2012年04月26日

# 284 French Dog [京都・醍醐]




 2011年3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

§ §

 また西の店。今度は京都から――。

 舞台は伏見区は醍醐。醍醐と言えば「醍醐の花見」。西暦1598年、太閤豊臣秀吉が催した天下の大花見会。その会場が醍醐寺である。

●世界遺産・京都 醍醐寺

 414年を経た今でも醍醐寺は花見の名所である。4月1日の開白法要をはじまりに、21日まで「桜会」なるものが開かれ、第二日曜日(今年は8日)には「豊太閤花見行列」なる催しが盛大におこなわれる。

 二月には五大力さんなる力比べ、年に一度のご開帳は五月の半ば、八月は万灯会、秋は紅葉、暮れ大晦日は除夜の鐘、そして初詣と、とにかくイベントごとには尽きない。そもそもが観光地である。年中何かしら人の往来はあるだろう。

 そんな醍醐寺門前の町の一角にFrench Dog(フレンチドッグ)。音楽劇『カラミティ・ジェーン』ハンバーガースタンプラリーにも参加し、焼きトマトのバーガーで注目を集めた。店から醍醐寺の入り口まで15分という距離。諸行事の行き帰りに寄るとよいだろう。寺とバーガー……京都らしい、近畿らしい提案である。



●ゴッドバーガー

 店が出来たのは2009年2月。広島の名店「ゴッドバーガー」でハンバーガーのおいしさを知ったオーナーが、自分もやってみたいと始めた。その後、福岡の「SEA DINER」、佐賀の「唐津バーガー」なども回ったという。西の店だけに近畿以西の店が比較研究の対象になるようだ。


 駅前にある。市営地下鉄東西線醍醐駅に直結するアルプラザ醍醐なる「ジュニアデパート」を脱して、駅前の通りを六地蔵方面に歩くこと数分。

 吉野家があって、「あほや」というあんまりなネーミングのたこ焼き屋があって、その隣という立地だから、実態以上に「安価な」印象をもって受けとられているかも知れない。それは低価格という点では正しいが、しかし良質という点では正しい理解ではない。

●新店長・橘さん

 昨年2月より店に立つ店長・橘さんの話をせねばならない。

 根っからのハンバーガー好き。熱心な研究家である。2010年、私が主催した最初のスタンプラリーの折にも34店中18店を回った。今回のカラミティ・ジェーンも「自分で店やってなかったら回ってました」。


 調理師学校出身の橘さん。京料理の料亭に入り、さらにフレンチを4年。そこで一度料理の世界から離れ、別の道へと進路を変えた。

 初めての海外旅行でサンフランシスコへ行ったときのことである。真夜中にお腹が空いて夜の街を徘徊。24時間営業しているダイナーを見つけ、入った。当時アメリカの食べ物なんてハンバーガー以外に知らなかったし、他の客もしきりと薦めるので頼んで食べてみると、バンズはカスカス、パテはゴツゴツ。でも、食べるうちに旨味が出て来て「ムチャムチャうまかって」。

 以来すっかりアメリカンサイズのハンバーガーの虜に。しかし日本に同じようなバーガーは無いので、その後ハワイやグァムなど海外へ行く度にレンタカーを借りてはハンバーガーショップを探して回るのが、旅の重要な目的の一つになった。

 ちなみに私の初めての米国旅行もやはりサンフランシスコである。一昨年の秋のことだ。その際には橘さんからいろいろとアドバイスをいただいている。

●国内バーガーツアー

 今から5年ほど前、東京のグルメバーガーを紹介するニュースが立て続けに報じられ、「あ、日本にもあるんや」と知らされた。近畿はどうかと調べてみると、何軒かのハンバーガーショップがヒット。こうして橘さんの国内バーガーの食べ歩きが始まった。


 まずは当時山科にあった「smile burger」へ。次に行ったのが琵琶湖の「AUNTY-MEE burger(AMB)」である。

 初めて訪ねたのは忘れもしない大雨の日。外で2時間待ちの行列に並んだ。2度目に訪ねて以降長話をするようになり、名物店主・岩波さんから「まずは東京行って食べろ」と強くアドバイスされる。

