2011年3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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日本の首都・東京で食べられるアメリカ人オーナーの店のハンバーガー。今回はテキサス出身クレイグ・ホワイト(Craig White)さんの店、WHITE SMOKE(ホワイトスモーク)。
われわれ日本人にとってテキサスと言えば、古くは『太陽にほえろ』のテキサス刑事(笑)、最近ではやはりMLBテキサスレンジャーズへ移籍したダルビッシュ投手の話題だろう。その野球には「テキサスヒット」なる言葉もある。ちなみにホワイトさんが東京港区は麻布十番(あざぶじゅうばん)に店をオープンしたのは2011年11月11日――11.11.11。ダルビッシュが日ハム時代から付ける背番号が「11」なのは単なる偶然である。
●テキサス
ホワイトさんの故郷テキサス州は、人口はカリフォルニア州、面積はアラスカ州に次いで全米第2位という大きな州である。最大の都市はヒューストン。ダラスも有名だ。
レンジャースの本拠地はアーリントン。ヒューストンには別にアストロズがある。州都はオースティン。他州の例に漏れず、州都は知名度がグンと低くなる。
ホワイトさんのホームタウンはサンアントニオ。人口132万、州内第2位の大都市で、あのアラモの砦がある観光都市でもある。
テキサスの食べ物と聞いてすぐイメージするのはテクス・メクス……だけではない。ウィキペディアによれば「牛肉の消費が盛んであり、ステーキ、バーベキュー、ビーフジャーキーなどの人気が高い」と言うから、やはり根っから「肉」の国であり、肉食文化の人たちなのである。実はサンアントニオには「全米3番目の肥満都市」という大変不名誉なデータがある。それほど肉をよく食べ、毎日の食事を愛する人たちが多いということなのだろう。
●スモークハウス
ちなみにホワイトさん自身は太っていない。でも肉は大好き! ハンバーガーも大好き!
ハンバーガーは世界中で食べられる、「アメリカの」と言うより今や「世界の食べ物」である。店を構えてまで、あらためて紹介する必要もないだろう。
一方で地元テキサスにはバーベキュー、即ち「肉をスモークする」料理法が盛んである。この「スモーク」こそ世界に紹介するにふさわしい、伝統的なアメリカ料理ではないか――と考えたのが、コノ店ホワイトスモークのコンセプトなのである。
私にとっては既に「目から鱗」である。スモークはひとつの確立された「料理」である。アメリカを代表する伝統料理である――ただそれだけの情報でも日本国内に居る限り、いや、米国に住んでいたことがある人からさえ聞くことは難しい。人によっては「アメリカ? 食べ物おいしくないよ」のひと言で片付けてしまう話である。
ホワイトさんが言っているのはそういうことではない。
スモークの習慣は全米各地にあるそうなのだが、テキサス州は中でもスモークが盛んな土地で、「スモークハウス(smokehouse)」と呼ばれる専門店が州内に何千と「どこに行ってもいっぱいいっぱい」あって、各店やり方も違えば味も違い、贔屓の店がそれぞれにあるのだという。家庭でもする。たぶん全家庭の四分の一は、家に「ピット(pit)」を持っているだろうとホワイトさん。
そう、つまり、テキサスと言えばバーベキュー。プリングルズからテキサスバーベキュー味が出ているぐらいである(笑)。このおいしい伝統料理を日本にも紹介したい――これがホワイトさんの思いである。千葉・市川「Castle Rock」の穂積夫妻にも通じる思いだ。ホワイトさんのように熱く語る人が居るからこそ、おかげで私はテキサスバーベキューについて知ることが出来、興味を持つことが出来た。
●ピットマスター
ホワイトさんが初めて日本を訪れたのは94年の夏。場所は石川県。テキサス大学を卒業後、金沢工業大学に短期留学をした。夏の金沢――聞くからに風情がある。
専攻は機械工学。とにかく海外に行きたかったのだが、ヨーロッパへ行く人が多い中、自分は違うところへ……と日本を選んだ。
ハンバーガー大好きなホワイトさん。金沢で「スパイシーモスチーズバーガー」を食べ、そしてジャスコへで挽肉を買ってきてハンバーガーにして食べた。漢字が読めないホワイトさん、買ったのは実は合挽肉――まさか「合挽き」なる肉がこの世に存在しようなどとは夢にも思わず、「日本の牛肉は変わった味がするな」と思ったそうである(笑)。でもおいしかった(笑)。
