大変長らくお待たせいたしました……コンフェデレーションズカップもひと息ついた2013年6月の下旬、今日は葛飾は金町(かなまち)にあるスポーツバーのお話を。
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寅さんでお馴染み、柴又(しばまた)の隣が金町。京成金町線の終点。JR常磐線は各駅停車のみ停車。そのJR金町駅北口の商店街「金町一番街」を抜けた先にCafe&Bar brave(ブレイブ)がある。
●KANAMACHI BAR MAP
この10年の間に金町も随分と変わった。2003年に三菱製紙の工場が閉鎖。従業員相手の食堂や居酒屋が流行らなくなり、代わって北口を中心に、今風のオシャレなショットバーやダイニングバーが増えている。しかもこのブレイブのオープン後にその機運は一層高まり、大きな盛り上がりを見せるようになったというから、つまりブレイブは金町における"バー"ムーブメントの起爆剤的な役割を果たした店と言って間違いでない。
この春には駅周辺のバーが集まり「KANAMACHI BAR MAP(カナマチバーマップ)」なる地図を作成した。記事こちら。なかなか好い盛り上がりである。
店主・本多さんは新宿歌舞伎町でスポーツバーのマネージャーをしていた人である。晴れて独立し、ブレイブを始めたのが2011年9月。そこへ流浪の料理人・梨木(なしき)さんがぶらり飲みに訪れたのが翌10月のこと。この何気ない出会いからブレイブのハンバーガーは生まれた。
梨木さんはこの道20年の料理人である。幼稚園の頃には包丁でリンゴが剥け、小学生で料理をたしなみ、高校時代は自分で自分の弁当を作ってから学校へ通った。大学生の時、飲食店のアルバイトを経験。天職とはこのこと、コレが楽しくって仕方が無い。結局学業よりも料理の方が面白くなり、そのままその道へ進むことに。
●流浪の料理人
さる高名なイタリアンシェフに憧れ、シェフの店に就職。以後イタリアンを中心に「TO THE HERBS」はじめ月間数千万から"億"を売り上げる繁盛店で活躍。溜池山王のプライムリブ専門店「LAWRY'S(ロウリーズ)」立ち上げの料理長は誰あろう、この梨木さんである! これは驚愕の事実!! 渋谷「Reg-On Diner」の横溝さんは当時梨木さんの下で働いていた。
最後に勤めていた店もグループ中トップの売り上げを誇る優良店だったが、家業との兼ね合いから慰留されつつも退職。以後は家業第一、調理は知り合いの店を手伝う程度に抑えて細々と……ここが梨木シェフ目下のアキレス腱、弁慶の泣き所である。こんな腕の立つ料理人が"野"に埋もれているという状況――。
そんな流浪の料理人が地元金町に新しく出来たスポーツバーをぶらりと訪ねた2度目の夜、「ハンバーガーをやるのが夢」という話で店主・本多さんと大いに盛り上がり、意気投合。厨房を見ればおあつらえ向きな鉄板もある。とんとん拍子に話が進んで、ブレイブオープンから4ヶ月後の2012年1月、ついにブレイブのハンバーガーがスタートする。
梨木さんはランチ(11:00〜15:00)を担当。夜のスタッフにも作り方を教え、昼夜通して注文可能な態勢を取っていたが、しかしついこの6月の初旬、家の事情で梨木さんが店を離れることになり、これに伴ってランチ営業も終了。ハンバーガーを始めて1年半。ようやく固定客が着き、手応えを感じ始めていた矢先だけに、現在多くの金町住民に惜しまれ・悲しまれているところ……。
●国産牛パティとケシの実バンズ
梨木さんが抜けた後もハンバーガーの販売は変わらず続いている。メニューの上では全7品。
チーズバーガー¥900。「地元を中心に地元の仲間で作りたかった」と地元民・梨木さん。パティもバンズも地元の良品を取り揃えた。
パティは国産牛100%、120g。粗挽きと細挽き2種類をミックス。牛脂ゼロ。地元の肉屋が「赤身だけでいい挽肉を挽いてくれる」と梨木さん。「このパティでなくては出来なかった」という上質なパティを鉄板でグリル。中に赤味を残す火加減で、やわらかく焼き上がっている。
