2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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あをによし……と詠むには季節が過ぎた。今ごろなら「春すぎて 夏来にけらし 白妙の……」だろう。というワケで昨日・京・奈良、"奈良"のお話。
奈良の都と言えば阿倍仲麻呂「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」が有名だが、三笠と言えばどら焼きのこと。その形が三笠山に似ているのがその名の由来である。
ウィキペディアに「大きな『三笠』を売」る店として「近鉄奈良駅近くのひがしむき商店街」の話題が出て来るが、さらに調べるうちこんな記事を見つけた――駅前に三笠を売る店が二店。一店の名は奇しくも「湖月」、そして昨年12月の遠征の折、旅のお供に私が三笠を買ったのは、やんぬるかな、その湖月を閉店に追いやったもう一店の京都の店の方だったのである!
「あしびきの……」くらい枕が長くなった。というワケで当世・21世紀の奈良には"ハンバーガー"なる舶来の、三笠山よりさらにうず高き食べ物を出す店が存在する(笑)――近鉄奈良駅のそばSAKURA BURGER(サクラバーガー)。
●きたまち
大阪難波(おおさかなんば)から近鉄で35分、近鉄奈良駅のすぐ近く。↓の出口からなら徒歩1分圏。東向(ひがしむき)商店街とは駅前を走る大宮通りを挟んでちょうど差し向かい、東向北(ひがしむききた)商店街を入ってすぐの好立地。
東向商店街と比べると規模も道幅もずっと小さな、よくある地元の駅前商店街といった風情の通りながら、昨年来「ちょっとおしゃれなエリア」として、このきたまちはにわかに注目を集める一角だ。
店主山戸(やまと)さんが"きたまち"に店を出したのは昨年2011年の3月。奈良市全域に物件を探し、最終的にこの"きたまち"に絞り込んだ。大宮通りの向う・東向商店街は観光スポットで家賃も大阪並み。こっちは地元の人が使い、店をしている感じで、ごった返すでもなく、「すごくいい空気が流れてる」気がした。
などと思っていたら、ぽっと物件が出て来たので、晴れてサクラバーガーをオープン。すると時期を同じくして他にも店がポコポコと出来て、にわかにきたまちエリアなる言葉が話題に上るようになったというから、何とも調子が好い。先見の明と言うべきか。「メディアに敏感な人たちが狙って来てくれる」と山戸さん。
●東京
山戸さんは奈良の出身。ハンバーガー好きになったのは小学生のとき。一年に一度、お祭りの日にだけ親が連れて行ってくれた、駅前のドムドムハンバーガーが「ムチャムチャおいしくて!あの頃は1個200円がなんとおいしかったことか!」。
高校卒業後東京へ。大学在学中のアルバイトでモスバーガーに4年。お金を貯めながら都内のハンバーガーを食べ歩き、そして強い衝撃を受けた――なんだこれは!こんなおいしいものが東京では食べられるのか!中でもFIRE HOUSEによく通った。
東京には「そういうことをしたい人材が集まって来る」、ハンバーガー屋には「ハンバーガー屋をしたい人が集まって来る」――その例に漏れず、山戸さん自らも都内某有名店の門を叩いて2年半働いた。
奥さん(となる人)の実家が目黒でパン屋をしていたので「このパンを使って東京で店をやろうか」とも考えたが、「奈良には都内のようなハンバーガー専門店はまだ無いし……」とも考え、奈良に帰郷。奈良市内にある山戸さん行きつけの、お気に入りの飲み屋に相談したところ、「奈良来い(濃い)よ!楽しいぞ!」と一押しされたのが決め手となった。
●オールナイト年越し営業
奈良という土地柄「和食もやっておかんと」と思い、和食2年の経験を経て開店。なのでサクラバーガーのメニューには、そうした和食からの影響を若干垣間見ることが出来る。
前は東京シューズという靴屋だった。古い町屋を改造した店舗で奥に深い。その突き当たった奥に鉄製の階段がある。たびたび登場、埼玉・大宮Burger's Cafe Beach Storyも、古い宿場の路地裏に並ぶ飲み屋を改装した店ゆえに似た造りだ。
Beach Storyは2階を多目的スペースに活用しているが、サクラバーガーは「ゆくゆくは何かしよう」と考えているところ。ホールにするか、何か展示スペースのようなものを造るか、どう使うかが楽しみだ。
物件を探している頃、市内におしゃれなカフェがふと出来て、いいなと思ったらその隣が工房で、女性が一人、設計から施工まで全て手掛けるひとり棟梁をやっていたので、お願いして二人で店を造った。
カントリー調の、アーリーアメリカンなイメージが頭にあったと山戸さんは言うが、私の感想を言えば、和なテイストを散りばめた今風なカフェである。ハンバーガーショップである以前にカフェとしてのニーズが十分ある感じだ。コンクリート剥き出しのフロアに木を多用した店内。奥にサボテン。
