半田の人はみな、コノ店のことをオリバーと呼ぶ。
●半田市
半田(はんだ)は愛知県西南部、知多半島の中央に位置する人口約12万人の都市である。セントレアのある常滑(とこなめ)市と背中合わせの関係。出身者にあの「ごんぎつね」(知ってる?)の新美南吉ですよ。
名鉄河和線とJR武豊(たけとよ)線、2つの半田駅よりこのオリバー方面へと向かう中町通りの商店街はだいぶ錆び付いてきており、その一方で最新のマンションが幾棟か建っていたりで、これは名古屋への通勤圏と見るべきか、それとも常滑に向いているものなのか、ちょっと判じかねるが、まぁとにかくクルマばかりで人影を見ない。
「中町」の交差点で折れ、JRの線路の方に向くと、知多バス「中町」停留所のやや先に推定築40年の日之本ビル。その1階右端のテナントが創業昭和58年、地元では「オリバー」と呼ばれるオリエントバーガーである。
●第2次オイルショックと外食産業
オリバー店主が初めてハンバーガーと出逢ったのは18歳――名古屋のマクドナルドで、である。しかしこのとき「こんなおいしいもの食べたの、初めて!」と唸ったのは、バーガーでなくシェイクの方だった。
いざ就職! というタイミングで第二次オイルショック(1978)。世の中のあらゆる産業が振るわぬ不況下にあって、唯一オイルショックなぞどこ吹く風の絶好調な業界――それが外食産業だったのである。
すかいらーく1号店'70年7月、マクドナルド日本1号店が'71年7月、以下ロッテリア、デニーズ……と、まさに70年代は外食産業の黎明期である(などと私が言ってよいものか)。「今でいうIT産業的存在」(店主談)――つまりその将来性が最も期待される、前途有望の成長分野として外食産業は飛躍的な伸張を見せていた。店主もその盛んな勢いと可能性に強く惹かれ、当時の最先端分野に足を踏み入れたのである。
●スワロウ
店主が選んだ就職先は名古屋市周辺に7、8店を展開するバーガーショップ「スワロウ」*だった。名古屋ローカルのハンバーガーチェーンである(知ってる?)。従業員数千人の大企業よりも少数精鋭で風通しがよく、全体を見渡すことのできる、そんな小さな企業をあえて店主は選んだのである。
※ 亨栄商業出身(現亨栄高校)、国鉄スワローズ(現ヤクルト)のエースだった金田正一氏の命名によるという
風通しがよいということは、相対的に社員一人当りの負担は重くなるということである。ヘヴィな毎日だったが「修行のつもりで」懸命にやりこなすうち、次第々々に「ハンバーガーが面白くなってきた」。4年弱勤め、退社。地元半田に自分の店を構える。1983年の7月というから今年2007年で24年。工事その他、スワロウ組がバックアップしてくれた。
●転換点
大阪の「ボンハンバーガー」、加古川の「ピープル」なども一時は4、5店を展開していたというが、このころ興ったハンバーガー店にとっては、2店、3店と店を押し広げてゆくことが、「時流」として、ある種自然の発想であったのかも知れない――まぁ今でもそうか。
店主も当初、外食産業の出身ゆえ、やはり2店目、すなわちチェーン展開を目論んでいた。
しかし日々店に立つうち、段々「自分がわかってきた」――つまり、自分は2店、3店とやりこなすような「器じゃない」と――そんなちょっと悲しい決断を、大いなる勇気をもって下すに至ったのである。なのでオリバーは後にも先にもココ日乃本ビルの1店きりである。
「チェーン展開を考えるのをやめたとき」――オリバーにとって、これが大きな転換点となった。
それまではヒット商品をいかに生み出すか――そればかりを窮々と考える毎日だったのが、そこから脱し、店主にとってこのオリバーは表現する場所へと変化したのである。
●表現の場
オリバーは店主にとって「自己表現の場」である。自分が考えたことを自分で表現する――それを人がどうとらえようと構わない。評価は結果である(もちろん評価されるのは嬉しいことだが)。ヨソが何をやっているかも気にならない――。
もしアノとき、この発想の転換をしていなければ、オリバーは5年と持たなかったろうと話す。どこの店の主も多かれ少なかれ、自分の好きなことを好きなようにやっているからこそ、多少ツラくとも店を続けてゆけるワケで、楽しみの要素が一切無くなり、ただヒットを飛ばすこと、売上げを伸ばすことにのみ執着するだけの日々では、まず毎日がシンドクなるだろうし、そんな状態を連綿と継続させてゆくこと自体、あるのはただ重く圧し掛かる使命感ばかりで、そもそも現実味の欠片も感じられない。
長続きの秘訣は楽しみながらやること……ですかね? 言われてみれば、各店店主のニコニコとした笑顔が目に浮かんでくるのである。
●100円バーガーの店