 私が橘さんと初めて会ったのは、AMBの新店舗お披露目パーティーの席でである。翌日「しば漬けツアー」なるものを企画していただき、加藤順漬物店などを巡った後、「九条ねぎバーガー MAHALO」へ行った。

 同年夏、今度は橘さんが東京へ遠征。私が都内を案内した。回った店は、1日目:AS CLASSICS DINERハラカラ。COCOCHI BURGERSOATMAN DINER。2日目:峰屋BROZERS'SUNNY DINER。3日目:FELLOWSAS CLASSICS DINER7025 Franklin Ave.

 最初のスタンプラリーの際にも上京。しかしイベント運営と『THE BURGER MAP 首都圏版』の取材で忙しく、このときはお会いすることが出来なかった。

 これまでに橘さんと私との間にはそんな往来があった。

●単純やけど奥が深い

 「店をやろう」という以前に「自分でも作りたい」という気持ちが強くあった。そこは根が料理人である。しかし、いざ作ってみたところでショックを受ける。「ええモン揃えたらおいしいやろう」と思っていたら、そうで無かったのである。

 バンズもパティも野菜も、産地にこだわり、最高級の食材を取り揃えて作ってみても、全然おいしくない。バーガーに完全にハマったのはそれからである。


 単純やけど奥が深い――。料理人であるだけに驚きは一層だった。そして「いつか自分が作るバーガーでお客さんに『おいしい』と言ってもらいたい」という希望が湧いてきた。

 当初はもっと奥まった郊外の緑の中でやろうと考えていたが、諸条件がそれを許さず、迷っていたところへ、「AMB」同様よく行く店だったフレンチドッグのオーナーから「いっぺんやってみぃひんか?」と声をかけられた。オープン2周年を迎える2011年2月にフレンチドッグの店長に就任。家業に専念せねばならなくなったオーナーは現場を退いた。

 店の中のことについて橘さんにある程度の自由が与えられた。メニューを変えても構わない。長らく国内外のバーガー研究に励んできた橘さんに、ついにその成果を試す場が与えられたワケである。

 とは言え、それまで2年続いたフレンチドッグの看板がある。イメージがある。お客さんも付いている。そこは引き継ぎたかった。

●プレミアムバーガーへの入門編

 これまで橘さんが食べ歩いたハンバーガーは一個千円を超すような、いわゆるプレミアムなバーガーである。だが広島「ゴッドバーガー」にヒントを得たコノ店はもっと庶民的な根付けをしている。

 京都市内中心部の繁華街から離れたこの立地条件を考えても、その価格設定は維持したい。しかし質は限界まで高めてゆきたい――そこで橘さんが掲げたのが「チェーン店とリッチバーガーの中間」という立ち位置。プレミアムバーガーへの入り口となるようなポジションだ。


 バーガー9品。ビーフパティ以外を挟んだ非バーガー7品。ビーフの"真性"バーガーは500円台のものが4品。ビーフ以外の非バーガー(サンドと呼ぶ方が正しい)には「スパムバーガー」¥460や「カツバーガー」¥450など、400円台のものが5品ある。

 ホットドッグが2品。店の名を冠したフレンチドッグは¥380。サイドのオニオンリング¥200は自家製。水を使わずビールで衣を作った「ビアバッター」である。ドリンクは懐かしの瓶モノが充実。

 パティはオージービーフのパティと国産黒毛和牛のパティと2種類がある。ともに80g。チーズバーガーはオージー¥560、国産牛¥690。この日は薦められるままに国産牛パティで。


 挽きは細かめ。ナツメグ等のスパイスが加わる。ミディアムレア、赤味の残る焼き加減。バンズは75g。地元山科で人気のパン店、観修寺そばの「HAYASHI」の作。濃い茶色の焼き色に表面ゴマなし。生地はややザラッとしており、口当たりは少しドライ。

 ヒール(下バンズ)にマヨネーズ。レタスとパティの間にBBQソース。オニオンはソテード。その上にケチャップ。トマト無し。ピクルス不使用。溶かし過ぎないチーズが好い。

