2011年09月28日

# 271 Tity Diner [埼玉・川口]




 3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震、ならびにその後も起き続ける余震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

§ §

 行田(ぎょうだ)、大宮、与野と上ってきて、いよいよ川口。荒川を渡れば東京都である。東京手前の市、川口市。この街にハンバーガー専門店が2店。まずご紹介するのは……さてどこから話そう?

 地元埼玉の出版社・幹書房刊『THE BURGER MAP 首都圏版』に掲載した川口の店「Spiders BURGER×PIZZA」が、昨年2010年11月末に閉店。ナンだよナンだよぉ〜……と絶望と悲嘆に暮れていたところが、今年5月、同じ川口に店長が自分の店を始めたとの報せが入り……。その店の名はTity Diner(ティティダイナー)。


川口駅東口


●川口

 京浜東北線川口駅で降りたのも人生2度目。1度目は西口のリリア(川口総合文化センター)で高校生が演じるミュージカル『桃次郎の冒険』を鑑賞。2度目の今回は東口へ、自らが挑むハンバーガーの冒険。

 駅前には大宮タカシマヤよりは断然機能していそうなそごう川口店。人口50万都市。でまた与野のケース同様、ミョウな形で鳩ヶ谷市を抱き込むような市域だなぁ……と思っていたら、来たる2011年10月11日に鳩ヶ谷市は川口市に編入されるのネ? これまた適時(タイムリー)。と言うかサイト見てるとうっすら悲愴感……。

●アリオの前

 東口で否応なく目につくのが←コレ。商業ビル屋上のライオン像。インパクト絶大! そのライオン像の脇を通り――どこぞの異国の怪物のように旅人にやたら謎かけしたりはしません――そのまま真っ直ぐ。

 この道、途中から産業道路と呼ばれる県道に。広大なアリオ川口(サッポロビール工場跡)の敷地前まで来たら、その向かいにコノ店。人の集まる場所だし路面店だし、「スパイダースのときより立地は良くなった」とオーナー星丘さん。

 星丘さんはホテルマン。最初はサービス、接客だった。「パレスホテル」でのキャリアを皮切りに、恵比寿の「ウェスティンホテル東京」は1期生。麻布にある会員制レストランで初めて厨房に入り、大宮のイタリアンで店長を3年。その後友人らとともに「スパイダースカフェ」を浦和にオープンさせ、店長を8年務めた。

●Spiders BURGER×PIZZA

 星丘さんが最初に本格的なプレミアムバーガーに出会ったのは、今から7〜8年前。私が当サイトを始めたのと同時期である。


 それまで星丘さんは私同様、ハンバーガーと言えば「1個100円の食べ物」と思っていた。ところが……「ちゃんと作ればうまいものができる!」と強烈なファーストインパクトを受けたのが「クアアイナ」で食べたバーガーである。

 以来、当時の有名店へ足繁く通い、「こうすればもっとおいしくなるのに……」などと料理人らしいアレンジを頭の中でめぐらしながら、やがて試作したものをスパイダースの常連さんに出すようになる。これが評判良好! しかし店のカラーにハンバーガーが合わず、「だったら新しい店をやってみよう」と話進んで2007年11月3日、川口にSpiders BURGER×PIZZAをオープンさせた。

 場所は川口市幸町(さいわいちょう)2-2-16。ティティダイナーと同じ町内である。売上げは良かったものの、出てゆくものも多く、惜しまれつつも3年で閉店。星丘さんもスパイダースから離れることに。さぁどうする……。

●小上がり(こあがり)

 幸いスパイダースはお客さんに恵まれ、川口以外から食べに来てくれる人も多かった。星丘さん自身は浦和の育ちだが、浦和と東京の中間・川口にはある種の「人懐っこさ」を感じており(ソレ何となくわかる)、川口とは水が合った。


 独立するなら川口だ――と店探しを始めるも、やはり駅前は都内並みの家賃。予算に収まる場所を探すうち、スパイダースの常連さん(不動産業)から掲示前の物件の情報が入る。あと半月待っても見つからなければ、どこかで雇われ仕事をしようと決めていた、ギリギリのタイミングだった。

 スパイダース閉店から半年、今年の5月3日にティティダイナー、オープン。

 前は小料理屋だった居抜きである。予算内に収まったとは言え、正直、店舗的魅力には大いに欠ける。テーブル席12、カウンター6席の店内はダイナーと呼ぶには程遠い「和」な雰囲気。始めたばかりで資金も乏しく、大きく手を加えることは困難だろうが、しかし営業しながら、ちょこちょこ地道にいじってゆく楽しみはあるのではなかろうか。


 ヘンにアメリカンな装飾にするよりも、いっそ「勘違いジャポニズム」みたいな……社長室に鎧兜が飾ってあったり(ダイ・ハード)、木や紙を素材に用いた照明やオブジェを取り入れたりなどする「外国人目線なジャパニーズ」を意図した方が、「かえってアメリカン」という風に映るかも知れない(笑)。玉石敷き詰めてみたりとか(笑)。