さてホワイトさんはPCのプログラマーである。自動車のエンジン制御などが専門分野。店に入ると1F右手・厨房内にドーンと配された黒い巨大な鉄塊――これがそのエンジン工学を応用してホワイトさん自らが設計した、特注のピットなのである。総重量1.8t! 規模が違う。桁が違う。この中で店のあらゆる料理をスモークしている。
ピット右側がストーブ。薪を燃やして出る煙を左側の燻製室部分(正しい呼び名不明)に送り込む。これぞスモーキン・イン・ザ・ピット。扉に付いている温度計は不使用、煙突に手を当てて温度を判断するという。テキサスには"pitmaster"なる師弟相伝による称号があり、ホワイトさんは「アメリカで一番有名なスモークハウス」に学んだ、"pitmaster"である。
薪はホワイトオーク。2Fのテーブルや椅子に使われているのもホワイトオークだ。テキサスに多い木である。ちなみに柱に貼られた1セント銅貨は22,000枚以上。階上に待ち受けているのは『アラモ』を監督・主演したご存知ジョン・ウェイン。こんな調子で店内随所にアメリカと、そしてテキサスが配置されている。
●スモークパティ
低温で長時間煙燻される自慢のスモーク料理はビーフブリスケットS¥1,750、ショートリブ¥7,000、ベイビーポークスペアリブS¥1,600、ターキーブレストS¥1,700、チキンS¥1,500などなど。もちろんベーコンもポテトもスモークする。ポークよりもビーフの方が難しいとホワイトさん。例えるなら「ポークは大学、ビーフは大学院」(笑)。
実はハンバーガーもスモークである。他の料理について書き出すとキリが無いので、この場はハンバーガーの話に絞る。但し敢えて断っておくと、コノ店の醍醐味を堪能したいのであれば、ハンバーガーより先に是非とも他のスモーク料理の数々を味わっていただきたい。評価すべき本命はやはりブリスケッタであり、ショートリブである。ここはスモークハウス。ハンバーガーショップではない。
スモークチーズバーガー(Big-Tex Smoked Cheeseburger)¥1,900。ハンバーガーはこの1品のみ。
パティは175g。USビーフと国産牛をミックス。本当はUSだけで作りたかったのだが、手に入るUS産が限られているため。
その175gパティを"スモーク"している。グリルで焼くと脂が落ちるが、スモークなので脂は落ちない。175gは限りなく175gのまま。「めっちゃ大きいパティがしたかった」(笑)とホワイトさん。「USビーフはスモーク向き」とも。
とにかくこのバーガーは変わっている。どれだけ濃厚なスモーク臭がするかと思いきや、実に穏やかな、やさしい香り付けである。わざとソフトにしてあるという。理由は「肉の味を隠したくない。あり過ぎると肉の味がわからなくなるから」。
あくまでも素材優先。どこまでも「肉」重視。どうしても我々、「これでもか」とばかりにハッキリと味が付いていないと食べた気がしないところがあるが、それ自体随分と行き過ぎた味覚なのかも知れない。バーガーキングのようにプンプンとしたフレーバーは無い。強いて言えば店自体がスモーキーである。
バンズも「私が欲しいバンズはスターじゃない。燻製しているハンバーガーをサポートしたかった」というコンセプト。日本のバンズはセサミが多いが、その味によっても邪魔したくなかった――とのことで、てっぺんに何も乗らないバンズは直系大きく、軽く、やわらかく、パリッとよく焼けて生地に甘味。
パティはひたすらに脂無し。「しぐれ」のような繊維の密集。グリルしたパティとは違う、今まで食べたことがない食感である。かかりの穏やかなスモークが、いつまでもゆるーく利いている。日本人には水分不足だろうか。水気が欲しくなる。
添えられたソースは「ビーフソース」。無味に近くピリ辛。全面にかけるのでなく、肉の味を隠さない程度に少量使うのがベスト。挟む野菜は無し。代わりに緑トマトと赤トマトのピクルスが添えられている。この辺りオシャレだ。ポテトはチップス。
スモークをかけることで何か新たな発見があるのかと訊かれると難しいところだが、本邦で言うならスルメを噛み続けるような、ドライな赤身肉を噛み締め噛み締め、じんわりとした味わいを得るバーガー。もう少しジューシーな赤身であればもっと食べやすい。
●that's hamburger!