店のロゴマークが秀逸。カウボーイが手綱を引くのは馬でなく、奈良と言えばの"鹿"である。その足先に転がすようにしているのは"家紋"(笑)との説明。
ウェスタンな風情を湛えた店でもあり、そもそも音楽劇『カラミティ・ジェーン』ハンバーガースタンプラリー向きである。スタンプラリーの折には、店一番の売りである自家製ベーコンにアボカドを合わせたカラミティ・ジェーン・バーガーを披露した。
昨年末は春日大社の初詣客を見込んで、大晦日から元日にかけてオールナイト営業を敢行。1日の14時まで通しで営業を続け、年越しバーガーを提供した。
●桜チップの自家製ベーコン
バーガー12種。魚や鶏の"非"バーガーは置かない正統派。
店名はサクラバーガーだが、もちろん馬肉のバーガーではない。まして鹿肉もない。パティはビーフ100%。120g。オージーと和牛のミックス。店で挽いている。後から始めたホットドッグは5種。
ベーコンも自家製。特殊な製法で2週間かけて作る。奈良と言えばの"桜"のウッドを使ってスモークした厚切りベーコンは、名代のさくらバーガー\980などで味わえる。どっしりと硬く弾力があって、歯応え抜群。
バンズは5月途中より二代目。「今まで数回にわたるパテ(肉)の進化」を受け、思い切って一新。京都は木津川の「パン工房 風いろ小麦」の作である。私が食べたのは初代バンズ。サイズ約100g。表面ゴマなし。むちっとした重さがある、しっかりとした食べ口の生地である。
チーズバーガー\920。上下開いたオープンの状態でサーブ。クラウン(上バンズ)にレタス、トマト、ピクルス。バンズの裏にタルタルソース。オニオンはタルタルの中。ヒール(下バンズ)の側に2枚のレッドチェダーでコートされたビーフパティ。
パティもバンズ同様に硬くしっかりとした食べ口で、肉粒感あり。ナツメグのニオイがプンと強い。French Dogの折にも書いたように、そこまで使う必要がそもそも無いと思う。クサミと共に、肉本来の香りや味わいも消し去ってしまうのがナツメグである。そのプンと強いナツメグがタルタルと混ざり、サンドイッチ的な印象(※私が訪ねた昨年末の感想)。
もうひとつの自家製であるケチャップは、「折角なのでバーガーに合うケチャップを」と作っている。醤油や味りん・三温糖など和な調味料で作った一品で、甘酸っぱい酸味があって実にフルーティー。
後味にマイルドな余韻。肉感があって、しっかりとした食べ口のバーガー。「食べた」という印象をしっかりと残す。
●奈良クラブビール
ドラフト(樽生)はバスペールエール。ボトルビール10種類。中でも地元のサッカークラブ奈良クラブを応援するべく造られた地ビール奈良クラブビールがオススメ。
スタウトとピルスナーの2種類。売上金の一部がクラブの強化費に充てられる。天理のリカーショップシマヤが提唱し、山戸さんもコレに賛同した。奈良クラブは関西サッカーリーグ1部リーグに所属、今シーズンは第5節終了時点で3位。エンブレムはサッカーボールを蹴る鹿。鹿と言えば東に鹿島アントラーズ。東西"鹿"対決――どちらが真の鹿か"雌雄"を決するときは、そう遠くない筈である。
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奈良は「お店同士のつながりが濃い」と山戸さん。人同士のつながりが濃い。ツイッター、Facebookも「すごくつながる」という。
そうしたつながりを「物件探しに入った不動産屋が高校の先輩で、バンズを頼んだパン屋に妹の同級生が働いていた」というような、"地元"ならではな世間狭さや息苦しさに捉える人もあるだろうが、山戸さんの場合は、つながりの中から新たな食材やネタを発見したり、さらに新たな人脈につなげたり、"新たな"世界を広げるために役立てている様子が窺える。世間を狭くするか広くするかは、使う人の考え方次第だ。
行きつけの飲み屋に言われた「奈良来いよ!楽しいぞ!」とは、高校を卒業してすぐ東京へ出た山戸さんには知ることの出来なかった本当の奈良の顔であり、深みを指した言葉なのかも知れない。旅の者なら素通りせずにまず一晩は泊まって、「三笠の山に出でし月」を見ないことには古都奈良の面白さは語られぬ、といったところか。
古都ならでは――ひと言では言い尽くせぬ深みを湛えたハンバーガーショップである。
→ 【スタンプラリー#28】 SAKURA BURGER [奈良・近鉄奈良] のカラミティ・ジェーン・バーガー
― shop data ―
所在地: 奈良県奈良市東向北町6
近鉄奈良線 近鉄奈良駅歩2分 地図
TEL: 0742-31-3813
URL: http://sakuraburger.com/
オープン: 2011年3月17日
営業時間: 11:00〜21:30LO
定休日: 水曜日(要確認)