生まれて初めて西鉄に乗った。西鉄福岡(天神)駅を出て、薬院を飛ばし、西鉄平尾、高宮、大橋――この辺りの天神大牟田(おおむた)線の各駅には、ハンバーガーショップ/ダイナーがちょうどいい塩梅に並んでいる。というワケでこの度のお題は……大牟田線"ずばり"途中下車の旅。
●大橋
大橋は学生の街という。周辺には"大中"の学校が多くあり、朝夕は彼ら通学客で大いに賑わう。メインは東口。店は「裏手」に当たる西口に在るのだが、それでも西鉄福岡、西鉄久留米に次いで、西鉄全線で3番目の乗降客数を誇るこの大橋駅の徒歩1分圏に位置するワケで、「人通りが少ない」などということはまるでなく、全国の他のバーガー店と較べても、かなり恵まれた立地のように思われる。
オーナー白水(しろみず)さんがこの狭隘な物件で店を始めたのは'06年4月18日。ハンバーガーとの出会いはそれよりウンと遡った昔のことである。
●リサとバーガーイン
白水さんのハンバーガーとの出会いは小学校2,3年の頃、仲良しの家のおばさんに連れて行ってもらった、西中洲の「ハンバーガー リサ」でであった。リサのハンバーガーを食べた白水少年は「こげなウマかモンがこの世の中ばあったったい!?」というくらい強い衝撃を受け、以来その思いを忘れることがなかった。日本にマクドナルドが上陸する前夜――当時は牛肉などまだ頻繁に口にする時代ではなかったのである。
高校時代、ディスコでひと汗掻いた後に食べるリサのハンバーガーを、カッコ良く感じたりもしていた。
やがて社会人――出張で東京に行った折、六本木に「ハンバーガーイン」という店があると聞き、訪ねてみた。すると幸運にもこの日、オーナー夫人と2時間あまりにわたって話し込む機会を得、「いつか自分もハンバーガー屋をやりたいんです」「始めたら必ずご報告しますネ」などと熱く思いを語ることができたのである。
ロアビル向かいにあった歴史あるコノ店は'05年10月に閉店してしまい、結局この一度切りしか行くことは叶わなかったが、それでも六本木のハンバーガーインと博多のリサは、特別な思いを伴う、あるいは日々の「励み」となる店として、白水さんの胸の内に今なお深く生き続けている。
●ショップとスタンド
こうして長い間、ハンバーガーとは常に「何となく宿命」な関係であり続けたのだが、勤め先の事業所が九州から撤退することに決まった辺りから、心中ずっとキープしていたこの計画が急速に現実味を帯びてくることとなる。
スーパーマーケットのマネージャーに転じ、夜勤の日には、独り夜な夜な食材の研究などを重ねた。奥様は平尾の名店「SEA DINER」で働き、オーナー馬場さんからハンバーガーの何たるかをみっちりと仕込まれた。この頃より物件を当たり始め、3年かけてようやく辿り着いたのが、大橋駅徒歩1分にあるこの場所だった。
ケーズ・バーガー「ショップ」とあるが、実際には「スタンド」と呼ぶ方がふさわしい。よくもこんな狭いところでやれるモンだ――と思わず感心してしまうくらい狭小な店である。暫定、国内「最狭」。
元はたこ焼き屋だった。必要なモノを上手く収めるには大変な苦労が要ったが、おかげで保健所からはお褒めの言葉まで戴いた。なにしろシロウトの始めた店なのでムダな買い物が多く、当初はキッチンの上に寿司ネタを入れる冷蔵ケースがあったという……まぁ握りませんから。バーガーは。
●破格
バーガー類9品。ホットドッグ1品。調理場の問題か、フィッシュやチキンなどフライを挟んだ「非バーガー」が無く、結果としてかなり正統なラインナップになっている。レギュラーがパティ80g、ビッグサイズが120g。1日10個限定のヤキニクバーガーを除き、どのバーガーにもビッグサイズがあり、先頭に「K's」と付けて「K's ○○バーガー」と呼ぶ。他にサンド、サイドにフライドポテト、ハッシュ(ド)ポテト、オニオンリングなど。
チーズバーガーレギュラー¥430。上バン(クラウン)の下はマヨネーズ、オニオンスライス、黒胡椒を振って、厚切りのトマト、「高さが欲しくて」ふんだんに挟み込んだレタス、ケチャップベースの特製ソース、チーズはチェダー1枚じゃ物足りないとゴーダチーズも溶かし、パティは国産牛を使用、で下バン(ヒール)――コレは破格も破格、この値段では到底食べられない内容である。1個100円のファストフード店で430円積んだって、こんなバーガーまず出て来ませんから。涙ぐましい努力と工夫の上に積み上げられた、価格破壊的本格バーガー。
正直こんなにおいしいモノが出て来ようとは思わなかった――。
ただし、特製ソースとマヨネーズの量がやや多く、パティの味は消されがち。このバランスでゆくなら、別に国産牛を使わなくても良いように思う。レタスも同様。この日(時期)は葉肉の厚い福岡産だったというのもあるが、この量には食べ応えすら覚えた。バランスを考えればここまでは要らない。
工夫のおかげでチーズは味の主張がハッキリ効いており、バンズも及第点。で、この味わい――「安い」というのが率直な感想である。せめて軒先にテーブルの2つも並んでいれば、あるいはせめて佐世保のように、すぐ近くに座って食べられるベンチなどあれば……食べているところをもっと見せたいバーガー。やっぱり熱々のうちに食べてもらうのが一番でしょ。
●西流取締
ときに白水さん、博多祇園山笠の運営に当たる「流(ながれ)」のうち、十一町(地区)から成る大所帯「西流(にしながれ)」の取締を務める。
取締とは、その町の顔であり代表者であり、各町内から任命された人が就く、博多の町では大変に名誉ある大役である。「最近舁き(かき)手がいなくなってねぇ」などと、作る合間に常連さんと話していた――どちらも後継者不足のようで。
なので7月9日から15日まで、「お汐井取り」から「追い山」までの期間、店はお休み。ラグビーとアメフトで鍛えたその体格は舁き山にはもってこいだろうが、しかし今の店にはちょっと大き過ぎるだろう。今の「スタンド」も悪くはないが、「店内」のある、文字通りの「ショップ」に引っ越しできる日が一日も早く訪れることを――。
来る4月18日で祝! 2周年!!
― shop data ―
所在地: 福岡県福岡市南区大橋1-8-8
西鉄天神大牟田線 大橋駅歩1分 地図
TEL: 090-5938-1919
オープン: 2006年4月18日
営業時間: 11:30〜20:00
定休日: 火曜日(要確認)
どうしても僕のブログのコメント返事がエラーになってしまうのでこちらに…
取材があったとはオーナーさんから伺っていたのですがまさか僕の記事がきっかけとは知りませんでした!こちらこそありがとうございました。嬉しかったです!
僕も機会があったら紹介されてる全国の美味しいハンバーガー屋さん巡ってみようと思います!
毎度コメントありがとうございます。
いやぁ「これから」ですよ。私が一体いま何件の記事をかかえているか、ご存知ですか?速筆の鍛錬になるとよいのですが……
ありがとうございました。
またよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
その後も私が調べ尽くせなかった店々に、いくつも行っておられるようで……次回私が博多を再訪するそのときまで、ぜひその調子で調査お願いいたします!頼りにしておりますので。
そんな次第でありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。