2012年07月11日

# 290 B.B.B. [国分寺]




 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

§ §

 "また埼玉へ"ツアー、埼玉・川口「FEEL BURGER」から逆戻りに紹介して、やっとツアー1日目の1店目に辿り着いた。場所は埼玉県に非ず、中央線国分寺(こくぶんじ)がその舞台。

 世の中には夢や希望を何年、何十年と大事に温め続け、万全に万全を期した上でようやくその実現に踏み出す人もいれば、逆に特に考えも無しに「勢いだけで」始めて、それでもそこそこ「いい線」いってしまう人もいる。コノ店は後者の典型だろう。どちらが良いとか悪いとかいう問題ではない。

 店の名はB.B.B.(ビービービー)。この店名だって「パッと出て来た」というだけで特に意味など無く、「Burger Bakkarino Bokura (バーガーばっかりの僕ら)」の頭文字というのは完全なる"後付け"だと言うから、まぁかなりな変わり者である。

 まずはその「勢いだけ」という経緯(いきさつ)から振り返ってみよう――。



●最初は思いつきで

 手塚(てつか)さんは不動産業に勤めていた。

 ある日、二度とまた出ないであろうくらいな好物件がポッと出て来たというのが、今のコノ店舗である。さてではココで何やろう……と、そのとき手塚さんから出て来たのが「ハンバーガーやろう」という言葉だった。悩むこと無く、不思議なくらいスッとその言葉が口を突いて出たという。


 別に手塚さんは、ハンバーガー屋をやることをかねてより夢に描いていたワケではない。密かに憧れていたワケでもない。まず場所ありき――飲食店をやるのに適した物件がたまたま目に留まり、それから考えた「何やろう」がどういう具合か、はたまた神様のいたずらか、「ハンバーガー」だったというだけの話である。

 「将来自分の店を持ちたい」「何かしら自分独りでしたい」という漠然とした目標は確かに手塚さんの根本にはあった。親がカフェをしている影響という。「自宅の近くに最高に居心地の好い、お気に入りのお店が欲しい」と言って、自分で店を始めた母親の姿を見て、「いつか自分でもやってみたい」という気持ちが手塚さんにあったのは確かである。その「いつか」が思いのほか早く訪れた――という、ただそれだけの話である。

●通学路

 問題の物件は国分寺駅北口から歩いて6〜7分。駅前に形成される小繁華街を抜け切った場所にある。


 一言で言うと「通学路」。道を挟んだ向かいに早稲田実業があって、初等部から高等部までの児童・生徒諸君が、店の前を毎朝毎夕、ただ"通り過ぎて"行く――。

 他に東京学芸大学東京経済大学など、国分寺は学校の多い「学生の街」だと手塚さん。なので基本が大盛りでないと学生たちは使ってくれない。

 角のB.B.B.を先頭に向う数軒にわたり飲食店や商店が続いており、店に至る手前の道沿いにも、ちょっと趣のある酒場や飲食店が数軒ある。

 以前は定食屋だったが3ヶ月ほどで閉めてしまった。そう聞くと、そんな立地が本当に好物件なのか? と疑ってみたくもなるが、不動産業のプロたる手塚さんが「ココならば」と確信したその思いは、瞬く間に高く激しく燃え上がっていった。


 そして手塚さんは、職場の先輩である野上さんを昼食に誘い出し、この話を持ち掛ける――「ココで何かやりましょう!」「何やるの?」――と、野上さんに訊かれて口を突いたのが「ハンバーガーやろう」である。

 この誘いに野上さんは快く応じた。そして二人して勤めを辞める。こんな程度の漠とした計画によくも乗ったものだと、野上さんのチャレンジャー精神を大いに讃えたい。

 手塚さんとしては、以前某外食企業で店長を務めていた野上さんのその経験を見込んで誘ったのであるが、何にせよ散々に人を振り回す自分のわがままにただ黙って着いて来てくれる、野上さんのパートナーシップとその懐の広さに感謝して止まないと、手塚さん。

●開けてからのめり込む

 他にもこの物件を仲介した不動産屋(かつての勤め先とは別)をはじめ、心強い後押しを得て、2010年の秋にB.B.B.はオープンした。


 1・2階、2フロアを使った店である。店内はまだ真新しい居抜きのまま残されていたため、ほとんど費用をかけずにほぼそのまま使うことが出来た。

 その代わりに1階は前の店の"ヘンな造り"のままを引き継ぐことになり、オープンから1年半が過ぎた2012年6月にリフォームするまで使われずにいたという。つまり1階の"ヘンな造り"を抜けて、急峻な階段を上がった2階だけが長らく"店内"だった。

 それが先ごろのリフォームにより未使用の1階にようやく手が加わり、カウンター8席を新たに設置。やっと飲食店らしい店構えになった。

 だが、通りに面したウィンドウには切文字による店名・営業時間などの情報が一切無く(今回の工事で手が回らず、持ち越しとなった)、↓大泉学園"BELL"謹製のカスタムバイクなどが置いてあるため、一見しても何屋であるか、やっているのか・いないのかさえも通りがかった人には判り辛い状況である。


 だがそんな問題も追々と解消されてゆくことだろう。オープン以来この店が辿って来た変化の跡を思えば、今さら慌てることでも無い。

 むしろB.B.B.は、店のオープン後に180度方針が変わるほどの劇的な変化を経験している。

 実は店を始めたとき、東京都内を中心にプレミアムなハンバーガーが今これだけ流行っているということを手塚さんは一切知らなかった。むしろ一切の予備知識を持たずに、店を明けてから状況を初めて知り、そこから主だった有名店の食べ歩きを始めたくらいなのである。

