店。詳しくは以前、7年前に訪ねた折の記事に書いたが、約せば、ご主人は戦後進駐軍で働き、付いたあだ名が「ハリー」。PX(Post Exchange, 購買部)でハンバーガーと出合い、1952年、熱海にボンネットを始めた。今年で創業61年――そんな店である。
真夏の熱海を訪ねた。情け容赦を知らぬ酷暑である。ビーチはなかなかのにぎわいだった。最近はテントは自前で立てるようになったのか、その場にいる時は何とも思わなかったが、後で写真を見返すと何とも野暮ったく、暑苦しく映る。だがそこまでして守らねばならない陽射しであり、暑さだったワケである。ビーチに出るのも命懸けだ。
夏の熱海の中心地サンビーチより歩いて少しのところに「熱海銀座商店街」があり、その中ほど、一本入った脇道にボンネット。
いずれあらためて取材し、紹介するつもりでいるので、今は長くは書かずにおくが、ご主人が進駐軍のPXで出合ったというハンバーガーに私は強く興味を持っている。
日比谷に「NEW WORLD SERVICE」が出来るより、六本木に「The Hamburger Inn」が出来るより、仙台に「ほそや」が出来るより、そして佐世保にハンバーガーが伝わったとされる時期より、おそらく"前"の話である。ボンネットのハンバーガーがもしその影響を受け継いだものであるなら、これは日本のハンバーガーの歴史を知る上で大変貴重な例であることに間違いない。
7年前はハンバーガー¥500を食べた。この日はチーズバーガー¥600。ハンバーガーはこの2品のみ。
チーズが乗っている以外、7年前のハンバーガーと何ら変わるところは無かった。正円のバスケットの中に油紙。皮付きのポテトが3本。天辺の楊枝はピクルスを軽く留める程度で、わずかにクラウン(上バンズ)に刺さるのみ。バンズにはゴマも表面のツヤも無く、また前時代的な甘味も無く、あっさりとクセが無くて好い。レタス1枚と生のオニオンは挟まず外に。パティは合挽きだろう。
チーズはプロセスだと思うが、まんじゅうを縦に切ったようないびつな形が不思議だった。このバーガーにはウスター系のソースが使われている。しかし支配的では無く、チーズの味の方が常に前に出てバーガー全面を覆っている。食べ進むとマスタードの苦味。
どうしても食後、パティは味が口に残るが、それ以外全体に変なクセは無く、かと言って物足りなくも無い。あるいは「ショボく」も無い。ちょうど好い手頃なサイズ、満足感。手に持っても、食べていてもしっくり来る。さすがにソツが無い。ミョウなケレン味も無い。好い具合に力の抜けた、洗練されたものを感じる。何でもないかのようにサラッと完成された一品。
§ §
と、今書いていて早くもアノ味が懐かしい。都内を中心に流行るプレミアムなハンバーガーの「ご馳走」な魅力とは違う、ミョウにまた食べたくさせ、惹きつける、もう一度確かめてみたくなるような力をこのバーガーに強く感じる。
ご主人にはこの半年のうちに、あらためてインタビューをする予定でいる。
― shop data ―
所在地: 静岡県熱海市銀座町8-14
JR熱海駅歩15分 地図
TEL: 0557-81-4960
オープン: 1952年
営業時間: 9:30〜17:00
定休日: 日曜日(※要確認)