◆ 第14回 ◆ SUN-BURGER [彦根]
今秋9月1日にオープンしたばかりの近江牛を使ったハンバーガーショップ。
●南彦根
静かな駅前である。コンビニなどは見当たらず(東口にスーパーがあった模様)、目に留まるのは、この小駅にしては多過ぎるビジネスホテル数軒。途中、松下の工場が見えたので、その需要か。
駅からは県道に沿って平坦な道のり。クルマ社会なので、地元の人は駅から歩くこともないだろう。この一帯、稲作地帯と言えばまぁそうだが、県道528号(彦根環状線)に沿って家が建ち、生活に必要な諸施設・諸機能もそれとなし集まっている。
「小泉町」の交差点でクロスする県道206号(三津彦根線)にはマルゼンや市内唯一のユニクロなどが並び、ここが地元の生活の中心だろう。そのスーパーマルゼンのハス向かいに我らがサンバーガー。なので人の集まる立地である。
●4代目はイタリアン
……スミマセン。↑あまりな時代錯誤と低質な駄洒落……あらためます。
●寿司屋の四代目
オーナー杉本さんは、彦根の城下に三代続く由緒正しき寿司屋の跡取り。つまり四代目。ところがこのご時世、寿司がクルクル回りだした頃から、回らない寿司はすっかり劣勢で、これではとても立ち行かぬと店じまいする同業も相次いだ。そこで四代目・杉本さんは、寿司からの路線転換も視野に入れつつ、知識見聞を広め、新たな技術を取り入れんと料理人修行に出たのである。向かうは京都・祇園――。
和食は実家で学べる(寿司の他、仕出しもやっている)。なので外に出て「洋」を修得しようと、祇園界隈のレストランを渡り歩くこと3年余。フレンチを皮切りに、あとはイタリアンが続いた。さらに瀬田の某リゾートホテルに1年半。ここでもイタリアンに配属。実家を離れて5年近く、洋食の道に学んだ。
縁あって1年間、伊丹空港で「近江牛弁当」を売っていた時期もある。これは実家の調理場で作ったものを伊丹まで送っていたのである。
さて直近で勤めていた外食店が閉店してしまい、実家に戻ってはみたものの、継ぐにはまだ早かろうと、せめて継ぐまでの間、家業を離れて、自分の思うことを好きにカタチにしてみたいと、それで寿司とは180度かけ離れたハンバーガーの店を始めることにしたのである(いや、案外共通しているか)。ひょっとすると彦根で最初の個人のバーガー店かも知れない。
●親善大使
杉本さんのハンバーガーとの衝撃の出会いは高校時代。彦根市の友好親善大使として米国ミシガン州(五大湖沿岸……あっ、そんなつながりで)にショートステイしたとき食べた、アメリカンサイズのビッグなビッグなハンバーガーである。こんな食べ物があるんや! と、スケールの大きさに強烈なインパクトを受け、以後なんとなくハンバーガーの魅力に惹かれ続けてきた。ホテル時代には、最高の食材(の余り)を惜し気もなく使った「まかないバーガー」を作って好評だったと。
●表と裏
理髪店とのカップリングのこの物件。裏手に回ると、たいそう立派な構えの農家の中庭がある(店舗の大家ではない)。「表=ハンバーガーショップ、裏=農家」というこのギャップがけっこう新鮮。
寿司屋の血統なのか、店内、キッチンと差し向かいにカウンター5席。あとはコーナーにスツールがかろうじて2席ある程度の、文字通りのちょっとした「スタンド」である。BGMには軽快なウェスタンが流れていた。
まだ「手探り」のメニューはスタンダードバーガーに始まり、チーズバーガー、エッグバーガー、ベーコンバーガーと、オーソドックスな並び。さらにその上に「佐世保風」とカッコ書きしたスペシャルバーガーがあり、現在5品。サイズが3種類、S=パティ80g、M=100g、L=120g(スペシャルはM、Lのみ)。でお値段、スタンダードバーガーS¥540、M¥590、L¥690って安ーっ!! と、その安さを強調するのは他でもない、パティに近江牛を使っているからである。