この転換により既製品を使う必然からも解放される。そこで店主の心が向いたのが「手間をかける」ことだった。
バーガー類14品+300個限定発売のマヨ玉バーガーで15品。単品ならどれも290円まで、セットにしても590円までに収まり、今や大手チェーンとの価格差も逆転している。ドリンクは「外の自販機で買った方が安い」って、店主……。
看板メニューオリエントバーガーは創業以来の100円。24年の間に、言われても多分気付かない程度のマイナーチェンジを繰り返して、今が9代目である。
バンズは敷島製パン(地元です)――コレがちょっとおいしいのである。敷島製パン自体がおいしいのか、それとも店主がバンズの特長を知り抜いており、どうすれば最もおいしい状態で食べられるか、その「技術」をマスターしている――ということも言えるが……ま、どっちもかな。その熟練の焼き加減のバンズの下は、特製のソース、千切りのキャベツ、パティ、下バン。
パティは合挽き。牛100%では「パサパサになる」ので、豚をわずかに加えることでよい脂分が出てちょうどと。精肉店に比率まで指定しておいて、ブレンド・成型は自分でやっているという辺りは、世に言うハンバーガー専門店と一緒。合挽臭は巧いこと消してある。
●手間をかける
鶏と豚はブロックで仕入れて自前で切り出し、身がやわらかくなるよう「ひと工夫」施してある。なるほど、チキンカツバーガー¥250は冷凍の既製品ではあり得ない身のやわらかさであり、旨味だ。美味! 「肉をいかにやわらかくするか」はオリバーのテーマである。
使っているソースは大まかに言えば、所謂一般的なソース(ウスターソース類)とケチャップのブレンド。ケチャップの酸味消しにソースを入れているそうなのだが、ともあれコレが千切りキャベツと絡むとおいしいわけですよ! 私たち日本人ですから。確かにこのソースの味で食べさせるバーガーではあるのだが、バンズもパティもちゃんとしたモノであるだけに、ソース味に席捲されないと言うか、ソース乗りがよいと言うか。
ちなみにこの特製ソース、バーガーによって配合が2種類あるそうなのだが……そんなの言われても判んないよ!
●続けるということ
つまりは100円にかける想いと1,000円にかける想いは変わらないということです。
長年の知識や経験が溜まりに溜まって「よくわかんないけど出てくる」そうで、今後もこの自己表現の場にあって、その溢れ出すアイデアを常に常にカタチにしてゆくのだと、この暑い中、Yシャツ×ネクタイに青いエプロン姿の店主は、泰然自若として独りカウンターの向こうに立っていた。自分とは、自信とは、続けるとは――生き方にちょっと迷ったとき、行ってみるとよいかも知れない。遠いけど。
で店の名前? 奇数は語呂が良いと。オ・リ・エ・ン・ト――5文字。
→ # オリエントバーガー [半田] の牛タマバーガー
【各地に残る、創業20年超のハンバーガーショップ】
― shop data ―
所在地: 愛知県半田市郷中町1-1 日乃本ビル1F
JR武豊線 半田駅歩12分 地図
TEL: 0569-23-4521
オープン: 1983年7月7日
営業時間: 10:00〜20:00
定休日: 第2金曜日(要確認)
コメントありがとうございます。お返事大変遅くなりまして、すいません。
さて、とは言え、「オリバパーティ」を催すほどの
熱烈なる「オリバ」ファンもいらっしゃいます。
ご参考↓
第1回 オリバパーティ
http://hakuryu.blog8.fc2.com/blog-entry-229.html
みんな知ってるオリエントバーガー
http://hakuryu.blog8.fc2.com/blog-entry-22.html
私が滞在した数時間の間にも、お客さんは何組かいらっしゃいました。ある方は8個ほど買って行かれましたか。
これで店主が「不人気を嘆いている」というなら別ですが、いたって「自まま」にやっておられるようなので、まぁ、よいのではないかと。
もしSATO様がオリバについて、いろいろと気になることがあるようでしたら、ぜひ店を訪ねて、店主とお話しされてみるのがよいと思います。それが何よりスッキリするでしょう。上の記事も、3時間ほどを費やして、私が店主に「正面攻撃」を仕掛けた結果得られたものです。
私は「気になってるくらいなら、行っちゃう」を原動力にしている人間です。噂や他人(ひと)の評価はそれとして、最終的には自分の目で見、耳で聞かないことには納得しないんですね。ですから縁もゆかりもない半田にまで足を運んだわけなのですが。虎穴にいらずんば虎児を得ず――まぁ確かめるのにも体力要りますし、根性も要ります。
