お待たせしました――ハラカラ。です!
●アジト
世田谷通り沿いの商店街三和会のアーケードを抜けて、50歩以内でこの店。通りから斜めに切れ込む小道で、折れずに世田通(せたどお)を直進すれば、程なく有名なパン店「濱田屋」。オーナー萩原さんがこの物件を見つけたのは実に81件目のこと。
もう少し坪数が欲しかったが、2階も含め建物ごと借りることが出来たため問題解決、テラス含む22席は想定より増。2階は倉庫兼「アジト」。日夜何を企てているのやら……(笑)。
店舗のデザインは用賀の1010 Noel Dr.を手掛けたデザイナーに依頼。女性が一人でもゆっくり落ち着ける空間を意識し、無駄のないシンプルでシックなデザインを心がけた。
壁天井に配されたマリンブルーは床の木目とツートーンを成し(いや、スリートーンか)、南洋のリゾートを思わせる高級感を漂わせている。すっきりと機能的なデザインの椅子机。清潔で気持ちの良い「青の」空間である。「コ」の字な造りのキッチンが秀逸。
●萩原オーナーの就活日記 ――「就活」って略し方、私ホントは嫌いなんですが
「内定を蹴る」などと書いたら、現役大学生諸君に恨まれるかも知れない。でもココんちのオーナーはそういうことを本気でやってのけた人である。
大学4年、憧れの旅行会社に内定が決まっていたが、春3月に突如の辞退→1年留年。では何しよう→全然思いつかない。学費を稼ぐため4月からバイト→貯まったお金で6月から2ヶ月、石垣島へ放浪の旅。毎日のように海に潜っては「無の境地」になりつつ、将来のヒントを探し続けていた――そんなモン、海底に落ちとんのかと。
ところで萩原さんにはある「不可解」があった。一足先に世に出た友人達と会うと異口同音、誰一人として、自分の働く業界に「お前も来いよ」と誘う者が居ないのである。なぜ?そこで萩原さん、業界不問のまま「働きに見合う報酬がもらえる」会社で働こうと、それのみを決意。
8月1日、会社訪問解禁日、新聞で「M」のマークに目がとまり、電話すると次のセミナーで「終了です」と。急ぎ資料を取り寄せ、社長F氏の著書など読んでみるとコレが面白い!実力主義、合理主義――実に希望に適っている。会場へ行くとセミナーとは名ばかり、いきなりの適性試験500問。その日のうちに電話が鳴って筆記試験はパス。
狭き門ゆえ「他人と違うことをやろう」と、面接試験は2時間前に会社に着いて人事部担当者を驚かせ、集団討論では苦手な司会をあえて買って出、既に内定多数のツワモノどもを退けて、就活1社目かつ1週間にして内定獲得!沖縄帰りのロン毛の日焼け、そんな自分に賭けてくれたMに恩返しがしたいと――イイ話です。
●モスバーガー
実は萩原さん、Mに入社が決まってから初めて、あの「ビックマック」なるハンバーガーを口にした。それまでハンバーガーとは無縁の生活を送っていたのである。
飲食業で働くなんて考えてもみなかったし、むしろバイトは避けてすらいた。未知の世界に踏み入る困難に備え、入社までの半年間「アルバイトさせて欲しい」とM社人事部に頼んだところが「研修があるので心配無いですから」と断られ、やむ無くもう一つの「M」、Mバーガーで卒業まで働くことに。店名と同名のモスバーガー、そしてチリドッグを初めて口に入れた瞬間の感動ときたらもぉ〜!!!いまだに忘れられない。
●マクドナルド
マクドナルドでは経営学を学んだ。今日の土台となっている。
想像以上にハードな職場だった。早く一人前になろうと自ら激務を課して始発から終電まで、社宅と店舗の往復の毎日。アルバイトと同じかっこうをし、同じ仕事から始めた。1年目:超使えない→2年目:ようやく人並み→3年目:なぜかノリノリで昇進→4年目:ハンバーガー大学で賞をもらう。そして入社4年半で店長!同期200人で一番乗り、異例のスピード昇進である。勝因は?「周りの人に恵まれました!」
ところが店長昇進1年で退社――「ハンバーガー馬鹿になるな」「どこに行っても成功する力を付けよ」といつも上司から言われていた。それを実践に移したことになるだろうか。業界誌で読んだ新進企業の特集が面白く、悩んだ末、正社員4,000人超の大企業から、100人程度のまだ若いその会社へ飛び込むことを決意→給料が半分に!!
