3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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たい〜へん長らくお待たせいたしました――幹書房『THE BURGER MAP 首都圏版』掲載の56店中、実は最後の登場の大トリ! 東京・代官山の若き名店GRILL BURGER CLUB SASA(グリルバーガークラブ ササ)。
●トレインビュー
東急東横線渋谷の一駅となり、代官山駅のホームからものすごくよく見えるお店。電車を待っている人は確実に見ているに違いなく、そうした意味では店のみならずプレミアムバーガーのよき広告党でもある。
つまり店からも駅は丸見え。実にトレインビューな店である。好きでなくとも日がな一日ぼーっと座っていれば、この上り下りの電車の姿に飽きることはないだろう。
というワケで駅歩1分の好立地である。
24坪42席という大箱。私に言わせると明らかに飲み会・貸切パーティー向きな店である。しかしそこはオシャレな街・代官山――女性客がなんと9割!
10年以上残る店が造りたい――との思いから「いいもの、しっかりしたものを造ってもらった」と若きオーナー・佐々岡さん。白とダークブラウンのツートーンのシックでクラシカルな店内は、アーリーアメリカン調の「木」の雰囲気と、ヨーロッパのビストロの温かさを合わせたような、「国籍不明なんだけど、でもどこか外国」という非日常的な世界観を表現。BGMはご陽気なディキシーランドジャズ。
●ファイヤーハウス
佐々岡さんは島根県の出身。ハンバーガーと出会ったのは上京してからのことである。
バイト先のオイスターバーで出すグリルソーセージがおいしくて、実は最初はホットドッグに目をつけていた。「おいしいホットドッグが食べられる店」というと、結局ハンバーガーショップの名が多数挙がってくるのは、5年前の当時も今も同じこと。都内の有名バーガー店を回るうち、佐々岡さんは「ファイヤーハウス(以下「FH」)」にめぐり合う。
そして不思議に思った……千円もするバーガーに何であんなに並ぶんだろう? あれだけ並ぶということは相当利益が出てるんじゃないか? 専門学校へ通いながら「商売として成り立つものは何か」というテーマを日々真剣に考えていた時期だった。とにかく「新しいものがやりたかった」佐々岡さん、FHについて調べるうち「おっ、コレじゃないの?」と思った……思ちゃった(笑)。
「確実に2年半後に独立する」と断った上でFH入り。アルバイトから正社員、そして店長を丸2年務めた。
店にとっても伸び盛りな時期で、佐々岡さんはその「生産性」を身に沁みて感じ、結果生み出される「付加価値」をいかにして高めるか、その飽くなき追求の姿勢を学んだ。そして思った――生産性と高付加価値、これこそビジネスの基本ではないか。その基本中の基本が日々達成され実現してゆく、こんなところで働いている自分ってすごいな(笑)と。
この辺りの佐々岡さんの経営的な感覚が独特で面白い。目標は「グルメバーガーの可能性をもっと追求してゆきたい」。
コレは「何を挟みました」「こんな無茶してみました」という創作バーガーの話ではなく、もっと日本人に合ったスタイル、日本人の生活と文化に馴染み、根差した状態においてのハンバーガーを追求し、創造してゆきたいという、業態の在り方そのものに関わる根幹の話である。その辺りの見据え方がやはり面白い。
●国産牛と全粒粉バンズ
FH退職が2008年10月。きっちり半年後の2009年4月にSASAオープン。
はじめは恵比寿で店を探していたが、激戦区ゆえ見合う物件に出会えず。代官山の今の場所は良いのだが、広い店なのでその分家賃も高い。しかし駅歩1分の近さは魅力的で、大手企業も食指を動かしていた。
そこで佐々岡さん、FHのハンバーガーを持参して大家に直談判。「自分はこんなことがしたいんです」とダメ元の自己アピールを敢行。それに感じ入った大家さん夫婦はその日のうちに返事をくれ、他の話をすべて断る大英断。実績も知名度もある、賃借人としてはるかに安心安全な大手企業よりも、まだ駆け出しの若者の夢に賭けてくれたワケである。
