2012年12月01日

# 297 tokyo omo style [豪徳寺]




 多摩川以南に住む人なら、「GIGGLE」のある祖師ヶ谷大蔵(そしがやおおくら)豪徳寺(ごうとくじ)も、ただの急行通過駅の一つに過ぎないだろう。どちらがどちらと区別も付かない。特に用があって降りる駅でもない。ヘタをすると順番も怪しい。私にとってもそうだった。

 その豪徳寺にあるバーから「ウチでもハンバーガーをやりたい」と依頼された。初めて私がイチからハンバーガーをプロデュースした店である。tokyo omo style(トウキョウオモスタイル)というのがその店の名前だ。





●豪徳寺

 小田急小田原線の豪徳寺は東急世田谷線の駅だと山下という。


 世田谷線は昭和44年に廃線になった東急玉川線の路線の一部で、路面電車の「非路面」部分を残したような感じか。この路線一本の存在が、せせこましい世田谷の風景を少しだけのどかなものに変えている。例年沿線で催される世田谷ボロ市の開催日が間近だ。

 大渓山(だいけいざん)豪徳寺は世田谷線の宮の坂駅の方が最寄である。江州彦根藩・井伊家の菩提寺。井伊直弼の墓がある。「招福猫児(まねぎねこ)」の観音もある。なので豪徳寺商店街のマスコットキャラクターは招き猫「たまにゃん」である。縁起が好い。のみならず彦根のゆるキャラ「ひこにゃん」は豪徳寺の招き猫がモデルであると言う。

 豪徳寺駅改札を出て徒歩1分、商店街をちょっと曲がった小路から階段を降りて行った地下1階にコノ店。業態はバー、カフェバーと言ってよいか。基本は夜のお酒の店である。店主は2人。まずは今回のプロデュースの件の依頼主である、清水さんの方から紹介しよう。


●オジヤンカフェ

 母親譲りの料理好きで、幼稚園の頃から独りでバンバン作っていた。スタートはお菓子のアレンジから。グルメ漫画『OH!MYコンブ』(原作・秋元康)を愛読。レシピを応募したこともある。


 学生時代のアルバイトはもっぱら飲食。居酒屋、丼屋、中華などでホール・キッチン共経験。そして20歳のとき、原宿にある「bio ojiyan cafe(ビオオジヤンカフェ)」という店に出合う。

 原宿界隈には若者が働く若向けなカフェが圧倒的に多いが、オジヤンカフェには女の子のスタッフが居らず、働くのは30歳オーバーの男のみ。その働くサマがカッコイイ! と惚れ込んだ清水さん――「何でもするから」と頼み込むも20歳の「ガキ」は相手にされず、辛うじて洗い場に入れる機会をもらって、結果どうにか置いてもらえることになった。

 社長の独特の感性に惚れたという。「五感すべてを働かせて仕事しろ」と社長直々に言われ、「舞い上がった」と清水さん。オジヤンカフェは「飲食+アパレル」がテーマの店。食も服も「出来立てを提供したい」という社長の思いのもと作られた。

 オジヤンカフェに約3年、そして卓球台があるバー「中目(なかめ)卓球ラウンジ」に約2年勤務。そこに1年遅れで入ってきたのがオモスタのもう一人の店主・近藤さんである。


●中目卓球ラウンジ

 近藤さんは名古屋の出身。テレビの制作の仕事をしていた。主な番組に『ホレゆけ!スタア☆大作戦』など。

 卓球ラウンジで働き始めて1ヶ月、それまで物静かに働いていたのを、歓迎会が開かれた際にちょっと「はじけて」みたところ、「お前そんなキャラだったのかよ!」と一気に皆と打ち解けて、中でも最も親しくなったのが清水さんだった。やがて2人は意気投合、「一緒に何かやろう」と話は進む。

 その頃、清水さんは社内のアパレル部門のデザイナー・平元聡氏とブランドを立ち上げた。「chaolu lab(カオルラボ)」という。カオルとは「におい」、香り、薫りのこと。清水さんは営業を担当。1シーズン分、20〜30着の服を車に積み込み、全国を営業して回った。


 自炊道具と米を積み、夜は公園で野宿。ときに公園の住人たちと車座になり晩餐をしたことも。その甲斐あって30店の新規開拓に成功した。今もアパレルの仕事は続けていて、今年は舞台1本+映画3本+女優のスタイリストの仕事などを手がけている。

 清水・近藤両氏は卓球ラウンジで働きながら、自分たちの店の準備を進めて行った。検討した物件は2ヶ月で200件。その中から豪徳寺でやる案が浮上した。

 鉄道の乗換駅で利便性が好く、若者が案外多いにも関わらず、行ける店が少ない。今のこの店舗も前は「じじばばスナック」だったとの情報。ここならイケると清水さんは直感した。


●壁画とバーガー

 踏み切りの音を耳にしながら地下に降りる入口の前に立つと、通路・階段のその色鮮やかなことにまず目を瞠る。暗く陰鬱な「地下」のイメージにまるで反した、夢いっぱいなこの壁の画は松下好さんの力作。ハンバーガー共々、9月の末にお目見えした。


 降り切ると店内は広く、コの字型のカウンターの他にソファなどが置かれたラウンジ風な一角も。毎月末には音楽イベントが催され、豪徳寺近郷の若者たちが集って夜明けまで賑わう。

 フードメニューについては変遷があって、今年の春先にはラーメンを出していたが、夏に迎えた2周年を機に人気の「レモンラーメン」をスッパリやめて心機一転、「ハンバーガーをやりたい」と清水さんが私に依頼して来た……というところで、ここからハンバーガーのプロデュースについて説明する。