 B.B.B.のスタートはモスバーガー的な、サイズの小さい、500円程度に価格を抑えたバーガーを薄利多売するようなスタイルだった。それは当時手塚さんが知る「ハンバーガー」の全てだったと言ってよい。

 その後、自分たちの店をやりながら並行して都内各店を回るうちに「うわぁ〜! カッコイイ〜!!」「グルメバーガー超やりてぇ〜!!」と、つまり店を開けてからハンバーガーの魅力にどっぷりとのめり込んでいった。そういう"落ち方"もそれはそれで説得力がある。しかしそうなると最早変わり者を飛び越して、随分な「のんびり屋さん」である。

●ガーリックマヨネーズ

 結局オープン以降1年間、都内諸店を食べ歩いて、B.B.B.が今のスタイルになったのは今年2012年の1月から。突き進む手塚さんとそれを支える野上さん、「もっとおいしいハンバーガーが作りたい」という二人の強い意欲がついにそれを現実のものにしたワケである。


 もう一つ付け加えるならば、自分のハンバーガー店を開くことを夢見て都内有名店に身を置き、所謂「修業」を積んだ経歴を"持たない"二人が、ある種「無意識」のうちに始めた店ということで、思考も発想も志望者・経験者とはまた違ったものになるだろう点を、少なからず私は面白く見ている。

 バーガー類18品。加えてマンスリーバーガーも去年の12月から始めた。手塚さんが一番食べて欲しいのは「ベーコンチーズバーガー」¥1,080。今日は最初なのでチーズバーガー¥880。

 パティはオージービーフ100%、120g。ブロックで肉を仕入れ、店で自前で切り出してパティを作っている。挽肉の集合体と言うよりも、細かな肉の断片が固められた感じをイメージする方が近い。少しだけ青山「Doggy's Diner」に通じるところがある。食感は「焼いた肉」。

 バンズはなんと神奈川県横須賀市のパン店に依頼している、特注の天然酵母バンズ。まぁ遠い所に頼んだものだ。てっぺんに白ゴマ。濃い茶色の表皮は厚め。ふっくらと空気を多く含んだ生地。


 かぶり付けばバンズから濃い甘い香り。そして"焼いた肉"がチーズと絡んで、さながらフィリーチーズステーキを思わせる味わい。しっかりとした味が付いている。

 このチーズが面白い。ピザなどによく使うパラパラとしたシュレッドチーズを鉄板の上で溶かして形にし、途中でパティの上に移してさらに溶かす。おそらくかなりな量のチーズ片が使われていることと思う。種類はチェダー。濃厚なミルク感が印象的。

 この肉とチーズの絡みにさらにガーリックマヨネーズが加わって、このバーガーの印象を決定付けている。

 このオリジナルのマヨネーズ。「ガーリック味が残らないようにしたい」と、オリーブオイルでニンニクを煮込み、風味だけをオイルに移してマヨネーズと混ぜるという、これまた意外な手の掛け方・尽くし方をした一品。少量だが印象的なガーリックがパティにパンチを与え、肉らしさを際立たせる抜群のはたらきを見せる。

 パティには塩コショウのみ。オニオンは生。トマト、そして折り畳んだレタス。赤身の味の合間合間にガーリックが顔を覗かせる。若者らしい、しっかりと力強い味付けのなされたバーガー。直径があり、パティのサイズ以上に食べでがある。

●バーガーばっかりの僕ら

 この7月からチキンパティも始めた(再開)。フィレ(切身)ではなく、ミンチを固めた正真のパティだ。吉祥寺「gem's burger」のチキンバーガーと一緒。「ベーコンエッグバーガー」¥1,100や「オムレツ」¥600などに使っている玉子は、小平(こだいら)で飼育される地鶏のもの。他にカレー3品、「チキンタコライス」¥850、「パンケーキ」¥500。ボトルビール14種、ドラフトは「ハートランド」¥500。


 つい最近デリバリーを始めたばかり。特注のボックスが素晴らしい。それなりの投資だった筈だが、こうした部分に労を惜しまぬ姿勢は長い目で見れば必ずやプラスに繋がる。駒沢「AS CLASSICS DINER」の心意気に通じるものあり。

§ §

 ファストフードの上位版からスタートし、プレミアムなハンバーガー店になってやっと半年。店の内外装、1階の使い方をはじめ、これからもっともっと変化してゆく店である。その劇的な変化を楽しみにしたい。

 今後の目標は? と訊くと「○年以内に2店目」などというギラギラと野心的な答えでなく、「みんなで仲良く楽しく好きなことがやれる店」という回答。手塚さんの為すこと・考えることは常に常に意外だ。

 併せて言っていた「ヨソに無い味を」という方は、一朝一夕に出来るものではない。ハンバーガーという食べ物と真摯に向き合い、じっくりと構えるうちに「気が付けばそうなっていた」という類のものであると私は思う。だから急ぐ必要は一切無い。慌てずゆっくりと、見せかけの安易な個性や特色でなく、手塚さんと野上さんにはぜひ"本物"を掴み取って欲しいと思う。

 中央線沿線期待の"バーガーばっかりな"新店――続報を乞うご期待!




# B.B.B. [国分寺] のクラシックダブルデッカー

― shop data ―
所在地: 東京都国分寺市本町2-18-16
     JR・西武 国分寺駅歩7分 地図
TEL: 042-312-4461
URL: http://bbbhamburger.com/
オープン: 2010年11月1日
* 営業時間 *
平日: 11:30〜22:00(LO21:30)
日曜: 11:30〜21:00(LO20:30)
定休日: 月曜日(※要確認)

2012.7.11 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:42 | TrackBack(0) | 東京編◆西部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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