●近江牛
チーズバーガーM¥560を。お供に昼間っから缶ビール¥350。店舗の契約上「揚げ物NG」ということで、付け合せはポテチ。
バンズは市内の名店が作る、天然酵母で発酵の全粒粉バンズ。「その日焼いたものをその日のうちに」というある種理想の提供スタイルにて。ヨコに大きく、セサミの味強く、表皮に強い張りがあって、中も硬めのしっかりとした生地。その下にサウザンソース、レタス、オニオンはスライス、トマト、ピクルス、チーズ、パティ、ケチャップ&マスタード、下バン。
チーズは「チェダー混じりのプロセス」ということで、チーズの調達にはどちらさんも苦労されているご様子(安定して手に入らないそうで)。このチーズバーガーはチーズ3枚のド迫力! 野菜は市内で人気の八百屋に頼み、地物を多く使っている。
さてここまでは前段。このバーガーの肝はなにしろ近江牛パティである。
誤解無きよう敢えてつまびらかにしておくが、近江牛100%はさすがに無理と。なので近江牛80%にAUSSIE20%の比率である。僅か2割抑えるだけでも原価に影響してくるわけだから、国産銘柄牛がいかに値が張るかということだ。食感にやわらかさを出すため、タマネギを微かに配合。
値段の話はどうでもよい。なにしろお〜いし〜い!! やわらかく、甘く、そして肉汁豊か。しかもしつこくないと来た。正直、野菜など無くてもよいと思った。「パンの間に肉」で十分! これは伝家の宝刀でしょう。理屈抜き! クセになります。
●腕前
名前だけで判断されてしまうのでは――との懸念から、『近江牛』の名を出すことに最初杉本さんは抵抗があったのだが、「自慢できるイイ肉なんだから、胸張って出せ」と肉屋に肩を押されて、それで出すようにしたと。その肉屋は、彦根の飲食店がこぞって指名する名店だそうである。
もちろん近江牛「だからおいしい」という等式は必ず成立するというものでもない。「名ばかり」の例はいくらもありましょう。やはりそこは間違いのない「腕」があってこその美味。よい素材を正しく調理してこそ、このような「幸せ」な結末に至ことができるわけである。
その点でゆくと、この極上の肉になぜまた「ケチャップ&マスタード」なのか――つまりこの肉ならもっとおいしい食べ方があるんじゃないかとは、シロウトながら思ってしまう。
だってケチャップとマスタードって、卓上に置いてあって「お好みでどうぞ」という調味料でしょ? 何もそれを最初からガッチリかけて、味を決めてしまう必然があるのだろうかと。
いえ、それ自体おいしくないとか、オカシイと言っているのでなく、そもそも「ハンバーガーとくればケチャップ&マスタード」でOKなんです。なんですが、せっかく和洋の腕とこの伝家の宝刀パティをお持ちなのだから、既成のバーガーイメージはぜひ一度ナシにしていただいて、もっと純粋に「この肉はどうすればおいしいくなるか」というところを追求すべき――と、ご当地出身の田原総一郎張りに、けしかけておきます。
●お買い得
いずれにせよこの値段でこのバーガーは途轍もなくお得! 買いですよ! 買い! パティ追加は¥300。ちなみにトッピングには、当初なんとフォアグラ¥500(カナール)があったそうで。
「彦根の街外れ」に「本職は板前」の「イタリアンの覚えもある」マスターが始めた「小さなバーガースタンド」という取り合わせが、考えるほどにシュールな新店。 【つづく】
→ # SUN-BURGER [彦根] のスタンダード
『HAMBURGER STREET 創刊号』、販売全国69店リスト
― shop data ―
所在地: 滋賀県彦根市戸賀町240
JR南彦根駅歩10分 地図
TEL: 090-7104-0510
オープン: 2007年9月1日
営業時間: 11:30〜20:00(土日は売切れ次第終了の場合が多い)
定休日: 第1・第3水曜日、木曜日(要確認)