3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震、ならびにその後も起き続ける余震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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さぁそんなこんなで――大須の町の観音様の、本殿の脇を抜けた裏手……いかにも昔の町中らしい古い町並みで、お向かいは藤間流のお稽古場だったりするのだが、さぁそんな中、古びた赤レンガの味わいがむしろ町に溶け込むコノ店、SMASH HEAD(スマッシュヘッド)。赤いレンガ壁には店名のペイント。ペールグリーンの両開きの扉。店の前にバイクと言うかスクーター。
●バイク修理、カフェ、パブ
店名から察しのとおり、バイク修理&カフェ・パブという、好きな人にはたまらなく突き刺さる一店。
入ると右手に細長くゆとりを持った造りのキッチン。その手前にカウンター。左手がホール。
次のひと間も本来はホール。お客さんが居ない雨の日などは修理中のバイク置き場に。ソファと言うより応接セット風な椅子机が置かれており、修理を終えた我が愛車を眺めつつ、コーヒーを1杯……なんて至福のシチュエーションが叶う夢の空間になっている。一番奥が作業場。
実は「ロコバーガー」とは歩いて4分ほどのご近所である。何かしら催事があるとドドッとイチゲンさんが押しかける場所柄。先日は大道芸人祭でごった返した――と、オーナー白井さん。
普段はの〜んびりスローな空気。ランチ営業は4時までで、付近の店のスタッフなどが昼休憩に訪れる。カフェのお客さんが居なくなるとバイクの修理を……という、二足のわらじを華麗に履きこなす店である。
オープンは2003年8月某日。気が付けば「なんとなく営業してた」ので、正確な開業日の記憶は白井さんには無い。バイク修理とカフェは同時開業。つまり最初から現在の「手前カフェ」「奥にバイク修理」という図式が出来上がっていたワケである。
●vespa(ベスパ)
白井さんのバイクとの出会いは10代。初めて乗ったのはカワサキだったか。
その後ハーレーなどひと通り乗ったが、結局行き着いたのは「vespa(ベスパ)」である。一時期は「ありえんくらい持ってた」そうで、倉庫を借りて所蔵していた。今でも愛車はベスパ。その方面ではよく知られた店である。
そのベスパとは何か……聞けどもオーナーちっとも教えてくれず(笑)、やむ無し、サイトの説明を引用すると、
「イタリアンデザインの粋。ベスパは航空機のテクノロジーを応用したスチールモノコックボディー、後輪と一体になったエンジンを採用した世界で唯一のスクーターです。しかもオートマテックトランスミッション、インジェクションエンジンを搭載、デザイン、テクノロジー、安全性どれを取ってもベスパは完成されたスクーターです」
――要約すると、イタリア製のカッコいいスクーター。「ローマの休日」というのがいちばんわかりやすい。
昔から機械モノが好きだった。乗るより直す方が好きで、友人知人からバイク修理を頼まれるうち、どうにもベスパの依頼が多くって、それでいつしか本人もベスパになったと(笑)。
●バイヤー
白井さんは務めていた会社でレコードのバイヤー、買い付けの仕事をしていた。
アメリカへはよく渡った――。
全米各地で名盤・珍盤を掘り出してはLAへ送り、集まった品々をコンテナへ積み込んで日本へ。その買い付けの旅すがら、行く先々でハンバーガーをよく食べた。
時代的にはディスコ、クラブミュージックの全盛期。白井さん曰く「学生がいっぱい居て」「クラブがある場所」というのが中古レコードに多く出合える二大条件だそうである。そんな場所にはかならず「おいいしいドカ飯屋」があって(要は安くて小さな個人営業のダイナー)、そこで食べるハンバーガーの大きさにたびたび驚かされた。
そして英国へ渡るうちギネス好きに。「カフェやろうか」と思い立ったのはギネスがきっかけである。英国によくある、田舎の「さびれた」感じのバー……それがコノ店の原形という。
なのでギネスとハンバーガーは、当初より二大コンセプトだった。
デザインも白井さん自身で手がけた。床には古材を使い「さびれた」感じを演出。コノ店が面白いのは、実は相当マニアックな店でありながら、同時にオシャレなカフェとして一般の客層からも利用されている点である。
●ベーコンエッグチーズ
バーガー類4品、ドッグ2品、サンド5品。ほかにピラフやパスタ、「ありそでなかった」ナポめし¥850。
往年のファイヤーキングの皿に乗って登場、ハンバーガー¥900。名前はシンプルだが内容はベーコンエッグチーズである。
パティは75g。ハンバーグプレート¥1,200のものと同じ、ハンバー「グ」。バンズは特注品で90g強、パティより多い。挟む食材が満載なだけに生地の脆さ・耐久性が気になるところ。ちょっと頼りない。
オニオンはグリルド。最近グリルする店が増えてきているように思うが、コノ店のグリルドオニオンは良い。中途半端な焼き方に終わらず、巧く甘味が引き出されていて、これなら焼く意味を感じる。
ベーコンも良い。ややクリスピーな強い焼き加減で、硬くもあるが同時に食べやすくもあり。エッグは両面焼き。他にトマト、レタス、スイートピクルス。上下バンズの裏に適量のマスタードマヨネーズ。
ふつうこれだけ挟まっていると、もっとグチャグチャになるところだが、ソースや調味料の力を借りることなくまとまっているのはみごと。ポイントはオニオンとフライドエッグのコンビネーション。何よりすごく丁寧に作っていることが感じられる一品。
気になるのはやはり「肉」である。ハンバーガーと言うからには「ハンバーグ」ではなく、つなぎを入れない「パティ」を挟んで、牛肉本来のおいしさを味わいたいところ。白井さん自身も長年そのようなことを強く思い続けていたのだが、しかしソレを許さなかったのは、われわれ日本人の牛肉およびハンバーガーに対する理解の無さだろう。
それでも白井さんが頭の中に思い描く"リアルな"ハンバーガーがお目見えする日が、そう遠からぬ未来にあるいは訪れるかも知れない……来るべき「Xデー」を楽しみに待ちたい。
●セントパトリックデー
Xデーの前に……ギネス大好きということで、毎年3月にセントパトリックデーを盛大に祝っている。アイルランド人の常連さんの働きかけで始まって、今では大須観音の境内を借りてパレードをするらしく……いやいや、大須観音は仏教ですぞ(笑)!
大須の町が緑に染まる一日……これですな? そしてこ、これですな? ←どうせならご当地スマッシュヘッドへ行きましょうよ。ちゃんと白身(タラ)のフィッシュ&チップス置いてますから。
当日はギネスビールを特価販売、樽がガンガンと空きまくり、店の外までドンチャン騒ぎであふれ返るという、何ともご陽気な祝日。京都の「toms」さんトコでもやってますね(店主トムさんは北アイルランド出身)。
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まぁまあ何だかんだで、大須は「祭りが似合う町」ということで――。
重くてややクセがあると思われがちなギネスが、コノ店のハンバーガーとは不思議とよく合う。グリルしたオニオンとの相性だろうか。
ベスパとギネスとハンバーガー……多趣味、多国籍な多文化融合地点。これだけさまざまな要素を含みながら、マニアックに陥らない辺りがコノ店独自のバランス感覚だろう。実に魅力的!
― shop data ―
所在地: 愛知県名古屋市中区大須2-21-90
地下鉄鶴舞線 大須観音駅より徒歩2分 地図
TEL: 052-201-2790
URL: http://www.smashhead.com/
オープン: 2003年8月
営業時間: 12:00〜24:00
定休日: 火曜日(要確認)