2010年05月19日

# 231 frisco [下北沢]




 全国ハンバーガーショップ&ダイナー スタンプラリーvol.1と同時進行、探求と言うよりバーガー「研鑽」の旅。

 筆の向くまま書き進みますか。すべては書き切れないと思いますが――。

 下北沢のカウンター7席だけの小店frisco(フリスコ)。雑居ビル1階の奥の奥に人知れず在る、それこそ星新一のショートショートに出て来そうな異空間的シチュエーション。


 店主・森崎さんは36年間アメリカに在住。米国内で職に就き、年金はアメリカから支給される。飲食はズブのシロウト。

 暮らした街はサンフランシスコ(桑港)。オーティス・レディングの「(Sittin' On) The Dock Of The Bay」に「'Fricso Bay」という歌詞が出て来るが、この「'Fricso」がサンフランシスコの古い異称で、店名の由来。ただし店名は頭が小文字。ドック・オブ・ベイの歌の主人公は、港に座って日がな郷愁に明け暮れるが、'68年単身渡米した森崎青年は、エアポートへ行って孤独を紛らせた。

 渡米は1968年。当時まだサンフランシスコの街中に残っていた、爺ちゃん婆ちゃんが炭火を使って焼く街の小さなハンバーガーショップを知っている。その当時の味を「ただ忠実に再現しただけ」というのが、コノ店。

 こうした小店は確かに70年代初頭まで存在していたが、マクドナルドの台頭により70年代後半にはほぼ無くなって、ハンバーガーは炭火でなく鉄板で焼くように変わった。かつては町で煙が立っている所がハンバーガー屋であり、町々に自慢の名物バーガー店があった。本場アメリカでも今や絶えた、60年代の味を忠実に守るハンバーガー店、それがフリスコである。


 当時の店がやっていないことをひとつだけやっているとしたら、それは……。

 アメリカ人はどうすればいちばん肉がおいしく食べられるか、よく知っている。アリゾナの有名なステーキ店で、凄まじく色の悪いステーキ肉を食べた店主は、あまりのおいしさにびっくりした――それがカギである。「ハンバーガーはステーキじゃなければいけない」。

 ハンバーガーにはルールがある。ソースの類はかけない。マヨネーズもかけない。乗せる食材も決まっている。アボカド、パイナップル――有り得ない。パティに合挽肉は論外、つなぎは入れない――それらは日本の文化。

 「コレが無かったらハンバーガー屋やってなかった」と言わしめる食材は、テキサス産のピクルス。シーズニングの使い方が独特な、ピリリと辛味の効いた一品。タテにばっさり割ってパティの下へ。本来あちらでは挟まず外に付いてくることの方が多い。

 もうひとつ、「コレがフリスコを救った」というのがバンズ。いいバンズが無いから店閉めようかと考えていたところ、開店3ヶ月後にようやく今のバンズに巡り会った。だからと言って何か特別にすごいものでもない。肉より出過ぎず、しかし最低限の主張を持った、ごく普通の一品。

 メニューにはベーコンすらなく、ハンバーガーかチーズバーガーの2品。あとはそのダブル、トリプル……シンプル! チーズバーガー¥850。パティは炭火の遠赤効果がよく効いており、表面パサッと硬く、日本人にも受けるやわらかさを中に残す。例えるなら「カツオのたたき」に近い二層をご想像いただけたら。中はやわらかいんだけど、表面しっかり火を通し――という感じ。実に素朴に、しかし強烈に肉のニオイと炭のニオイ。そして塩コショウ。それだけ。店そのものが炭のニオイ。その炭のニオイに包まれて食べる。

 ピリッと辛いピクルスの下に、今時分の辛過ぎないオニオンが生で続く。このシンプルな組み合わせではミョウにトマトが活きてくる。野菜の質は米国より日本の方が上。熟成させた肉の旨味も加わって、店主の自己採点は「120点」の再現度。

 シンプルだが、芯のある一品。アメリカ人にとってハンバーガーは特別な食べ物ではない。このバーガーも決して特別ではない。ご馳走でも高級品でもない。日常当たり前に口にする中にあって、超絶にベスト。

 ドラフトはめずらしいサッポロの北海道生搾り¥600。ミラーのようなサラッとした飲み口が主体だが、ミラーよりは麦クサさを感じる。

§ §

 お年の頃も近く、「7025 Franklin Ave.」の松本さんと対極を成す存在感。その語り口は札幌「ハンバーガー リサ」の山田ツクル氏を彷彿とさせる。上記3名に共通点あり。

 「年取ったら自分の好きな店作って、自分のやりたいようにやりたかった」というのがこのハンバーガースタンドである。60年代西海岸の雰囲気を21世紀の東京に伝えるハンバーガー。言わばサンフランシスコから日本に持ち帰ってきた「おみやげ」みたいなもの、と店主。歴史を味わえ。




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― shop data ―
所在地: 東京都世田谷区北沢2-34-11
     小田急・京王 下北沢駅歩5分 地図
TEL: 03-3468-5744
オープン: 2005年8月9日
営業時間: 11:30〜21:00(パティ無くなり次第終了)
定休日: 火曜日(要確認)

2010.5.19 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 23:26 | TrackBack(0) | 東京編◆西部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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