 最大の悩みは「小上がり」である。

 元居酒屋の物件を借りてアメリカンに改装、白黒チェッカーズのシートを小上がりの上に敷き、ピクニックテーブルを置いてみせた「BIG SMILE」という店が茨城県の取手(とりで)にあるが、このティティダイナーの場合……いや、ヘンに隠したりなどせず、むしろ堂々と畳敷きを全面に押し出してみませんか? 机も和風なものに変えて。逆に言えば、だって「小上がりのあるハンバーガーショップ」なんて全国他に無いですよ。ソレって実はオイシイでしょ(笑)。畳の上に胡座を掻いて食べるバーガー……コレですよ! コレ!! 古今類例を見ず!!!

●グリルパン

 ハンバーガー類12品。所謂"マンスリーバーガー"が毎月2品。さすがイタリアンのシェフだけあってパスタ5種。前菜もイタリア料理の技術を用いたものが多数。


 店内やたらと輸入ビールのポスターやらコースターやら飾ってあるが、実際には無し……(泣)。「ホントは置きたいんだけど」。しかしさすがはイタリアンのシェフである。ボトルワインは7種類の品揃え。

 チーズバーガー¥800。焼き方がまた独特。「グリルパン」という、鉄板表面に溝の付いたフライパンを使っている。脂が落ち、熱伝導も働くというワケ。エ〜ッ? でもこんな小さいので焼いてるの〜?? 東京・大井町の「TRUST SALOON」は「スキレット」使いで知られるが、ソレ以来の衝撃である。

 「バランスと食べやすさを考えて」という、パティの楕円形も独特。豪州産140g。つなぎに玉子を入れるほか、料理人らしい細かな味付けを施している。


 バンズはスパイダース時代より引き続き、南浦和の「ロビンフッド」。スパイダースの元スタッフがロビンフッドの跡取りで、彼にオーダーしてみたところが秀作が上がってきた。なのでスパイダース時代のバンズとは別物である。フランスパンに近い硬めな生地で、表面に黒ケシ。もう少し生地(クラム)に弾力が欲しいところだが、タイトな食べ口である。

 オニオンはグリルド(埼玉県内グリルドだらけ)。チーズはチェダー。レタスはグリーンリーフを重ねている。あとはトマトにスイートピクルス、微量のマヨネーズ。

 これがまた独特なユル甘さが必殺絶妙なバーガーである。食べるほどに「許せる甘さ」が口中を支配してゆき、気付けばすっかり虜に。決して強烈な味ではなく、あくまで緩やかな、おとなしい味わいなのだが、何とも繊細で奇妙な調和で魅了。その甘さの由縁は? ……甘めな牛脂、肉そのものの甘さ。オニオンの甘さ。ピクルスも甘い。

 「野菜はバランスをとる存在、引き立て役」と星丘シェフ。その野菜がもたらすみずみずしさが、バーガー全体を立体感のある、活き活きとした味わいに仕上げている。料理人らしい技術が光る、他に無い味わいのゆる甘〜いバーガー。微妙かつ繊細。安易に"激しさ"に走らぬ姿勢に乾杯!

●毎日できる喜び

 スパイダースのオープン時よりも多少「楽だ」とシェフ。大変だけれども、その大変さを「来月のバーガー何にしよう」など、他の心配に向けられると。スパイダースの閉店を経て、今は毎日店ができる喜びや素晴らしさを噛み締めながら営業している……と、コレはそういう経験をした人にでないとわからぬ思いだろう。夜はバーテンダーと2人でこなす。ゆくゆくは年中無休にしてゆきたいとも。

 しかしこの腕前がありながら、惜しくも店舗に恵まれず……。こういうお店は、お客さんが率先して盛り上げ、盛り立てして大きくしてゆくのが、何より一番の近道だと私は思う。お店とお客さんがひとつになって作り上げてゆく、ティティダイナー名店化計画――星丘シェフの腕に、そして人柄に、心底惚れ込んだ皆さまの力強いご支援とご声援をぜひとも!

 外の自転車はシェフの通勤用愛車、SCOTT。店名はクエンティン・タランティーノ脚本・出演の映画『From Dusk Till Dawn』に登場するナイトクラブ"tity twister"より……まったくふざけた名前付けやがって(笑)。



うわさの小上がり

# Tity Diner [埼玉・川口] のジェノバーガー
【スタンプラリー#19】 Tity Diner [埼玉・川口] のカラミティ・ジェーン・バーガー

― shop data ―
所在地: 埼玉県川口市幸町3-11-2
     JR川口駅東口歩7分 地図
TEL: 048-259-3230
オープン: 2011年5月3日
営業時間: 11:30〜15:00(LO14:30), 17:30〜24:30(LO23:30)
定休日: 火曜日(要確認)

2011.9.28 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:56 | TrackBack(0) | 東国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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