2012年07月28日

# 291 WELCOME KITCHEN [新潟・越後湯沢]




 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

§ §

 長い前置きの通り、温泉地・越後湯沢のハンバーガーショップWELCOME KITCHEN(ウェルカムキッチン)の話。

●越後湯沢温泉

 場所は越後湯沢(えちごゆざわ)駅の西口、駅前を横切る一本道を温泉街の方へ歩くこと5分。「たまだや」というテント看板が名残りをとどめる古びた土産物屋ビルの隅に、細ーく窮屈そうに構える店がソレ。

 ここは名にしおう越後湯沢温泉街の中心街の一角と言って、まぁ差し支えない。山裾のゆるい坂道を上れば、湯沢ニューオータニホテル、ホテル双葉、滝乃湯、東映ホテルなどの主だったホテル旅館が山裾の傾斜の途中に在って、それらを取り巻くように飲み屋や定食屋の類が集まっている。その宿と店屋の密集具合は湯沢の中ではこの辺りが一番だろう。

 夜中俄に腹が空いた宿泊客が、小腹を満たしに浴衣姿のまま外の店へ食べに抜け出すような、そんな光景が目に浮かぶ――そういう温泉街らしい場所にコノ店はある。

# 越後湯沢へ その2
# 越後湯沢へ その1
# また旅へ



●湯沢で唯一のドッグOK&デリバリーOK

 看板犬が2匹。フレンチブルの"ブジュ(buju・♀)"(左)と"ブライ(bly・♂)"(右)。


 ともに7歳。出勤形態は不明。実は店内ドッグOKな店は、湯沢で唯一このウェルカムキッチンだけである。休暇で湯沢に短期滞在する都内からの客も多いが、彼らが愛犬と共に入店できる店というのは、現状唯一ココしかない。

 もうひとつ言えば、仕出弁当の類を除けば、湯沢でデリバリーOKな店は唯一ウェルカムキッチンしかない。

 リゾートマンションからの、やはり首都圏から来た滞在客からの注文が多く、2,000円以上という設定額を超えて、一度に家族4〜5人分相当の注文が入るという。

 これに対して地元の人はテイクアウト――電話注文しておいて、自分で取りに行く――と決まっているというから面白い。「持って来させる」という発想は都会のものであるようだ。

●ダンスバトル

 店主大平さんはその湯沢の出身である。


 3歳からスキーを始め、ヘルメット着用でビュンビュン飛ばすスタイルのスキーに明け暮れたが、中学3年まで滑ってやめてしまう。その滑らなくなったことについては、地元の友人先輩らの間で今でも批判の的になるという。

 なぜスキーをやめたのか――滑る間をさえ惜しんで、大平さんが新たに没頭したのはヒップホップダンスだった。

 高校卒業とともに上京。渋谷と六本木に住んだのは、これもダンスのためである。チームを結成して一晩中踊り明かすような日々を送ったが、そのダンス生活の総まとめとして本場アメリカへ渡って本場のチームとバトルする、そんなファイナルツアーを思い立ち、旅費を蓄えてアメリカへ飛んだ。


 渡米の期間は3ヶ月間。ニューヨークに2ヶ月、ロスに1ヶ月。ニューヨークも「ハーレム」と呼ばれる黒人ばかりの地区に乗り込み、「なんだ、黄色いのが入ってきたゾ」と最初は鼻で笑われるも、本場ハーレムのダンスを大平さんたちが尊重していることが彼らに伝わって以来、等しく付き合ってもらえるようになった。ど根性旅である。

 渡米中はなるべく現地の食生活に親しもうと、地元で人気なダイナーの評判などを収集しては、"食堂のおばさん"が作ってくれる手作りの、飾らないハンバーガーを食べて、日々衝撃を受け続けた。

 その受けた衝撃の累積が、はじめダンス修行で渡った筈の大平さんを、帰りの便では「いつかハンバーガー屋になりたい!」と思わせるまでに至ったのである。

●電撃オープン

 帰国後も都内に3年ほど住んだが、この間に「日本にもハンバーガーショップがこんなに沢山あるんだ」ということを、有り難くも当ハンバーガーストリートを通じて知り、東京の有名店を方々巡って歩いた。


 そうして4年前に帰郷。帰って1年目に現在の奥さんと出逢い、ともに「いつか飲食店がやりたい」という夢を持つ者同士すっかり意気投合して、私には到底真似できない出逢って3ヶ月目の電撃結婚を果たす。

 そして昨年2011年の4月1日、震災の影響で世間が騒然とする最中(さなか)、当初の計画通り、ウェルカムキッチンをオープンさせた。

 少ない予算の中で選んだ場所とは言え、正直好い条件の物件とは言い難い。以前は居酒屋、さらに前はラーメン屋が入っては出を繰り返す場所だったという。


 階段横の斜めに切られた狭い入り口から"店内"と呼べる内部空間まで、細い動線を分け入ってゆくような構造で、外から店内の様子や客の入り具合が見えないのが痛いところ。ゆえに入り辛い。

 入ってしまえば所謂「ハンバーガーカフェ」的な、都会的なデザインを巧みにとらえた造り。店内15席。テラスと言うか屋外2席。やれるところは大平さん自身で鉋を削ったりペンキを塗ったりした。テーブルとベンチは、湯沢に10年続いたボーダーが集うバーの店じまいの際に譲り受けたもの。

