2012年11月27日

# 296 GIGGLE [祖師ヶ谷大蔵]




 世田谷・砧(きぬた)の一帯は、かつての映画・映像産業の一大拠点である。成城(せいじょう)と言えばこれはもう東宝撮影所。『七人の侍』も『ゴジラ』も、『社長』も『若大将』も『無責任』も、東宝映画の全盛期を飾る綺羅星の如き作品群は皆ここ成城で生まれた。撮影所は今も「東宝スタジオ」の名で健在である。

●ウルトラマン商店街

 東宝と来れば特撮。円谷プロは東宝撮影所のすぐ近くに在った。本社移転後は「砧社屋」と呼ばれ、見学ツアーなども催されていたが、2008年に閉鎖・解体。今は跡形も無くなってしまっている。

 しかし永遠不朽の『ウルトラシリーズ』がかつてこの地で生まれたことの"記憶"は色褪せることなく、いやむしろ燦然と、祖師ヶ谷大蔵(そしがやおおくら)の駅と駅前一帯を今なおまばゆく照らし続けているのである――。

 小田急小田原線祖師ヶ谷大蔵駅前の通称ウルトラマン商店街、その一角にご存知GIGGLE(ギグル)がある。



 「映画の撮影所の近く」という点では西武池袋線大泉学園の「BUTCHER'S TABLE」と似ている。あちらは東映、こちらは東宝――。但し撮影所までの距離においては圧倒的に「BUTCHER'S TABLE」の方が近い。


 祖師ヶ谷大蔵は、そもそも駅の発車メロディーがウルトラマンである(大泉学園駅はゴダイゴの「銀河鉄道999」)。下り1番線が『ウルトラセブン』、上り2番線が『ウルトラマン』。

 北口駅前広場で地球の平和と安全を見守る「ウルトラマンシンボル像」を仰ぎ見たら、そのまま北へ。徒歩6、7分、商店街のにぎわいが"ふたしきり"ほど過ぎ去って、「この先どうなるんだろう」とやや不安に思われてきた頃にコノ店。なお、あと少し先へ進むと、とんねるず・木梨憲武氏の実家である自転車店木梨サイクルがある。

 角地の、しかも地下の店である。正確には「半地下」だろう。

 通りから降りる階段の途中から壁がガラス窓になっていて、その窓越しに地上の様子が何となく伝わってくる。完全に遮蔽された地下空間でなく、一部において地上世界との繋がりを持っている。世は可視化の時代――外からも中からも見えるこの「全部は隠れ切っていない」感じが、来店する人にとっては中が見えてわかりやすく、店内で過ごす人にとっては地下に潜んでいる感がむしろ強調されて、なかなか悪くない効果を生んでいる。以前はそば焼酎などを置く居酒屋だったという。

●ハンバーガーの記憶

 ココに決める際、商店街の切れ目ですぐに店が潰れる「鬼門の場所」であるとの情報を耳にし、「どうしようかな」と一度は迷った店主・細川さん。しかし「そういう場所でやってダメなら、どこでやってもダメだろう」と思い切って借りることにした。それが2008年のこと。

 まずはそれまでに至った話をしないといけない――。

 細川さんには幼稚園の頃、おぼろながら「どこかでハンバーガーを食べた記憶」がある。どうも家族と一緒だったらしい。おいしかったのだけれど、でもいつ食べたかとか、どこで食べたかとか、詳しいことは霧に包まれたようにさっぱり分からないのだが、以来「ハンバーガーはおいしいものだ」という思いが強く刻まれて、食べるたびにそのことが思い出された。

 大学を卒業してサラリーマンを10年やり、そろそろ「自分のやりたいことをやろう」と考えたとき、細川さんの頭にまず最初に浮かんだのが「ハンバーガー」だった。


 当時都内でハンバーガーと言えば、五反田の「Franklin Ave.」か、六本木の「Hamburger Inn」か、1997年に「KUA`AINA」が出来て喜んだ――という、今とは比べようも無いほどにハンバーガーを提供する店が少なかった、この話はそんな時代を背景としている。

 そうした、ハンバーガーが稀少だった時代を過ごした細川さんは、ブレず曲がらず、最初から「ハンバーガー」一点を目指した。中には店を始めてから「世の中こんなにハンバーガーが流行ってるんだ」ということに気付いたような人も居るくらいなので、それを思えば、この細川さんの一直線な目標設定は、稀有な例と言ってよいと思う。

 但しいきなりハンバーガーには着手しなかった。段階を踏んで、それに都合4年を費やしたのである。

●メロンパン→ヴィレヴァン、ベイカーバウンス

 細川さんはまず「自分独りで何が出来るか」を確かめるため、脱サラ後の最初の2年、メロンパンの移動販売を試みた。


 この「独力で事業を起こす」という過程は、普通テストされずにいきなり自分の店を構えることが多いワケなのだが、細川さんはハンバーガーの作り方を知るより前に、まず起業の方から先に経験してみたのである。

 そして「やれるかな?」という自信を掴んだところで、「じゃあ本格的にしようか」と店で実地に働かせてもらうことに。下北沢の「VILLAGE VANGUARD DINER」と三軒茶屋の「Baker Bounce」に合わせて2年。勉強しつつお金を貯め……と、そうこうするうち、オープンに漕ぎ着けた2008年頃には既に世の中ずいぶん多くのハンバーガーショップが出来ていた。