「好きな日本の食べ物は?」と聴いたところ、「日本でも肉が大好き!」(笑)とホワイトさん。ただ、日本の肉は品質は良いのだが、日本人は「肉の何が好きなのか」ホワイトさんは疑問に思っている。
日本のはビーフだけど脂身。自分には食べられない。米国のビーフは赤身。脂身がジューシーなのでなくて、赤身自体がジューシーなのだと。日本には筋が混ざったような、簡単に噛めないパティもある。それは"texture"(食感)が違う。
ではホワイトさんにとってのベストなバーガーとは? 「本当のハンバーガーは肉。パン。もしかしてチーズ――それだけ」。パンの品質、肉の品質がメイン。チーズも好きだけど無くてもいいじゃないですか? 肉がおいしいならチーズ要らない。ベーコンもあってもOK。でも肉おいしければ要らない。それ以外無い方がいい。完全pure。例えば「発祥の店」のひとつに数えられるコネチカット州の"Louis' Lunch(ルイス・ランチ)"……「that's hamburger! 肉great! 焼き方kanpeki!!」。
「ハンバーガーに合うドリンクは?」と聴くと、答えは「テキーラとハンバーガー」。若しくはテキーラ入り"ライムネード(limenade)"……コレも響きがオシャレ(笑)。しかしさすがはテキサス! やはりテキーラ! 一番のお気に入りはEl Conde Azul¥2,500。
他にも土曜日の"breakfast"の習慣など、テキサスの食文化についてたくさん聞いたが、とても書き切れない。別記事に続けたい。
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厨房内は日本国籍ゼロ。会話は99%英語。そんな店を業界この道13年の日本人・小谷野(こやの)マネージャーがサポートする。コノ店の前はスティルフーズに4年。六本木「ROTI Tokyo Midtown」のマネージャーを務めているとき、ホワイトさんからスカウトを受けた。オープン前に2週間テキサスに遠征、本場のテキサスバーベキューを実体験。「このスタイルはイケる!」と確信したという。
日本でも某県が「それだけじゃない○○県」などとやっているが、テキサス州こそテクス・メクスだけじゃない、それにも勝る自慢のスモーク料理があることを、伝統的なバーベキューのスタイルがあることを伝える――そんな店がホワイトスモークである。熱き伝え手がいてこそ、文化は広まり、次代へ受け継がれてゆく。
なおテキサス州の愛称は"Lone Star State"――ひとつ星の州――であるが、皆様の評価はどうぞ"三ツ星"で(笑)。 (つづく)
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― shop data ―
所在地: 東京都港区元麻布3-11-2
東京メトロ・都営 麻布十番駅歩3分 地図
TEL: 03-6434-0097
URL: http://thebettertable.com/
オープン: 2011年11月11日
営業時間: 11:30〜14:30(LO), 17:30〜23:00(Food LO22:00)
定休日: 火曜日(要確認)