2011年3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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先日のFATZ'Sジョンさんは日本在住3代目のアメリカ人だったが、今日ご紹介するアーロンさんは、彼自らの意思や目的で日本にやってきた。ほとんど多くの在日・来日外国人に当てはまるケースがコレだろうと思う。
●聖地・入間
埼玉県は入間(いるま)のBUKOWSKI(ブコウスキー)。『カラミティ・ジェーン』スタンプラリーにおける劇的な参加の経緯についてはこちらをお読みいただきたく。主演湖月わたるさんの出身地、"地元"ということで、湖月ファンの「聖地巡礼」のような現象も見られた。そう、今やすっかり入間は「聖地」である(笑)。
西武池袋線、入間市駅より二駅手前武蔵藤沢駅で降りて歩ける距離。湖月さんの母校へ行くなら路線バス乗車。店も母校も方向は同じである。
●高校野球オーストラリア代表
この地に至るまでのアーロンさんの話をしなくてはならない。アーロン・トムソン(Aaron Thomson)さんはオーストラリア人。北東部ケアンズの生まれ。グレートバリアリーフに近い観光地だ。
お父さんはアメリカ人で出身はシアトル。オーストラリアに来て35年以上になる。お母さんはオーストラリア人。
ずっと野球をやっていた。中学生の頃にはトーナメント出場のため、広い豪州国内を何時間もかけて遠征移動。
高校野球のオーストラリア代表に選抜され、アジア大会・世界大会で活躍。高1のとき千葉マリンスタジアムで開催されたAAAアジア野球選手権大会で初来日。翌年は世界大会で台湾、高3でカナダに遠征。千葉での大会の折、プロスカウトの目にとまる。MLBも興味を示したが、3年生のとき怪我をし、結局オファーは無かった。
高校卒業後も野球を続けようと模索中、豪州第3の都市ブリスベンで知り合った日本人から「行けば何とかなる」と励まされて、社会人野球を目指して再度日本へ。シダックスのキャンプなどに参加するが怪我がネックで入団には至らず。そこで興味を持ってくれたのが群馬県の上武大学である。
野球部は関甲新学生野球連盟加盟の強豪で、「神宮大会(全国大会)優勝を目指して」スカウトされた(上武大はアーロンさん卒業後の'09年、明治神宮野球大会で準優勝を果たしている)。ハードな練習に耐え、厳しい上下関係も経験。「いい経験になった」とアーロンさん。
しかしまたも3年生のときに肘を壊してしまい、とうとうアーロンさんの野球人生が終わりを迎える。5年かけて商学部を卒業。この間ずっと群馬で過ごした。
●夜行性動物探検ツアー
卒業後オーストラリアへ戻るが、ふと「母国より日本のことの方が詳しい」自分に気付き、これではイカンと広いオーストラリア大陸をキャンピングカーで一周。
旅行後JTBに入社して日本語ガイドを務める。ツアーガイドという経歴はgem's burgerのジェムさんと一緒。アーロンさんが中でも得意としたのは「夜行性動物探検ツアー」。ツアーの目玉はカモノハシ(笑)。
それでも日本に惹かれるものがあったのだろう、「今度は都会に挑戦したいな」と、ネットで仕事を探して東京の広告代理店に就職した。しかし都会の生活と営業の仕事はどうも自分には向いていないと気付き、「そろそろ自分で一番したいことをしよう」と思い立つ。それが自分の店を持つことだった。
東京で店を持つには家賃が高い。頭金も要る。東京でなくてもいいやと調べたら入間が出て来た。
それまで入間に行ったことは無かった。米軍基地の存在も知らなかった。ある人から「やるなら居抜きの住居付きで」とアドバイスされ、その条件で一発ヒットしたのが入間だった。
以前は居酒屋。その前はパブ。テーブル席14、カウンター6、リゾートを髣髴とさせるテラスもあり。夜が主体のハンバーガー&バーである。昼も夜もアーロンさん1人でやっている。
東京の食べ物はおいしいけど高い。大学の頃は貧乏だったので安いランチをよく探した。最も重視するのはコストパフォーマンス――「安く」て「おいしい」、そして「手作り」――そんなワンコインバーガーを提供したい。日本に無い安さを!入間だからこそ出来るワンコインバーガーを!これがアーロンさんが作るハンバーガーのテーマである。
●ワンコインバーガー
バーガー類8種、ドッグ6種、サンド3種はポテト&サラダ付きでランチ全品500円!あまりの安さに私はこの値段をしばらく覚えられなかった。
今日何を食べるかを「値段で決めて欲しくなかった」とアーロンさん。「その日に食べたいものを」値段を気にせず選んで――と、トッピングに因らずバーガー全種類均一の500円に。夜でも750円。パティは一日30個限定。売り切れたときのため、チキンとスパムのバーガーを後から増やした。
