2007年04月14日

# 169 SOUVENIR DINER [名古屋・伏見]




 人にはそれぞれ思い出がある。もちろん店にもある――。

●アップタウンダイナーの思い出

 マスター福永さんがアップタウンダイナーデビューを果たしたのは16歳――マセた高校生のときだった。もちろん客として。

 とにかくそのカッコよさに惹かれ、お金はないけど「無理してでも行く感じ」の店だった。ゾッコン惚れ込んだ福永さんは「ココで働きたい!」と何度もアタックをかけるも、そうは島田町問屋街。スタッフにいつも空きナシ――みんななかなか辞めないのだ。アップタウンダイナーで働くことはそれ自体、一種のステータスだった。

 御縁のないまま19歳のとき作戦変更、向かいのカラオケ屋でバイトを始める。ココなら毎日ダイナーを眺めていられるという寸法――なんと凄まじきアップタウン愛!

 しかし眺めているだけでは株券はただの株券。あるときダメ元で門を叩いてみると、このときばかりはスッと開いて、見事宿願のアップタウン入りを果たすことができた。石の上にも三年――微笑ましくもなんと健気な執念!

●コモングラウンド

 アップタウンダイナーには4年弱。とにかく大きな店で、スタッフも昼夜2部に分かれて総勢40名に及ぶ大所帯(もちろんシフトで回してます)。それはそれは楽しい日々だったが、テナント契約の都合で2000年(?)に閉店してしまう。

 アップタウン閉店後、コモングラウンドという1Fがショットバー、2Fがレストランバーの創作イタリアンの店にのべ3年。あいだ2年店を離れ、アップタウンの元スタッフが桑名に始めたパーキージーンダイナーの助っ人に回り、再びコモンに戻って後、入っていたビルの建て替えを機に自身の店を持つ。

 伏見の交差点近く、錦通りよりやや入ったビルの2階。白い鉄扉を開けると細長な店内はバーの佇まい――やや片付かない感じ。白黒タイル……でなくコンクリに直塗りのチェックの床。赤と黒のベンチシートが4組、カウンタースツールも赤と黒。BGM――この夜はスカパラ。スピーカーはダイアトーン(珍し)。くちびるにミステリー、壁にはド派手な皮ジャンが……。



売り物です


●スーベニアジャケット

 店名は、かつてスーベニアジャケットと呼ばれた上着に由来する。

 スーベニアジャケットとは、背中に鷹・虎・龍などの派手な刺繍を施したジャンパーで(今でいうスカジャン=ヨコスカジャンパー)、戦後日本に駐留した米兵が記念品・土産物(souvenir)として購入したため、この名で呼ばれるようになった。終戦後の人々はこうしたもので収入を得ていたわけである。

 souvenirという言葉には「形見」「思い出」という意味もある。かつてのアップタウンダイナーへの憧憬と懐古の情を込めて、店の名にした。

●チーズバーガーの思い出


 店を始めるに辺り「ショットバーにサンドイッチ」というシチュエーションがやりたかったという。マスターの好きな小説家が作中によく登場させる組み合わせだそうなのだが、「階下のバーにサンドをデリバリーする」のがコノ店をやる上でのひとつのテーマだった。一風変わったテーマにも思えるが、考えれば考えるほど実はいいセンス!

 バーガー11種、サンド12種、ドッグ6種。タコス、オムレツ、ごはんもの。バーガーはおおむね¥700前後の価格で安い×2! アップタウンダイナーではチーズバーガーのことを「エルヴィス・プレスリー」と呼んでいたのの向こうを張って、コノ店のチーズバーガーは仲間の女の子の名前から和名カオリバーガー

 カオリバーガー¥700、オープンで登場。ホームフライドポテト&コールスローサラダ付、かもしれません。セサミいっぱいの白い扁平バンズ、レタスは玉とリーフと2種(多分)、オニオン、トマト、ピクルス×2、マヨネーズ、チーズ、パティ、下バンズ。

 グリルしたオニオンのコリコリした食感を軸に、トマトとピクルスが味に変化を加える。パティはドライで粗目。全体にもややドライな構成で、もう少し滑らかな方がお好みの向きは、HEINZ のケチャップを絞れば滑(なめ)らかに滑(すべ)る滑(すべ)る! 強烈な味付けでなく、割りとあっさりと食べられるバーガー。ベーコン&マッシュルーム入り特製ミートソースのかかるマンハッタンチーズバーガー¥750がこの日も品切れの大人気。ポテトはシューストリング。お供の生ビール¥500はハイネケン。

●名古屋とアメリカンダイナーその1

 今から15、16年前、Gパンの裾をロールアップして穿いていた頃、50'sカルチャーが全国的にブームになった時期が……あった? なにせ私、世故に通じぬイカンガーなもので……。

 当時名古屋には大きなアメリカンダイナーが4店あり、最後に残った2店がアップタウンダイナーと天白区にあったジョージーズ・ダイナーだった。

 ロッカーズやカフェレーサーなどと呼ばれるバイク好きをはじめ、ホットロッド&カスタムなクルマ好き、エルヴィス好き、ロカビリー好き、映画好き、ファッションが好き、特に何が好きというわけでもないけど雰囲気が好き……分野に多少の違いはあれ、大きく観ればアメリカ好きな人たちが集まる、ある種「社交場」のような場所がアメリカンダイナーなのである。

 コノ店もマスターの人柄を慕って人が集まってくる部分が実に大きい。閉めようかと真剣に考えた時期もあったけれど、そんなとき、「我が家」のように大切に思ってくれている常連さんや仲間たちを前にして「自分だけの店じゃないような気がする」――そう思えて、だから今、こうして続けていられるのだと。思い出すにコノ言葉……ちょっと泣けてきます。

 天守閣に鯱(しゃちほこ)、おむすびにエビの天ぷら、旅人の胸には名古屋の夜のすてきな思い出――。



飛ばないゼロ戦は平和の象徴

# SOUVENIR DINER [名古屋・伏見] のマンハッタンチーズバーガー

― shop data ―
所在地: 愛知県名古屋市中区栄2-1-14 コモングラウンドビル2F
     地下鉄東山線・鶴舞線 伏見駅歩3分 地図
TEL: 052-212-2424
オープン: 2004年2月
* 営業時間 *
ランチ: 11:30〜15:00
ディナー: 18:00〜26:00
定休日: 日曜日(要確認)

2007.4.14 Y.M
posted by ハンバーガーストリート at 18:41 | TrackBack(0) | 西国編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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