荻窪といえばラーメンの町――
●でもあるんです! バーガーショップ
キャデラックバーガーズと聞けば、白黒チェッカーズのフロアに、ともすればピンクキャデラックまるごと1台ドンと置いてあるような、ズドンと大きなダイナーを思い浮かべるじゃぁないですか。ところがどうした、鳴るときゃ鐘鳴る教会通りを入ってギアを2速に入れかけてスグくらい(←例えです。あくまで"徒歩"ですから)。上記のような頭でもって行くと、確実に行き過ぎます。お向かいは洋品店と煎餅屋さんですから。
勇気を奮ってあえて申し上げるなら――やきとり屋? 小料理屋でも居酒屋でもいい。狭いのに店の半分が厨房。残り半分にカウンター4+3席とテーブル約6席。言うなれば"半屋台"的風情を湛えた米国風一杯飲み屋。
●中央線の怪
入るとあらためて狭い! 入るなり柱ですし。店内50's、60's辺のアメリカントイやら置物やら使途不明物体(世にガ○○タと呼ぶ)がゴチャンゴチャン。「ちゃんと片しなさい!」と、のび太がママに叱られるレベル。とにかく狭いヨ〜、狭い! 狭い! この「自分の部屋」的雑然の中、隣り合わせた客同士酌み交わす一献がまたヨロシ。BGM――オイオイ、小島麻由美だよ〜!! その深さたるや……
こういうお店見るとつい「中央線カルチャー」という言葉を思い浮かべてしまうのだけど、生まれも育ちも"コノ辺"という店主・千種さん&副店長両氏によれば、ぬぁんと! ひと駅ごとに文化も住む人もまったく違うというのですね――そんなこと言われたってヨソモノである私から見りゃぁ、沿線ひっくるめて「中央線」なのであって、どの駅も同じようにしか映らないワケですよ。だのに……この夜最大の驚きはコノ衝撃の事実だったかも知れない(沿線住人のみなさん! このヨソモノをどうか温かい目で見てやって下さ〜い!)。各駅異なるカルチャーの中にあって、荻窪は色の無い、文化の「空白地帯」であると2人して言うモンだから、ま、そうなんでしょう。
●帰ってきたロープライス
50's&60's、そしてプレスリーをこよなく愛する千種さんは、ミスタードーナツに11年、フレッシュネスバーガーに6年身を置いた、ファストフード業界一筋のベテラン中のベテラン。
でもアウトロー。両店を離れるきっかけとなった出来事が共通していて、要はそれまで手間ひまかけてお店でイチから作っていたものが、ある日、既に出来上がったものが運ばれてくるようになって、で、ちょっとツマラナクなったと――。だからこのキャデラックバーガーズは、手作りをコンセプトにした店なのである。
ところ変われば考え方もずい分と変わるもの。手作りを売りにする場合、普通そこに付加価値が生まれて、ヨリ高い値段で売り買いがされるものだが、しかしコノ店では材料・ソースなどを手をかけて自前で作ることによって、逆に安い値段で提供しようという、近頃ついぞ考えてもみなかった、ハッとさせられるようなその思考が新鮮だ。
「商店街価格」というのも効いているようだが、それにしてもハンバーガー¥350、チーズバーガー¥400は、私がすっかり慣れ切ってしまった昨今のバーガーの価格帯を思えば、久々の衝撃だった(コノ日のセカンドインパクト)。気軽さ、手軽さ、そして生命力(? ――ヨリ生活に密着した、活きた感じネ)といった、失われてはならないバーガーの根源がそこに宿っているように思う。
●キャデラックバーガー
バーガー類12品。サラダ、ポテト、ミニドリンク付きのセットにしても¥750〜850のうちに収まって、価格でチェーン店とと十分互角に渡り合えてしまう。コノ店の守り神、米国人のシェリーおばあちゃん監修、特製ミートソースを挟んだスロッピージョーバーガーだってワンコイン¥500(ばあさんコイツをグイとつぶしてイキに食べるらしい)。具材全部盛り、名代のキャデラックバーガー¥1,000は見てのとおり、今から鍋でも始めるんですか? という衝撃的問題児。フウ〜ンと甘い香りがするサルサソースとミートソース、2種類のソースが味わえてお得……と言うか、無茶は承知之助。
