2007年04月26日

# 171 chorky's DINER [岐阜・大垣]



 快速ムーンライトながらの終着駅、大垣。


●水都球春

 水都、あるいは松尾芭蕉「奥の細道」結びの地。ただ復元大垣城のガラス窓――アレはいただけません。

 大垣といえば今春、第79回選抜高校野球大会において、大垣日大高校が岐阜県勢としては実に48年ぶりとなる準優勝の快挙を成し遂げたばかり。その白熱の決勝から5日後の大垣だったが、しかしそこまで派手派手しい祝勝ムードに包まれるでなく、街はいたって落ち着いていた――夏も期待できそうだ。

 今回の店も駅から離れた場所なれば、近鉄バスの厄介に。金蝶園だか金蝶堂だか、どっちだかよくわからぬ菓子舗がやたらとリフレインする城下を抜け切り(両店、仲悪かったり)、降りたバス停が「禾ノ森」――読めますか? のぎのもり。住所が「南頬町」――みなみのかわちょう。こりゃヨソ者はすぐバレるな。

 通りからやや奥まってダイナー。店の前にたっぷりと駐車スペースを有していて、本場のダイナーらしい店構え。これだけ広いと頭から突っ込んでクルマ停めたくなりますが、しかしみなさんきちんと整列駐車しておられます。

●青いサニトラ、黄色いダイナー

 両開きの赤い扉の横に見事なキャンディ・ブルーのペイントを施したダットサン・サニートラックB20、通称サニトラマスター、チョーキー氏は「旧車のレストア&カスタム(あるいはポンコツ車の再生)」が根っからの趣味で……そうか! ミーティングの会場として店前のスペースは機能するワケね。


 長年飲食業に従事してきたチョーキーさん。愛する地元・大垣の、まるで変わり映えのしない「フランチャイズ天国」な外食事情を憂えて一矢報いん! と、誰もやらないような個性ある店づくりを模索したのが、このアメリカンダイナー構想の出発点だった。

 毎年、旧車のイベントを主催していたチョーキー氏が、ポスター貼りにご協力を……と入った岐阜の「セッキーズダイナー」で店主セッキー氏と運命的な出会いを果たしたことで、この一大構想は一気に現実のものとなる。

 店内白と黄のタイルでチェック模様。黄色いベンチシートが5席に、カウンター周りのスツールもずらっと黄――ここは黄色いダイナー

 「カスタム」で「黄色」とくれば、これはもうMOONEYESのシンボルカラー以外あり得ない。ライトなイエローに彩られたダイナーはポップで暖かな空気に包まれて、岐阜のセッキーズとはまた違うダイナーの魅力を放っている。トイレに飾ってあるスーパートランプの『ブレックファスト・イン・アメリカ』('79)が、コノ店のポップなムードをよく表しているだろうか。ウェイトレス姿のリビーおばさんが自由の女神に扮したこのジャケ――右手にオレンジジュース、胸ポケットにはサンデー!


●セッキーズとダンスパーティー

 入って右手は一段上がってステージになっていて、オールディーズやロカビリーバンドのライヴなどが催されるほか、つい先日は岐阜のセッキーズダイナーとのコラボレーションによるダンスパーティーも開かれた。

 スローなオールディーズがのたりのたりと流れる日曜の午後、広い店内にはどこか懐かしいニオイが満ちている。鉄骨むき出しの高い天井にはファンが4つ――大瀧詠一ですか。

 カウンターはドリンクを作るのみ、キッチンはまた奥に。なのでホールとキッチンの連絡・伝達が密に交わされている。注文はタンバリンのような円形の伝票差しに順番に留めてゆき、出来上がるとマスターが奥からチーンとベルを鳴らす。こうして片端から注文を処理してゆくのだが、それでも日曜の午後、ひと組出て行けば、また新しい客がひと組入ってきて、客足の絶える暇なき忙しさ。

 カップルに混ざって家族連れもあり。特に次代を担うこどもたちには「横並び」や「画一」を打ち壊して「自分も将来こんな個性的な店をやりたいな」と思うようになってもらえたらと、チョーキー氏は未来の店主・経営者たちに密かに熱いエールを送っている……いや、送っているのは実は「念力」だったり……。

●ハイヒールバンズ

 バーガー類12品、サンド8品、ドッグ5品。小ぶりのBEERジョッキにバニラアイスとソフトクリームを詰めたデザートサルードゥ¥650。さらにシェイク¥400〜500が品数豊富。


 チーズバーガー¥750。お供に「ミントレモネード」¥400。地元の人気パン店に注文するバンズは、これまた凄い高さのハイヒールバンズセッキーズも然り、これはある種の「地域性」と見てよいのか。表面セサミなし。

 中はサウザンソース、リーフレタスにチーズ、パティ、オニオン、トマト、ケチャップ、下バン(heel)。パティは塩味のハンバーグ。プリッとした弾力が持ち味だが、出来たらつなぎなしのパティでゆきたいところ。トマトとチーズと渋く絡んで、穏やかな塩味を形成する。全体にもこのパティの印象がメイン。チーズはクセのないナチュラル。ダイナーの威信を一身に背負ったようなビッグサイズなバーガーで、気が付けばエラい長い時間ずっと食べ続けていた。付け合せのフレンチフライはシューストリング。大根のサラダとピクルスも付いてすこぶるお得。

●名古屋とアメリカンダイナーその2

 ↑大いに語弊ありますが、広い意味での東海文化圏ということで。伊勢も三河も入ります。

 ダイナーはである。クルマ好き、バイク好き、オールディーズ好き――みなダイナーという「旗」を目指して集まってくる。趣味の合う者同士、こんなにわかりやすく集まれる場所も、なかなか無い。

 ダイナーは集いの場であり、憩いの場であり、ときに発表の場でもある。ダイナーそれ自体がひとつのステージであると言ってもよい。そしてこのステージに集まる人と人がつながり、店と店とがつながって、その輪は横へ横へとダイナーを際限なく結んでゆく。そうしてできたダイナーの大きなの中に、チョーキーズもセッキーズも「スーベニア」もいるのである――やはり最後はやはり"人"だ。人のいない店は、ただの"ハコ"にしか過ぎない。

 流れるオールディーズに身を任せつつ、カウンターの隅に座ってそんなことを考えていた。チェーン店でハンバーガー食べてても、こんなこと考えないでしょ? 温故知新――過去をリストアし、未来へカスタムする黄色いダイナーへようこそ!



入り口に"ダッツン"

― shop data ―
所在地: 岐阜県大垣市南頬町5−35
     JR・近鉄ほか大垣駅よりバス10分「禾ノ森」下車 地図
TEL: 0584-78-5128
オープン: 2004年10月
営業時間: 11:00〜24:00(23:30LO)
定休日: 月曜日(祝日は翌火曜休。要確認)

2007.4.26 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 12:52 | TrackBack(0) | 西国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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