峰屋のバンズに、代官山小川軒の味を受け継ぐデミグラスソース。そして、自家製ソーセージ――国内ではめずらしいホットドッグ専門店の登場!
●ドギーズ・ドッグ
気が付けば、あのネイサンズももう日本に無いのである。土も違えば、水も空気も違う――やはり「ただ持ってきただけ」では根付かないということなのか。
本国米国におけるホットドッグの消費量はハンバーガーをはるかに凌ぐという。日本においても駅のスタンドから高速道路のSA、遊園地・映画館ほか娯楽施設、各種競技場、スーパーマーケットのフードコーナー、お祭りの露店に至るまで、ホットドッグはハンバーガー以上の広がりを有している。
ただこれこそを「運命」と呼ぶべきか、ハンバーガーが「店名」によって認知される食べ物であるのに対し、ホットドッグは「名も無き店」がやっている場合がほとんどであり、ゆえに「どこの店の味」という認識のされ方に実に乏しいのである。
ホットドッグの方がより広く浸透しているにも関わらず、知名度の点でハンバーガーの方が大きく勝っているのは、ひとえにマクドナルド独りの功績によるものかも知れない。そう考えるとマクドナルドはヒーローだ。
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「おいしいホットドッグの店知ってる?」と聞かれて「ココです」と答えられる人が居ない。なので誰もが「あそこのホットドッグがおいしいよ」と言える店が作りたかった――オーナー吉池さんがコノ店を始めた理由である。
食べ歩きは大好き。でも「高くておいしい」は当たり前。なので地元の人が毎日行くような店にしか足を向けない。目指すは「毎日行ける価格で提供する店」――そこにホットドッグが結びついた。
初め店名は「ドギーズ・ドッグ」としたかった。「ホットドッグの中のホットドッグ」という意味――「ミュージシャンズ・ミュージシャン」みたいなモノである。しかしホットドッグだけで一店舗を構えるのも容易でないため、多彩な料理を提供することとし、それでDD――ドギーズ・ダイナーに。
●北青山一丁目アパート
場所は北青山。ドラマのロケ地で有名な明治神宮外苑のいちょう並木がすぐ近く。都営北青山一丁目アパート向かい。隣は駄菓子屋。実はこの店、今年の5月までムームーカフェだった。でもDDとムームーは無関係。
1年以上かけてずっと物件を探していた。ココが貸しに出されると知り、駆け付けたところがちょうど現状復帰のための什器搬出中。店の前から不動産屋に電話して作業を止めてもらい、ほぼ居抜きの状態で借り受けた。やっと巡り逢えた物件である。半日遅かったら別人に決まっていた。
基本はムームーの造りを継承。1Fの壁下半分に貼られたタイルは以前からあったもので、メキシコ産の高級品。この色合いに合わせ、2種類のVバックチェアーと高窓のカーテンの色を決め、壁天井はレモン色に塗り上げた。
2Fの壁は落ち着いたティールだったのを派手っ派手なサーモンピンクに塗り替え。そう、オーナーは大の米国好きである。
●スケートボードとトラボルタ
吉池さんが生まれ育った代々木上原はご近所外国人だらけ。必然、外国人の友達ばかり多い。
府中から送迎に来るアメリカンスクールのバスに隠れ乗り、そのままスクールに遊びに行っちゃったり、初めて友達の家に遊びに行った時、出て来た食事がラビオリとルートビアだったり――米国好きになったのはそんな友人たちの影響が強い。
おかげで米国文化に感化された「異端な」青春時代を送る。「ロードショー」「スクリーン」は毎月購読、「チャーリーズ・エンジェル」のファラ・フォーセットにぞっこん憧れ、履いていたナイキのスニーカー、ナイロンコルテッツの「白赤」に夢中に。ジョン・トラボルタは共に育った「アニキ」で、ジョディ・フォスターは姉弟。大好きな映画「ボーイズ・ボーイズ ケニーと仲間たち」に出て来るスケートボードにハマり、滑る人のまだ少ない当時、中学生で乗り方を覚えて表参道を疾駆――最近こういう人によく会うなぁ。
金八世代なので、高校時代は一通りツッパってみたりなどしたが、それでも常に心にアメリカを持っていた。
かつての愛車はコルベット スティングレイ。1982年製の最終型、クロスファイアーインジェクション……って何のこっちゃ?
