ダウニー日赤イースト店の現店長・前島さんは「スタッフ日記」の中で「自分が名古屋で食べたうまいハンバーガーの店」(2003.12.07)の回想をおこなっている。
それはもぉ〜目くるめく名古屋の歴代バーガーショップ/アメリカンダイナーのオンパレード! 「UPTOWN DINER(アップタウン・ダイナー)」や「GEORGIE'S DINER(ジョージーズ・ダイナー)」など、彼ら現役ダイナースタッフ/オーナーたちの間でいまだ熱く語り継がれる、これら伝説の名店(←正直、大袈裟とは少しも思わない)の名前に強く強く惹かれて、これで5度目の名古屋取材旅へと向かった……暑いのに。
●ハートが快晴になるカフェ
ダウニーは名古屋市の真ん中やや東寄り、天白(てんぱく)区は八事(やごと)を中心に市内外に5店、そして神奈川県は藤沢に1店を構えるカフェである。
1980年から8年間、米国西海岸・カリフォルニアでケーキとサンドウィッチの店を営んでいたオーナーが、帰国して郷里・名古屋に'91年にオープンさせた。店名は米国の店が在った小さな街の名に因っている。
サンドウィッチをメインとしたフードメニューもさることながら、ケーキ、クッキーなどのスイーツが大人気。訪ねたこの日、私の見た限り、ほとんどのお客さんがケーキの持ち帰りだった。ミッドランドスクエアのDEAN & DELUCA(ディーン&デルーカ)やセントレア(中部国際空港)などでも販売しており(有名百貨店で期間限定販売も)、いまや「名古屋みやげ」としてのネームバリューも徐々に確立されつつある。中でもダウニーバスは気になります。
●日赤イースト店
通し番号の打たれた4店+1店のうち、ダウニーのハンバーガー発祥の店であるDOWNEY2・日赤イースト店へ。他にDOWNEY CLASSIC(日進市)でも食べることができ、さらにこの9月からDOWNEY3・植田店でもバーガー開始。これに当たって4種類ほどの新メニューを目下開発中である。
さて日赤イースト店――白にフォレストグリーンのチェッカーズがトレードマーク。ちなみに各店、デザインコンセプトないしはそのベースとなる年代設定はそれぞれ異なっており、二つとして同じ店はない。
店内は西海岸を髣髴とさせるすっきりと白く明るい壁・天井を基本に、扉や窓に施された菱型の格子やテラスの意匠、暖炉の上にかかるウォールクロック、ジャズ批評などが並ぶ書架など、全体にミッドセンチュリーモダンなテイストを漂わせ、シンプルなペンダントから落ちる抑えた照明が、落ち着いたクールな空気を醸し出している。
間仕切りによって、何となく雰囲気の異なるいくつかのスペースに分けられており、奥に進むにつれてシックな色を増してゆく。奥の奥にはなんと中庭! 日赤イースト店は上品でモダンなトーンのカフェである。
この日のFine Music! はヴァン・モリソン――「ムーンダンス(MOONDANCE)」など。壁に大きく引き伸ばしたブルース・スプリングスティーン『明日なき暴走(BORN TO RUN)』のアルバムジャケット――コノ写真、大好きなんだよネ。中でも「MEETING ACROSS THE RIVER」(邦題「川向こうでの会見」って本当?!)という曲がお気に入り。ソロはランディ・ブレッカー!