●南魚沼産の米粉配合バンズ

 徐々に増えていったバーガー類は現在9品。最初は無かったチーズバーガー¥880。


 上下開いた「オープン」な状態でサーブされる。見た目の迫力、ビジュアルに力点が置かれたバーガーである。チーズは厚めに切り出したレッドチェダー。少し焦がしてある。

 バンズは自家製。「焼いてくれるパン屋さんが無かったから」とは何とも寂しい理由であるが。ゼロから始めたパン作りは1年かけてやっと安定してきた。

 一度に32個焼ける。国産小麦に地元南魚沼産の米粉が混ざり、微かに煎餅のようなニオイ。変な主張が無い点は好感だが、もう少し取っ付き易い、食べやすい感じになれば尚好い。

 バンズのサイズ120g。パティも同じ120g。「お腹いっぱい食べて欲しい」という思いからつい陥りがちなミスであるが、バンズとパティが同量というのは、カレーの倍くらいライスが盛られているような状態に等しく、バランスは悪い。


 パティはオージービーフ100%、つなぎ無し。120g。手狭な厨房ゆえフライパンを使い焼いているが、表面ばかりがカチッと硬く焼け、挽肉の粒々がコリコリと硬い。薄く平たい形を直すことなどで対応したい。

 野菜は夏場はすべて地元産。一部は大平さん自身が作ったもの。オニオンはグリルド。トマトの下に多めのレリッシュ。レタスの量も実に多い。トマトは如何せん径が足りないものの、実に味の濃い良質な品で、量僅かにして存在感絶大。

 横に大きな自家製バンズの間にふんだんに野菜を挟んだ、ボリューム満点の野菜サンド的なバーガー。クラウン(上バンズ)裏に塗った粒マスタード、パティに振った塩コショウなど味付けの印象が強く、肝心の主役たる肉の在り方が課題だろう。山盛りのフレンチフライを含めると、皿の上の総重量はかなりなもの。食べ応えは文句無い。

●ウィンターシーズンとグリーンシーズン

 その量には理由(わけ)がある――。


 ウィンターシーズン(湯沢では1〜4月)、ひと滑り終えたスキーヤーやボーダーは、散々に腹を空かして食べに来るという。当初夜の営業は21時半までだったが、彼らの強い要望で23時までやるようになった。

 冬場はボーダー・スキーヤーから絶大な支持を得ている。寝る間も無いほど忙しい。それと比べると5月からが圧倒的に弱い。こうしたオンオフは観光地の宿命だろう。

 湯沢は人口8,000人余。そのうちハンバーガーを食べる層はどれくらいだろう。若者は極端に少ない。ましてや南魚沼は天下の米所である。絶対的米食文化の地域にあって、パン食かつ肉食のこの舶来の食べ物は果たしてどれだけ受け入れられるものか。


 しかも「モスもマックも撤退した町」という何とも微妙なデータを湯沢は持つ。

 一度食べてもらえればリピート率は高い。が、絶対数の部分であまりに制限がきつくかかっているため、大平さん夫婦は大いに悩んでいる。

 春夏秋年三度の湯沢の祭り、その他出られるイベント・野外フェスにはすべて出店して、ことごとく好評だった。自ら外に売りに出れば商売になる。人の集まる場所へ出て行けば商売になる。温泉街でただじっと待ち構えていても客は来ない。まして人口減少の止まぬ地域である。若者はどんどんと都会へ出て行く。

 人がもっと多く集まる場所を求めて、湯沢を離れる選択肢もあった。が、町が活気づき賑わいを取り戻すためになればと、生まれ育った湯沢に店を出すことに決めた。大平さんも奥さんも、この湯沢の町が好きなのである。

●愛される食堂

 そうした観光地の半ば宿命めいた条件の下で、ハンバーガーに特化した専門店を営むのはそう容易いことではない。しかし大平さんは毎日ハンバーガーを作り、それを生業とすることそのものを、この上ない幸せと感じている。

 シーズンの極端なオンオフを乗り越えてこの仕事を続けてゆくことは楽ではないが、それでも同じ夢を持って店を始めた二人が、二人で一緒にパンを焼いて、肉を焼いて、二人一緒にこの店の仕事を続けて行くことを強く願っている。厳しい現実を越えて、その願いを叶えるにはどうすればよいだろう――。

§ §

 以上が私が湯沢で聞いてきた話の全てである。

 しかし私は観光地の「光」もたくさん見てきた。ウェルカムキッチンのハンバーガーは今よりさらにおいしくなるだろう。次に訪ねたときにはきっと今とは全然違うものになっているに違いない。

 地元の人が見向きもしないとは聞いていない。むしろ祭のときは皆行列を作って10個という単位で買って行くという。そこに何かしらのヒントがある筈だ。

 湯沢の町にあまりない、「食堂」のような店がやりたいと大平さん夫妻。湯沢の人からも、湯沢を訪れる人からも愛される食堂のようなハンバーガーショップに育つことを目標に挙げた。勝負は次の冬までの間だ――。

 米所、そして温泉街に立地する雪国のハンバーガーショップの話。 (つづく)




# WELCOME KITCHEN [新潟・越後湯沢] のアバランチバーガー

― shop data ―
所在地: 新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢356-4 たまだやビル1F
     JR・北越急行 越後湯沢駅歩5分 地図
TEL: 025-775-7500
URL: http://ameblo.jp/welcome-kitchen/
オープン: 2011年4月1日
営業時間: 11:30〜23:00
定休日: 火曜日(※要確認)

2012.7.28 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 10:17 | TrackBack(0) | 東国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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