●おいしさは鐘の音と共に
ま、最初はチーズバーガーからいきましょう。セットで¥780。豊富な付け合わせと決してミニではないドリンクに囲まれ、具材を前面に集中させたユニークな挟み方。バンズの下はピクルス、マヨネーズ、ケチャップ、マスタード、レタス、トマト、ソテーしたオニオン、チーズ、パティ、下バン。
バンズは、老夫婦の営む町の小さなパン屋さんに依頼する特注品。不恰好な中にも温かみある、ホームメイドな感じにしたかったと千種さん。外はハードバケット――の言葉通り、皮はカリカリ、身もドライ目で印象に残る食感。キャデラックバーガー用だけセサミあり……そうだ! 「ラッピ」に近いかも。中の具が引き立つバンズ。
味の基本はケチャップ、マヨネーズ、マスタードの織り成すトリニティ。そこにハリハリとした歯応えの自家製ピクルスがキツくない酸味で加わり、狙い澄ました強引さで食べ切らせてしまう。この強引さには巻き込まれたが勝ち! 値段を忘れる食べ応え。折り重なる味の中から、それでもしっかりと感じられるふっくらとしたパティの味わいは合挽きならでは。しかし"合わせ方"にひと知恵あって、合挽き臭はほとんどせず。ファストフード店の味をおいしく引き継いだスグレモノ。
溶けていないゆえしっかりした味のチェダーチーズと、作り置きのソテードオニオンの甘味が随所にポイントを作り、コノ価格にして立体的な味わいを構成している。ローコストの中にもそれをカバーして余りある楽しみを見出せるバーガーで、普段千円超級のものを紹介することの多い私からすれば、そうこなくっちゃ待ってました!! な流れであります。こういうのも見てみたかった……こういう経歴の持ち主がこういう考え方の下、こういう店を始めて、ソレが世の中にどう受け止められてゆくのか、どういう影響を起こしてゆくのか――。さまざまな人のさまざまな想いが交差するハンバーガーストリート――だから面白い! って最後は宣伝です。
●真骨頂は夜
コノ店の真骨頂はナンてったって夜! 前の店の置き土産であるピザ焼きの石窯を使った肉料理など、本格ダイナーメニューの数々が400〜500円程度のおつまみ感覚で楽しめる……って地元の人はいいなぁ〜! ウラヤマシイ
書きそびれたが、千種さんはコノ店を始める前、池袋ナンジャタウンの佐世保バーガー「ビッグマン」(←リンクは南船橋)で半年間、あまりに高度な佐世保式オペレーションでグリドルを回した経歴を持つ。ただ偶然「アルバイトしてみただけ」だそうなのだが、しかし佐世保バーガーと千種さん、どこかスピリットに通じ合うものがあるように思う。
町のため、商店街のため、そして呑んべえの常連のため――中央線カルチャー"空白地帯"に降り立ったバーガーショップが今、強烈なカルチャーを放って教会通りに新たな人の流れを起こしている。山椒は小粒でもピリリと辛い。辛きこと火の如く、狭きこと世間の如し――コノ店「都内で最も狭いハンバーガーショップ」に認定いたします。暫定王者決定!
※2007年4月初旬に突然の閉店。アッ痛〜ッ! シェリーおばあちゃんもきっと泣いてらっしゃることでしょう。なにやら"事情"はあるようなので、追跡調査を続けてみます……ってか、副店長に渡すモノがあったんだけどナァ(2007.7.7)
― shop data ―
所在地: 東京都杉並区天沼3-4-11
JR中央線 荻窪駅歩3分 地図
TEL: 03-3392-8639
オープン: 2006年9月
営業時間: 11:00〜翌1:00
定休日: 月曜日(祝日の場合営業、翌日休)