◆ 第11回 ◆
Sekky's Diner [岐阜] の♪5th ANNIVERSARY LIVE♪
≪後編≫
会の進行はおおむね前回のとおりである。今回はその華やかなライヴの陰で、我が身に一体何が起こったのかについて、説明する。
以下、ブライアン・デ・パルマ張りの、同時進行展開で――。
●蒼白
20時10分。「BAILEYS」が始まってすぐ。ミラーボールが回っているから「君の瞳に恋してる」の最中かも知れない。
右の写真を最後に突如デジカメが動かなくなった。電池を換えても動かない。レンズが出たきり引っ込まない。会場の外に出て同じことをしてみたが、やはり結果は同じ――故障である。これから「佳境」という時に撮るカメラが無くなってしまったのである。カメラはコレ1台しか無い。
最悪今夜はこのままでもよい。既にこれまでに200枚は切っているので。問題は明日。計3店を訪ねる予定がある――これをどうする。
とりあえず文だけまとめて、撮影は後日あらため……バカな。そんなこと出来るわけがない。カメラ無しの取材など到底考えられないのである。
突如とんでもない窮地に立たされてしまった。しかも旅先のこと、自由が利かない。最早今から新しいカメラを買いに行ける時間でもない。ライヴどころではなくなってしまった。アーケードの下、茫然自失……。
●対処
しばし検討の末、受付にポツンと独り寂しそうにしていたスタッフをつかまえ、説明。自宅に戻ったら送り返すので、誰でもよいからデジカメを貸してもらえないか――と相談した。
それ以外思いつかなかった。これだけの人数集まっているのだから、一人くらいは応じてくれる人、今は持ち合わせていなくても、自宅まで取りに戻れる人など、そんな奇特な御仁のおられることを期待したのである。
それにしても、デジカメなどという高価で大切なものを、見ず知らずの人間に貸してくれるものだろうか。そういうことは当然思ったし、他にもメモリーのこと、バッテリーのことなど考え出せば不安は尽きない。それでもココは一縷の望みに懸けるよりほか、手は無かった。
●回答
「しばらくかかると思うので、中に戻って楽しんでいて下さい」とスタッフに言われ、とりあえず手は打ったことでもあり、多少気も落ち着いたので再び会場に戻ると、まだ「BAILEYS」の出番が続いていた。目の前で好プレイが繰り広げられているというのに、撮り収めることの出来ない、この歯がゆさ……。
「DEUCES☆WILD」が始まった頃だったろうか。「店に戻ればあるので、お貸しします」と、セッキー氏からの返事をスタッフが伝えてきた――なんと!この晩のホストであり幹事である、本日誰よりも多忙な人物の仕事をさらに増やしてしまったのである。誠に面目次第も無く……。
●撤収
ライヴが終わった。
さっきまであんなにクタクタに疲れ切っていたのがウソのように、みなさんケロッとした顔をして帰宅。一部常連組はこれから2次会へ行くらしく、私も当初そのつもりだったのだが、しかしデジカメは「店に戻ればある」という状況である以上、貸主たるセッキー氏と共に、ともかくも店(セッキーズダイナー)まで行かねば、私の問題は解決しない。
しかしセッキー氏は当夜の主催者であり幹事である。終演後も会場の撤収、搬出、支払い等、仕事はまだ山のように残っている。店に戻るのはそれらがすべて片付いた「後」。と言うことは、セッキー氏が一刻も早く店に戻れるよう、つまり一刻も早く会場から退出できるよう、撤収を手伝うことこそ我が最善の選択と言うことであり、よって2次会チームには与(くみ)せず、ライヴの後はセッキーズスタッフと共に会場の撤収・片付けをする運命と決まった。
●豪雨
会場の「熱」が天まで届いたか、終演後は突如土砂降りの大雨となった。「降る」などというレベルではない。ゴォーゴォーと瀑布に近い水量が、腹にも響く低音を立てて、アーケードの屋根をしたたか打ちつける。
アーケードの入り口にバックでクルマを付けて(こういうとき屋根があると便利)、水しぶきの煙る中、鉢植えの花やシェイブアイスのマシン、クーラーボックスなど一切合財、とにかく手際良くリアに積み込んで、長良川の向こう、今日は休みのセッキーズダイナーへと向かったのは、終演から裕に2時間近くは経過した頃だった。
店に着く時分には雨はだいぶ治まっていたが、それでもなお降り続く中、灯りの落ちて真っ暗なダイナーに荷物を手早く搬入。コノ辺り当然の如く、写真は無い。残念である。一分一秒が二度と体験出来ない瞬間であったのに。
●残務
午前零時前、ひと段落したところで、あらためて私とセッキー氏との間の業務処理に取りかかった。
まずは5周年の祝い、東京から後生大事に携えてきた峰屋のパン一式を贈呈。これには「夢にまで見た峰屋のパン!!」と大男が歓喜した。次にセッキー氏よりデジカメの貸与。機種はCANONのIXY DIGITAL 50。メモリーはSDカード。専用充電器も忘れず一式――完璧!
さらに都内3店のカードに加え、名古屋の 8 Cafe から預かったチラシをセッキーズに置き、代わりにセッキーズのショップカードを束でもらった。これで業務終了。「まだ仕事が残っている」にも関わらず、セッキー氏は私を駅前の宿まで送って下さった。
本当にどこまでも「負んぶに抱っこ」の取材である。もしこの夜、代わりのカメラを調達出来ていなければ、翌日は大幅な計画変更を余儀なくされていたところ。1店ぐらいカットせねばならなかったかも知れず、1店当たりの滞在時間をうんと縮めねばならなかったろう。
それがまだたったの3回しか会ったことのない私なんぞの赤の他人に、デジカメのような「貴重品」を快く貸していただけるとは、嬉しくもあり、もったい無くもあり、そして何より人の世は、文字通り人と人との信頼と絆の上に結ばれ成り立っているのだということを強く思い、加えてその信頼の上にただ「チョン」と甘えて座っているだけの私の非力さが、つくづく情けなく思えて、どうにもやりきれない気持ちになった。
ともかくも今回、こうして事無きを得たのは、人と人との「つながり」があってこそである。
§ §
宿の前でセッキー氏と別れた後は、この時間でも開いている某定食チェーンで遅い夕食をとり、部屋に戻った。なのでフロントでキーを受け取るまで、この夜の私のアリバイは疑う余地なく成立している。 【つづく】
2007.10.19 Y.M