●サンドウィッチ
地下鉄名城線・八事日赤(やごとにっせき)駅の周辺一帯は古くからの高級住宅街。'04年に出来た同駅前を中心に大型マンション建設などさらなる街づくりも進み、ゆるやかな丘陵地に構える"ニュータウン"といった趣きの場所でもある。
なので昼間は付近の奥様方が大勢。さらに「テレビ局」「病院」「大学」という願ってもみない巨大な"ハコ"が近所にあるため、これら関係者による利用も多く、いずれにしてもアルコールは出ない仕組み。
サンドウィッチ11品、ラップサンド4品、ベーグルサンド5品。バーガーは8品(以上テイクアウトメニューによる)。ハンバーガーを始めたのは'03年。アップタウンダイナーのスタッフだった植田店の中條マネージャーと、ホテルのレストランでの経験を持つ石原商品開発マネージャーとが任に当たり、作られた。ちなみに石原さんもジョージーズに影響を受けた一人。
なぜハンバーガーをやろうという話になったのか定かでないが、両氏はじめアップタウン/ジョージーズの「ファン」だったスタッフ――あるいは世代――の想いがそうさせたのであろうことは、想像に難くない。
●パティのポジション
チーズバーガーレギュラー¥880。当初ヘルシー志向から五穀バンズを使っていたが、途中で現在の胚芽バンズに変更。黒ゴマは上に乗せずに生地の中に練り込であるという、一見がんもどき風の変わったバンズである。
中は生のオニオンにピクルス、トマト、レタス、チーズにパティ、下バン。付け合せにストレートカットのフレンチフライとコールスロー。
酸味のキツくないディルピクルスを中心に野菜陣のしっかりとタイトな歯応え、溶け切らないレッドチェダーのはっきりとした塩味。そして極めつけは、派手がましく独り前に出ることなく、バーガーの中心にしっかりと身を据えたパティの、このシブイ安定感だろう。
香り付け程度のナツメグと軽く振った胡椒。さらに鉄板で焼いた後、グリルの直火で付ける網目のコゲ味(重要)――余分な脂を落として、やわらかな中にもどこか締まった食感に焼き上げている。他の具材とぶつかることなく、あえて一歩退いた位置でバーガー全体のバランスを最優先させる、このパティのポジション取りこそ憎い。実にきっちりと丁寧に作り込まれたバーガーである。お供はアイスのカフェラテ¥500。
●食を通して、アメリカの文化を伝える
これだけのハンバーガーを擁しながらも、主役はあくまでサンドウィッチ。「もっとアピールしたいんです」とは石原マネージャーの切実なる御言葉だが、そりゃそうだ。私が食べた限り、名古屋で一、二を争うおいしさである。こんなおいしいものを埋もれさせておく手もなかろう。
「カフェ」や「スイーツ」のイメージが強いのもあるかも知れない。客層が近隣の主婦中心というのもあるか。サンドの方が取り分けられるし……。ただサンドとバーガーはキャラクターとしては「静」と「動」ほど違う食べ物だと思うので、「どっち」ということなく、ノリや気分で使い分けて楽しんだら、とは思う。
オープンした'91年当時、アップタウンやジョージーズは既に在ったかどうか――その辺り定かでないが、'87年オープンの「ソーシーズ」と共に、ダイナー天国・名古屋にあって、アメリカンダイナーとはまた違う角度からアメリカの食文化を紹介する店として、異彩を放つ存在だったに違いない……って、実際のところは如何?
上記ダイナーのスタッフやそのファンが後にコノ店に合流し、やがてダウニーのハンバーガーが誕生するに至る経緯まで含めて考えれば、名古屋のアメ食文化は大きなサラダボウルのようなものの中にあって、そのボウルの中で時代ゝゝに合った新しいスタイルがミックスされては、リリースされてゆく――そんな大きなサイクルないしは受け皿が、名古屋中の誰もが意図せぬうちに実は自然と出来上がっているのかな……などと思ってもみたり。
かくしてダウニーのオーナーが出逢ったアメリカの「空」は、出逢ったときの晴れ渡る「青さ」のまま、人へ人へと語り継がれてゆくのである。
→ # テリヤキバーガー ◆ Cafe Downey [名古屋] のテリヤキエッグバーガー
― shop data ―
●DOWNEY2・日赤イースト店
所在地: 愛知県名古屋市昭和区高峯町168
地下鉄名城線 八事日赤駅歩5分 地図
TEL: 052-837-0068
URL: http://www.downey.co.jp/
オープン: 1991年
営業時間: 10:00〜22:00
ランチ: 11:00〜14:30
定休日: 月曜日(要確認)