お待たせしました――HUNGRY HEAVEN(ハングリーヘブン)です!
●川越街道
例によって道の話から。
東武東上線の南を並行して走る国道254号線が、現代の川越街道である。254号は池袋の六ツ又交差点を起点としているが、旧街道は中山道の「平尾追分」(首都高速板橋JCTの辺り)を起点にグーッと南に分かれて進む道筋で、中山道の脇往還として賑わった。中山道は京へと向かい、川越街道は文字通り川越へ向かう。
上板橋は、板橋宿に次ぐ川越街道2番目の宿場である。
近年私が川越へ行く目的はひとつ、そう、「オートマンダイナー」へ行くためなのだが、なのでこれまで東上線には「急行」しか乗ったことがなかった。「普通」列車に乗るのは、あるいは今回が人生初かも知れない。
初めて降りた上板橋は、まぁ静かな駅だった。かつて宿場町としてどれほど賑わったか知らぬが、いずれにせよ街道は駅の南側。今回用のあるのは北側。
かつて中央線の荻窪に「キャデラックバーガーズ」という、それはそれは宝石箱のように輝くハンバーガー屋が在ったのだが、街の賑わいさえ無視すれば、駅と店の位置関係はそのキャデラックバーガーズに似ている。北口ロータリーから駅前通りに出て、ちょっと歩いて小径に折れる――すると荻窪の場合、曲がった先にも商店が続くのだが、上板橋だと……えっ? ココ入ってくんですか?
何でこんなトコに? な立地である。駅前でも商店街でも無い。人通りが無い。会社も無い。頼みの病院は工事中。駅の反対側の方が栄えてる――いや、栄えてもない(店長談)。
●It's a Gyubig World
創業1987年、今年で23年目の焼肉店「ギュービッグ」が始めたハンバーガーショップ。牛(ギュー)がビッグ(大きい)でギュービッグ――明快! 現オーナーの父親が初代、息子が継いで今2代目。その名に負けぬ爆発的ボリュームが若者に人気の老舗である。肉好き落涙必至! 「他で食えないくらい豪快!」(店長談)
20年以上、今のハングリーヘブンの在る場所で営業してきたが、2年前に同じ建物の2階へ移動。空けとくのもなんだし、でも手放すのもなぁ……「じゃあ、ハンバーガーやりましょう!」となったのは、店長タマヤマさんが根っからのハンバーガー好きだったことに因る。
焼肉屋の営業の傍ら、オーナーと2人でひたすら改装。完成まで丸2ヶ月掛かった。カウンタースツール以外すべて2人の手作りである。
カウンター5席にテーブル10席。パースも設計図も無し、すべてのデザインはタマヤマさんの右脳から。打ち放しの壁、黒く塗った天井。床板は古材風に2人で加工し、全体に渇いた、ドライな質感でありながら、ウッディな温みをも感じさせる、ちょっと「尖った」カフェな雰囲気に仕上がった。エキスパンドメタルの使い方など実に渇いている。
特筆すべきは椅子。「もう捨てようか」という使い古しの椅子の皮を剥いでみたところ、中の骨の形が面白かったのでリサイクル――エコしてます。
店内の雑貨の類は全て店長の所有物。入り口脇のコミックなどが収まる棚は、そもそも「新説・ザ・ワールド・イズ・マイン」を読んで欲しくて並べたのが始まり。他にオススメはカネコアツシなど。ほぼジャケ買いで収集したレコードジャケットは、エラ・フィッツジェラルド、ロッキー・ホラー・ショー、プロコル・ハルム辺りがポピュラーか。
●牛の上にも三年
タマヤマさんは高校時代にモスでバイトの経験あり。「クアアイナ」をよく食べていたが、ひとつの「料理」としてハンバーガーに感銘を受けたのは「ブラザーズ」から。一番好きなのは「フェローズ」。
二十歳で近くに越して来て、ギュービッグでバイトする。すぐ辞めてアパレル、次いで飲食――洋食屋やパスタ屋などを渡るが、その間も家から近いギュービッグへはよく食べに行っていた。いずれ自分で店を出すことを考えたとき「お肉をもっと知りたいな」と思い、再びギュービッグへ。
「修業させてくれ」と門を叩いたのが、オーナーと話すうち「一緒にやってきたいな」へと変わり、さらに話すうち「一緒にやろう!」とオーナーに熱く肩を叩かれて、以来3年。いろんなことがやりたい、ハングリーヘブンをどんどん増やそう、それより先にギュービッグを増やそう――目標は数あれど、常に「社長と一緒」が合言葉。そんなギュービッグの"片腕"タマヤマさんが、全幅の信頼を持って任されたハンバーガーショップが、このハングリーヘブンである。
今月末でオープン1年。シブイ時期もあったが、ココ3〜4ヶ月は俄然上向いて土日の昼は並ぶまでに。付近に案外と外国人が多く「コウユウ店、ナカッタ」と好評。さらに変わった洋酒を安く飲める店が無かったため、そちらの筋からも好評。と言うか、雰囲気としては間違いなく夜の店である。夜中の2時まで営業しており、1時に満卓になることも――その時間までやってるハンバーガー屋が家の近くにあったら、そりゃ便利でしょ。
●バランス重視
ハンバーガー類24品、サンド2品。さらに女性など小食の方向けに「S SIZE BURGER」12品。ドラフトはカールスバーグ。その他世界の瓶ビールが厳選12種類。さらにKONISHIKIプロデュースのハワイのココナッツ酒「椰子」など、めずらしい酒を鋭意蒐集中。
ハングリーヘブン チーズ¥850。クラウン(上バンズ)、2枚重ねのチェダーチーズ、オリジナルソース、パティ、レリッシュ、マスタード、オニオンは生、トマト、レタス、マヨネーズ、ヒール(下バンズ)。付け合わせのフレンチフライはシュースト。レタス、オニオン増量無料!
