●利根町
茨城県北相馬郡利根町(とねまち)は、取手市の右隣、龍ヶ崎市の真下。茨城県の南端に位置し、'07年9月1日現在の人口18,160人。鉄道ならJR成田線布佐(ふさ)駅下車――町の玄関口である布佐駅は千葉県我孫子市にあるという……まぁ、よくある話ですか。
常磐線快速の通勤車両(E231系)が我孫子駅で折れて、単線である成田線にぐぼーぉっと乗り入れて行くさまは、率直に言ってミョウである。沿線には新興住宅地が開けていて、布佐駅もまたベッドタウンの表玄関といった佇まい。前後の駅よりもひと際立派に建てられている――という以上が千葉県側の話。
利根川を栄橋で渡ると茨城県である。栄橋の右方、布川(ふかわ)の町は、かつて利根川の水運で栄えた河岸(かし)である。江戸初期の水戸街道はこの辺りを通るコースをとったそうで、街並みにはかつての街道の佇まいが今なお残っている。さらに半里足らず北へ進むと、平らな地勢を活かして豊かな稲作地帯が広がっている。利根町は米どころだ。
その稲田の真ん中を南北に突っ切る県道は千葉龍ヶ崎線と呼ばれ、これが現代の街道筋といったところ。交通量はなかなかに多い。さてそんな地元の主要県道線沿いに在るのが……見て下さいよ、コノ写真を! ロードサイドですよ! 隣は田んぼですよ!
●減反対策
この辺りは「横須賀」と呼ばれている。どうしてまたこんな田んぼの真ん中に店が立つことになったかと言うと、そもそもは「減反対策」だったそうなのである。
昭和58年、1983年のオープン。コノ道24年のベテラン店主であるお母さんの家の本業は、農家である。国から言われるまま、ただコノ土地を遊ばせておいても仕方が無いと、ちょうどそのときチェーン店募集の話に目が止まった。
●ロッキーバーガー
ロッキーバーガーは柏に本部を構え、松戸・我孫子・土浦など常磐線沿線を中心に当時、数十店の規模で店舗展開していたローカルのバーガーチェーンである。お母さんもその一店の店主に加わり、これにより「ロッキーバーガー利根店」が誕生する。利根町制始まって以来、町史初のハンバーガーショップにして、今もなお利根町唯一の栄誉を守っている(某スーパーに入っていたマクドナルドは撤退した)。
ところがこのロッキーバーガー、どうもやり方がマズかったらしい。
オープンからわずか3、4ヶ月で、利根店は早々にチェーンを離脱(当時、同様に加盟店から抜ける店が相次いだと、お母さんの談)。材料などすべて自前で調達することに切り替えた。
とは言え店はまだ出来たばかり。看板を掛け替えるのも面倒くさいので、本部から言われるまでこのままにしとこう……と思っていたら、結局何の沙汰も無かったと。それで以来今日まで、ロッキーバーガー利根店として営業を続けているというのだ……なんたる! しかしコノ店が真の意味での「ロッキーバーガー」だった期間は、わずか3、4ヶ月しかなかったのである。
●吟味
但し提供するメニューについては、ロッキーバーガーは、どうもそれなりのクオリティを模索していた節がある。
カウンター上のメニュー写真は開店当時のものである。バーガー類9品。ハンバーガー¥200、コロッケバーガー¥140、テリヤキバーガー¥230、エビバーガー¥300。これらすべて四半世紀前から不動の価格。一度も値上げをしていない。ほかにチーズドッグ¥100、あげたこやき¥150、ココアあげパン¥100。さらに「県道沿いの軽食堂」という顔も持つため、カレーライス5品が¥360〜¥440、ヤキソバ¥300。
マクドナルドの"ハンバーガー"が1983年7月当時¥200というから、同じ価格である。だがロッキーバーガーのハンバーガーには同額でもレタスとトマトが入り、パティは見た目にわかるくらいに肉厚なものを使用している。より良いものを提供しようとしていた跡が窺える。
なお現在使っているパティは、チェーン離脱後に「さらに良いパティを」と、お母さんが選び直したものである。¥200でこの厚さですからねぇ。ふつうペラッペラですから。
チーズバーガー¥230。ポテトR(レギュラー)¥160、アイスコーヒー¥180。バンズの下はレタス、マヨネーズ、トマト、チーズ、パティ、ピクルス、ケチャップ、マスタード、下バン。チーズはスライスチーズ、ふわふわとハッキリしないバンズはまぁお約束として、存在感際立つパティに、酸味の少ないマイルドなマヨネーズの使用など、全体には案外なおいしさと食べ応えである。値段なりのモノが出てくると思ったら大間違い。ポテトも、モノも揚げ方もしっかりとしている。「吟味してやっております」とはお母さんの実に力強いお言葉である。
●80年代
「さほど手は加えていない」という店舗は、それでもだいぶ手入れが良いようで、見てのとおり古びこそすれ、傷みは少ない。
テント屋根付の入口は自動ドア。入るとすぐ左手に持ち帰り用の待ち席としてソファが置かれ、レジ両脇の棚には駄菓子が、それほど目一杯でもなく並んでいる。マンガの蔵書もそれなり。
BGMは旧冷蔵ケース上のナショナル製ラジオカセットからFM放送。サザンや、太田裕美の「九月の雨」などかかっていた――そうでなくちゃ! そしてラジカセの無事を後ろから見守る、ジェームス・ディーンのポスターのナゼ?
