恋するベーカリー 【It's Complicated】 (2009年米)
私一応、日本フードアナリスト協会の会員でもあり、そしてそもそもがパン好きなので、こんなタイトルの映画とみるとついつい観てみたくなるのですね。そんな次第でフードアナリスト協会主催の試写会に行って参りました。
またしてもハンバーガーとは直接関係ない話ですが、しかし皆さまご承知の通り、良きパン職人無くして良きバンズ無し――おいしいハンバーガーにとってパン屋さんは不可欠なパートナーです。そのパン屋が舞台の映画とくれば、やっぱり観るしかないでしょ!
今の私やあなたには必要無いが、でもきっといつかはこんな先人たちの貴重な体験が役立つときが来るかも知れない――要は別れた夫婦同士の熟年「再婚」は成立するかというお話。
人気ベーカリーの女性オーナー、ジェーン(メリル・ストリープ)は10年前に離婚。女手一つで3人の子供を育て上げ、店の経営も順調、公私ともに満ち足りた日々を送っていた。そんなとき、ほんの偶然から別れた夫との再縁の機会が訪れ、折しもそこに同じく離婚の傷を負うステキな建築家が出現。元夫との元サヤもまんざらでないが、しかし建築家からもお誘いがあり、またソレを元夫が邪魔して入ったり……で、結局一体どっちにするの?という熟年の粘っこ〜い右往左往が楽しめる、甘辛ロマンチックコメディー。
§ §
まぁ過去にも現在にも背負うモノが何も無ければ、ふたりの男からチヤホヤされるこの状況はサイコーにパラダイスなのだろうけど、でも皆さんそれぞれに過去があり、今の生活があり、オトナの事情がありまして……といった辺りが「It's Complicated(複雑なのよ)」という原題そのものズバリが指し示す状況なワケである。
さすがは大女優メリル・ストリープ様。オーバーアクト気味ながらも巧いったら巧い!3児の母、元妻、そして1人の女――振り返る顔の表情ひとつ、抱き合う肩に乗せた頬の動きひとつで、3つの顔を瞬時に演じ分ける明快さ。
建築家アダムを演じるスティーブ・マーティンの役どころがまたスゴイ。あの『サボテン・ブラザース』スリーアミーゴスの"ラッキー"が、ともすればストーリー展開からはじき出されてしまいそうな崖っぷちのポジションを、不気味なまでの物静かさで演じ続ける。あと元夫役のアレック・ボールドウィンって、あの『レッドオクトーバーを追え』のインテリ青年でしょ?(古過ぎか?)まさかあんな毛むくじゃらの色欲クマ男に成り果てるとは……私的に一番のショックはそこ。
オープニングのブラジリアンなアコースティックギターがあざといほど爽快!続くベーカリーのシーンで流れるCSNの「青い眼のジュディ」、ホテルのバーでかかるトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「危険な噂」辺りの選曲も心地好い。でもパーティーのダンスシーン、ココ一番!という場面でかかるのは天上音楽のように透き通ったペットサウンド「素敵じゃないか」――やっぱりビーチボーイズなんだよね。やっぱりそうなのかぁ〜。扱いに「格」の違いを感じる。
§ §
カリフォルニア州南部、サンタバーバラの緑に囲まれた避暑地のような生活。庭の一角に造られた美しい自家農園。友人たちをもてなす豪華な手料理の数々――日本の暮らしも豊かになって、いよいよ米国に追い着いたかと思いきや、なかなかどうして……。今の米国社会が求める「理想の暮らし」が本作中にもふんだんに描かれている。
そんで「恋するベーカリー」というような、職場を描く場面は実はさほど登場せず、ドラマはもっぱらジェーンのプライベートを軸に展開してゆく。と言うか、米国オリジナルのポスターはベッドインしたジェーンと元夫という"あられもない"デザイン(笑)。でもチョコレートクロワッサンをあんなに楽しそうに作るシーンを見たのも初めてだけどね。
オフィシャルサイト↓
2010.2.8 Y.M