ついに群馬県大泉町へ行って来た。
●日本の中のブラジル
群馬県邑楽郡(おうらぐん)大泉町――県の南東に位置し、利根川を渡れば埼玉県。人口42,165人(18年3月)の小さな町であるが、人口に占める外国人登録者の割合15.8%は全国一。そのうちの75%、約5,000人がブラジル人であることから、世にブラジルタウンとして知られるこの町は、日本人と外国人の「共生」という点でも全国的に注目されている。
広い関東平野の只中にぽつんと位置する小さな町に、なぜこれだけ多くのブラジル人が集まっているのか――詳細はこちらにお任せすることにして、ウンと縮めて説明すると、戦前、軍用機工場があった跡地に三洋電機などの工場が進出。バブル期に致命的な労働力不足に陥って、1990年の出入国管理法改正を機に南米の日系人を多く迎え入れた。地元の名士がブラジルとのパイプを持っていたことから、ブラジル籍の日系人が特に多く、工場側も厚遇で迎えため定住が進み、次第にブラジル人コミュニティが形成されていった――ざっとこんな次第。
●キタンジーニャ
その大泉町にキタンジーニャ(Quitandinha、小さな八百屋・雑貨屋の意)という店がある。町の中心部・ブラジリアンプラザの2Fにあって、ブラジルの食料品・日用品を扱う店である。コノ店のオーナー、日系2世新垣氏も初めは工場労働者の一人として来日したのが、ブラジル人向けの雑貨店を'91年より始めて、'06年の秋で15周年。店はインターネットショッピングを展開するまでに大きく発展した。
そのショッピングサイトがなかなかの充実ぶりで、見ているだけでも実に楽しいサイトなのだが、コレを担当・運営しているのがキタンジーニャ唯一の日本人長谷川さんである。ブラジルの文化・習慣を理解しながら、商品一つ一つに葡語と日本語両方の説明を付けてゆくのだから、それは大変な仕事だろう。幸運なことに今回、その長谷川さんに大泉のガイドをしていただくことができた。言葉の問題もさることながら、彼の持つ知識の広さ、そしてなにより顔の広さをなくしては、これほど円滑に取材を運ぶこともできなかったろう――Muito Obrigado!
●ブラジリアンプラザ
キタンジーニャが入るブラジリアンプラザは、家電・PCから外国人向けの土産物、衣類、レンタルビデオ、携帯電話、保険、旅行代理店等々、生活に必要なモノのほぼすべてが揃う、在日ブラジル人向けのショッピングセンターである。休日には大泉周辺のブラジル人が集まって賑わい、ブラジルタウンの中心的役割を果たしている。
2Fにキタンジーニャ。1Fの各店もそうだが、窓の大きなパーテーションで簡単に囲う程度で、基本的には内装にお金をかけていないのだが、かえってそれが想像されるアチラの光景を呈しており、「日本でない場所に来た」感を強く抱かせる。店内は白い壁・床・天井に蛍光灯が反射して、買い物しやすい明るい雰囲気。食料品・日用品のほか、CD・DVDソフトや新聞雑誌、さらには楽器まで実に幅広い品揃えで、見て回るだけでもまるで飽きない。ブラジルのあらゆる生活・文化・習慣をギュッと詰め込んだ、実に魅力的な空間だ。
こうしたブラジル独特の文化に強く惹かれる日本人も少なくないようで、海外旅行気分でやって来る人もいれば、中には好きが高じて大泉に移り住んでしまった人も数人。この日買い物に来ていた日本人・大野さんは、マテ茶の効能を身をもって経験。以来、埼玉から車で買いに来ては、世話をするフィリピン人ボクサーの体調管理に役立てている(と言うか、秘密兵器)という。そんなマテ茶との運命的な出会いも、日本人スタッフ・長谷川さんの懇切丁寧な説明があったればこそだろう。何事においても良き「伝え手」の存在は不可欠である。
●パステル
キタンジーニャのいわば軽食コーナー、ランショネッチ(lanchonete)がパステル&カンパニー。パステルとはブラジルの「揚げパイ」のこと、カンパニーは「仲間」といった意味だから、「パステルとその他いろいろ」というのが店名の意味になる。
その揚げパイ=パステルは8品¥260〜。ランシェ(lanche)と総称されるサンド類は14品、うちバーガー6品。コロッケなどのスナックのほか、本物を機械で搾るさとうきびジュースなど。しかし最も驚くべきは、おそろしくきっちりした日本語メニューが用意されていることである。 店員はみなさん日系人、揃ってセレソンのユニフォームを着用。広々とした2F中央のスペース半分に白い机を15卓並べたフードコート的趣きの店で、3ヶ所に吊るされたTVモニターにはアチラのヒット曲のPVが流れている。年が明けてもしばらくはクリスマス飾りが続くそうで、訪ねた1月7日もツリーやサンタが賑やかに飾られていた。
