2012年05月18日

# 286 BUTCHER'S TABLE [大泉学園]




 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

§ §

 映画の話から始める――。

 先日大森町「Locofee」で蒲田麦酒なるビールを知り、話題が『蒲田行進曲』に及んだ。観たことが無かったので先日ついに観た。『蒲田行進曲』、実は劇中に蒲田は出て来ない。在りし日の松竹蒲田撮影所でなく、東映京都撮影所が舞台の映画である。

●東映東京撮影所

 現在東映には京都撮影所と東京撮影所の2つの撮影所がある。その東京撮影所のすぐ近くにコノ店BUTCHER'S TABLE(ブッチャーズテーブル)。先ごろの音楽劇『カラミティ・ジェーン』ハンバーガースタンプラリーでは、チリビーンズの茶色い荒野にサボテンに見立てたアボカドを配した"サボテンバーガー"で注目を集めた。



 前回訪ねたとき、どうせなら撮影所の門の前まででも行っておけばよかった。


 ウィキペディアには「現代劇担当の東京撮影所は傍流であった」などと書かれているが、かの『網走番外地』『八甲田山』『二百三高地』などの名作がこの東京撮影所で撮影されている。仮面ライダーシリーズ、戦隊シリーズなどの特撮ヒーロー物も東京撮影所。

 それらにもまして、『サイボーグ009』『マジンガーZ』『銀河鉄道999』『キャンディ・キャンディ』『Dr.スランプ』『キン肉マン』『北斗の拳』『ドラゴンボール』『セーラームーン』『ONE PIECE』『プリキュア』等々、東映アニメーションが誇る多彩なフィルモグラフィなどを背景に、練馬区はアニメのまちで鋭意売り出し中である。

 そんな映画の街・アニメの街のハンバーガーショップ。映画もアニメも、そうした色は店には無いが、店主平川さんの半生はなかなか波乱に富み、ドラマに満ちている……やも知れない(笑)。


●クレープ屋さん

 平川さんのご実家は飲食店。両親が家で店をやっていた。丸いプレートの上に夢広がるクレープ屋さんである。場所は板橋。


 なので家の中には常に人が、身内のような、家族のような人たちが常に集まっていて、絶えずにぎやかだった。「飲食店って家族が増えるみたいな」印象を、幼い頃の平川さんは抱いた。

 目指すところは両親のクレープ屋と同じである。周りとのつながり。店がある"コノ場所"を中心に増えてゆく人の「輪」である。お隣の床屋さんが仕事の合間にふらっとやって来るとか、そんなご近所付き合いの場として、その中心に「店」がある。まるで松竹喜劇のような……いや、隣は東映か。

 ハンバーガーとの出会いは、初めて勤めた飲食店・西麻布の「ZEST CANTINA」でのことだった。バーに入り、やがて調理もやった。このとき「こんなハンバーガーあるんだ!」と衝撃を受けた。外国人がみんな食べてる……カッコイイなと思った。

 飲食の仕事が好き、調理よりもホールが好きと平川さん。日々ホールを駆け回るうち、「腕が立つコックよりも、お客さんに喜んでもらえるサービスの方が重要だ」と考えるようになった。ブッチャーズテーブルを始めた今でも、その思いは変わらない。

●八丈島

 フレンチやイタリアンレストランにも勤め、池袋の居酒屋でも働いた。


 一時飲食を辞めていた時期がある。"店内"という限られた狭い空間の中のみで延々とやりとりが続いてゆくことに疲れたのだ。

 しばらくふらふらした末、八丈島へ渡り、漁師を1年やった。埼玉・大宮「Burger's Cafe Beach Story」の羽田さんは久米島に1年、大森町「Locofee」の宮川さんは宮古島に1年。バーガー界隈の"離島経験率"はかなりなものがある。

 「過酷なことがやってみたかった」と平川さんは言うが、それは決して軽々しい冒険心などではない。そうした環境に身を置きたくなるような心境が、平川さんにはあったのだ。

 波に呑まれはしないかという小さな舟で日の出とともに沖へ出、日の入りとともに港へ戻る毎日。船酔いに一ヶ月悩まされた。それでもまだ乗るか――という日々だった。毎晩泣いていた。島の人と打ち解けるまでに半年を要した。自分の弱いものが見えてきた。

 そこであらためて、近くに仲間がいることの有り難味を知り、飲食の世界に戻ったのである。

●FUNGO

 世田谷は三宿(みしゅく)のサンドイッチレストラン「FUNGO」で1年ほど、後に中目黒に「Sun2Diner」を始める田嶋店長の下で働いた。


 ここ大泉学園は友人が居た縁で引っ越してきた街である。いい街だなと思った。ココでやってみたいなと思った。しかし物件があまり出ない。

 今の店舗のある場所は以前は花屋だった。この場所いいなと気に入った。光の入り具合、日の差し方が特に気に入った。面積18坪――入りやすい大きさであり、目の届く範囲である。スタッフの人数を考えてもちょうどよい。すべてにおいて「絶対的な数ってある」と平川さん。まさにイメージしていた通りの、注文通りの店だった。

