2011年3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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さて今回の店のオーナーもアメリカ人。
探求をはじめた当初、2004年ごろ、「米軍の在るところバーガーあり」と見当をつけて、米軍の基地周辺にバーガー店を探したことがあった。折しも「佐世保バーガー」なる食べ物が都内に紹介されはじめた頃である。戦後駐留した米軍すなわち進駐軍から、その作り方が広まったのが佐世保のハンバーガーの起源であるという。と言うことは、同様に米軍が進駐した厚木や横須賀、座間や横田にも米軍由来のハンバーガーが伝わっていてもおかしくはない……。
ところが結果は限りなくゼロだった。佐世保のバーガー店の多さを思えば、皆無と言っても差し支えない。横須賀のネイビーバーガーは近年誕生した後発の食べ物である。どうして佐世保に広まって横須賀には広まらなかったのか……その謎に私なりの仮説を立ててみたのがこの文章である。が、まぁそれはそれとして――。
それがここにきて、進駐軍由来では無いけれど、米軍"発信"という点で、やっと私が望んでいたような店が現れたのである。オーナーは現役の米軍兵士。2012年4月現在、なお海軍で働いている……と聞くと、どんなハンバーガーを作るんだろう? と興味が湧くことだろう。
●愛川町
神奈川の県央・愛甲郡(あいこうぐん)愛川町(あいかわまち)。東に相模川が流れ、西には丹沢山地が青く横たわるこの内陸地に、米海軍所属の現役水兵デニス・アダムスJr.さんは2010年秋、小さな店を出した。その名もO.M.G BURGERS(オーエムジーバーガーズ)。
公共の交通機関では行きづらい場所である。キャンプ座間の西方4km、小田急線本厚木駅から北に10km。最も近い駅はJR相模線の原当麻駅だが、単線のローカル線な上、店までは川越え・バイパス越えありの約5kmの道のり。お薦めは出来ない。
交通の便の限られる一方で、丹沢の山々がすぐそこに迫る地勢である。相模湖や宮ヶ瀬、道志みち、富士山などへのツーリングの途中立ち寄るのに格好のバイカーズスポット、中継拠点として人気を博している。週末ともなると凄まじい数のバイクが店前に並び、壮観。バイカーたちの憩いの場、くつろぎの場。"オアシス"である。デニスさん自身もハーレー スポーツスターを所有する。
●米海軍
デニスさんのお父さんもまた海軍で20年コックを勤め上げ、退役して自分の店を開いた、親子二代にわたる料理人である。デニスさんが初めて調理を経験したのはその父親の店でであった。
父に同じく海軍に入隊。横須賀に4年、佐世保7年、米国カリフォルニア2年を挟んで三たび日本、厚木に3年。この4月から最後の任地ワシントン州のブレマートン基地の配属となった。空母ステニスに乗船し、補給部の一員として5,000人を超える水兵の食事を担当する。
まだあと5年半の任務を残す一昨年の10月、退役後のことを考えて、一足早く自分の店をオープンさせた。将来日本で店をやることを夢見ていたデニスさん、愛川町に住んでいたとき、ふとコノ空き店舗を見かけて気に入り、準備らしい準備もしないうちに不動産屋へ行って決めてしまった。まさに電光石火、電撃作戦で早々に拠点を制圧した。
●free refills
店内14席。天井いっぱいに星条旗。壁には美しい落書き。そしてドル札の類。テラスあり、10席くらいはあるか。
食べて帰るだけの店なんてつまらない――誰が来てもリラックスできる"feeling warm"なレストランを作るのが夢だった。一度来ればみんな友達。そんなファミリーな店を目指している。大事なのはハート。サービス。店主不在の間は右腕であるシェフ・馬場さんがハートで厨房を預かる。
以前はイタリアンをやっていた腕に覚えありの料理人である。新聞の折込み広告で店のオープンを知り、興味を持ち訪ねた。当初はデニスさんと喧嘩ばかりしていた。そのコミニュケーションの中で、デニスさんの考える理念や姿勢を共有していった。大事なのはハートである。サービスである。
「安い値段でいっぱい食べて欲しい」と、ドリンクは"free refills"、 お代わり自由。ディスペンサーが置かれ、さらにポットも並んで、セットを頼んだ客は計10種類近くのドリンクを自由に何度でも、何種類でも飲むことが出来る。これぞまさしく"Oh My God!"、なんと豪儀な!
