3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震、ならびにその後も起き続ける余震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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お待たせの埼玉編。まずは「行田(ぎょうだ)のバグダッドカフェ」の異名をとるコノ店――cafe easyland(カフェ イージーランド)。幹書房『THE BURGER MAP 首都圏版』にも載ってます。
●ルート77
JR高崎線……高崎線ですよ! 駅名の字体が個性的な北鴻巣(きたこうのす)駅から、クルマでないと行けない距離。街路樹が植わる整備された街並みを抜けると、あとは埼玉特有の真っ平らな地形が視界を独占する。
県道77号、行田蓮田線沿い。幹線道というほど交通量の多い通りでは無いそうだが、オーナー澤田さんはこの道を、当時やっていた移動販売の通り道に使っていた。
店の前は一面の田んぼ! そして空! 茨城は利根町の「ロッキーバーガー」にも肩を並べる、格好のロケーションである。
移動販売の往復途中、澤田さんがふと目を止めた物件は「空き店舗」などと呼べる代物ではなく、既に「廃墟」だった。
築40年。以前はうどん屋。天井板は垂れ下がり、今は駐車場になっている店横のスペースは雑草が茫々と生い茂るのみならず、不法投棄の山。冷蔵庫3台、テレビ、キャタピラのゴム……それでも「ムチャができる」店が造りたかったと澤田さん。大半を自分自身で作業して、個性的な店を作り上げた。
元うどん屋であることに由来する「和」のテイストを微かに残した、何ともノスタルジックで田舎風な名店である。
●ブラジル人の店
当サイトもかれこれ7年続くが、いまだに店主とハンバーガーとの「出会い」についてはパターンが尽きない。まさに千差万別、人それぞれであることにいまだ驚かされる。澤田さんとハンバーガーとの出会いも、変わっている――。
そもそも澤田さんはハンバーガーが嫌いだった。チェーン店がつくる大量生産然としたバーガーに強く抵抗を感じていたのである。その嫌いが好きに転じたのは、ブラジル人が作る手作りのハンバーガーに出会ってから……この辺が一切予想不可能な「ドラマ」である。
当サイトでも「日本の中のブラジル」として大泉町のブラジル人が作るハンバーガーを取り上げたことがある。県境を超えて、埼玉県内にもブラジル人は生活しており、そんな彼らが営むレストランの一軒に偶然立ち寄った澤田さんは、彼らがハンバーガーを手作りしていることに大いにソソられて、「給料は要らないから作り方を教えてくれ」とせがみ、しばしの間働かせてもらっていた。
今でこそ在日ブラジル人向けの加工食品が、日本国内で生産・流通しているが、そうしたものがまだ無かった6〜7年前の当時、その店ではパティを自分で作っていた。ブラジル人が澤田さんに任せたのは焼きのみだったが、澤田さんはパティの作り方を見様見真似で覚えたという。
●MUNCH'S BURGER
こうして澤田さんはワーゲンバスを使ったハンバーガーの移動販売を始める。当初なかなか軌道に乗らず、四苦八苦していたところに出会ったのが、「MUNCH'S BURGER」の柳澤さんである。
同じくハンバーガーを移動販売する柳澤さん。夏場にかけ持ちで営業していた市民プールの売店に、澤田さんが手伝いで入って以来、ハンバーガーについて夜通し電話で語り合うような、熱い間柄に発展していった。
そして移動販売を始めて3年目の2009年、ついに固定店舗を立ち上げる。固定店を始めた理由は「もっとおいしいものを出したかった」から。移動販売という制限ある中では、表現できるものにも限りが出て来る。広いキッチンで、もっと自由にハンバーガーを作りたい――。
●エスプレッソマシン
当初はカフェを前面に押し出した店づくりを考えていた。土地柄、ハンバーガーはあまり出ないだろう。なのでドリンクに力を入れて、近所の人がお茶しに来るような店になれば――と、RANCILIOのエスプレッソマシンで淹れるエスプレッソをはじめ、「スチーマー」、シェイクほか、ドリンクメニューを豊富に揃えた。
ところが蓋を開けてみれば、出るのはもっぱらバーガー。今やすっかりバーガーがメインである。「東京まで行くのは遠いが、でも行田なら行ける」と、埼玉県北唯一のハンバーガー専門店を目指し、群馬や栃木から訪れる客が多くを占めている。つくばの「Hi-5 BURGERS」と同様、地域の中継点的な存在として機能する店である。
●34品のバーガー
ハンバーガーは壮観34品。鶏・魚なし、純粋に牛のみ。以前はパスタもサンドイッチもあったが、やめてバーガー1本に絞り込んだ。
チーズバーガー¥1,000。パティはオージービーフ100%。120g。4種類の部位を使い、移動販売の頃から一貫して自前で挽いている。バンズは都内世田谷のパン屋に依頼。グラハムの天然酵母。チーズはモッツァレラとレッドチェダーから選べて、今回はチェダー。オニオンはグリルド。ヒール(下バンズ)の上にタルタル。
顔を近寄せるとフーッと抜けるような甘い香り。これはタルタルに入る粒マスタードによるものか。パティはギュッと硬く、味がしっかりと付いており、これだけで単独の料理として食べることが出来そうなくらいの、かなり独特な味わいである。一見ごつくドライに見えるグラハムバンズだが、案外とクセなく、やわらか。
タルタルの味わいにグリルドオニオンの甘味、パティの味付けが重なり合い、他では食べられない個性を持つユニークなバーガーに仕上がっている。やや味が集まり過ぎているようにも思う。
●行田のバグダッドカフェ
名は体を表す。ゆったり、の〜んびりできる場所を目指し、コノ店を造った。だが現在地での営業は本年11月いっぱいまで――秩父鉄道の東行田駅近くに移転を予定している。
「蚊と泥棒にやられた(笑)」と澤田さん。移転後は34品あるバーガーメニューを約半分に絞り込んだ上、新しいことにも挑戦してみたい――と抱負を語る。新店舗は駅から徒歩圏。学校と病院が側にあり、今と比べれば町中の立地だ。
なので「行田のバグダッドカフェ」を満喫できるのも、あとわずか――。黄金色に輝く稲穂の海を見ながらかぶり付く、ハンバーガー。そして食後のコーヒー……和洋折衷の趣き、ここに極まれり。
― shop data ―
所在地: 埼玉県行田市野1089-3
JR高崎線 北鴻巣駅歩60分
東北自動車道 羽生インターより30分 地図
TEL: 048-559-5533
URL: http://easyland.michikusa.jp/
オープン: 2009年2月3日
営業時間: 11:30〜22:00(LO21:30)
定休日: 第1・第3月曜日、火曜日(祝日の場合営業。要確認)