バンズも地元で一番売れているパン屋の特製。表面ケシの実だらけの90g。上下にマスタードマヨネーズ。薄くスライスしたタマネギは黄タマネギと赤タマネギのミックス。トマト、そして多量のレタス。チーズはレッドチェダー。かかるソースはオリジナルBBQソース。
さて、このソースがクセモノである――。
「なるべく好みに合うものを食べてもらいたい」と作った自家製ソースはBBQの他に「赤ワイン」「テリヤキ」「サルサ」「ポルチーニ」「ブルーチーズ」「アンチョビクリーム」「タルタル」、そして新名物金町バーガー用の「八丁味噌」と、何と常時9種類。それでも"たかが"9種類……「みんなにおいしく食べてもらえるなら」と、手間暇惜しまぬ梨木シェフである。
それでもメインは飽くまで「肉」。ソースは肉のおいしさを"助ける"のがその役割――と梨木さん。実はこの日と言うかここ最近、私はずっと体調が悪く、味覚がさっぱり利かなくて、その辺りの関係を確かめることが一切出来なかった。よって私には判断がつかない。だからここは、その道20年のベテランシェフの言葉を信じることにしたい。
●金町のハンバーガーのこれから
ただそれらも梨木さんが居たからこそ出来たこと。今後はどうするか――。
今回私が最も驚いたのは、「金町」「スポーツバー」というキーワードから想像されるものとは大きくかけ離れた、実に端整なハンバーガーが出て来た点である。
美しく積み重ねられたその見た目。やわらかく上質な肉とドギツくない、まろやかなBBQソースの組み合わせ。「スポーツバー」であることを思えば、ケチャップとマスタードで味付けした程度の、もっと荒くたい(は大阪弁か)、もっと粗雑な作りのバーガーであっても場の雰囲気(ふんいき)に十分合っていると思うのだが、そこへ現れる精巧・精緻なこのバーガーはそうした予想と期待を大いに裏切るものだった。ある意味「出来過ぎた」バーガーであると言ってよい。
であるからして、開発者兼全ソースの製造者・梨木さん無き今後、仮にその原形を多少簡略化したとしても、元が「出来過ぎ」なだけに、なお十分質の高いハンバーガーで在り続けるだろうと私は思う。
手間暇掛けて本気で作った「手作りの」ハンバーガーが金町の人に知られ、受け入れられて、ファンが出来るまでにようやく到ったワケだから、是非このまま出来る範囲で続けて、金町にハンバーガーが根付くところまで貫き通して欲しいと強く願っている。継続こそ力――何事も始めるのは容易いが、それを続けることの如何に難しいことか。
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メニューブックに載っているカクテルは計142種――もちろん無限に作れるワケだが――ドラフトビール(樽生)はギネス、ハイネケン、カールスバーグと、定期的に入れ替わる「ゲストビール」の全4種。私が訪ねた時はCOEDOの「白」がゲストだった。ピザ11品、パスタ13品はじめフードの種類が実に豊富。朝5時までワイワイ出来る金町待望の遊び場。そして社交場。コンフェデ杯の準決勝・決勝もまだまだこれから。次は東アジアカップが控えている。
一方の梨木さん。ハンバーガーは「もう一回やってみたいな」と思っている。但し自分で店を出すようなことは4〜5年の間は無いとのこと――そんなに待てない(笑)。無理のない範囲での次なる動きに期待したい。
→ # Cafe&Bar brave [金町] のWBCバーガー
# Cafe&Bar brave [金町] のBOSSバーガー
# Cafe&Bar brave [金町] のベーコンチーズバーガー with バルサミコソース、topping アボカド
# 301 Cafe&Bar brave [金町]
― shop data ―
所在地: 東京都葛飾区東金町2-18-1-106
JR常磐線 金町駅歩5分
京成金町線 京成金町駅歩7分 地図
TEL: 03-5876-3352
URL: http://sports-brave.com/
オープン: 2011年9月3日
* 営業時間 *
月〜土: 17:00〜翌5:00
日曜日: 17:00〜24:00
定休日: 不定休(※要確認)