3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。
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さて、こちらも間が空きましたが、'05年から昨年まで5年間、東京は世田谷・下北沢に在った小さなハンバーガースタンドfrisco(フリスコ)再開のため、九州は福岡へと出発された森崎オーナーへのインタビュー第3弾です。
飲食業とは無縁な森崎さんでもしっかりと持っている、避けては通れないアメリカでのハンバーガー体験とは何か――それはバーベキュー!
アメリカではバーベキューはお父さんの仕事。家庭を持って以来、毎土日は庭で肉を焼"かされて"いた(笑)。
結婚してからずっと焼いている。サンクスギビングデー(感謝祭)、クリスマス、特に7月4日の独立記念日は国中の庭から煙が立ち上る。
その日その日のお客さんの構成を見ながら、ステーキを焼くのか、こどもたちが多いからドッグにするのか、それともバーガー作るか……でも、やることはとにかく肉焼くだけ。そんな調子で嫌々ながらも(笑)焼かされていた。これがアメリカ人がまず経験する最初のハンバーガーである、と森崎さん。
その辺りの描写は、昨年秋葉原で開催した私の講演会の中で「Sleepyhead Jaimie(スリーピーヘッドジェイミー)」の"すわだいすけ"氏が聞かせてくれた、アメリカ在住時の話とも一致する。
"すわ"氏は8歳から18歳までアメリカに在。例えばリトルリーグの打ち上げなどやるときは、どこかのお宅の庭で決まってバーベキュー。そしてバーベキューと言えばハンバーガー! そして焼くのはいつだってお父さんの仕事。なので"すわ"氏の中では「ハンバーガー=お父さんの味」ということになっている。裏庭のバーベキューを楽しみにしていたこどもの側が"すわ"氏で、"お父さん役"を演っていたのがfrisco森崎さんというワケ。
ちなみにこの講演を聞きに来ていた「Homework's」の柳沢シェフは、"すわ"氏の「(日本のバーガーはおいしいんだけど)バーベキュー感が足りない」という発言に痛く共感している。
日本に帰国した森崎さん、さて何しよう……「そうだ、店しようか」と考え(店というのは、誰しもにとって、ある種やってみたい憧れのひとつである)、ではどんな店をしようか……というとき、このアメリカでのバーベキューの経験が思い起こされて、「じゃあハンバーガー屋やってみるか」となった。
friscoでやっていることというのは、庭先のバーベキューでやっていたのと全く同じことである。場所がただ屋外から建物の中に移っただけ。炭で火をおこして肉を焼くという行為自体は一切変わっていない。
『THE BURGER MAP 首都圏版』の中でもご紹介した通り、森崎さんが渡米した60年代後半は、肉を炭火で焼くハンバーガー店がまだ多かった。それが70年代に入り、大手チェーンが急速に勢力を拡大するとともに徐々に消えて、ハンバーガーショップのグリルは炭から鉄板へと様変わりしてゆく。
かくして60年代流のハンバーガーショップは本場アメリカからさえ絶滅する。friscoのハンバーガーは、その1960年代の味を今に伝える店なのである。
そこには50年の歴史が横たわっている。言い換えるなら、friscoのバーガーは50年前の「過去の遺物」(笑)。しかしその50年前の味に出会えることもまた、ハンバーガーの魅力――と森崎さん。
これはもちろんハンバーガーに限った話ではない。郷土料理然り、老舗と呼ばれる店然り、時代を越え、歴史を越えて、何十年前・何百年前と同じ味を守って作り続ける・提供し続けるということは、「食」の世界全般に通じて言える大きな魅力のひとつである。
さらに広げて「無形」なもの全般に共通する魅力であるとも言おうか。
自動車なら100年前のモノも現存するが、食べ物の場合、ソレ自体を100年保存することは不可能。その代わり、当時と同じ味を同じ作り方で同じように再現することは、何十年・何百年後にだって可能。それは音楽、舞踊、芸能、演劇といった"形が無いもの"の再現と一種通じるものでもある――と、以上は私の意見。
