2007年07月11日

# 180 tk Hamburger Inn [西麻布]



 はじめに――今回、私のような青二才が地理や歴史の先生が如く、まるで見てきたような話を繰り広げて参りますこと、何卒ご容赦願いたく……

●六本木は"スタイル"

 都内某ダイナーの店主は、「六本木のハンバーガーはスタイルだ」と語った(六本木KENTO'Sにて)――。

 創業1950年、日本で最初のハンバーガーショップ――"と言われている"。当のお店の記事でこんな書き方も何ですが、「最初」と断定するについては、相当に綿密な調査と照合作業が必要と思われるので、今はあえて言い切らずにおきます。

 少なくとも言えるのは、今の経営者である老川さんがその昔、浅草からHarley-Davidsonにまたがり青山界隈まで仕事に通っていた頃、ハンバーガーと言えばベース(米軍基地)へ行くか、ハンバーガーインで食べるかしかなかった――そんな時代があったということである。


 サイトにもあるように、戦後の六本木は大使館の街であり進駐軍の街であり、その異国≒米国のニオイに魅せられた若者達がロカビリーを踊り、ジャズに酔い、ソウルを歌い――そしてその合間々々にハンバーガーを頬張った。

 今なおそうであるが、特に戦後のコノ時代、六本木は常に新しいものを発信し続けるトレンドの中心地であった(と言うと横浜の人に「コッチの方が先だよ」と返されそうだが、横浜は「中継地」と呼ぶ方がふさわしいように思う)。六本木に遊ぶ人は誰よりも先にハンバーガーと出会い(この辺も断言はし難いが)、嗜んでいた。

 '01年頃まで「Johnny Rockets(ジョニーロケッツ)」という、アチラのハンバーガーチェーンの国内唯一の店舗もあったりで、六本木にハンバーガーがあること――それ自体即ちスタイルでありステイタスであり、常に時流を先行く六本木という街の象徴のような存在だったのである。


●西麻布へ

 '71年、マクドナルドが日本に上陸(こちらは銀座に出店)。ハンバーガーはいつでもどこでも食べられる極めて庶民的な食べ物として日本全国に広まり、六本木のハンバーガーは特別な存在ではなくなった。

 '05年秋、ハンバーガーイン閉店――かつて六本木のシンボルだったコノ店の、時代の波に呑まれゆくを惜しんで、店の常連であり前オーナーの親友だった老川さんが名乗りを上げて店の名を受け継ぎ、再興したのが今の場所――西麻布交差点近く、ホテルメンテルス六本木の1階である。

●ホームワークス×峰屋=∞無限大?

 バーガーイン復興チームのリーダーに招かれたのは、日本で最初のグルメハンバーガー&サンドウィッチレストラン、広尾「Homework's(ホームワークス)」の店長だった柴田さん。


 同じ広尾にある某焼き鳥屋のランチのカレーにKOされて、勤続7年、2年半務めたホームワークス店長の座を棄て、焼き鳥屋に電撃移籍……ところが僅か3ヶ月、まだ「これから」というときに老川社長にヘッドハントされ、再びハンバーガーの世界に舞い戻った。なのでバーガーインのハンバーガーは、食材を積む順番がホームワークス流なのである。

 さらに――バンズはなんとアノ「峰屋」さん! まさに鬼に金棒! ホームワークスの技術に峰屋のバンズが出会って、この先一体東京のハンバーガーはどうなっちゃうのかと……。

 「バーガーインモデル」のバンズは今なお未完成、調整中。私が食べたものはフワッと柔らかな生地としっかりコシのある生地の中間くらいの、どっち付かずな食感だったが、さらに調整を繰り返して、間もなく落ち着くのではないかとの見通しだ。

●"らしく"なってきた

 オープン日はまだ工事中、材料のストックもままならず、見るからに済まなそうに応対していたスタッフだったが、ひと月経って諸々落ち着いて、雰囲気がグッと明るくなった。

 その後スタッフも続々加入。セネガル出身の"KOZMO"さんは六ヶ国語を操るおしゃべり七色の才人――これで一気に六本木度UP!! そぉ〜こなくっちゃ!!


