2012年04月05日

# 279 FATZ'S [高円寺]




 2011年3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

§ §

 さぁそんな流れの中コノ店、高円寺(こうえんじ)のFATZ'S(ファッツ)である。ベスト・ジェーン・バーガー投票で僅差の第4位。

●三鷹生まれのアメリカ人

 東京生まれのアメリカ人。日本在住20年・米国在住10年というその経歴に強く惹かれるものがあった。「gem's burger」や「MARTINIBURGER」がそうであったように、きっと日本人の作るものとは違うハンバーガーが食べられるだろうと期待したのである。



 店主ジョン・レヴィン(Jonathan Levin)さんのお祖父さんが来日したのは1952年(昭和27年)。以来一家は日本に住み、ジョンさんは3代目である。両親ともアメリカ人。国籍はアメリカ。でも実家は三鷹(笑)。


 生まれてから5歳まで日本。5歳から10歳まで米国カリフォルニア州バークレーで過ごし(「frisco」森崎さんも住んでいた街)、10歳で戻って20歳まで日本。またアメリカに渡り5年ほど暮らし、そしてまた日本……と、日米どちらの文化も言語も習慣も、バランスよく習得し理解する、たいへんバランスのよい人物である。

 英語がしゃべれないともっぱら噂のタレントW氏のようなことはなく……と思ったらW氏も三鷹(みたか)のご出身で。

 彼のような人を「サードカルチャーキッズ(Third Culture Kids)」という。やや否定的な意味合いで使われることもある言葉のようだが、ジョンさんは特にそんな意味を持たせずに、自らの生い立ちを説明するために使った。オバマ大統領もそうだと言う。


 調べると「両親の生まれた国の文化を第一文化、現在生活している国の文化を第二文化とし、この2つの文化の間で、特定の文化に属することなく独自の生活文化を創造していく子どもたちのこと」と出てくる。

 米国でも日本でもどちらでもない"間"。食に関しても"間"。だからジョンさんの場合、「アメリカではこう」という厳格で頑なルールに頼り過ぎることなく、両国の「いいところ」「おいしいもの」を隔てなく集め取り入れて、柔軟かつ純粋においしいもの"が"作りたいという姿勢を常に持っている。

 アメリカのバーガーに執着し過ぎない。日本にも執着しない。ただ「おいしいもの"が"作りたい」――それこそがFATZ'Sの執着する(こだわる)ところである。

●ヴィレッジヴァンガードダイナー

 バンドを組み、ギターとヴォーカルをやっていた。その巨体から絞り出す歌声はどんなだっただろう――まだ音源は聴かせてもらっていない。


 インディーズレーベルと契約を結び、CDをリリース。全国ツアーも開催。さらに活躍の場を求めて米国へと渡り(カリフォルニア)、音楽活動を続けるも、やがて解散。日本へ帰国後はフリーペーパーの編集長やレコード会社勤務などの仕事を重ねるが、ご存知の通り音楽業界も昨今苦境である。そこで「店をやろう」と、小さい頃からの夢がふと思い出されるようなった。

 本当はサンドイッチや惣菜などを扱う「デリ(Delicatessen)」がやりたかったのだが、日本は「サンドイッチ文化じゃない」とアドバイスされて諦める。「ヴィレッジヴァンガードダイナー(Village Vanguard Diner)」で働くうちに「日本でアメリカ人が店やるんだったら、バーガーもいいな」と、徐々にハンバーガー屋がやりたくなってきた。

 ヴィレヴァン(ビレバン?)には2年ほど。アメリカ人ということもあって名物スタッフ的な扱いを受け、販促物などに顔写真が使われることもあった。正直なところ、ハンバーガーについては特に教わるようなことも無いワケなので、それこそ自分の店を開業する際に必要なビジネスについて勉強がしたかったという感じである。しかし結果とし多くのことを学んだ。いかにも日本人好みの「おいしそうなバーガーを作る」という点で私とジョンさんのヴィレヴァンに対する意見は一致している。

●高円寺発、目指すは世界一

 最初、物件は吉祥寺(きちじょうじ)を希望していたが、家賃がとんでもなく高い。小金井(こがねい)なども家賃が上昇中の街である。そんな中、高円寺のコノ物件を見つけた。

 商店街を一本折れた裏通りのさらに奥まった立地なため、家賃こそ安いがなかなか借り手がつかない物件だった。


 しかし店の前に広場(中庭)があって、テラス席も造れ、駅前なのに落ち着いていて……といった雰囲気が気に入り、フィーリングですぐに決めた。以前勤めていたレコード会社も高円寺に在る。

 それに世界一のバーガー屋を目指すジョンさんとしては、いろいろな人に食べに来て欲しい。バーガーファンにも来て欲しい。なので駅からなるべく近いところでやりたかったのである。ココなら改札を出て3分の距離。

 一人でやりたかった。そしてお客さんと話がしたかった。なので一人でも切り盛れる、カウンターだけの店を造った。

 店のデザインは友人と一緒に考えた。タイルを自分で貼り、壁は明るい赤にした。カラフルなメニューブックのデザインも含め大胆かつポップな色遣いには、やはりどこか異国な、異文化な色合いが感じられる。日本人ならもっと無難な色に落ち着く。冒険をしない。入り口の扉には店内で使っている色が全色使われていて、ちょうどカラーチャートのようになっている。

 店内いくつかの箇所は"アメリカンサイズ"にした。カウンターがそうで、大柄な人が座りやすいよう敢えて「5cm」高くしたというが、その分多くの日本人にとってはちょっと高い。腕自体を乗せるようなカッコウになってしまう。