50年前の味、50年前のハンバーガー。それらを「頑張って人に譲りたい」と森崎さん。でないと「あの味が残らない」――それが今回福岡に店を興すにあたっての、最大のテーマである。
森崎さんは九州は大分の出身。実は福岡にはあまり行ったことがないそうなのだが、それでも故郷の友人・知人が福岡に出て来ており、店をやる上での協力者も居る。
今度の店は自分独り、ずっと立ち続けるつもりはない。テーマはむしろ、いかにこのfriscoの味を「人に譲るか」にある。つまり今回のプランは、friscoの味を人に伝えて初めて達成される、と言えるのである。
そのためには引き継ぎが重要である。味は一切変えない。変えさせない。いつ訪ねても、何度食べに行っても、東京・下北沢で食べた味と全く同じ味のハンバーガーを、福岡・天神でも食べられるようにしたい――と森崎さん。
私が知る限り、それは決して容易な目標ではない。むしろ極めて難しい。その道をよく知る人ほど「それは無理だよ」と返すだろう。
極めて困難なテーマであるが、しかし同時に極めてシンプルな目標設定でもある。コンセプトは実に明快。下北沢に店を始めたときと同様、今回の再オープンにあたっても、揺るぎなきテーマがまずしっかりと根にあって、あやふやなところが一切無い。
そんな決意を言い残して、森崎さんは福岡へと向かわれたのでした。さぁどうなると思いますか? 場所は地下鉄天神駅から歩いて少々、「舞鶴一丁目」の辺りだと。今回の店も「隠れ家」的だとも(笑)。
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福岡出身と言うと、札幌「ハンバーガー リサ」のオーナー・山田ツクルさんが思い出されます。元は西中洲に1956年から在ったお店です。
ツクル氏はのべ10年近くにわたり、ギター1本携えアメリカをプレイして回る、まさに"blues"を地で行く活動歴を誇るギタリスト。黒人解放運動が盛んだったベイエリア、オークランドの、およそ白人が寄り付かぬようなディープなエリアでプレイしたこともあるそうです。LAでのプレイの様子を貼っておきましょう。
本場アメリカのハンバーガーを知る者同士、ツクル氏と森崎さんの言葉には共通する点が多々あります。そして両氏がつくるハンバーガーも、まぁ似ているでしょう。他のハンバーガー店に滅多に関心を示さぬツクル氏が、ほぼ唯一friscoのことには興味があって、「いつか話してみたい」とかねて言っていたのが、何の因果か引力か、friscoが福岡に移ってきたという……。
ツクル氏およびハンバーガーリサは今は札幌ですので、この両氏両店が直接「会う」ワケではないのですが、それにしても、アメリカのハンバーガーを熟知する両者のこの奇妙な「接点」に、何やら因縁めいたものを感じずにはいられないのでありました。
下北沢friscoの第二章「in福岡」――さぁ一体どうなりますやら!? 再開に向けての進捗は↓の公式ブログでどうぞ。 (一応おわり)
→ 福岡でショップを再開/(下北沢のfriscoバーガー)福岡へ移転
(公式ブログ)
→ # 198 SEA DINER [福岡・西鉄平尾]
# 195 burgers [福岡・西鉄福岡(天神)]
# 194 TOMATO FARM [福岡・高宮]
# 193 K's Burger Shop [福岡・大橋]
# frisco [下北沢]、福岡へ その2
# frisco [下北沢]、福岡へ その1
# frisco [下北沢] のハンバーガー
# 231 frisco [下北沢]
― shop data ― (旧情報)
所在地: 東京都世田谷区北沢2-34-11
小田急・京王 下北沢駅歩5分 地図
TEL: 03-3468-5744
オープン: 2005年8月9日
営業時間: 11:30〜21:00(パティ無くなり次第終了)
定休日: 火曜日(要確認)