2007年09月09日

# 185 8 Cafe hamburger [名古屋・車道]



 またまた変わったお店に出逢ってしまった。


●テイクアウトの世界

 マスターは惣菜屋に8年、おにぎり屋に7年居た。と言っても自分の店をやっていたのでなく、おにぎりや惣菜などを製造・販売する会社に勤めていたのである。

 惣菜屋は売場づくりで決まるという。今日は何を特売にし、いくらで売るか。「コレが欲しくて」という目的買いの客に「コレもついでに」ともう一品、いかについで買いさせるか……などといったことを日夜考える人だった。

 おにぎり屋は物件探しに始まり、店舗の立ち上げ全般に広く携わった。7年というから相当な数の店をこなしたに違いない。そんなテイクアウト叩き上げのマスターが、イートインを始めたくなったのだという。実は長い間の夢だったのである。


●コーヒー好きの世界

 惣菜の流れでハンバーガーに行き着いたわけではない。話はもっとずっと意外である。


 マスターはコーヒー好きなのである。それも聴く限り、かなり王道な愛好家である。コーヒー豆を敷き詰めてベッドにして寝たい――と言う。ふらと入った喫茶店でブレンドを味わいながら豆の種類を当て、さらにそこから店主の人柄までイメージすると言う。モカを飲みながら遥かアフリカの大地に思いを馳せ、豆を収穫する女性たちの姿を思い浮べる……だからかなり王道な愛好家だと言ったでしょ。

 マスターはカフェがやりたかったのである。

 カフェの主役はコーヒーである。それに「付随するもの」として、マスターは1.サンドイッチ、2.ハンバーガーを思い付いた。ところが調べるうちに、すっかりバーガーが面白くなってきてしまったのである。ついには店名の一部を構成するまでになった。なのでバーガーを始めたきっかけは、流行りでも何でもなく、ほんの偶然だった。




●車道

 車道(くるまみち)の一帯は古くからの住宅地であり、特段用があって行く場所でもない。それこそコノ店を目当てに「目的買い」しに行くような立地である。近所にオフィスや病院といった「大口の客」があるわけでもない。

 ただおにぎり屋の頃に、この界隈は何度も視て回ったことがあり、そうした意味で土地勘ないしは愛着を持っていたそうなのだが、決めた理由は、この空き店舗の前を通ったとき、何かミョウに惹かれるものを感じたという、その程度のこと……ではあるが、実はしかしそんなことが非常に重要だったりもする。


 店がイイ。実はかのゼットンを手がけたデザイナー某氏による。

 推定築25年のマンション1F右隅のテナントは、前身はうどん屋だったそうで、その名残が入り口上部の窓の辺りに残っている。そのテイストを頂戴して、そのまま下に下ろしていった白い正面はユニーク。扉は引き戸です。お間違いなく。


●絵になる店

 戸を引いて中に入ると、頭上がウンと高くなっており、ファンが2機、高速で回転している。コンクリ壁をホール側白塗り、奥の壁はライトオレンジ、キッチン側は板貼り。ツヤ消したウッドを多用したカウンターには白いスツールが4脚。頭上に横長の黒板メニュー、そのヨコの酒瓶の並ぶラックも空中。「炭を使う」と聞いていたのもあって、暖色系で固めた店内は当初エラク暑っ苦しいなぁ〜と感じたものだが(この日の最高気温は37.2℃)、よく見ればなんとまぁ絵になる店じゃぁないですか!温もりある中にすっきりとした白を取り入れ、いと涼し気なる趣きも。天井に架かるダクトは、これまたうどん屋の置き土産とか――渡りに舟でしたな。


 たとえば壁に作り付けた調味料置きであるとか、ちょっとしたところに侮れないセンスがちりばめられている辺りが不敵。皿やナプキンにはしっかりロゴマークを配し、マスターの飄々とした人柄からは想像もつかぬポップなセンスと、並々ならぬ気合が感じられる。