成熟した巨大企業マクドナルドでは体験出来ないことを、若く小さなその会社で学んだ。
まずマニュアルというものがない――そんなところからイチから携わっていった。店が誕生するまでのあらゆる工程を全て自分で手配し、段取りする。部署ごとにタテ割りな大企業と違い、「線」で仕事が出来た。
●K
入社とほぼ同時期、ハワイからハンバーガー店「K」がやって来た。やがてスーパーバイザーとしてそのハンバーガーの部署に異動。都合8年、大半の店舗に関わった。
最終的には営業部長として、まさに要の職を務めるが、しかしここでまた新たな進路を選ぶことに。このままひとつ会社に骨を埋めるか、危険を覚悟で自分の好きな仕事を始めるか――つまりは「独立」。または「脱サラ」とも。
結局、「お店そのものが大好き」なので、本部で管理職やってるよりも店に立って、店を切り回している方がずっと楽しい。「たった一度きりの人生……独身だし、イッチョやりたいことに挑戦しよう」と、こうしてこのハラカラ。が誕生した。
自分で作る自分の店である。サイドメニューに至るまで「自分が心からおいしいと思える商品しか置かない」ことに決めた。
萩原さんはラーメンが好きである。しかしその昔果敢に挑んだ、こってり大盛り・背脂たっぷりなラーメンは正直最近ちょとキツイ……。世のハンバーガーにも胃もたれするようなヘヴィなモノが少なくない。食べたい、が、食べられない。30代、40代、50代がぺろっと健康的に食べられる分野がハンバーガーにもあって良いのではないか。
なのでコノ店のコンセプトは、食欲・味の好みともそこそこ落ち着いた「オトナたち」が、おいしく食べられるハンバーガーである。故にごくさっぱり・あっさりとしている。物足りなさを感じるのは承知の上。塩コショウだけでおいしく食べられるバーガーを目指した。しかしそれは最高の品質と技術を求められる、最高に厳しい条件でもある。
●土佐の塩丸
バーガー9種類。チーズバーガー\950。オープンフェイスで供される。重ねたときの姿が見事なだけに、ソレを見せられないのはやや損。クラウン(上バンズ)の下にマヨネーズ、フリルの付いたレタス、トマト、チーズ、パティ、ヒール(下バンズ)。
パティは外国産肉使用。品質・安全性とも自信あり。タマネギを入れたり、やわらかくしたり、家庭の「ハンバーグ」をあえて意識して分厚め。香辛料によりクサミを消し……実はオーナー、食べ物のクサミが大の苦手。
何とも絶妙にやわらかい食感に落ち着いている。が、コレといったエッジや変化がないため、飽きると言えば飽きる。それ以前に1/3パウンド、152gというボリュームは、女性や中高年の小さな胃袋をターゲットにしていることを思えば、逆行する大きさに思える。
振られた甘塩のゆる〜い旨味が絶品!「この塩がないとウチの商品作れない」とオーナー絶賛の天然塩「土佐の塩丸」使用。ミルで粗く挽いたコショウもガツッとかかり、肉の香りがプンと漂う。ステーキ屋、またはハンバーグステーキ的な表情もあり。
バンズは峰屋。フランスパン系のハードなものを求めていたところ、待ってました!とばかりホイホイ作ってくれたのが、コレ。峰屋ご主人自信の一作。
酒種天然酵母使用。目のしっかりしたチャパタ生地で、小麦の香り深く、表面ガチッと硬く、しかし噛み千切るのに力を要さず、ふっかりとした膨らみと厚みを持って力強くしっかりと中身を包み込む。存在感は圧倒的だが、しかし中身の邪魔をしない――都内で食べ得る最上級のバンズである。神がかり的ですらあると言ってよい。
●ビバベルディ
水っぽさやクサミを避けて、レタスは「ビバベルディ」という葉肉の薄い非結球レタスを選んだ。
四国から直送。ポットに入り、根を土に張ったままの生きた状態で来るので常温で2週間保存可能。何とハラカラ専用のハウスがあるそうで(笑)。シャリシャリと薄く、食感的意味はさほど無し。彩り要員と言うところ。トマトは桃太郎の2L、A級。微量のマヨネーズが隠し味として有効に機能している。