●国産牛パティの味

 さてバーガーの話題へと――。


 ジョンさんは米国と日本の"間"、食に関しても"間"というポジションを持っている。そここそが彼の背景、バックグランドなのである。

 だからネイティブなガチガチのアメリカ人と比べると、ハンバーガーに対する姿勢も柔軟で、大らかな考え方ができる。おいしいもの・よいものであれば国や地域を選ばず、積極的に取り入れる前向きさがある。

 ヴィレヴァン的な影響も感じられる(特にメニューのネーミングなど)。つまり彼の作るハンバーガーは100%アメリカ人の作り出すソレともまた違う。日本の優れた点にも目を向けている。そしてその上に自分のバーガーを、"FATZ'S"のバーガーを作り上げているのである。「gem's burger」にも通ずる部分があるだろうか。


 日本は食材が良質で新鮮だとジョンさん。新鮮さでは日本は米国に負けていない。野菜も、そして「肉も上」であると。なのでパティには国産牛を使っている。「アメリカの肉はおいしい。大好き。だけど味が決まってくる。"その味"になる」だから「逆に日本の肉を使おう」。

 ここで私の仮説が覆る。クサミが強くなく、甘くて丸い味が特徴の国産牛が、ジョンさんの手にかかると不思議なことにナゼかアメリカ的な味になるのである。ナゼ??

 挽き方はごく普通。肉屋に任せている。サイズ120g。グリルはガスの直火。炭を使うか迷った。でも炭は「"炭の味"になっちゃうので」敢えて使わなかった。USビーフを使わない理由と一緒である。

 食べる途中で崩れるようなパティは"NG"で、ステーキを食べているような一体感がないといけない、とジョンさん。そんな部分にアメリカ人的な、細々としたルールが窺える。ポロポロになるんだったらバーガーじゃない――そのために捏ね具合・厚みなどを工夫し、成形には専用の道具も使う。

●オーツ麦のバンズ

 調味料はほぼ米国産。初めて名を聞くようなBBQソースもある。ナプキンも米国製。「これは米国製でなければいけない」というものはすべて米国製。なので諸々コストはかかっている。


 特製バンズもてっぺんにオートミール(オーツ麦)を乗せた辺り、いかにも米国的。70g。生地に押し戻すような弾力あり。6,000円のホットプレートを使ってカリッと焼いている。レッドオニオンも同様のアクセント。

 バーガーメニューは9品+マンスリーバーガー等の限定メニュー。"THE SOUTHERNER"や"The Corleone"など、ユニークなネーミングが占める中、プレーンなハンバーガーとチーズバーガーは写真も無し。チーズバーガー¥1,000。チーズは3種類、"米国産の"チェダー(国産とは味が違う)、プロボローネ、ウィスコンシン州産ハバーティ。この日はハバーティで。ゆる〜くイイ〜ニオイをさせて、独特のゆる〜いミルク味を利かせる。派手ではないが旨味が全開。

 脂分20%・赤身主体のパティは、挽肉個々の細かな単位ではポソッとドライなのだが、全体にはふっくらと食べやすく、肉汁を内包。そのニオイといい、やはり米国的である。基本は塩コショウだというからますます不思議だ。ベースにまず「肉」が在る。


 カリッとエッジの利いたバンズの裏に酸味の弱いマヨネーズ。粒マスタードがよく利いている。サイドのコールスローはママの実家・米南部ノースカロライナ州のスウェイン家代々の味だ。

 日本人が作るハンバーガーとはやはり違う。ジョンさんのフィーリングはやはりアメリカ人なのだ。「肉」の味が楽しめる――そこにはじまり、そこに終わるバーガー。なにしろ「肉」に尽きる。

 多少ガサッとザラつく食感があるかも知れないが、それこそハーシーズのチョコレートやルートビアに同じく、異国の味であり香りである。その文化の違い・趣の違いをこそむしろ楽しむべきだろう。

 草もちや桜もちを食べるのと丸っきり同じ感覚で、何の違和感もなくスッと食べられてしまうハンバーガーなんて、つまらないと思うのだが。インド人がやってるインド料理屋に行って、丸っきり和風なカレーが出てきたらガッカリするのと同様に。

§ §

●ビールもパイもケーキも

 「ママの作るケーキには敵わない」と、週末限定でジョンさんのママ自家製ケーキが並ぶ。画像上はピーカンパイ、下はラズベリーチョコレートシフォン。これがまた美味。

 ベイエリア、バークレーに住んでいたこともあり、ご存知サンフランシスコのアンカー社のビールと、同じくサンフランシスコ近郊サンノゼ(サンホセ)で醸造しているということでコストコのブランド"KIRKLAND"のビールも4種類扱っている。その"KIRKLAND"が安い上に侮れないおいしさ。

 店名は有名なニューヨークの"Katz's Delicatessen"のもじり。「他の店とは違うことがしたい」と店主ジョンさん。味も見た目も。そして店も。目指すは世界一のバーガー。アメリカ人のフィーリングと、それだけにとらわれないアイデアの幅の広さを併せ持つ店である。……あ、「幅の広さ」はそれだけじゃないが(笑)。



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― shop data ―
所在地: 東京都杉並区高円寺北3-21-19 ライオンズプラザ高円寺E号
     JR高円寺駅歩3分 地図
TEL: 03-6762-3939
URL: http://fatzs.lolipop.jp/top.html
オープン: 2011年4月29日
  * 営業時間 *
火〜土: 12:00〜15:00, 18:00〜22:00
日曜日: 12:00〜18:00
定休日: 月曜日・第3火曜日(要確認)

2012.4.5 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:27 | TrackBack(0) | 東京編◆西部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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