はい!チーズバーガーランチ\500、ディナーでも\750。頭に「はい!」が付くのは、寅さんの記念撮影の掛け声「はい、バター」から(笑)。アーロンさんは大の寅さん好き。日本人でもまず居ない、『男はつらいよ』シリーズ全48作制覇のつわもの。
120gパティは、アーロンさんと同じUSとオージーのミックス。少量のタマネギと香辛料を加えている。牛脂を一切入れない"98% no FAT"。挽きは細かめだが、脂が無いので噛み応えがある。
バンズは地元で人気のパン屋が作る無添加。日持ちしないので毎日取りに行く。表面ツヤなし。硬めに見えるがそうでもなく、オーブンで3分、裏もこんがりよく焼いて、甘味の少ない食パンにやや近い食べ口。薄い焼き色も食パンの耳の感じに近いか。
野菜もなるべく埼玉産。チリチリとした口当たりのシュレッドオニオン。ピクルスの皮がプチッと弾ける。チーズバーガーにはトマト&レタスは入らない。チェダーチーズを2枚使い濃厚。あとはケチャップとマスタード……そう、マクドナルドのチーズバーガーとほぼ同じ構成である。
ケチャップ&マスタードの味が明快でわかりやすい、世間一般に思い浮かぶ「ハンバーガー」のイメージに基づいて作られたバーガー。時間を置くとややパサつくが、ポテト&サラダ付きで500円なら十分満足だ。ファストフードとプレミアムの中間をゆく価格帯のバーガーとして注目したい。
●遠心力ビリー紅茶
樽生はサントリーモルツ。豪州のビールFoster's、豪州産の有名なラム酒Bundaberg Rum(バンダバーグ・ラム)など、オーストラリアならではのメニュー多数。シェイクも豪州流、通常のシェイクと濃厚(thick)シェイクの2種あり。ミロシェイクなんていかにもアチラ風。
さらにその昔、豪州のカウボーイが飲んだという遠心力ビリー紅茶\450なる名物あり。ビリーティー(Billy Tea)。委細頼んでのお楽しみに。日本には「円月殺法」なる剣法があるのをご存知ですか?>アーロンさん(笑)。
さてオーストラリアのハンバーガー事情について簡単に。ちなみにBROZERS'の北浦オーナーもシドニーのレストランで働いていた。
毎週土曜日にBBQをするのがトムソン家のルールだった。他の家よりもハンバーガーはよく作った。日曜日はローストディナー。日曜だけは家族全員集まって、チキン、ポーク、ラム、もちろんビーフもローストにして、テレビも観ないでおいしい晩餐。
オーストラリアのハンバーガーはけっこう大きい。よく入っているのがビーツ(赤カブのようなもの)。苦手な人もおり、服に着くと色が残るのでビジネスマンの中にも嫌う人も。
パイナップルをけっこう入れる。フライドエッグを入れる人も多い。ハンバーガーの専門店はあまりない。特に海沿いに「フィッシュ&チップス」の店が多くあって、その1メニューにハンバーガー……今日はココまでにしておこうかな(笑)。
●作家チャールズ・ブコウスキー
店名はアメリカの著名な作家・詩人チャールズ・ブコウスキー(Charles Bukowski)の名にちなむ。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズのある曲の中に"I read Bukowski"という歌詞が出てくる。アーロンさんがずっと聴いていた曲だったが、5年ほど前に初めてその歌詞に気付き、調べたところ、この変わり者の小説家の名を知ることとなった。
50過ぎまで売れず、それでも自分のやりたいことをずっとやり続けて、やっと売れるようになった――すごいな!現実的で、リアルで、すごい好きで、以来大ファンになった、とアーロンさん。
最初ダメでも諦めないで、好きなことをずっと続けてゆくブコウスキーの生き方と哲学にアーロンさん自身の思いを重ねて、彼の名を戴いた。東京からもブコウスキーのファンが訪ねてくるという。
湖月さんの地元・入間の店。作り手は群馬の大学を出たオーストラリア人。怪我には泣いたが不撓不屈の精神でついに始めた店が目指すは、安くておいしいワンコインバーガー。なぜか供される"箸"が凝っている。
店の外には偏屈なアメリカ人作家の言葉、"Some people never go crazy, what truly horrible lives they must live."――男はつらいよ、それでも人生一度だけ!
→ 【スタンプラリー#20】 BUKOWSKI [埼玉・武蔵藤沢] のカラミティ・ジェーン・バーガー
― shop data ―
所在地: 埼玉県入間市下藤沢1128-8
西武池袋線 武蔵藤沢駅歩10分 地図
TEL: 080-4174-1915
URL: http://ameblo.jp/bukowski-burger/
オープン: 2010年12月19日
営業時間: 11:30〜15:00(14:45LO), 18:30〜24:00
定休日: 月曜日・火曜日(※要確認)
2012.4.8 Y.M