 惜しい。ケチャップがだいぶ強く、全体の印象を歪めている。さらにソテーしたオニオンの甘味とBBQソースがそこに加わり、にぎやかな反面、味が集まり過ぎである。「船頭多くして船山に登る」のことわざ通り、味の上に味を重ねることがおいしいハンバーガーへの道とは限らない。

 以下二案のどちらかだと私は思う――。もし安価で良質な食材が揃うのなら、既製の調味料などによる味付けは極力抑えて、食材の味の良さで勝負。一方で、口の周りをケチャップで真っ赤にしながら食べる、駄菓子屋ノリなバーガーというのもこの際私は有りだと思っている。その場合にはそこまで良質の材料を揃える必要は無い。その代わり、一発で味の虜にさせるような、おいし〜い必殺ソースの開発を。

●名物・醍醐バーガー

 そんな中、店の看板メニューとして売り出し中なのが醍醐バーガー¥800である。「本当はもっとワイルドな、アメリカンなのが作りたい」という橘店長が、ファストフードからプレミアムバーガーへの移行のための第一歩として送り出したバーガーだ。


 地元山科・京都をはじめ、近畿一円の食材を集めて作り上げた極上の一品。この醍醐バーガーが定着したら「質の高い700〜800円のバーガー」を徐々に出してゆきたいとの計画である。さてその噂の醍醐バーガー、果たしてどんなハンバーガーであるかは……また次回(笑)! 続き物である。

§ §

 店内はテーブル8席・カウンター3席、あわせて11席ほど。店名はマスコット犬「ボビー」にちなむ。「ホンマは"ブルドッグ"なんやけど、"フレンチブル"にそっくり」、なのでフレンチドッグと。開店当初からハンバーガーの店であり、ホットドッグ屋から商売替えしたような経緯は無い。

 「スタンダード」¥500にサイドメニュー+ドリンクのセットで¥750。先日ご紹介した埼玉県は入間のワンコインバーガー、「BUKOWSKI」も同様な価格設定と志(こころざし)を持つ店だ。

 マックやモスでもセット価格が700円台に届いて久しいこの頃、「ファストフードと専門店の価格差」というものは急速に縮まってきている。そこに気が付く人ならば、わずか100円・200円の価格差の中にその値段以上の代え難い"価値"を見つけ出すことが出来る……かも知れない。全国いつどこで食べても同じ味「ではない」、店により味も違えば作り方も考え方も皆違う――専門店の良さ・個人店の良さというのは、紛れも無くその代え難い「付加価値」の中にこそあるのだ。

 だが、わずか100円・200円の差と言えども、明快に、明確に、チェーン店とは「明らかに違う」ことを納得させられる商品が提供出来ない限りは、多年ファストフードに慣れ親しんできた消費者を振り向かせることは容易で無いと心するべきであろう。求められているのは「微妙な違い」ではない。「明確な違い」だ。その違いをどう表現するか――大きな課題が店長橘さんの肩に、いや腕に懸かっている。

 いっそ1,500円、2,000円のバーガーを作る方が、使える食材の幅も含め、楽ではないかと思う。チェーン店とプレミアムバーガーの中間というポジションは、範囲の狭い一方で制約が多く、それだけにむしろ難しい。バーガーファン歴25年以上。その持てる知識と経験を振り絞って、橘店長の挑戦は続く。 (つづく)



# French Dog [京都・醍醐] の醍醐バーガー
【スタンプラリー#25】 French Dog [京都・醍醐] のカラミティ・ジェーン・バーガー

― shop data ―
所在地: 京都府京都市伏見区醍醐大構町14-1
     市営地下鉄東西線 醍醐駅歩3分 地図
TEL: 075-573-0990
URL: http://ameblo.jp/hamburger-frenchdog/
オープン: 2009年2月28日
* 営業時間 *
月〜土: 11:00〜21:00
日・祝: 11:00〜19:00
定休日: 火曜日(要確認)

2012.4.26 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:51 | TrackBack(0) | 西国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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