テイクアウトメニュー掲載のバーガーは、チキンも含め計20品。マンスリー1品。他にサンド4品。ドッグ4品。ごはんものは無し。チーズバーガーR¥1,100。レギュラー(R)はパティ100gでバンズ95g。スモールはパティ80gのバンズ55g。
このバーガーは最初にまず良質な国産牛肉の存在があり、この深みのあるおいしい肉の味を引き立てるバンズはどんなものか……という順序で作られた。
肉屋とよく話し合いトリミングを徹底。脂は少なめ。なので肉汁も少ない。やや細かめに挽いており、ほつれるような食感が特徴的。肉の旨味を味わう点では、ややコショウが強いか。
このパティを引き立てるべく考えられたバンズは「峰屋」製。峰屋とはFH時代に出会っており、迷わず相談を持ち掛けた。そのバンズがおいしい。
峰屋の中でもヒット作ではなかろうか。佐々岡さんの要望で入れた全粒粉が香ばしさ抜群。店ではさほど強く焼いていないというので、しっかりとした食べ口の生地は窯での焼きの強さによるもの。クラスト(表皮)がやや厚め。ゴマの焼けたニオイが何とも香ばしく、それだけで食が進む。後味に"誘うような"適度な甘味あり。酒種天然酵母の旨味が控え目に活きている。
●メルティ
コノ店最大の特徴はオニオン。メニューには「グリルオニオン」と書いてあるが、これはソテードである。わかりやすく言えばオニオングラタン状態。
佐々岡さんが渡米中に食べたバーガーの中でも特に印象的だったという、オニオン乗せのバーガーにヒントを得ている。昨今オニオンをグリルして出す店が増えているが、ここまで徹底してやってこそ真にオニオンに火を通す意味が出てくるというもの。
炒めるほどに量が減ってゆくオニオンを、最後にオーブンに一定時間入れてメルティな仕上がりに。オーナー曰く「オープン時よりも旨くなってる(笑)」。
レッドチェダーがオニオンと絡み、地味ながらもマイルドな旨味を発揮。レリッシュはスイートでなくディルを刻んでいる。上からパラパラとパセリ。「溶けちゃうようなハンバーガーが好き」と佐々岡さん。パティを包み込むようなオニオンのとろ味と旨味が、それをみごとに実現させている。
●小さな贅沢
そんな佐々岡オーナー、新聞を読んでいて「小さな贅沢」という言葉が目にとまり、ポーション(盛り)の問題に思い至った。
客層はほぼ女性である。ガッツリ系のイメージが強いバーガーだが、スモールだって十分満足できるおいしさだ。こと日本人の食習慣に照らした場合、はたして食べ切れないほどの量が必要だろうか。小さくておいしい――それが結局、背伸びせず下駄を履かせず、日本人に無理なく合ったスタイルなのかも知れない。そういった取り組みもまた、佐々岡さんが言う「グルメバーガーの可能性の追求」のひとつでもあるのだ。
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突拍子も無い組み合わせを思いつく「ひらめき」や、ちょっとした工夫によってではなく、手間も暇もかかる地道な仕込み作業によって店の「顔」とも呼べる味わいを作ってくる辺りに、コノ店らしさがよく表れているように思う。今後どう展開してゆくのか、放っておけない店である。注目したい。
なお、写真は夜の撮影ばかりが多いが、どちらかと言うと昼が主体の店である。午後にゆっくりお茶したいバーガー店。
→ 【最新情報】 GetNavi web「週末はハンバーガー」――第16回はGRILL BURGER CLUB SASA [代官山]
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# GRILL BURGER CLUB SASA [代官山] のハンバーガー TOPPING チリ
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― shop data ―
所在地: 東京都渋谷区恵比寿西2-21-15 代官山ポケットパーク1F
東急電鉄東横線 代官山駅歩1分 地図
TEL: 03-3770-1951
URL: http://www.hijiriya.co.jp/
オープン: 2009年4月22日
営業時間: 11:00〜22:00LO
ランチ: 11:00〜16:00
定休日: 第3火曜日(要確認)