最初に断っておくが、「焼肉屋が始めたハンバーガー店」というところから来る「期待」とは、まるで別の部分で勝負しているハンバーガーである。
額(ひたい)の「肉」の字をことさら強調することなく、圧倒的なバランス重視。焼肉屋なのに「すげない」ことを――と見るか、肉に頼ることなくバーガー全体のバランスで勝負するなんて、なんて「果敢」――と見るか、そこは各人の判断に委ねる。ただコレも最初に断っておくが、一個のハンバーガーとして、コレはおいしい!
レリッシュとマスタード、そして直下のオニオンとトマトが織り成す酸味がさらなる食欲を誘う、全体に軽めで食べやすい作り。よ〜く研究している印象だ。
まず良いバンズである。「THE GREAT BURGER」を思わせる強いコゲ茶の焼き色……ちょっとやり過ぎ。クリームパンのような「シナッ」した表皮を想像するが、実際にはパリパリとライトな食感である。
注目は生地の柔軟さ。「ふわふわ」という意味ではない。中に挟む具材のカタチに合わせ、生地が内側に「窪む」のである。ハンバーガーの断面を見ると、バンズは半円形でなく内側に窪んで三日月型ないしは弓状になっている。中の具材にピタッとフィットし、しっかりと吸着して離さないその機能性の高さは、ブラザーズのソレを思わせる。
パティは日によってオージーまたはUSビーフ。それと和牛の脂――さらに! ここからが焼肉屋ならでは。"まかない"でしか食べられない超おいし〜い秘密の部位をミックス。まさに焼肉屋ならではの"おいしい"特典だ。つなぎ無し。塩コショウのみで焼いて、程よいやわらかさ。
●Knockin' On Heaven's Door
焼肉のタレを思わせるソースは、そこまでキツくなく、入り口における軽い香り添え程度。タマネギとトマトをベースに自分トコでイチから作っている――つまり自家製。スイートチリソース以外全部作っている。
マヨネーズだって自家製。マヨネーズこそ、バーガーの全ての食材をひとつに繋ぎ、架け橋となる「要」――「これだけは重要視した。だから市販のモノでは違和感あり」とことさら熱く店長。
但し積み方は上手くない。辛うじてスキュアーで保たれてはいるものの、見た目がすごく不安定。バンズも中身は優秀極まり無いのだが、カリメロの帽子かチョコボールのキョロちゃんみたいな尖り方で、もうひとつ「らしく」ない。
野菜が冷たいのも一考。レタスが丁寧に折り畳まれているため、中心ほどすごくよく冷えているのである。熱い肉に冷たい野菜――「温度差好き」という嗜好もあるが、ここまでの冷たさはさすがに料理の常識から外れているように思う。パリパリとした歯応えも大事だが、熱い肉の醍醐味が損なわれることを看過してはならない。
§ §
とは言えバンズはやはり傑作。町のパン屋によくぞここまで作らせたものと驚嘆しきりである。あと焼肉屋「らしさ」を表現すべく、通常のやわらかなパティ"とは別に"、ごっつい肉を大胆に使った骨太ならぬ「肉厚」なバーガーを考えてはどうだろう――あってもいいでしょ。
天国の扉を叩け、さらば開かれん――バーガー通を"昇天"させる上板橋の新店は、もうすぐ1周年!
→ # HUNGRY HEAVEN [上板橋] のサワークリームオニオンチーズバーガー
# HUNGRY HEAVEN [上板橋] のチーズチーズチーズ
# HUNGRY HEAVEN [上板橋] のハングリーヘブンバーガー
― shop data ―
所在地: 東京都板橋区上板橋3-5-1 1F
東武鉄道 上板橋駅歩5分 地図
TEL: 03-3937-8929
オープン: 2008年11月30日
営業時間: 平日: 11:30〜15:00, 17:00〜26:00(25:30LO)
土祝日: 11:30〜26:00(25:30LO)
定休日: 無休(要確認)