●that's American-style
デニスさんにハンバーガーの"real"なアメリカンスタイルを尋ねたところ、「無い」と返された。そんなものは無い。"My dream, my idea...... everyone difference"。それこそが"that's American-style"なのだと。ひとつの決まったかたちを探し求めているのなら、きっと一生見つけることは出来ないだろう、と。
例えばデニスさんは硬いドライなパティが苦手である。好物は中から肉汁が"dripping"するような"melty"なバーガー。なのでコノ店のパティはなんと! 牛豚合挽きなのである。前代未聞! おそらく米本国には無いのではないか。いや、遠く日本だからこそ許されることかも知れない。
蓼食う虫も好き好きとは言うが、ひと口に「アメリカ人」と言っても実に多種多様な人種・民族の集まりである。ゆえに味の好みも舌の感覚も千差万別。宗教だって習慣だってそれぞれ違う。「コレだ」というひとつに集約させることは困難ということでもあるのだろう。他人のことを気にし出したり、やり方に口を出していたりなどしたら、それこそキリが無いのだ。
他人のやり方に合わせない。気にもならない。自分には自分のやりたいことがある。自分のやり方がある――かく言うデニスさんには「行列ができる店ほどおいしい」というような日本的な発想が何とも滑稽に映っていることだろう。
"melty"な肉が好き。オニオンも生よりソテーが好き。そうした自分の好みに合った、「食べたいバーガー」をデザインする――"my stlye"を自分でデザインするのが"that's American-style"。だから「何を持って来ても入れるよ」と謳っている。琵琶湖の「AUNTY-MEE burger」と同じスタイルだ。客自ら自分のバーガーを作る、デザインする。そんな中から生まれたメニューも少なくない。
但し、実際には「何でもアリ」というワケでもない。多少の遊び心も含め、店頭においては自由を謳ってはいるけれど、それでもデニスさん個人の中には、アメリカ人としてのハンバーガーの常識やストライクゾーンというのは別にまたある。日本で言えば蕎麦にだって饂飩にだってルールはある。同じことである。その点は断っておきたい。ハンバーガーは「何を挟んでもOK」という無軌道で無秩序な食べ物ではない。
●巨艦"THE AKEBONO SUMOバーガー"
バーガー類7品。バンズは直径16cmの「A」と直径12cmの「B」の2種。Bの方がパティとのバランスは良いように思う(以下「A」「B」はバンズのサイズ)。単品でも注文出来るが、どう考えてもポテト・ドリンクバー付きのセットがお得だ。
目を引くのは週末限定のテリヤキテンダーロインステーキバーガーAセット1,000円、そして直径30cm、総重量8.5パウンド(約3,850g)の巨艦"THE AKEBONO SUMOバーガー"が名物だ(要2日前予約)。この"THE AKEBONO SUMOバーガー"についてはいろいろと逸話があるのだが、また別の機会に――。
スタンダードOMGバーガーBセット¥800。実質的にはベーコンチーズバーガーである。パティは牛豚合挽き、ともにUS産でサイズは200gと大ぶり。味の強いスペシャルソースがかかっていたため、私の嫌いな"合挽き臭"は確認出来なかったが、家庭で作るハンバーグのようにやわらかで、食べやすい。でも脂は少なめ。
バンズは愛川町に30年以上続く近所のパン屋に特注。てっぺん白ゴマ。裏にマヨネーズ。加熱し過ぎずミルキーなチーズ。焼き過ぎないベーコンは硬からず、手堅く味を利かす。みずみずしいトマトがスペシャルソースに刺激され酸味を増す。オニオンはグリルド。
後味はソース。正直ソースは余計に思う。おかげでだいぶ味が濃くなっている。折角のパティや野菜の積み上げがもったいない。「MOTTAINAI」は世界の合言葉である。
パティの脂分が少ないため、200gありながらも食べやすかった。そのやわらかな食べ口と食べやすさを評価したい。ハンバーガーとは咀嚼に疲れるような、決して硬い食べにくい食べ物ではないのだ。
●ハートフルな店
デザートにバナナスプリット¥700(2人前)。ミルクシェイク¥500は3種類。各種ボトルビールと共に、ノンアルコールビールの備えもあり。
ブレマートン基地へと向かったデニスさん。しかし休暇が多くあるので、時折戻ってくるという。雑で冷たいサービスが大嫌い。ざっくばらんで気取らず飾らず、いつ訪ねても古くからの友人のように厚く迎えてくれる――これぞ"that's American-style"! そんな心温まる店。
― shop data ―
所在地: 神奈川県愛甲郡愛川町中津3316-6
東名厚木ICから国道246号→129号、内陸工業団地内 地図
TEL: 046-286-0880
URL: http://www.omgburgers.com/
オープン: 2010年10月16日
* 営業時間 *
平日: 11:00〜14:00, 17:30〜20:00(金曜日〜21:00)
土日: 11:00〜21:00
※祝日の営業は曜日により上記の営業時間に従う
定休日: 月曜日(※要確認)