 いいなぁと思っていたところに、ちょうど花屋が空いた。ある日ぷらっと来てみたら無くなっていたのである。さてどうしよう。行くしかないのかな? と思った。ファンゴーで働き始めて1年ほど。ちょうど乗っていた、充実した時期だったが、「行くしかないな」と決心した。行くって勇気が必要なんだな、勇気が要るものなんだな――とこのとき思った。

●陽あたり良好

 花屋だったので当然シンクもダクトも何も無い。フローリングのみ張ってあった。イチから飲食店に変えていった。


 確かにガラス窓が大きくとられた西向きの、採光の好い店である。「東映通り」に面して細長くテラスが付いている。狭いながらもパラソルなど立って、道行く人を誘う風情あり。床から天井まで及ぶ大きな全面ガラス扉は開閉式。

 店内は剥き出したコンクリ壁の薄いグレイに植物の緑、そして机椅子の木目。最も印象的なのはキッチンを囲むように貼った波板である。設計の友人と一緒に考えた。

 ドキドキで始めてみたものの、オープン直後から反応は良好。開けてみたら手に負えないくらいのお客さんが押し寄せて来た。最初3ヶ月は「どうしよう?」という状況が続いたという。


 仕込みも間に合わない。休憩も一切取れない。あまりの盛況ぶりに「最小限なメニュー内容にしてでもいいから、とにかく良いサービスをしてご満足いただき、好い印象で帰っていただいこう」「自分たちのイケるところをやろう」と決め、サンドイッチも無しにして、入り切らないお客さんを断り断り、必死で対応をした。

 今でも土日は「なんでコノ店に?」と平川さん自身ふと自問するくらいに行列が出来る。瞬く間に街の名物店になった。

 もちろん場所の好さというのは強くある。隣はユニクロで、すぐ先にシネコン「T・ジョイ 大泉」、ショッピングセンター「LIVIN OZ 大泉(西友)」。土日は当然のように渋滞が出来る。予想以上に好い立地だったと平川さん。撮影所内からのデリバリー注文だってある筈だ。

●素材にこだわってはやってない

 ハンバーガー類11品。サンド4品。本日はグリルドチーズバーガー¥1,000。


 「素材にこだわってはやってない」と平川さん。これは京都・醍醐「French Dog」の橘店長が言った「『ええモン揃えたらおいしいやろう』と思って作ってみたら、そうで無かった」という言葉の裏返しである。以下この考え方が、バーガーの造りに徹底している。

 パティはオージービーフ120g。「和牛は高くて。オージーの方が適している」。バンズより直径がひと回り小ぶり。なのでなかなか肉に到達しないのが難。軽いナツメグのニオイ。ぎゅっと肉が詰まった硬めな印象で、硬いバンズとイメージが合っている。

 バンズについては近くにパン屋を探したが、面倒も多く、遠く神奈川県から取り寄せている。表面硬め。裏をカッチリと焼き込みアクセントを表現。生地に甘味あり。やや弾力に欠けるか。「バリバリ食べる感じの方がやわらかいより好いかな」と平川さん。まさにバリバリ食べ進むイメージのバーガーである。

 チーズはチェダーとゴーダ、「2種類のチーズをたっぷりと溶かし、最後に軽く炙って」とあるのだが、ただ残念なことにココの印象が少ーし弱い。オニオン、タルタルソースはじめ、他の材料の印象が"強い"とも置き換えられる。


 サクサクとした食感が活きたグリルドオニオンがパティの下。その"熱"がヒール(下バンズ)の上に塗ったタルタルソースの味に伝わり、両者が味のベースを成している。バンズの甘味とタルタルのマイルドさが余韻に残る、にぎやかな味わい。コショウは強くない。

 レタスはグリーンカール。テイクアウトに向いていないのは平川さんも認めるところだが、しかし「見た目にもこだわりたい」というのが使用の理由であり、狙いである。

 専門店が作る本格的なハンバーガーをまだ知らないこの街・ココの場所で営業するに当たって、だからこそ見た目のインパクトを表現したかった。「わーっ?! なんだコレは?!」と驚いて欲しかった。テーブルに運ばれてきただけで「あっ!」と驚くような、そんなハンバーガーが提供したかったと平川さん。店自体も全体にそういうイメージだという。そう、だからこそ「素材にこだわってはやってない」と言い切れるのである。頼るところがそこではないのだ。

 そんな中でもマヨネーズは自家製にした。ケチャップも自家製。好評につき販売も始めた。撮影所の隣にふさわしい、派手で見た目がそそるバーガー。

§ §

 スカさず、気取らず、カッコつけ過ぎず――「あくまでココに合わせた」と平川さん。ご近所の人にいかに足を運んでもらうかを考えた、これぞ地元の店・地域との結びつきを意識に置いた店である。

 店名はかつて横浜は本牧(ほんもく)に在ったステーキ屋の名から。マスコットの白クマには「大五郎」という名前が付いている(笑)。先週5月8日で3周年祝!




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― shop data ―
所在地: 東京都練馬区東大泉2-9-18
     西武鉄道池袋線 大泉学園駅歩9分 地図
TEL: 03-5947-4414
URL: http://butcher.or.zmx.jp/
オープン: 2009年5月8日
営業時間: 9:00〜15:00, 18:00〜23:00
定休日: 無休(要確認)

2012.5.18 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:05 | TrackBack(0) | 東京編◆西部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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