3月11日金曜日に発生した東北地方太平洋沖地震におきまして、亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被害に遭われた方々に心よりお見舞いを申し上げます。
11日目――。これは今月初旬、地震が起きる前のことでしたが、とある雑誌社から「次号でハンバーガーの特集をするので、原稿を書いて欲しい」とお話をいただきまして、二つ返事でお引き受けした次第なのです。
そのご依頼いただいた内容というのが、「ハンバーガーの素晴らしさ」「ハンバーガーの楽しさ」について書いて欲しいという――ま、平時であればもちろんスイスイ書けることなんですけど、その依頼の後、ご承知のような事態になってしまいまして、とてもじゃなし「楽しさ」を伝えられるテンションなど、どこをどう逆さに振っても出て来やしませず、相当に苦労いたしました……。
こういう文章というのは、上辺だけの楽しさでは、どこかで必ず無理が表れます。心から楽しく思ってやらないと、人の心を動かすだけの本当に楽しい言葉というのは出て来ないものです。
ですから「少しでも気持ちをリラックスさせて臨むには、どうしたらよいか」と、あれこれ試行錯誤したのですが、そのうち「これだっ!」と行き着いたのが、私の場合「落語」でした。
もちろんいろいろな方法があります。散歩する、ジョギングする、食事をする、お酒を飲む、テレビを観る、映画を観る、野球を観る、サッカーを観る……あらゆる「元気づけ」の手段がある中で、自分の中で最も健康的で、心の内からカラッと笑えて、その間だけでも暗い現実をスッキリと忘れ、引き摺るものなく、また元の世界に戻って来られる……という条件をすべて満たす最良の選択が、「落語」だったんですね。
桂枝雀さんが大好きでした。小さい頃、大阪出身の母親とNHKドラマ「なにわの源蔵事件帳」を夢中になって観て以来の大ファンです(警部役が加藤武さん、マドンナが司葉子さん)。とは言え全集を持っているほどの落語好きではありません。落語好きと言うより、「枝雀落語が好き」と言った方が正しいかも知れません。
ひとつ大々々好きな話がありまして、「宿屋仇」というのですが、20年近く前に録画した"VHS"を毎年正月休みになると夜更かししては何十回となく観ていたものですが、それを今回久々に引っ張り出して観てみましたところが、何十回観てもなお面白い! まー面白い!
50分もある長ーいお話です。ま、一大ドラマですね。「スペクタクル」と言っても過言ではありません。登場するお侍の口上なんか、言葉の意味もよく分からぬまま、音(おん)だけで覚えてしまうくらい何度も観返しまして……こんなんなんですけどね↓。
夜前(やぜん)は泉州岸和田(きしのわだ)、岡部美濃守殿ご城下、浪花屋といえる間狭(ませま)な宿に泊まり合わせしところが、雑魚も藻艸(もぞう)も一つに寝かしおってな、巡礼が詠歌をあげるやら、六部(ろくぶ)が経を読むやら、駆け落ち者がイチャイチャ申すやら、夜通し身共(みども)を寝かしおらなんだわい……
落語は、誰かをどついたり、いじめたり、ダマしたり、落としたり、それを見てバカにしたりして笑いをとることはありません。話の中で間抜けの与太郎を叱り飛ばす場面はあっても、でもその叱り方には常に愛情が込められています。誰かを傷付けたり、誰かの悪口を言ったりなどすることのない、実にフェアで健全な笑いだと思います。
もうひとつ落語の良いところは、漫才やコントなどと比べると、それこそ50分とか、ひとつの話をそんなにも長ーくすることが出来て、しかもついつい時間を忘れてしまうくらい、聞く者をぐーーーーーっと話の世界に引き込む力を持っているところです。なので今、こんな時こそ必要な笑いは「落語」ではないかと、私は真剣に思っています。
で、まあまあ、そんな感じで枝雀さんの「宿屋仇」でテンション上げまして。文章を考えている間は、地震後初めてステレオから音楽を流して雰囲気盛り上げまして。考えに考えて選んだ"盛り上がる"アルバムは、「マイ・フェア・レディ」と「サミー・デイビス・Jr.」でした――。
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それで、そろそろ先週水曜日、16日に、東京銀座に怖々出かけた折のお話をしてみようと思います――。
2011.3.22 Y.M