 なに女の子受け狙ってんの?と小突きたくなる感じなのだが、実際スタッフの女子たちは皆コノ店の大ファンで、仕事を上がった後も、時間があればカウンターに座ってユルユル長居するのが一種お決まりなのだとか。人の紹介で店に遊びに来た人ばかりだそうなのだが、来れば百発百中、必ずコノ店の虜になるというコノ魅力――。

 とにかくココはカフェである。各々が好きな時間を楽しむ場所である。マスターは静寂を好み、自ら話しかけることは無い。時は静かに流れてゆく――。


●"classics"と"the premium"

 バーガー類19種、サンド9種。バーガーは大きく2種類。80gパティの「classics」(\390〜)と、140gパティの「the premium」(\880〜)。

 諸々勘案して、価格の安いクラシックの方を前面に押し出した。それと比べるとプレミアムの扱いはずいぶん小さい。

 「モスより安く」を意識したというのだが、昨今は名古屋においても新しいバーガー店が相次いで登場していることでもあり、モスを基準とせねばならない必然も急速に弱まってきているように思う。但しハンバーガーに対する価値観は現在、刻々と変化を続ける変動期の真っ只中にあるから、その中でバーガーをどう位置付け、どう行末を見定めてゆくかは、また難しい問題になるとは思うが。


 このバーガーメニューは、おにぎり屋の当時出逢ったフードコーディネーター某氏との共同開発。その人物無くしてコノ店無しというくらい、氏は重要な役割を果たしている。

 たとえばベーコンチーズを「ベーコンチェダーチーズ」、トッピングのトマトを「カットトマト」、サルサソースを「ホットサルサ」と書く辺り、「実はマニアな」息遣いが端々に感じられるのだが、でも表向きは「モスより安く」という――この辺りのバランスの取り方が見もの。

 流れるBGMも氏の選曲で、私の滞在中にはニコレット・ラーソンの「愛しのニコレット」や(このジャケ写も大好き)、マイケル・ジャクソンなどがかかっていた。


●備長炭

 安い方(classics)の基本はクラシックバーガー\390。チーズバーガーはチェダーチーズ+という、またまたマニアックな命名で\480。バンズの下にピクルス、オニオンは生、サウザンソース、レタス、ケチャップ、マスタード、チェダーチーズ、パティ、下バン。

 パティはどちらも炭火焼。どちらも牛肉のみ。合いではない。140gのプレミアムパティはビーフ100%。クラシックの80gパティはつなぎを使い、やわらかさを表現した。バンズは地元本間製パン(愛知県小牧市)の全粒粉バンズ。既製品なのだが、コレがおいしい!肉の調合から焼き具合まで「バンズに合うパティを考えた」というのが何よりの勝因だろう。既製品であれ特注であれ、要は素材をどう活かすかであり、どう合わすかという話である。


 オニオンを中心に野菜の食感もすごく活きている。レタスは冷水にさらした後、ドライヤーで乾かし、タマネギはきちんと辛み抜きして――そうした丁寧な仕込みをこの価格でこなし、そしてそれを当たり前のこととして特に気にもかけていない辺り、正直ちょっと惚れる。このパリッとしたレタスの歯応えをこの値段で提供している店――そうはないですよ。

 炭火の上に乗せてサックリ焼き上げたバンズ。一方、炭火ならではのコゲ味がプンと香ばしいパティは、じっくりやわらか〜く焼けている点で炭火の威力が遺憾なく発揮されており、味わい深い。

 ところが惜しむらくは、そんな繊細な味をすべて破壊し尽すくらいに、ケチャップ&マスタードが全体を占めてしまっている点だ。これでは中身が何であろうと関係無し。炭を使って焼き上げた苦労は台無しである。要はケチャ&マス味で食べさせる普通のバーガーに自ら成り下がってしまっているワケで、そんなバーガーならヨソでいくらでも食べられるし、パティは安い冷凍モノで十分だ。

 試みに、ウンとケチャ&マスの量を減らしてもうひとバーガーお願いしたところ、肉の良さがオモテに表れて、コノ素材を選び、コノ工夫を凝らした故がよく解かるようになった。ケチャップを食べに来たのか、ハンバーガーを食べに来たのか――それは重要な問題である。


●コーヒー氷


 極めつけはアイスコーヒー\380。コレが必殺!