今はバイクの方が好きで79年製ホンダのCBX1000、ヤマハのVMAX、ランツァーほか一時は7台を所有。稼いだ金は節度無く全てクルマ・バイクに注ぎ込む、極度の「車輪好き」である。音楽は70年代、ことにAORを愛聴。真冬だろうが店内常夏のアーバンリゾート。スピーカーはBOZE 301MMのグレー。中古で探した逸品――今は白か黒しか見ないでしょ?
●デミグラスソース
主に営業畑をずっと歩いてきた人である。
スウォッチで有名なSMHジャパンでまずは時計の営業。次いで雑貨の輸入販売。物売りに飽きて、広尾にあるナショナルインテリアを皮切りにのべ7年、カーテンや輸入ファブリックなどのコーディネーターを務め、工事もこなした。
「アイデアを売りたい」と今度は広告業界。ハーレーダビッドソンの広告などを経て、最後はIT系の企業へ。
店を始める話は15年以上前、高校時代の親友と「いつか一緒にお店やろうね」と語り合っていた頃より始まる。親友はフレンチの名店「代官山小川軒」などで活躍、一方の吉池さんはIT企業に10年以上身を置いていたが、早期退職の募集を機に親友との夢を実現させるべく、本格的に動き出した。
ホットドッグと代官山小川軒出身のシェフによるデミグラスソース。究極のファストフードと有名フレンチレストラン秘伝の味――この一見相矛盾しそうな命題がひとつの食べ物として「どうまとまるか」がコノ店の真価である。
デミは完成までに1ヶ月。「見ていて可哀想になるくらい」ひたすらに漉す作業を繰り返す、途轍もない手間と努力を要する労作である。休みの日でもオーナー自ら火入れをしに店へ行くほど。この必殺のデミがホットドッグにもハンバーガーにも使われている。
●チリチーズドッグ
近隣に大企業のオフィスが多く、平日ランチは会社員で盛況。ランチはハンバーグ、タンドリーチキン、魚料理、カレー等の洋食メニューのセット(前菜+スープ+ライスorパン付)がオール¥1,000。ドッグ、バーガーはランチタイムには食べられないので注意。
夜も炭火焼100%ビーフハンバーグステーキ140g\1,000や黒毛和牛ステーキ140g\2,800、ビーフシチュー\2,000などの洋食の王道から、「大衆食堂」を目指し低価格に抑えた自家製ポテトチップス\300、フィッシュ&チップス\580、自家製のコーンポタージュ\400など「飲み勝手」の良いサイドディッシュがひと揃えあり、飲みにも食事にも有効。
ホットドッグは15種、バーガー2種、自家製生地のピザ2種。そして洋食メニュー多数。まずはホットドッグの話から――。
分厚いスクラップブックを見せてもらったが、吉池さんのホットドッグの食べ歩きはおそらく国内随一の規模だろう。目指すはジャパニーズオリジナルの、世界に通用するホットドッグ――コラーゲンの皮を使った手作りソーセージに、自家製ピクルスとシュークルート(ザワークラウト)。
バンズは新宿東口の名店ベルクでその存在を知り、「絶対この人に作ってもらおう」と件(くだん)のスクラップブックを持参して口説き落とした、必殺の峰屋製。
「200円台のドッグがどうしても作りたかった」とプレーンドッグは\290――コイツはケチャップとマスタードでグチャグチャにして喰らいつけ!――自慢のデミがかかるのは次のDDドッグ\450から。
写真はチリチーズドッグ\650。チリもデミベース。かなり濃厚な味が集合したドッグで、ソーセージはやや埋没気味。ザワークラウトにクセあり。峰屋のバンズはさすがの旨味で、パリパリとした皮の歯応えが神がかり的。
●DDバーガー
当初「お飾り」程度に思っていたのが、フタを開けてみれば予想外の出方なバーガー。
DDバーガー\1,100にトッピングのチェダーチーズ\100。実は私はこれまで3度店を訪ねて、同じこのバーガーを3度以上食べており、写真はその最初期のバージョン。
パティ150g。オージー産のブロック肉を自前で粗挽きにミンチ。洋食的な技術の活きた繊細な仕上がりで、シチューを食べているような上品な風味。クサミはなく、炭火の割りに炭の香りはしない――デミに負けてしまっているのである。
デミソースは「クン」とクセのあるダークでビターな味わい。伝家の宝刀とはこのこと、とにかく全身旨味の塊のような旨さ!しかし多量の野菜により味が薄まり、趣旨自体ぼやけてしまっている。グリルしたオニオンの甘味もデミの邪魔。