全体にはチャパタバンズのビジュアルが強烈で、サンドイッチ的な印象も濃い。味をガチッと決め込まず、無用な手を加えずに、パンの間にそのまま挟んで食材本来の旨味を最大限引き出す方向性。ゆる〜くじわ〜っと効かせた天然塩が間違いなくポイント。
激烈な味を求める人には正直わかりにくいかも知れない。そもそもハンバーガー自体、はっきりとしたプロポーションをこそ期待される食べ物なので、果たしてこのユル旨さの良き理解者がどれだけ現れるか――勝負はこの辺りに懸かっている。
その他、信州の養鶏農家から直送される有精卵エッグや(黄身が立ってる!)、軽井沢直送のピクルスなど(つまみに最適!)、オーナーの目利きが光る自慢の食材が目白押し。アボカドを寝かせる技術にかけても熟練の腕を誇る。
あくまで「うちは日本の店」ということで、あえて店内からアメリカ的なものを排した。なのでBGMはちょっと懐かしJ-POP中心。ハンバーガー店でありながらメニューは全部日本語。英語表記がされていない……いや、それはコンセプトと言うより、単に不親切の部類だと思うのですが(笑)。
●同胞
店名「ハラカラ。」とは古くからの日本語で、漢字で「同胞」。仲間、友達という意味。店にはお客様やスタッフばかりでなく、目に見えないところでサポートしてくれている人たちがいっぱい居る。そんな彼らの支えに感謝し、敬意を払うことを忘れぬよう――という思いを込めて。これまたイイ話。細坪基佳の歌にちなんだ。
§ §
Mバーガーでのアルバイトから数えて業界歴20年。毛嫌いしていた世界なのに、今では「天職だ」とすら思っている。もしあのとき旅行会社に就職していたら、今頃どうなっていたろうか。
ハンバーガーは大好きだけど、でも最近食べると胃もたれが……なんて日がいずれ来るかも知れない。そんな時、さっぱりさらっと食べられるバーガーがあれば――そんな要望に応える店である。実際ラーメンにおいては、そうした「あっさり」なジャンルは既に確立されている。そうした意味では3歩ぐらい先を行く店と言えるかも知れない。ハンバーガーの未来像を提示する、オトナなハンバーガーショップ。
→ 【二ッ目!】 ハラカラ。 [三軒茶屋] のアボカドバーガー
― shop data ―
所在地: 東京都世田谷区三軒茶屋2-16-8
東急電鉄 三軒茶屋駅歩4分 地図
TEL: 03-6323-1760
URL: http://ameblo.jp/hagisann/
オープン: 2009年5月14日
* 営業時間 *
平日: 11:30〜16:30(16:00LO), 18:30〜22:00(21:30LO)
※月曜ランチタイムのみ
土曜: 11:30〜22:00(21:30LO)
日祝: 11:30〜20:00(19:30LO)
定休日: 不定休(要確認)
このお店は知りませんでした。
結構家から近いので、近々お伺いしますね!
一度食べてみたいけど、高知でも入手不可みたい>土佐の塩丸
話、変わりますけど下北沢の「FRISCO」は取材予定有りますか?
もし、有れば楽しみですが。
コメントありがとうございます。
三茶〜駒沢界隈には趣の異なるハンバーガー店/ダイナーがいくつもありますが、こちらのお店もなかなかに骨のある、クセ者ですね(笑)。三茶にはめずらしく、すっきりとした店内です。お天気の日など、長居されるとよいと思います。
またよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
そうでした、この塩のこと、土佐人タカシ。様にお伝えするのを忘れておりました。ハイ、なにしろ入手困難な逸品です。本当にゆるやか〜な旨味ですね。力任せに効かせようとしていない、自然な味付けがなにしろ功を奏しています。そもそも「旨味」と表現する場合、それが激烈なものであることは少ないでしょうね。微かで緩やかであっても深く、繰り返しいつまでも味わっていたい――そんな味わいのことを言うのかも知れません。
そう考えると、コノ店のバーガーの最大の主役かも知れません――土佐の塩丸。