団地を訪ねたのは久しぶりである。
●小金原団地
かつて団地には夢があった。「ウルトラマン」に登場する団地の姿は威風堂々、どこか誇らしげである。時代の最先端行くライフスタイル――それが憧れの団地暮らしだった。
そんな高度成長期の夢も、今では「昭和」という郷愁の中に片足を突っ込んだような存在である。時の流れの酷さよ――。なのでいまだ「現役」とは知りながら、それでも団地を訪ねると、逃れようもないほどのノスタルジイの洪水に襲われる。
ときに「団地マニア」な人々というのが居るのである。イイ! コレもイイ! ココもイイ! けっこう熱いじゃないか、団地!
さて日本住宅公団供給による小金原団地。実際にお住まいの方によるこんな素敵なページを見つけた。昭和39年(1964年)4月の着工、昭和44年(1969年)5月より入居開始。小金原(こがねはら)の地名は昭和43年(1986年)8月に公募して決めた……ほほぉ。建設当時の様子が知れるこんな貴重な写真群も発見……只今インフラ真っ最中!
●独立都市
住所は松戸市だが柏市がすぐそこ。実際のところは松戸でも柏でもない「小金原」というひとつの独立した街であるという。最寄りの北小金駅・八柱駅からいずれもバス15分。陸の孤島は言い過ぎだが、よそ者が用事があって行く場所ではない。
かつて憧れだった団地暮らしも40年の時を経て、建物・住人とも老朽化が進行……失礼。そんな老いし団地の商店街の外れに、(1)1個1,000円もするハンバーガーを出し、しかも(2)店内犬連れ可という、またとんでもなく時代の先ゆく店がオープンしたもんだから、さぁ〜大変! 中高年を主とする団地住人の「常識」からすれば、途方もなく「非常識」な店が現れたワケである。
兄がハンバーガーショップ、妹がドッグサロンを営む、兄妹の店である。週1回お母さんも登場……「FELLOWS」みたい。
最初から兄妹一緒にやるつもりで物件を探していた。その初期の段階で、東京・湯島にある蔦の絡まる写真スタジオ跡にぞっこん惚れ込み、建物一棟借りを検討。契約寸前まで行くも、土壇場で断念。その建物があまりに良過ぎたため、以後都内のどんな物件を見ても何とも思わなくなってしまった。こうなったら舞台は地元、千葉県へ――。
●ドッグスサロンR
柏も探したし、新松戸も探した――それでも無い。
この小金原団地には散歩でよく来ていた。島本オーナーの家は、家族挙げての犬好きである。
団地の中心に位置する小金原公園は格好の散歩スポットになっている。しかし犬の多い割りにトリミングショップは1軒しかない。犬連れOKの店も少ない……「ココは」と思い、一転コノ場所に決めた。
「妹の方を考えて、犬がいっぱい居る場所がいいのかな」という言葉を聞くと、実に妹思いな兄のように思えるが、その兄・島本氏の「目標」は30代までに独立すること。オープンした昨年7月、彼の30代突入の誕生日が間近に迫っており、要は島本氏はあせっていたのである――妹曰く「相当急かされた」。
本当は前居たショップでもうちょっと学びたいことがあったのに、急かされて、辞めさせられ……おいっ! 自分のタイムリミットに妹を巻き込んだな? 但し予定より早まりはしたものの、結果的には独立して「良かった」と、妹殿は本心から仰っておられるので結果オーライ、兄妹仲は至って平穏。
●レインボーキッチン
オーナー島本氏と私の出会いは、千駄木の虹台所「Rainbow Kitchen」で。島本氏は当時スタッフとして働いていた。
元々古着屋志望。古着と言えばアメリカ、アメリカと言えばハンバーガー。要はアメリカが好き。アメリカが好きになったのは古着から。古着が好きになったのは高校生の時……リーバイスの66(ロクロク)とかXX(ダブルエックス)とか、ビンテージもののジーンズが流行っていた時期である。今も集めている。
住宅系の建築会社に就職。退職後「好きなことやろう」と独立を念頭に置いて、何をするかずっーと考えていたところ、そこでハンバーガーがHIT!