酒種の天然酵母バンズは、あんぱんを思わせるやわらかな生地がウェットに感じられ、イマイチ。折角ドッグパンがこんなにおいしいのだから同じ生地で良いのでは――とバンズも変えていただいた。
●3度目
以上のような直しを店にお願いし、改良を重ねたのが以下のバージョン――つまりハンバーガーストリート「プロデュース」によるハンバーガーです。
そもそも「バンズとパティとデミだけ」で十分おいしいバーガーなのである。むしろパンと肉だけで食べてもらいたい。食べさせたい――なので野菜は最初から乗せずに外にはずし、フランクリンアベニュー的なオープンフェイスのスタイルに出し方を変更。
まずパンと肉だけで味わってもらい、野菜は入れて食べた場合にもその基本の味が変わらぬ程度に量を加減。また野菜だけサラダとしても食べられるよう、マヨネーズソースをかけた。写真ではオニオンダイスとピクルスが乗っているが、この案は没。
この改良の結果、まず何よりデミの香ばしさが明快に前面に出、粗く挽いたパティと巧みに混ざって、チリを食べているような陽気で賑やかな味わいが生まれた。デミの旨味は強烈で、その深〜いコクは食後、店を出た後もずーっと舌の上に残り続ける。
ドッグ生地による峰屋のバンズはハード系。歯の下でシャリシャリと音を立てて砕ける好食感。これら合わされば、パンと肉とソースだけで十分超絶な味わいが炸裂する。ハンバーガーは肉料理、肉の旨さを主体とした料理であることの華麗なる証明といったところ。
なのでコレだけでも十分おいしいバーガーとして成立しているのだが、ココに野菜が加わると、さらに違ったバーガー「らしさ」を楽しむことが出来る。
例えるなら重厚で力強い金管楽器のファンファーレに、木管のやわらかな音色が加わったようなアンサンブルの変化に近いか。オニオンはシュレッドに変更、後口に残る辛さもファストフードらしくて、また良し。レタスも1枚に減らして正解。
ともすれば出来合いの味だけで処理されてしまいがちなハンバーガーという食べ物に、深〜い旨味を与えたバーガー。まずはパンと肉だけで食べてみることを強くオススメする。野菜はお好みで。
§ §
洋食経験のあるシェフが作るバーガーは、ときとしてかなり「勘違い」したモノになりがちだが、コノ店のバーガーは洋食的な美しい技術を覗かせつつ、同時に庶民の食べ物の醍醐味をも表現出来ており、きっちりと「ハンバーガー」の体を成している。
吉池さんらと共に店を興した親友は、その後体調を崩して現在お休み中。代わりにこの道10年のキャリアを持つ若き料理長が厨房をまとめている。小川軒仕込みのデミソースの味わいがクセになる、290円ドッグの大衆食堂。夢は「ホットドッグをメジャーにしたい!」
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― shop data ―
所在地: 東京都港区北青山1-5-15
東京メトロ 青山一丁目駅歩5分 地図
TEL: 03-3405-7009
URL: http://www.doggysdiner.com/dd/
オープン: 2009年10月27日
営業時間: 11:30〜23:00(フード21:30LO)
ランチ: 11:30〜14:00(ドッグ、バーガーは14:00〜。土曜日は終日通常メニュー)
定休日: いまのところ日曜日(要確認)
Doggy's Diner 青山店 (ハンバーガー / 青山一丁目駅、外苑前駅、乃木坂駅)
夜総合点★★★★☆ 4.0
昼総合点★★★★☆ 4.0
コメントありがとうございます。
寸胴ナベで1ヶ月かけて作るスープをベースに、チリソースもグレイビーソースも作っているそうです。私はグレイビーソースが大好きです。
なぜかiPhoneからコメント書けなかったもので…。
ホットドッグもウマそうですが行ったらハンバーガーも食べちゃいたいですねぇ。
最近スロッピージョーのソースが手に入ったんですが、
AMBマスターより「それはホットドッグで食った方がウマイ」
とアドバイスをいただきました。
でもDD見ちゃうと自分で作ってる場合じゃないですね(笑
コメントありがとうございます。
こういう「何かを食べると違う何かが食べられなくなる」店というのは本当に難しいですね。ホットドッグを食べればバーガーが1回食べられなくなるし、ステーキ食べればどっちも食べられないし……毎度悩みます。
スロッピージョー……あぁ、そうかも!デミソースとパティが混ざると、味は違いますがそんな感じになるかもね。そのザクザク、グチャグチャした感じが醍醐味でもあります。