 最初から「ハンバーガー」を思っていただけに、やや出遅れた感は否めないが、それでも幼い頃のおぼろな記憶を確たる形にすることは、4年にわたる準備期間を経て、確かに叶ったワケである。

●世界のビール35種類

 本当は場所は自由が丘辺りを考えていたが、どうにも家賃が高い。神奈川県も視野に入れて物件探しを続けるうちに、多少なりとも土地勘があった祖師ヶ谷大蔵のコノ物件と巡り合った。


 冒頭、東宝スタジオだのウルトラマン商店街だのと並べはしたけれど、とは言え祖師ヶ谷大蔵という駅は「目指して行こう」という観光地でもなくて、至ってローカルな場所であり、街である。

 なのでギグルもその雰囲気に倣って幾分ローカルな、どこかスローな空気を漂わす店であり、特に平日は地元の人を主な客層としている。近所の大学生から成城のマダムまで、幅広い世代が訪れる。

 1950〜60年代、ミッドセンチュリーモダンな店内に世界のボトルビールが35種類という品揃えは、古巣「VILLAGE VANGUARD DINER」の影響が強い。めずらしいビールも随時入荷。

 ドラフト(樽生)はスーパードライ、バスペールエール、ヒューガルデンの3種類。毎日17〜20時まで左記ドラフトビールが安く飲めるハッピーアワーを実施中。サイドメニューも12品あり、つまみには事欠かない。

 ハンバーガー類は18品。うち魚が1品。加えて期間限定のバーガーもリクエストに応じて出している。

 本日は当サイト基本のチーズバーガー¥880。ポテト付き。上からクラウン(上バンズ)、チーズ、パティ、オニオン、レリッシュ、タルタルソース、トマト、レタス、マスタード、ヒール(下バンズ)。


 カラミティ・ジェーン・バーガーの時など特にそうだったが、すっくと背の高い、立ち姿の好いバーガーである。実に"Tokyo"的。

 パティはオージービーフ100%。サイズは100gと軽め。細挽きと粗挽きの2種類のミンチ肉をミックスしている。色合いは白っぽく薄め。中に赤味を残す焼き加減で、やわらかく、他の食材とよく馴染む。

 バンズは70g。「峰屋」を思わせるほんのり甘めの天然酵母バンズで(でも峰屋製ではない)、ふわふわと軽く「しとっ」とした生地。

 オニオンの存在が利いている。以前は輪切りだったが、今は粗みじんに切ってサクサク、シャクシャクと心地好く歯に当たる。タルタルソースの中にもオニオン。ここにさらにスイートレリッシュが加わり、イタリアンドレッシングのような味わいを形成。さわやかな酸味が走る。畳み重ねられたレタスとフレッシュなトマトとの相性が好い。

 チーズはオランダ産のゴーダ。穏やかだが、とろーんと粘りのある口当たり。コショウの振りはかなり強めである。

 肉以上に豊富な野菜にヨリ強い威力を感じるバーガー。肉の味という点でパティにはそこまでの強烈さはないが、そこをも含めて日本人には親しみやすく・受け入れやすい、非常に馴染みやすいハンバーガーであると言えよう。ベスト・ジェーン・バーガー投票で参加30店中「第2位」という結果がそれを裏付けている。ビジュアルの美しさ然り、華やかさ然り、日本人の好みをソツなくとらえたバーガーだ。

●キャッキャと笑う

 店名"giggle"とは「キャッキャと笑う」「クスクス笑う」といった意味。日中は子供連れの主婦の来店が多く、店内には子供向けの絵本やオモチャなども置いてある。スイーツはサンデー、ワッフルなど。都心ど真ん中の店には無い、スローで大らかな空気がコノ店の特長の一つでもある。

 すぐに店が潰れる「鬼門」をみごとにモノにして、今年で5年目。いずれ店舗展開してみたい気持ちもあると、経営者・事業家としてのスキルアップに店主細川さんは余念が無い。サイトのムービーが秀逸。ある意味円谷的?

 "Tokyo-style"のハンバーガーショップなので、何を乗せるか積むか――というところが何より重要になってくる。その辺りの、ギグルが凝らす創意工夫の数々については正直なところ、今回のチーズバーガーだけでは上手く伝えることが難しい。と言った次第でこの続きは次の記事で……。 (つづく)




# GIGGLE [祖師ヶ谷大蔵] のアボカドサルサチーズバーガー(再食)
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【スタンプラリー#10】 GIGGLE [祖師ヶ谷大蔵] のカラミティ・ジェーン・バーガー

― shop data ―
所在地: 東京都世田谷区祖師谷3-36-26 B1F
     小田急電鉄 祖師ヶ谷大蔵駅歩7分 地図
TEL: 03-3789-4232
URL: http://www.giggle-tokyo.com/
オープン: 2008年7月21日
* 営業時間 *
平 日: 11:30〜15:30(LO15:00), 17:00〜22:30(LO22:00)
土日祝: 11:30〜22:30(LO22:00)
定休日: 水曜日(要確認)

2012.11.27 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:51 | TrackBack(0) | 東京編◆西部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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