2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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お待たせしました! さる5月28日、東京・麻布十番(あざぶじゅうばん)WHITE SMOKE(ホワイトスモーク)にて盛大に開かれました「肉会」のお話です。
ホワイトスモーク自慢の肉料理の数々が心ゆくまで・腹満ちるまで食べられる……それが「肉会」です。どこまでも肉に食らいつく、半ばフードファイト的なイベントであると以前にご案内しましたが、結果から見ればやはりその通りであり、いや実際にはそれ"以上"の、壮絶にして激烈なる食べ放題パーティーでした。いやぁ〜200%食べ過ぎまして、帰宅の途だけに留まらず、その晩横になってなお苦しいのなんの(笑)。
私の呼び掛けに応じて日本フードアナリスト協会(JFAA)の屈強なる講師陣の皆さんを中心に計10名の方が集まって下さいました。泣く泣く参加を諦めた方がいらっしゃるとも聞いています。会全体の参加者は37名でした。
前菜からデザートまで、全てテーブルにサーブされるようにシステム変更。前回は前菜などは自ら立って取りに行く"半立食"形式でしたが、今回は着席のまま全サービスを受ける通常の食事のスタイルに変わりました。
19時よりサーブ開始。前菜からメインの"Smoke Meat Course"まで一通り順に運ばれて来て、20時25分からは"Free Order Time"、好きなもの・気に入ったものをもう一度、いえ何度でも頼むことが出来ます。そして21時にデザート――スープはありませんでしたが、コース料理の体裁をとっていると言ってよいでしょう。
最初にサーブされたのは「ミックスピクルス」でした。これから延々2時間半に及ぶ長大な耐久戦を前に、その緊張を解きほぐし食欲を増進させる、心憎いスターターです。緑色の粒はグリーントマト。後述の若尾さんによればツルンとして甘く「ブドウのようだった」。
今回よりドラフトビール(樽生)が加わり、飲み物は他に瓶ビール5種、ワイン白赤2本ずつ計4種とスパークリング1種。カクテル、ソフトドリンク等々。
飲み放題なのでイケる人は開始早々けっこう飛ばします。スタッフも空いたグラスを見れば次を勧めます。しかし飲み物如きで限りある胃袋を満たしてしまうワケにはゆかず、なにしろ眼目が「肉」に置かれた会なので、どんなに飲んでも"酔う"ということもありません。あらゆる集中力と緊張感、高揚感は「肉」に基づき「肉」に向けられているという――「肉会」と言うからには、かく在りたいもの。
さぁ2皿目で早くも肉の登場。「鶏手羽元のスモーク」よりも注目は皿の中央、「ビーフソーセージのスモーク」。
今年から横浜DeNAベイスターズへ移籍したアレックス・ラミレス選手のパーソナルアシスタント・亀井さんが以前こんなことを言ってました――都内在住のアメリカ人でビーフソーセージを探している人はけっこう多い。ラミちゃんも食べたくてやはり探している。日本でソーセージと言えばポークばかりで、ビーフのソーセージは探しても無いんだと。その皆さま切望・渇望・待望の品がコレですよ。通常メニューにはありません。今宵の肉会のため、店主ホワイトさんが一生懸命試作した一品。コレが美味!
特有の味の"粗さ"が牛にはあります。豚肉はもっと大人しく、穏やかで滑らかです。こういう荒々しい暴れた味の感じは豚には出せません。なるほど、これでホットドッグ作ったらそりゃおいしいでしょう。
「野菜のスモーク」はカボチャ、パプリカ、豆腐など。本邦のいぶりがっことよく似た食感のものもありました。ここまでがスターターの4品。まだまだ「前座」ですが、ビーフソーセージだけでも十分満足のゆくおいしさでした。さぁいよいよ次からが"Smoke Meat Course"。
まずはお待ちかねの「牛の特大骨付き肉 "ダイナソーリブ!!"」。
"手タレ"はFA協会きってのイタリア語講師若尾洋祐さんです。「ハンバーガーランキング100!」の識者、審査員でもありました。審査の折は「肉担当」として、肉に集中特化したコメントに徹していましたから、まさに今日はそんな若尾さんのためにあるような会です(笑)。
骨を残して4人分に切り分けます。コレがまたやわらかい! ナイフで切るにも歯で噛むのにも力を要する"安肉""硬肉"を想像してもらっては困ります。刃を立てれば自重でスッと切れ込んでゆくかのような、そんなやわらかさ。15時間ともいうスモークが肉の内側までじっくりと熱を入り込ませて、こんなにもやわらかな肉に仕上げるのでしょう。表面を覆い尽くすは黒胡椒をはじめとする香辛料。
FA協会講師にして「江戸ソバリエ」の山下秀司さん曰く、「そばは香り。真のそば好きは新そばの出始めから真冬の間はせいろを楽しみ、春先から天ぷらなど乗せ始める」とのことですが、今日の料理の数々も味の前にまず「香り」です。スモークの香りは繊細にして実に淡く、薄っすらと弱く、ですが紛れも無くしっかりと食材に付いています。決してイメージするような強烈なものではないことを、まず断っておきたく思います。