§ §

 依頼を受けてまず考えたのは、tokyo omo styleは酒を出すのが本業の「バー」であって、ハンバーガーの専門店ではないということである。出来ることにも設備にも当然限界がある。

 とは言え、いやだからこそ、他所ででも食べられるようなものなら無理してまでわざわざ始める必要は無い。ましてこれまで2年間、豪徳寺の人々の心を掴み、支持されてきた実績がある。看板がある。どうせやるならオモスタ「ならでは」な商品を出さないと、常連諸姉諸兄も納得はしてくれないだろう。

 「バー」という制約のある中で「出来得る限りのベストを尽くそう」というのが、まず私が立てたコンセプトである。


●ガスコンロ2台

 目指したのは「最もプレーンな状態で十分おいしい」バーガー。蕎麦に例えれば「かけそば」である。掻き揚げや天ぷらは乗せたら乗せたでおいしい。でも何も乗せなくても十分おいしい。そば(麺)とつゆ、パティとバンズ――それだけで勝負がつく商品を、それだけで「おいしい」と言わせるハンバーガーを作ろうと考えた。


 なのでハンバーガーの存在理由の根本たる「肉」の味を最大限に引き出し・引き立たせることを至上の目的としてハンバーガー作りに着手した。しかし厨房にはガスコンロが2つだけ。フライヤーも無い。それでもその条件下で世の専門店に迫るくらいの、強く記憶に残るハンバーガーを作り出す手立てはある。

 具体的な開発工程として、まず最初に信頼の出来る肉屋とパン屋を確保してもらうようお願いした。ここが決まらねば先行きも覚束ない。確かな業者を押さえた上で、牛肉の産地・部位・挽き方・配合・焼き方等について所要1ヶ月、計6回のミーティングを重ねて形にして行った。写真は初めて作ったハンバーガー"のようなもの"。


●プレーンが一番おいしい

 メニューは現在8品あるが、先述の通り、最もプレーンなハンバーガー¥800で片が付くようなものを目指して開発してきた。残り7品についても、基本はまず肉の味を助ける、肉のおいしさのプラスとなる食材・調味料であるか否かが採用の基準であり、肉の味を邪魔するようなトッピングはしない――という考え方である。


 パティはUS産。バーであることを意識して125gと少し軽め。また客層が若めなことを考慮して、全体に若干強めの、はっきりとした味加減にしてある。肉の挽き方は粗め。食感にはかなり重きを置いた。顔を近寄せるとプーンとビーフのにおいが漂う「肉」のバーガーである。

 バンズは清水さんの地元神奈川県の「Kalaheo(カラヘオ)ベーカリー」より。湘南藤沢からわざわざ送ってもらっている。フジロックのハンバーガーのバンズは実はコノ店。

 但し現在使用のバンズは、パン屋に既にある品のひとつで、オモスタ専用の特注品ではない。発注量を増やしてオリジナルを作ってもらうことが当面の目標だ。

 てっぺんに黒ゴマ。ややサンドイッチ的なキャラの、しっかりと硬めなバンズで、噛み応えの好いパティの食感とよく合っている。オニオンは生とグリルの中間。そしてトマト&レタス。クラウン(上バンズ)にマヨネーズ、ヒール(下バンズ)に粒マスタード。あとはガスコンロでのパティの焼き方とかかるスパイスが勝負の分かれ目という、実に誤魔化しの効かない、丸腰に近いバーガーである。

 これが初めてのプロデュースにしては上出来過ぎるくらいの、意図した通りのものが出来上がった。とは言え9月の末にスタートしてまだ2ヶ月。毎回の出来具合・焼き加減等細かく気にしている段階であって、変更点も見直しもまだまだ多い。煙の吸気の問題もある。


●オモシロ+オシャレ

 服飾の仕事以降で、初めてハマったのが「ハンバーガー」だと清水さん。その衣装の仕事が多忙でしばらく店を離れていた時期があったが、今後はハンバーガー「に」集中したい――と、それくらいのめり込んでいる。

 「卓球ラウンジ」のようなエンタテインメント性のある面白い店を新たに作ろう――という、言わばその「笑い」の要素を司る近藤さん。一方、前職で「衣」と「食」を学んだ清水さんは「ファッションと食をつなげる」場としてこの店を位置付ける。店名の「omo」とは「オモシロ+オシャレ」。二人の個性・二つの要素が融合し、混ざり合って出来た店である。

 近藤さんが教えてくれた「東京で僕らの思いをカタチにする」というのは後付けの意味らしいが、それでも全国各地から上京して豪徳寺で暮らす若者たちの思いをよく代弁しているように思う。東京で思いをカタチにしようと日夜頑張る彼らを、陰で支えるハンバーガーである。



# tokyo omo style [豪徳寺] のハンバーガー
# tokyo omo style [豪徳寺] のてりやきバーガー
# tokyo omo style [豪徳寺] のチーズバーガー(再食)
# tokyo omo style [豪徳寺] のチーズバーガー
# tokyo omo style [豪徳寺] のレモンバーガー


― shop data ―
所在地: 東京都世田谷区豪徳寺1-23-12 ささビルB1F
      小田急 豪徳寺駅歩1分・東急 山下駅歩2分 地図
TEL: 03-5799-6895
URL: http://tokyoomostyle.com/
オープン: 2010年7月7日
* 営業時間 *
ランチ: 12:00〜16:00
バー: 18:00〜24:00フードLO(〜29:00閉店)
定休日: 月曜日(売切れ等あるので、要ホームページ確認)

2012.12.1 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 帝都編◆都西 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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