 彼がお客さんとフランス語で話す様子など見ていると、ほんの僅かの間にすっかり店が六本木らしく街の空気に馴染んだことに、「ハンバーガーイン」という名の持つ底知れぬパワーを感じずにはいられない。オープンの日はただの四角いコンクリの箱だった店内に、どこからともなく種が飛んで来、芽が出て、いま大きく花咲いている感じだ。

 お客さんはほとんどが付近の違う店で働く人か、住人(!)。来る客来る客挨拶は「ハイ、○○さ〜ん!」ごきげんいかが〜? といった感じ。大都会東京にだって東京なりのご近所付き合いってぇモンがあるわけで。

 ちなみに以前のバーガーインの名物店長、インド人のチャンドラーさんは現在も都内でご活躍中。渋谷の飲食店で店長をやっているとのことだった。

●崩れにくい工夫

 バーガー9品、サンド4品、ドッグ3品。そして熱烈コールによりメニューに復した復活キーマカレー¥1,000。メニューのデザインも限りなく当時のまま。

 チーズバーガー¥900。やや強めに焼いたバンズの下はピクルス、トマト、タルタルソース、生オニオン、レタス、ケチャップ、チーズ、パティ、下バン。タルタルのオニオンはかなり大きく刻んでコロコロと。薄手のパティは以前のバーガーインを髣髴とさせるオールドな味わいで、チーズとともにさほど目立つ存在ではない。全体には野菜をメインにホームワークス的なシンプルで素直な味わい。峰屋のバンズはやはり味が良く、食感こそやや中途半端な感じではあったものの、タメの効いた甘味が実によく機能していた。付け合せはナチュラルカットのフレンチフライ。

 袋は基本的には供さず。そのまま手でどうぞ――とのことなのだが、その代わり積み方にホームワークス譲りの具が崩れにくい工夫がなされていて、事実ある程度角度を付けて持っても雪崩はなかなか起きない。

●ジャニーさんのチリソース

 創業者ジャニーさんの書いたレシピを基に、目下、柴田店長以下スタッフ挙げてチリソースを鋭意再現中。但しこのレシピ、如何せん分量などの記録が曖昧なため、当時の味を知る常連さんに味見してもらいながら、手探りで一歩ずつといったところ。

 そのチリソースがまた実に「意外」な味である。挽肉メイン、キーマカレーに近いスパイシーで香りの良い一品。"KOZMO"はチリバーガーにエッグ&チーズなどトッピングするのが得意だそうなので、次回はソレで決まり! その名もジャニーさんのホットドッグ¥700というチリドッグもあり。生ビールはバドワイザーとハートランドが¥580。

●george's

 さらに往年の遊び人たちを唸らせる趣向が店の裏手に――


 ハンバーガーインのすぐ後ろには、あの「日本最古のソウルバー」(「最初」ではないのか)、'64年に防衛庁ヨコにオープンし、東京ミッドタウン開発に伴い移転(閉店)したあの「george's」が!! まさに六本木の運慶・快慶――違うな。観阿弥・世阿弥? 風姿花伝……ってコレも違う。柏鳳? ON? とにかく六本木の歴史を飾る伝説の名店が今やお隣さんですよ。揃い踏みですよ。偶然ですよ。いや偶然じゃないですよ。凄過ぎますよ。この時代モノの濃ゆ〜い空気――コレ、柳沢慎吾がCMしていた「アコム マスターカード」の世界ですよ――♪アコ〜ム、アコ〜ム、アコ〜ム、アコ〜ム、マスターカーーー(←この「ド」の音は4拍目の裏裏ネ)。

 私が如き青二才ひよっ子にはgeorge'sのあの白い扉を押し開けるなんざ、とてもとても……。でもこれでひとつ目標ができました――ハンバーガーインでバーガー食べて、george'sで一杯――そんな粋なひよっ子を目指して!!

 かつてハンバーガーをまだ誰も知らぬ時代、六本木族を魅了し、東京をリードし続けてきたこの老舗が、平成の御世、バーガーの新たな潮流に乗って、オールドなファンのみならず、果たして若い世代をも虜にすることができるかどうか……! 六本木界隈、俄然ヒートアップして参りました!!



防衛庁ヨコの旧店舗。'05年2月撮影

# 055 The Hamburger Inn [六本木]
【最新情報】 6月25日、西麻布に「一番東京ハンバーガー」がオープン
# 058 Homework's [広尾]
# バンズ― 峰屋 [東新宿] ◆ vol.1 ≪ご馳走≫バンズの誕生

― shop data ―
所在地: 東京都港区西麻布1-11-6 メンテルス六本木1F
     東京メトロ日比谷線 六本木駅歩8分 地図
TEL: 03-3403-7767
URL: http://www.thehamburgerinn.com/
オープン: 2007年5月31日
営業時間: 11:00〜23:00(金・土〜翌5:00)
定休日: 無休(要確認)

2007.7.11 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 12:52 | TrackBack(0) | 東京編◆東部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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