奥半分、カウンターより向こうが広々とキッチンに。イートーインがまた手抜き無く、立派なダイニングセットが3組。イチイチの"モノ"がしっかりしているのが、やはり長持ちの理由だろう。花は造花ながら可憐に店内を彩って、女主人らしい心遣いを感じさせる。
●当代限り
そんなことなので、本部はとうの昔に無くなって、現在残るロッキーバーガーの名跡はあと一店、千葉県野田市の関宿(せきやど)店のみとなった。名こそ流れて……
但しコノ利根店もお母さん一代限りで終わり。「もうあと何年続けるか」とは、何とも淋しい話である。なんだろう……廃止秒読みのローカル線を訪ねる旅のようであり、どこか後ろ向きな思いは禁じえない。
こどもたちの「おやつ」をテーマに始めた店である。バブルがはじける前まではよく売れていたが、バブル崩壊後、こどもたちの小遣いは普段のおやつには回らなくなった。わざわざハンバーガーを食べるために行く場所でもない。食べたいなら、龍ヶ崎に遊びに行ったついでにでも食べればよいのだから。
しかし実は案外なおいしさを秘めた店である。お昼どきには4つ5つと持ち帰る人、中でカレーを食べる人――知っている人だけが食べに来ている感じだ。
今や知る人ぞ知る店となったロッキーバーガー利根店。やがては人々の記憶の奥深くソッとしまい込まれる存在になるのだろう――が、でもまだ当分は健在ですから。
店のやってるうちに……と言うとまた廃線の話のようだが、「無くなったら2度と食べられない」のが世の道理。うち(実家)の近所にもこんな店あったなぁ――などと過ぎし少年時代を懐かしみつつ、まぁまぁ一度……。
【各地に残る、創業20年超のハンバーガーショップ】
・# 182 オリエントバーガー [愛知・半田]
(創業:1983年)
・# 147 ラッキー [静岡・磐田]
(創業:不明ながら25年超はほぼ確実)
・# 144 ピープル 加古川店 [兵庫・加古川]
(創業:1975年)
・# 142 ゴッドバーガー [広島]
(創業:1975年)
・# 140 ボンハンバーガー [大阪・針中野]
(創業:1978年)
― shop data ―
所在地: 茨城県北相馬郡利根町大字横須賀792-1
JR成田線 布佐駅より3q 地図
TEL: 0297-68-4236
オープン: 1983年
営業時間: 10:00〜19:00
定休日: 木曜日(祝日は営業。要確認)
コメントできなかったので、自分の方にしておきます。
噂の利根店に行って参りました。
利根店と関宿店は「かつて同じチェーンに加わっていた」という程度で、今はまるで無関係なようですね。利根店のお母さんは関宿店について、ある程度詳しい情報を知っているようでしたから、なにかしら店主同士のやりとりがあるのかどうか……その辺は聴きませんでしたけど。
そんな次第で、そのうち関宿店にも行ってみようと思っています。
以上よろしくお願いいたします。
地元が利根町でよく食べに行きました。
また、揚げパンを食べたいな。
もう利根町の一部ですね。ずっと変わらず元気に頑張ってほしいです★
コメントありがとうございます!お二人別々の方なのですね?
アチラ(米国)の片田舎にでも在りそうな、「ロードサイド」な雰囲気が本当に絵になるお店です。ホント、これこそ作り物でない、天然物の、リアルなハンバーガーショップだと思いますね。貴重です。
ありがとうございました。
ロッキーバーガーよ永遠なれ(^^)
ごめんなさい、お返事すっかり遅くなりました。コメントありがとうございます。
ロッキーバーガー、根強い人気がありますね。ロードサイドなロケーションもすばらしいですし、まさに「永遠なれ!」なお店です。
ありがとうございました。
昨日お店に行ったのですがまだまだご店主のおばさんもご健在で切り盛りされてましたよ。
子供の頃に帰ったような不思議な気持ちと美味しいハンバーガーに舌鼓でしたo(*^▽^*)o~♪
コメントありがとうございます。
既に何度も書いてますが、こちらのお店は田んぼのど真ん中というロケーションが抜群ですね。ロードサイドな雰囲気全開です。
年代物のラジカセはまだ鳴ってましたか?80年代に出来たお店なので、サザンなんか流れてると実に様(さま)になります。
またよろしくお願いいたします。
ロッキーバーガー利根店に行ってきました!
私はチーズバーガーを、お友達はテリヤキバーガーを食べました。
記事を拝見してなるほどと思いました。
こだわってらっしゃるんですね。
美味しかったです!
今度食べに行った時はお母さんとお話してみようかな!