スモークとは「味付けのため」の作業ではなく、電気もガスも一切使わず、薪を焚いて起した煙と熱だけを使って保存の効く状態に、しかもやわらかく、そしておいしく肉を変化させる確固としたひとつの「料理法」であるワケです。ニオイ付けは目的でなく、料理をしたその結果と言ってよいかも知れません。
ホワイトさん設計のピット内部は手前・奥、隅・中心、どこを計っても温度が均一。華氏200〜300度、摂氏で93.3〜148.9℃の間と幅広く、ピットマスターであるホワイトさんはその日の天候に応じ、細かく調節するといいます。十数時間のスモークで5kgの肉塊が3kgに減るとのこと。余計な脂はこのとき皆落ちてしまいます。
この十数時間の燻煙の工程で、我々日本人が思うような「強烈なスモーク臭」というのは付きません。付くのは実にほのかでふんわりとした、でも確かなフレーバー。煙のニオイは間違いなく付くは付くのですが、でも「スモーク味で肉を食べる」感覚とは大きく違います。肉の味は飽くまで、そしてこの上なく「肉」の味です。
「実においしい! でも僕ならコレにスモークオリーブオイルをつけて食べたい」とは、FA協会講師にしてオリーブオイルソムリエの横田元さんの言。若尾さんもこれに同意。何も付けない、ゆるやかで自然な肉の旨味で十分おいしいのです、が、何か付けることでもっとおいしくなるかも知れない――その辺りの発想と感覚が日本人と米国人の違いであり、両国の料理の違いであるかも知れません。普段さほど意識しない、そうした日米の食文化の違いを知ることの出来る機会がこの「肉会」です。
肉の合間々々に肉以外の料理が出て来ます。「バターミルクビスケットの自家製糖蜜バター添え」の次に出て来たのが「温かいスライスポテト、玉葱、ベーコンのマリネ」。
胃袋にスッと収まるジャガイモの自然な甘味がこれまた美味。FA協会講師にして日本箸教育講師でもある齊藤千晴さん曰く「米国だけでなく世界的にイモの料理って多いですよね」。そう、確かにその通り。ですがだからと言って、つい油断して貴重な胃袋の容量を馬鈴薯如きで使い切ってしまうワケにはゆきません。馬鈴薯より牛肉!
そう言えば齊藤千晴さん、「鶏手羽元のスモーク」のとき、ナイフ・フォークがもどかしくて骨に直にかぶり付いた私にお付き合いいただいて、同じように手で食べて下さいました。箸教育講師の名誉を敢えて忘れ、恥を忍んでのご英断――やはりダイレクトにかぶり付く方が俄然「肉」らしくなります。
牛の次は豚、「ポークベイビーバックリブ」。一目瞭然、肉の色が違います。
牛には牛のおいしさ、豚には豚のおいしさですが、前回3月の肉会で食べた折には、豚の方が断然おいしく感じられて「日本人の口に馴染むのはやはり豚ではないか」と思ったものですが、今夜は断然牛の魅力に惹かれました。前回よりも牛肉の出来が良いのかも知れません。
中華料理の豚のスペアリブなら脂身多く、骨まで食べられるような"コラーゲンぷりぷり"なおいしさですが、テキサスバーベキューの手にかかると脂でなくやはり赤身主体の肉料理に変わります。
これも強い味付けはなされず。先程来、トマトベースの「ソース」が牛豚それぞれ用に供されているのですが、これらもピリリと唐辛子系の刺激はあっても、直接的な味の占有・支配というものはありません。
「スモークポーク&ビーンズ」は甘め。肉料理同様、やはり過度な味付けは施さず、ペントビーンズの質朴な豆の味がしっかりと感じられる一品。
「リンゴとキャベツのコールスロー」も甘め。程よい酸味もさることながら、私はキャラウェイシードと思ったのですが、普段あまり好まぬやや揮発性の風味が強烈に鮮烈に利いていて、それが何ともさわやか。「アメ食」と言うと、盛りが凄くてケチャップドバドバ……みたいな先入観のある人も多いと思いますが、そうした視点で観察してみると、香りというものを意外にも大事にしていることに気付きます。むしろその辺、日常的な日本の食事よりも、ある意味敏感で繊細であるかも知れません。
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ですが盛り付けの多さはご期待の通り。次々運ばれる品数の多さ。そしてそこに使われる食材のことごとく"パワフル"なこと……これでようやく峠に差し掛かったぐらいですから。長くなりましたので、"続き物"ということでひとつ(笑)。 (つづく)
→ 【おしらせ】 5月28日(月)、WHITE SMOKE [麻布十番] が第二回「肉会」開催!
# 285 WHITE SMOKE [麻布十番]
― shop data ―
所在地: 東京都港区元麻布3-11-2
東京メトロ・都営 麻布十番駅歩3分 地図
TEL: 03-6434-0097
URL: http://thebettertable.com/
オープン: 2011年11月11日
営業時間: 11:30〜14:30(LO), 17:30〜23:00(Food LO22:00)
定休日: 火曜日(要確認)