会社が本郷三丁目にあったので「FIRE HOUSE」によく行った。ファイヤーハウスのおかげで「こんなバーガーが日本にもあるんだ!」と気付き、やがて自身の独立に際して「コレだ! コレを商売にしよう!」と決意。
やるからには「修行」しないといけない。その修行の場をレインボーキッチンに決めたのは「すごいやさしいハンバーガーだった」から。「男の作るハンバーガーって、よく焼いて、塩コショウぶっかけて、マヨネーズぶっかけて」――レインボーの女性オーナー坂口さんの作るハンバーガーは「やさしい味だな」と感じた。
レインボーには1年半ぐらい。入るときに「ハンバーガー屋やりたいんで修行させて下さい」と言ったところ、坂口オーナーは最初からすべてを教えてくれ、アメリカに一緒に行き、物件探しも一緒にし、R-S(アールズ)開店間際は週に4度も小金原まで足を運んでくれた。仰げば尊しである。
●プレイモービル
商店街の目抜き通りからやや外れた場所に位置。モトは1つの大きな店舗だったのを4分割した、その1区画。
デザインは建築会社のときの上司に依頼。店内の造作、置いてある小物・雑貨――場違いなくらい、ものっすごい本気で作り込んだ店である。入って手前が兄のハンバーガーショップ、通り抜けて奥に妹のドッグサロンという構造。柱と鉄筋のみによる動線の作りがよい。ハンバーガーショップはドッグOK。但し一段上がったフロアはNG。
テーマは「工事現場の途中」みたいな店。そう言われると壁手前に組まれたパイプは建築資材か。ブルックリンラガーの並ぶカウンターは足場板。足場パイプの上に無造作に板を渡したベンチがあったり。なお壁にぶら下がるグレゴリーのバックはビンテージものにして、コノ店最大の見どころ。
店内無数に置かれるおもちゃもすべて私物。ブロックはドイツのプレイモービル。現在絶版になっていたりなど、レア物多数。特にインディアンものがお気に入りで、大学生の頃「俺は将来インディアンになるんだ」と本気で思っていたとか……インディアン、嘘つかない。
●強烈なる弾き
バーガー類19品、サンド8品……並べたねぇ。チーズバーガー¥950。クラウン(上バンズ)、チーズ、パティ、ケチャップ&バーベキューソース、マヨネーズ、オニオンは生、トマト、何層にも重ねたレタス、マヨネーズ、ヒール(下バンズ)。
分厚いビーフパティ115gはオージーの赤身肉を主体に、和牛の牛脂をブレンド。しっかりとした食感。チーズがまた見事なコーティングぶり。
バンズは地元小金原の超有名ベーカリーの力作。よく焼き込んであり、砂糖不使用につき甘味抜きの香ばしさ。粉の香りがたまらない。表面に卵黄とコーヒーパウダーを塗って、こんがりイイこげ茶色を出している。グリドル上でもかなりしっかりと焼き込んでいるが、これもベーカリーからの指示。
ポテトフレークを練り込んだ生地の弾力が凄まじい。その弾(ひ)きの強さを私はおいしく楽しめたが、アゴの弱い人だと噛み切れるかどうか、ギリギリの線である。紙一重。アゴが疲れます。上バンズの切り方がこんなに薄く小さくなっているのも、その弾力を考慮した故か。ただ下バンズが碁石を入れる「碁笥(ごけ)」のようになっているのはヤリ過ぎ。
ケチャップ、マヨネーズがしっかり入ってキャッチーな味なのだが、素材の旨味をじっくり楽しむことができるという、二律背反をクリアしたバーガー。なにせバンズの役割は絶大。
砂糖や塩の味が特にはっきり付いたバンズでは無いのに、パティ以下中身の味付けが弱いとバンズに負けてしまうという。これだけパワーのあるバンズだからこそ「どんどん味付けしていけた」と。こんなバンズ、滅多にお目にかかれませんよ!
付け合わせはカーリーフライのポテトにスウィートピクルス。お供の生ビールは前回に続いてカールスバーグ。自慢のサイドメニューはチョリソー¥600。
●ハンバーガーは「おもちゃ」
バンズにはこんなエピソードも。
レインボーキッチンで出会った私と島本氏は、後日原宿「THE GREAT BURGER(以下「GB」)」へ行き、将来のことを始めいろいろな話をする。奇しくも自家製バンズの試食の日だった。
さらに後のこと。アールズのバンズ開発にあたり「何か参考になるものが欲しい」とパン屋に言われた島本氏は、GBからバンズをもらい受け、パン屋へ渡す。試作を重ね、ついに完成したバンズを御礼にGBへ。それを食べたGBの車田オーナーは予想外の出来の良さに衝撃を受けたそうである。大絶賛して曰く「これは理想に近いバンズだ」――。
§ §
ハンバーガーはファッション、そして「おもちゃ」だと主張する島本氏。人形の「着せ替え」感覚で、取っ替え引っ替えトッピングして楽しんで欲しいと。団塊世代の住人たちに響くか。小金原団地に新風を送り込む、兄妹の店。
→ # R-S [千葉・北小金] のTHE・バーガー TOPPING チーズ、タルタルソース
# R-S [千葉・北小金] のKISEKI〜奇跡〜
# R-S [千葉・北小金] のリアルバーガー
# APIOジムニーライフ/『ON THE STREET BURGER』――Vol.15 R-S [千葉・北小金]
― shop data ―
所在地: 千葉県松戸市小金原6-2-6
JR北小金駅より新京成バス「行政センター」下車 地図
TEL: Burger 047-312-6668/Salon 047-312-6669
URL: http://rsburger.exblog.jp/
オープン: 2008年7月25日
* 営業時間 *
Burger 11:00〜23:00(LO22:00, 月曜はLO20:30)
Salon 10:00〜19:00
定休日: 火曜日(要確認)