ちなみに私が訪ねた一週間ほど後に、滋賀県大津の「アンティーミーバーガー」さんご夫妻も、こちらの店を訪ねていらっしゃいます。
参考↓
http://blogs.dion.ne.jp/nakoi_h9/archives/6367380.html
まぁそんな感じでございました。ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。
此方に辿り着きましてあまりの懐かしさに涙ぐんで
しまいました。
開店したその日から学校がある日は帰宅途中に毎日毎日、約2年間友人と二人で通い続けました。
失礼ながらお客さんは、あまりいたような記憶がないので、店長さんも僕たち二人組のことを覚えているんじゃないでしょうか???会話は全くしませんでしたけど・・・一度、シェイクを床に落としてしまい、すぐさま、店長さんが何も言わずに新しいシェイクを持ってきてくれたことを覚えています。
今度、管理人様が訪れる機会がありましたら開店当初に毎日通った僕たちのことを聞いてみていただければ嬉しいです!そしてこの夏、帰省するときは妻と子供を連れて絶対、行きます!24年振りに!とお伝え下さい。
はじめまして。コメントありがとうございます。
いやぁ〜お役に立てたようで、よかったです〜〜という話は、以下、dawase86 さまのBlogの方に書きましょうかね。
やはり20年、30年、毎日同じことを続けるというのはダテじゃありませんよね。加古川のピープル然り、広島のゴッドバーガー然り、利根のロッキーバーガー然り、お客さんの「熱い声」を前に、「またしても」すばらしいなと思ってしまいました。
そんな次第で続きはスタジオで……じゃなかった、
dawase86 様の方で。よろしくお願いいたします。
本当に嬉しいです。ネットっていろいろ言われますけど、ありがたいものです。パッと思い浮かんだ100円バーガーでこんなにも懐かしく、暖かい気持ちになれるとは・・・勿論、100円バーガーは、まだ現役バリバリのお店。是非、この夏女房子供を連れて訪れたいと思っています。
最後になりましたが、これからもハンバーガーストリートさまのブログを拝見させていただき、ハンバーガー道?に一歩でも近づけたらなと思っています。
仕事で半田に五年ほどいましたが、オリエントバーガーの存在は知りませんでした。
たぶん地元の雑誌にものってなかったと思います。
一度行きたいです。
はじめまして。コメントありがとうございます。
そう言われると、半田市民の何割が知っているのか、調査したくなりますね。でも↑のとおり、熱烈なるファンもいらっしゃるお店です。その辺り、なかなか……。
ぜひ一度。
そんな次第でありがとうございました。
またよろしくお願いいたします。
オリエントバーガーさんを発見しましたが
恐れをなして通過してしまいました。
帰宅後、ネットで調べたらここに行き着きました。
文章のなかから店長の人間像や熱い思いが
伝わってきて感動しました。
店長に正面攻撃された管理人様に敬意を
表したい思いです。
過去に否定的な書き込みをされた方が
いらっしゃいますが表面的でなく
実際にお会いすればまた違った印象になると思います。
一度も行ったことのない人間が偉そうなことは
言えないのですが管理人様の文章で認識が
かわったので、きっとわかってもらえると思います。
ただ、店長が今日までつづけてこられたのは、
オープンカフェ風にしたら客が増えるとか
思わなかったからでしょう。
次回こそ店長にお目にかかりたいと思います。
追伸
私の自宅近くにあるジョイバーガーという
昭和チックな店にそっくりなので
驚きました。
コメントありがとうございます。お返事遅くなりました。
書いていただきましたとおり、変に背伸びをしなかったことが、こちらの店主にとって何より賢明な判断であったと、私も思います。
自分の記事をあらためて読み返してみましたが、店主の話は一貫していて、特に大仰でも大袈裟な矛盾があるでもなく、比較的冷静な自己分析、自己評価であると感じました。あとは表現の巧拙、スケール感の大小は、人それぞれにありますのでネ。
ジョイバーガーですか。岐阜の方でお間違えないですか。たとえば「スワロウ」との関係など、どうでしょう。
実は私は、オリエントバーガーの店長さんが、スワロー時代に勤めてみえたショップでアルバイトしていました。もう30年前でしょうか。とてもいい店長さんで、今でもよく覚えています。会社の異動関係で、店長をやめて、地元でお店を出すと聞いていました。一度行ってみたいと思い、・・・もう30年近くなるのですね。ふとしたきっかけでこのサイトのオリエントバーガーの記事を目にし、とても懐かしい思いがよみがえってきました。
閉店されたんですね。残念です。