 このアイスコーヒー、中に浮べる氷がコーヒーを凍らせた「コーヒー氷」になっていて、溶けても薄まらない……と聞いただけだと「ふぅ〜ん」だけど、本当に何十分経っても味が変わらないんだってば!!今回その威力をまざまざと思い知らされた。

 酸味も苦味もキツくなくクドくなく、ノド越しスッキリさわやか。だけど苦味がしっかりと香ばしく効いていて、この表立たない苦味とバーガーとは抜群の相性で(特に肉とかな)、口中に残る香ばしい苦味が食欲を刺激して、さらにバーガーを食べ進ませる。食べるとまたアノ苦味が欲しくなる――いやもぉ一緒に食べるとタマラナイですよ!とんでもない融合が始まります。こんなにアイスコーヒーと合うモノとは思わなかった。しかも\380でしょ。驚異的!豆は豆蔵さん謹製。


§ §

 そんなワケでプレミアムパティはまた次回――宿題が出来ましたネ。

 静かなカフェに動的なバーガー。しかも炭火。そしてゼットンのデザイナー……それら要素を巧みに操りつつ"イイ仕事"をするマスターの周りには、なぜだか美女が集まっている――妬ける店である。




【最新情報】 8 Cafe hamburger [名古屋・車道] は今日がオープン1周年
【二ッ目!】 8 Cafe hamburger [名古屋・車道] のプレミアムパティ’8バーガー


― shop data ―
所在地: 愛知県名古屋市東区代官町27-12 北條ビル1F
      地下鉄桜通線 車道駅歩5分 地図
TEL: 052-935-1318
オープン: 2007年4月20日
営業時間: 11:00〜23:30(LO)(日曜日は〜20:00まで)
ランチ: 11:00〜14:30
定休日: 第1月曜日(要確認)

2007.9.9 Y.M

8cafe hamburger ハンバーガー / 矢場町駅上前津駅栄駅(名古屋)
昼総合点★★★★ 4.0

posted by ハンバーガーストリート at 19:39| Comment(2) | TrackBack(1) | 西国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おお、ついに行かれましたね。こっちからもTBしてみました。
しかし...ハンバーガーストリートさんのホームグランドはどちらなんで?
どの記事見ても住んでるかのごとく詳しい気がするのは取材力か?
見習わねば(笑)
Posted by けんけん at 2007年09月10日 10:46
けんけん 様

コメント&TBありがとうございます。

ホームは神奈川県ですよ。うちの近くにコメダ珈琲店の関東2号店があったり、藤沢に「DOWNEY EAST」があったり、名古屋文化は意外と近所に入り込んできていますけれど。

ホント名古屋なんて今まで、一切縁もゆかりも無い土地だったんですけどね。最近です。これだけ縁もゆかりも出来たのは。せっかくの御縁ですから大切にしてゆきたいと思います。

でもま、名古屋もずいぶん周ったことですし、コレで終わりかな……なんてことは全くもって無くて、まだまだ続くことでしょう。きっと。

そんな次第ですので、
引き続きまして、
どうぞよろしくお願いいたします。
Posted by ハンバーガーストリート at 2007年09月11日 18:11
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

I 'm not lovin' it...
Excerpt: 先日ソーシーズに行ったという記事を書いた時、2年後カフェ計画さんってブログから画像をお借りした。その時他にも美味しそうなハンバーガー屋さんが載ってて最近黄色のm印のとこにばっかり行かされてるんでこうい..
Weblog: ken waver studio
Tracked: 2007-09-10 10:44