さてバーガー。バンズパンにハンバーグという最もシンプルなハンバーガー¥320から具材が増えてゆき、増えた具材がそのバーガーの名前になる方式。ハンバーガーにチーズが入ってX-Burger ¥420、トマト・レタスが入ってX-Salada ¥480。そこに卵が加わればX-Egg ¥530、ベーコンならX-Bacon ¥530。全部入りがX-Tudo ¥630。メニューには下に「エックス・オール」とカタカナで書いてあるが、葡語では「シース・トゥッド」という風な発音になる。そのX-Tudoにお供はSKOLというアチラのビール¥350。Budのような薄味を想像したら、それなりにしっかりした飲み口だった。
●そしてX-Tudo
褪せた薄茶のバンズは表面白ゴマ。大泉町で唯一のブラジル人のパン屋さんが焼いている。カラメルのような濃い甘い味がする一方で、粉の風味には乏しく、ややパサッとした口当たり。中は卵に薄い色のトマト×2、レタス、ベーコン、チーズ、パティ、下バンズ。レタスが豪快に張り出して華があるが、2世佐藤さんの作るバーガーは実に端正で、きっちりとした作り。
卵は目玉焼き(両面)。型の中に落としてから焼き始める。ベーコンは過剰な塩気のない、おとなしめの味で好感。身の詰まったパティにチーズはモッツァレラ。レタスはリーフレタス。バンズのドライな感じが前面に出て、やや水分が恋しくなるところを、ケチャ、マス、マヨを半ば潤滑油的に、適宜足しながらいただく。カナリア色の国旗やキラキラのサンバ、そしてセレソンの華麗な足技から想像される「派手派手しいイメージ」に反して、ブラジルの味付けは案外薄味らしく、このバーガー中の具材に濃い味のものは一つもない。見た目にも彩度の低い、淡い印象。
●ブラジル人の味の好み
ブラジルの人はどうもマヨネーズにはうるさいようだ。酸味がダメらしく、この日卓上に並べられたのは、酸味を抑えたHELLMANN'Sのマヨネーズ(カナダ産)に、甘い香りがプンと利いておいしい"Iguatemi"のマスタード(ブラジル産)、そしてケチャップはなぜかカゴメ(日本産)だった。あと、いかにも「東南アジア的」な、甘酸っぱい味や甘辛い味もダメ。なのでテリヤキソースなどもっての外とか。
書きたいことは山ほどあるのだが、続きは残る2店の記事の中で。 (つづく)
― shop data ―
所在地: 群馬県邑楽郡大泉町西小泉4-11-22 ブラジリアンプラザ2F
東武鉄道小泉線 西小泉駅歩5分 地図
TEL: 0276-61-0145
URL: http://www.quitandinha.com
オープン: 2004年8月
営業時間: 10:00〜20:00
定休日: 月曜日(定休日は季節により変動があるそうなので、要確認)
2007.1.15 Y.M
本当にその通りで、長谷川さんとの出会いはまさに「オリシャ(ブラジルの神様)」のお導きでしょう(笑)。本当に助かっております。
もちろんY・Mさんとも!
偶然にもこの記事がUPされた昨日、フィリピンボクサーへマテ茶を渡したところです。興味深々でした!
さすが「ハンバーガーストリート」ですね〜。
何度も出かけた私も初めて見る・知ることばかりで、好奇心(実は食欲)をカキ立てられます。
う〜む、食べたい!
つづきも楽しみにしております!
こちらの方でもお礼を申し上げさせて下さい。
このたびは大変ありがとうございました!
メールでもお伝えしましたが、Y.Mさんがこちらまで来ていただいたことにより、後日いろいろないい影響がこちらの方でも出てきています。新しいメニューも(まだ試作的な面が残るものの)すでにできました。
ちょっと言葉にするといきなりなんですけども、グッドなバイブレーションは人を結びつけたり、新しいものを生み出す力を呼び起こすんではないか、というのを最近つとに考えております。とにもかくにもありがとうございました、続編も楽しみにしております。
コメントありがとうございます。
ブラジリアンプラザでお会いした後、長谷川さんのご案内で、大泉町を心ゆくまで見て回ることができました。言葉も違えば時間の過ごし方もまるで違う、こんな異文化社会がコノ日本にあるんだな……と、興味津々の一日でした。大野さんが虜になった理由もわかります。
ボクシングにお仕事に勉学に、一層のご活躍を期待しております。
今後ともよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。と言いますか、この日は一日中、本当にありがとうございました。アノ時の精算はアレでよかったのかと、いまだに思い出す今日この頃です。
ご案内いただいた残る2店の記事も通して、この特異な町の歴史や"意味"など、織り交ぜながら話を進めることができたらいいな……と思っております。
また分からないことがあればご質問させていただきますので、その節は何卒宜しく――
以上よろしくお願いいたします。